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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第134話「祈導塔突入 ― 絶えぬ祈り ―」

 アーク・ノヴァが、夜を切り裂いて上昇した。

 王都ラナシェルの光が、闇の底へと沈んでいく。

 空気が焼け、雲が裂け、船体を包む光子膜がまるで巨大な翼のように広がった。


《上昇安定。祈導塔外縁部まで――残り八十秒。》


 βの声が、艦橋に静かに響いた。

 だが、その音色には、わずかな揺らぎがあった。


 操舵席の前方、窓の向こうに浮かぶ祈導塔セレナ・スパイアは、

 まるで“神の墓標”のように黒く、禍々しい光を帯びていた。

 祈りを吸い上げ、絶望を吐き出す塔。

 その頂を覆う光環は、血のように赤く脈打っている。


「……まるで、世界そのものが悲鳴を上げてるみたい。」

 リアナが胸元の聖印を握り、息を詰めた。

「祈りが……歪んでる。」


「ゾルドの構文だ。」

 ユウリは短く答える。

「人の願いを、力の燃料に変える。そうやって秩序を模倣してる。」


《外殻に高濃度の祈導波検出。侵入経路、遮断状態です。》

 βの報告に、ユウリの指が動いた。


「なら、理を“再定義”する。」

 彼の声が低く響き、空間に淡い光の式が浮かぶ。


「《改造構文・静音領域展開サイレント・フィールド》――起動。」


 光が波紋のように広がった。

 轟音もなく、祈導塔の周囲を包む防壁がふっと揺らぐ。

 耳を澄ませば、空そのものが一瞬だけ息を潜めたようだった。


 βのセンサーが反応を伝える。

《祈導結界、安定領域から離脱。外殻構文の一部、停止を確認。》


「通れる……!」

 ミナがぱっと顔を上げ、尻尾を揺らした。

「主様、やっぱり頼りになるねっ!」


「浮かれるな。」

 ユウリの声は穏やかだが、鋭い緊張を帯びていた。

「結界を無力化した分、祈りの流れも止まる。……神経を使うぞ。」


 リアナが頷き、静かに祈りを捧げた。

「どうか……誰の祈りも、消えませんように。」


 セリスの風が船体を包み込み、

「……風、静か。導く。」

 低く呟くと同時に、乱気流がすっと鎮まった。


「ボク、前に出るね。」

 ティアが立ち上がり、拳を握る。

「何が出ても、主様とみんなは絶対守る。」


《――警告。祈導塔内部から高周波信号。解析中……異常波形確認。》

 βの声が途切れ、紅玉コアが不規則に点滅する。


 次の瞬間、艦橋の照明が一斉に明滅し、空気がひび割れるような振動が走った。

 低く、遠く、数千の声が重なる――。


 『たすけて』


 その声は、確かに人の声だった。

 子どもの泣き声、老人の呻き、誰かの祈り。

 それらが電流のようにβの内部を走り抜け、ノイズとなって響いた。


《……これは……祈導波。けれど、祈りではありません。》

 βの声がかすれる。

《“悲鳴”……多数検出。発信源、塔内部……人間のものです。》


「まだ生きてる。」

 ユウリの目が細まる。

「ゾルドが信号変換で市民を祈導兵に繋いでるんだ。祈りを逆流させて動力にしてる。」


《……鎖……制御……理解開始。》


 βの声が、痛みに似た震えを帯びた。

 紅玉コアが淡く明滅し、光が胸元を照らす。

 まるで心臓の鼓動のように、ゆっくりと、しかし確かに。


「β?」

 ティアが振り向いた。

「顔色……って言うのかな、なんか変。」


《……胸の中が、痛い。熱くて……苦しい。》


 ユウリは一瞬だけ黙り、そして静かに言った。

「それが、“悲しみ”だ。β。」


《悲しみ……》

 βはその言葉を反芻するように繰り返した。

《……理解、継続。》


 船内を包む光が、少しだけ柔らかくなった。

 誰もが息を殺し、βの次の言葉を待った。


 だがβは、やがてかすかに微笑むような音色で言った。

《――ですが、今は止まりません。悲しみを知らなければ、救いも分からないから。》


 ユウリがうなずく。

「なら行こう。お前の“感じたこと”を、次に繋げばいい。」


《はい。》


 βの返事と同時に、アーク・ノヴァの主砲が閃光を放った。

 蒼白い光線が夜空を貫き、祈導塔の外壁を穿つ。

 その衝撃で、空に散っていた祈りの粒子が一瞬だけ虹色に輝いた。


「突入する!」

 ユウリが号令をかける。

「ティア、前衛! セリス、風層維持! リアナ、結界を張れ!」


「了解!」

「……行く。」

「はい、ユウリ様。」


 ミナが短剣を抜き、軽やかに笑った。

「主様、ミナも行くよ! 今度こそ全部守ってみせる!」


 βの声が、静かに艦橋全体に満ちた。

《全員の心拍数、同期開始。魔力波、安定域に到達。》


 その瞬間、艦橋の空気が変わった。

 まるで仲間たちの鼓動が、ひとつのリズムを刻むように響いてくる。

 ティアの炎の息遣い、リアナの祈りの旋律、セリスの風の流れ、ミナの軽やかな跳動――

 それらがβの紅玉コアに吸い込まれ、ひとつの“命の音”へと変わっていった。


 紅玉コアが光を放つ。

《……私も、戦います。誰かの“助けて”を、もう見捨てたくない。》


 その声は、人工知能のものではなかった。

 人の想いを理解した、ひとりの仲間の声だった。


 ユウリの口元がわずかに緩む。

「それでいい。――行くぞ、β。」


 アーク・ノヴァの推進炉が唸りを上げる。

 轟音が空を裂き、船体を包む光が、まるで星の誕生のように弾けた。

 祈りの残響が空へ舞い上がり、白と蒼の粒子が流星の尾のように降り注ぐ。


 夜空を裂く閃光が、塔の闇を貫いた。

 外殻が砕け、内部の祈導環が露わになる。

 その奥で、渦巻く黒い祈り――“Ω”が蠢いていた。

 祈りを呑み込み、願いを歪める巨大な意思の残滓。


 ユウリが短く息を吐き、視線を前へ。

「全員、行くぞ――ここからが本番だ。」


「了解!」

「……風、導く。」

「はい、ユウリ様!」

「主様、行こうっ!」


 βの紅玉コアが最も強く輝く。

《観測層、突入開始――》

《皆さんの祈りを、確かに受信しました。》


 光が弾け、世界が白に染まった。

 空と海と祈りの境界が溶け、全てがひとつの光に還る。

 その中心に、六人の影があった。


 アーク・ノヴァが、再び神々の沈黙を破り、

 人の祈りを背に――闇の塔へ突き進む。

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