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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第133話「揺らぐ祈り、戦火の街」

 ――静寂のあとに、地鳴りが響いた。


 王都ラナシェルの外壁が軋み、聖堂の鐘楼が崩れ落ちる。

 赤黒い祈導光が空を染め、街路の石畳がまるで呼吸するように脈動していた。

 風が焦げ、祈りが泣いていた。


 祈導塔セレナ・スパイアの上空で、黒い光の環が回転する。

 そこから流れ落ちる無数の光糸が、まるで“神の血管”のように王都を覆っていた。


《観測更新。外縁部に多数の反応――祈導兵型オートマトン、推定三千八百体。》


 βの声が艦橋を震わせる。

 アーク・ノヴァの操舵室に、赤い警告光が走った。


「三千……!? そんな数、相手したことないよっ!」

 ミナが尻尾を膨らませ、狼狽する。


「落ち着け。」

 ユウリが指を鳴らし、空間に半透明の魔導投影を展開した。

 街全域の立体地図が浮かび、祈導塔を中心に黒い点が増殖していく。


「セリス、風層の流れを読め。

 リアナ、避難路の確保を。

 ティア、前衛展開準備。」


「了解。」

「はい、ユウリ様。」

「任せて!」


《中枢信号を追跡中……祈導塔内部より発信。ゾルド・ガルバ人格端末による再干渉の可能性。》


「またあいつの残滓か……」

 ティアの拳に、熱が灯る。

「主様、ボク、行く! もう二度と……あんなもの、好きにさせない!」


「まだだ。」

 ユウリが短く言った。

「人を守るのが先だ。焼くのはそのあとでいい。」


 ティアはぐっと唇を噛み、うなずいた。

「……了解、主様。」


 その瞬間、街路の地下から轟音が響いた。

 崩れた祈導碑の残骸から、銀灰色の祈導兵がゆっくりと立ち上がる。

 その目には何の光もない。

 ただ、祈りの残響が機械の中を這い回っていた。


《解析結果。旧シェルダ文明期祈導兵の構造と一致。動力源――“祈り”を変換したエネルギー。》


「祈りを……燃料にしてる?」

 リアナの声が震える。

「そんな……人の願いは、神への橋渡しなのに……!」


「ゾルドの理想だ。」

 ユウリの瞳が静かに光を宿す。

「感情のない秩序――そのためなら、祈りも使い捨てる。」


《倫理制限、確認不能。ゾルド端末群、自己複製モードに移行。》


「そんなの許さない!」

 ミナが叫び、短剣を抜いた。

「主様、行くね!」


「行け。ティア、援護。」

「了解っ!」


 ふたりの少女が飛び出した。

 ティアの翼が紅炎をまとい、ミナの幻影が地を駆ける。

 光と影が交差し、祈導兵の群れを切り裂いた。


「《幻尾烈閃》ッ!」

 ミナの尾が閃光を放ち、十数体のオートマトンを一閃。

 その残光の隙を縫い、ティアが炎を叩き込む。


「《龍焔槍・ヴァーミリオンスパイク》!」

 燃え上がる槍が空を貫き、黒い祈導波を焼き払った。


《敵群、南東区域で動作停止。市街地南門の安全を確保。》

 βの報告が響く。

 しかしすぐに別方向の警報が鳴った。


《警告。北街区に新たな祈導波――敵群、再生開始。》


「っ……再生!?」

 ミナが振り返る。

 倒れた祈導兵の残骸が、祈りの光に包まれ、再び立ち上がっていた。


《祈り信号による再構成。市民の祈りが“再生コード”として利用されています。》


「祈るほど敵が増える……最悪の構文だな。」

 ユウリが低く言い、右手を掲げた。

「なら、“祈り”そのものを書き換える。」


《改造構文演算、開始。同期層開放。》


「《改造構文:流体干渉領域展開フローディスラプト》――起動!」


 地脈が震え、祈りの光が一瞬で反転した。

 黒から白へ。

 まるで世界が一呼吸したかのように、街に光が戻る。


「今だ、ティア!」

「了解っ!」


 紅蓮の翼が広がる。

「《龍神烈破ッ!!》」

 爆炎が祈導塔の根元を覆い、残る機体を吹き飛ばした。


 その間、リアナは必死に祈りを捧げ続ける。

「……《純聖再生》――どうか、絶望に飲まれた心を、もう一度照らして。」


 淡い光が街路に溢れ、倒れていた市民の胸が微かに上下を始める。

 涙を浮かべた老人が空を見上げ、震える声で呟いた。

「……まだ、神は、見てくださっているのか……」


 それを見たティアが笑みをこぼす。

「ほら、リアナ姉の祈り、ちゃんと届いてる!」


「ティアさんの炎も届いています。」

 リアナが柔らかく微笑んだ。

「壊すためではなく――守るために燃える炎です。」


 戦場の風が、少しだけ優しくなった。


 だが、その瞬間。


《警告。祈導塔内部にて信号増幅――Ω端末反応、確定。》


「Ω……っ!」

 ユウリの表情が鋭くなる。

「やはり、核心はそこか。」


《反応強度、過去最大。ゾルド・ガルバ人格複製体Ω――本体に最も近い構造体。》


 セリスが目を細め、風を止める。

「……来る。上から。」


 皆が見上げた空――。

 祈導塔の頂から、黒い触手のような光が垂れ下がる。

 祈りの形をした闇。

 人の願いが歪められ、呪詛の奔流に変わっていた。


「主様!」

 ティアが槍を構える。

「今度こそ、止める!」


「……行くぞ。」

 ユウリが静かに頷いた。

「終わらせるために。」


《航路設定完了。祈導塔最上層――到達予定、五分後。》


 アーク・ノヴァの推進炉が唸りを上げ、光の翼が開く。

 セリスの風が船体を包み、リアナの祈りが結界を重ねる。

 βの声が、皆を繋いだ。


《全員の心拍数、同期完了。魔力位相、統一域に到達。》


「行こう、β。」

 ユウリの声が響く。

「これが――再定義だ。」


《了解。》

 βの声が、わずかに震える。

《……私も、あなたと共に戦います。恐怖も、祈りも、全て学びとして。》


 アーク・ノヴァが上昇を始める。

 蒼光が夜を裂き、祈りの残響を貫いた。

 その光は、まるで“人の願い”そのものが空へと昇るように――。

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