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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第128話「竜闘士ティア・ドラグネア ― 鍛錬は爆発の香り」

 王都ミラ・ラナの朝は清らかで、どこか張りつめている。

 空は透き通るような青、遠くの《セレナ・スパイア》が朝日を反射して金色に輝いていた。

 街の中心部では市場の準備が始まり、焼き立てのパンの香りが風に乗る。


 だが――その平穏な音を突き破るように、街外れの訓練場からひときわ元気な声が響いた。


「よーしっ! 今日こそ“炎”と“気”のバランス、完璧にしてみせる!」

「しっかりやれよーティア」

「まっかせて主様っ! ボク、頑張っちゃうからっ!」

「既に不安しかないな」


 ティア・ドラグネアが仁王立ちしていた。

 桃色の髪が風に踊り、額の紅い角が朝光を反射する。

 彼女の背中に差す陽光は、まるで竜の翼を描いているかのようだった。


 訓練場の外壁の影では、ユウリが腕を組んで見ていた。

 少し離れた空中にはβが浮かび、淡い光を放つ。


《訓練ログNo.372開始。対象:ティア・ドラグネア。予測結果――暴走の確率、六十七パーセント。》


「ちょ、はじまる前から縁起でもないっ!」


 ティアがむっと頬を膨らませる。

 拳を握った瞬間、地面の砂がわずかに浮き上がり、周囲の空気が熱を帯びた。


「ティア、まず“構え”だけで石畳を焦がすな。」


「えっ、そんなことないよ! ……たぶん。」


《訂正。温度上昇検知:+三十度。》


「βちゃん、実況やめてっ!」


 ユウリが息を吐いた。

「……まあいい。今日の目標は“出力三割制御”だ。昨日は八割で街灯まで吹っ飛ばしたからな。」


「うぅ……あれは風が強かっただけだもん……」


《風速:二メートル。言い訳判定、失敗。》


「βぁああああ!!!」


 ミナが観覧席の端から笑って手を振る。

「ティアお姉ちゃん、がんばれー! でも燃やさないでねー!」


「わかってるってば!」


 リアナは祈りの杖を両手で持ち、苦笑した。

「……祈っておきます。今日は“火の加減”が上手くいきますように。」


 セリスが隣で髪を押さえながら、小さく呟く。

「……風、警戒。」


「よーし、いくよ!」


 ティアは大地を蹴り、掌に炎を灯す。

 紅の闘気が螺旋を描き、熱風が吹き荒れる。


「――《龍炎走りゅうえんそう》ッ!!」


 轟音と共に、炎が地を駆け抜けた。

 訓練場の壁が震え、石畳が赤く光る。

 次の瞬間、爆発的な衝撃波が周囲に広がった。


「きゃっ!? 耳がぁー! 熱っつつつっ! 熱いよティアお姉ちゃんっ」

 ミナが幻走で飛び退き、尻尾を膨らませて転がる。


《被害報告。壁二枚損傷、地温上昇百四十度、観測者β軽度スス付着。》


「ススって何!? βちゃん焦げてるの!?」


《表面カーボン微粒子付着。人間換算:顔に煤。》


「やめて! そんな実況いらないからぁ!」


 リアナは額を押さえ、頭を垂れた。

「……主よ、どうか修繕予算が尽きませんように。」


 ユウリが歩み寄り、焦げた壁に触れる。

 ひび割れた石を見つめ、静かに言った。


「ティア、八割出てるな。」


「えっ!? 三割のつもりだったのに!」


《分析完了。主様の視線による集中度上昇。出力+五〇%補正。》


「うわぁぁあん、βちゃんそれ言わないでぇぇ!」


 ティアの肩が震える。

 その頬は炎のように赤く、耳まで熱くなっていた。


 セリスが風を送りながらぼそりと呟く。

「……恋の熱、検出。」


「してないからぁぁぁ!!!」


《感情値上昇、照れ反応確定。》


「βちゃん、ほんとに空気読んで!!」


 ユウリは笑いをこらえながら言った。

「……まあ、いいだろ。力は悪くない。次は“抑える”練習だな。」


「……主様、優しいけど、褒められると出力上がるの……」


「わかってる。」


 ユウリが手をかざすと、空気が一瞬で静まり返る。


「《改造構文:静音領域展開サイレント・フィールド》――出力抑制。」


 炎がふっと吸い込まれ、世界が凪いだ。

 風が涼しく吹き抜け、セリスの髪がそよぐ。


「……今度は、風の勝ち。」


「うぅ……風さん強いなぁ……」


 ティアは苦笑して拳を下ろした。

 その顔には、悔しさよりも少しの安堵が浮かんでいた。


 ミナが笑って駆け寄る。

「ティアお姉ちゃん、焦げない訓練しようよ! “幻走ごっこ”!」


「……それ、気になる……でも負けた気がする……!」


《提案:ティア・ドラグネアの訓練方針を“非破壊型”に更新しますか?》


「しないって言ってるでしょおぉぉぉ!!」


 βの光がぴくんと揺れた。


 リアナが静かに微笑み、手を合わせる。

「……次の修理費の請求書、少しは減りますように。」


 ユウリは笑いながら答えた。

「……期待するだけ無駄かもな。」


《訓練ログNo.372終了。結果:壁三枚焼失、気温+二十五度、ティアの自尊心・中度損傷。》


「中度!? 軽傷から悪化してるじゃんっ!!」


 仲間たちの笑いが訓練場いっぱいに響いた。

 空は雲一つなく、風が焦げた地面を優しく撫でていく。

 炎の少女は頬を赤らめながら、胸の奥で小さく拳を握った。


「……次は絶対、完璧に見せるから。」


 その言葉に、ユウリが静かに頷いた。

「期待してるよ、ティア。」

「うおおおおおっ! いっくぞ~~~~っ!」


 王都の鐘が、再び優しく鳴り響く。

 それは、いつものように――“平和な一日の始まり”を告げていた。



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