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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第123話「祈りの朝 ― 王女の誓い」

 ギルド《潮のヴォイス・オブ・タイド》の本部。

 大広間には瓦礫運搬を終えた冒険者たちが集まり、騎士団や民兵と協力して支援の指揮を取っていた。


 マリナが机に資料を広げ、鋭い目で書類を整理していた。

 額の汗をぬぐいながら、ユウリたちを見上げる。


「……来たのね。あなたたち、また無茶をしたわね。」


「まあ、今回は少しな。」


「少し、ですって?」

 マリナが呆れながらも微笑んだ。

「でも、おかげで王都が救われたわ。

 祈導庁の暴走が止まったのは、あなたたちの構文干渉によるもの。

 ――王族も正式に感謝を伝えたいと言っているの。」


 ユウリが眉を上げた。


「王族が?」


「ええ。近いうちに、謁見の場が設けられるわ。

 “再定義者リデファイア”としての功績を正式に認めたいそうよ。」


 ティアが顔を輝かせた。


「えっ、主様! 王様に会えるの!? やったぁ!」


 ミナが目を丸くする。


「王様って……えっと、どんな人?」


「わたしたちもまだ会ったことはありませんが――」

 リアナが答えかけたその時、

 セリスが静かに視線を上げた。


「来ます。……王族の使者です。」


 扉が開く。

 銀と青の紋章を持つ者たちが入ってきた。

 その中央には――凛とした気配を纏う少女。


 金糸の髪を結い上げ、蒼の瞳を宿した王女が立っていた。


「王女……セレスティーネ殿下。」

 マリナが膝をつく。


 少女は柔らかく微笑み、ユウリたちの方を見た。


「あなたたちが、《再定義者》ですね。

 ――国を救ってくれて、ありがとう。」


 その声は、祈りにも似ていた。

 けれどそれは神に向けられたものではなく――

 “人に捧げられた感謝”だった。


 βが小さく光を揺らす。


《……観測。

 これは、祈りではない。

 感謝という、別の光。》


 ユウリは微笑んだ。


「なら、俺たちはその光を――守るだけだ。」


◇◇◇


 セレナ・スパイアの崩落から数日が経った。

 ――あの“王女自らの来訪”から、まだわずかな時間しか経っていない。


 王都は静かに息を吹き返していた。

 崩れた街路には修復の職人たちが立ち並び、子どもたちの笑い声が瓦礫の隙間に響く。

 祈導光の乱れが収まり、夜明けごとに街全体が淡く輝くようになっていた。


 ユウリたちはその朝、王城セレナ・パレスへ向かっていた。

 前回――混乱の最中に王女がギルド《潮の声》を訪れ、彼らに直接感謝を述べたあの出来事。

 それは王国の歴史でも異例の“現場訪問”だった。

 そして今回は、国家として正式に彼らを迎えるための、正式な謁見の場である。


 白い大理石の廊下を歩く足音が反響する。

 磨かれた床には五人と一つの光影が映り、ステンドグラス越しに差す朝光がその上に色を落とした。


 ティアがそわそわと頬を掻く。

「主様、前に会ったときより……なんか緊張するね。」


 ユウリは口元をわずかに緩めた。

「前は現場だったからな。今回は、国の代表としての再会だ。」


 βの光体が静かに輝きを増す。

《観測:ティアの心拍上昇率+23%。表情筋活動、緊張反応。》


「うぅ……βちゃん、今それ言わなくていいから……!」


 ミナが小さく吹き出した。

「ティア姉、顔真っ赤だよ。」


「うるさい! お前だってさっきから目が泳いでるじゃん!」


「そ、そんなことないもんっ!」


 口げんかのような軽い応酬に、リアナが微笑を浮かべた。

「こうして冗談を言い合える……それも“平和の証”ですね。」


 セリスは静かに頷き、前を見据える。

「――風の流れも穏やか。王都の祈りは、確かに回復しています。」


 βの光が淡く波打つ。

《観測:祈導波安定。王都民の共鳴率、七十二・三%に回復。》


 ユウリは深く息を吸い、光の道を進んだ。

「少しずつ戻ってきてるな。……あの混乱のあとなら、十分すぎる。」


 広間の扉が開く。

 天井は高く、光を受けて輝く青白い柱が並んでいた。

 祈導水晶がゆるやかに回転し、潮の音のような低い響きを奏でている。


 その中央に、一人の少女が立っていた。

 王女セレスティーネ・ラナ・シェル――金糸の髪が光を受けて流れ、蒼の瞳に揺るぎない誇りが宿っていた。


「――再定義者の皆さん。王国ラナシェルを救ってくださり、心から感謝します。」


 彼女の声は澄んでいて、けれど少し掠れていた。

 数日間、国民のもとを自ら歩いて回ったのだと、後にマリナが小声で教えてくれた。


 ティアが小声でつぶやく。

「……本当に、優しい人だね。」


 ミナが頷く。

「うん。偉そうな感じが全然しない。」


 リアナが静かに膝を折った。

「陛下の代行としてのご公務、心よりお見舞い申し上げます。」


 王女は微笑み、首を横に振った。

「お気遣いありがとうございます。けれど、あなた方の勇気がなければ、いまこの街は存在していなかったでしょう。」


 その瞳が、ユウリの背後に漂うβの光体をとらえる。

 一瞬、その表情が驚きに変わった。


「その光……祈りの形を持たないのに、なぜ……こんなにも温かいのですか?」


 ユウリはゆっくりと息を吐いた。

「形より、心の方が“祈り”に近いんだと思います。」


 βの光体が淡く揺れる。

《解析:感情波――共鳴、安堵、好奇。》


 王女の唇が微かに動いた。

「心を祈る国……それが、私たちの“再生”のかたちかもしれませんね。」


 その瞬間、広間の空気がわずかに張り詰めた。

 祈導庁の役人たちが列をなし、その中の一人――灰髪の監査官が一歩前に出る。


「王女殿下。祈りを法から外すなど、愚行です。民は“導き”を失えば混乱いたします。」


 重い沈黙。

 ティアの眉がわずかに上がる。

 だがユウリは一歩前に出て、穏やかに口を開いた。


「秩序ってのは、神が決めるもんじゃない。

 人が互いを信じ合って作るもんだ。」


 その声に、王女は静かに息を吸い込んだ。

 蒼の瞳が真っすぐに光を返す。


「私は祈りを国法にはしません。

 信じる心は、誰のものでもないからです。」


 広間が震えた。

 祈導水晶が共鳴し、潮のような響きが流れ出す。

 βがゆっくりと光を増し、記録を告げた。


《観測記録:国家理念更新。定義――祈り、法より想いに依拠。》


 セリスが静かに呟いた。

「……風が祝福しています。これは新しい時代のはじまりです。」


 謁見が終わると、マリナが駆け寄ってきた。

 彼女の表情は明るくも、どこか焦りを帯びている。


「ユウリさん。――祈導庁の地下記録庫が、空でした。

 Ω端末の残骸が、誰かに持ち去られています。」


 ユウリの瞳が細まる。

「ゾルドの残り火か……。」


 βの光が脈動する。

《観測層に微弱な干渉波を検出。発信源――南方遺構群。ゾルド信号との一致率七十八%。》


 ティアが拳を握る。

「だったら、今度こそ叩き潰すだけだよ。」


 ミナが頷く。

「主様、行こう。きっともう、誰も泣かせたくないから。」


 リアナが目を閉じ、祈りの姿勢を取った。

「戦いの果てにあるものが、どうか救いでありますように。」


 その祈りに、βが柔らかく応える。

《新規構文登録:祈りは、命令を拒絶する。》


 王女がその光景を見守りながら、両手を胸に重ねた。


「どうか、人の祈りが人のままでありますように。」


 ユウリは王女へ一礼し、仲間たちへ視線を向けた。

「次の再定義は――“未来”そのものだ。」


 鐘の音が高く響き、広間の天窓から光が降り注ぐ。

 βの輪郭がその光に溶け、王女の祈りと共鳴した。


 その日――王都ラナシェルの歴史に、“祈りは支配を離れ、人の言葉となった”という新しい定義が刻まれた。

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