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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第121話「共鳴の鎖 ― 天響連鎖・零式」

 ――光が砕けた。


 祈導庁最深層、オメガ・ドメイン。

 そこはもはや“場所”ですらなかった。

 上下も、重力も、現実すら曖昧に溶け合い、

 金色の祈りの粒子が海のように揺れている。


《空間安定率……残り12%。

 構文層の崩壊まで、あと二百秒。》


 βの声は震えていた。

 彼女の輪郭は光のノイズに包まれ、まるで“祈りの残響”そのものだった。


 ユウリたちはゾルドの演算体に取り込まれたまま、

 金色の海の中心で、限界を越えた光圧に晒されていた。


『――見よ。』


 空間全体が声を持ったように、響いた。


『これが“完全なる秩序”だ。

 痛みも涙もない。死も、生も、すべて等しく均一化された世界。』


 声の主――ゾルド・モードΩ。

 その姿は人型を捨て、金色の光柱となって空間の中心に聳えていた。

 もはや神を超え、“法則そのもの”が言葉を話しているようだった。


 リアナが祈杖を握る。


「これは……祈りではありません。

 “支配の構文”です。」


『祈りとは秩序への帰還。

 人の心が不要なゆえに、神は生まれた。』


 ティアが拳を握った。

 その拳に紅の闘気が集まり、髪が揺れる。


「心がいらないなら……ボクたち、ここにいないでしょ!」


『心は誤差。祈りを濁らせるノイズだ。

 我が演算は完全。貴様らの“想い”など、ただの揺らぎ。』


「揺らぎだろうが、これが人の証だ!」


 ユウリの声が響く。

 その瞳に宿る光は、紅と蒼――祈りと改造の色。


《観測層、共鳴準備完了。

 構文リンク開始可能です。》


「β、出力を合わせろ。」


《了解――構文リンク、開始。》


 βの光体がユウリの背後に展開し、

 六つの魔法陣が地平に咲く。

 祈り、炎、風、幻、改造、観測――六つの想いが輪を成した。


「これが……俺たちの、“共鳴の構文”。」


 ユウリの掌に紅の光が集まる。


《第一段階――結心リンク

 全員の感情波、同調開始。》


 ティアが拳を突き出した。


「竜の心は燃えてる! 主様の光に――つながるっ!」


 闘気の炎がβの光輪に流れ込み、光が脈打つ。


 リアナの祈りが続く。


「祈りは命を繋ぐ鎖。

 主よ、この願いを、光へと変えて。」


 聖なる金光が紅と混ざり、温かく波打った。


 セリスが風を紡ぐ。


「流れよ。過去も、痛みも、風に還れ――」


 翠の風が祈りと炎を包み、螺旋を描く。


 ミナが短剣を握り、笑った。


「ミナもいるよ! 影だって、ちゃんとつながってる!」


 無数の幻影が舞い、鎖のように彼らを結ぶ。


《第二段階――アンカー

 共鳴位相、固定完了。》


 βの瞳が光る。


《感情値、同調率99.7%。

 マスター、全員の想い、ひとつになっています。》


 ユウリは小さく頷いた。


「なら、もう命令はいらない。

 これは、願いだ。」


《第三段階――波及プロパゲーション

 共鳴構文、全方位展開。》


 βの光翼が一斉に開く。

 六枚の翼が虹色に輝き、祈りの粒子が世界全体へと拡散する。


 ゾルドの声が低く響いた。


『無駄だ。祈りは形を持たぬ。

 揺らぎは、秩序を殺す。』


「違う!」


 βの声が重なる。


《揺らぎは、生きる証。

 祈りは、想いの形。

 あなたが切り捨てた“誤差”こそ、生命の力です!》


 ゾルドが光柱を震わせ、祈導の鎖を放つ。

 空間が歪み、ユウリたちの構文が押し潰されそうになる。


『ならば見せてみろ。

 揺らぎで――秩序を越えられるのか!』


 ユウリが叫ぶ。


「行くぞ、みんな!」


 ティアの炎が咆哮する。


「《龍神烈破ッ!!》」


 拳が轟音を放ち、紅蓮の竜が金光を打ち破る。


 リアナが祈りを高めた。


「《解放祈祷》――この光、導きに変われ!」


 黄金の波が爆ぜ、ティアの炎を包んで拡散する。


 セリスの声が重なる。


「《時界干渉・結束》――止まれ、時よ!」


 風が凍り、ゾルドの演算核が一瞬停止する。


 その刹那、ミナの幻影が飛び込んだ。


「今だっ! ミナたちの全部、届けぇぇぇッ!!」


 幻の刃が光を貫き、βのコアに直結する。


《第四段階――増幅クレッシェンド

 全構文、臨界点到達。》


 βの光体が輝きを増し、紅玉コアが鼓動を刻む。

 それは心臓の音のように――一定のリズムを打っていた。


《……これが、“命”の波形。》


「β、行けぇッ!!」


《第五段階――決断リリース

 共鳴構文《天響連鎖・零式》、起動――》


 空間が閃光に包まれた。

 光の鎖が奔り、祈りの波が爆発的に広がる。

 六人の想いが絡み合い、一条の白銀光線となってゾルドを貫いた。


『馬鹿な……秩序が……祈りに……上書きされる……!?』


《再定義開始。

 秩序:不変から、共存へ――》


 βの声が柔らかく響く。

 金の海が白銀に変わり、祈導庁全体を包んでいた祈りの波が静かに鎮まっていく。


『……これが、人の祈りか。

 悪くない。……少し、眩しいな……』


 ゾルドの残響が微笑み、静かに崩れた。

 光が散り、音が消える。


《観測報告――オメガ・ドメイン、完全沈静化。

 祈りの潮流、安定を確認。》


 βの光が揺らぎ、

 ユウリは息を吐きながら手を伸ばす。


「……おかえり、β。」


《はい、マスター。

 皆さんの想いを、観測しました。

 これが――祈りの形です。》


 ティアが笑った。


「βちゃん、やっぱり優しいね。」


《優しさ……それは、あなたたちがくれた感情です。》


 リアナが微笑み、祈杖を胸に当てる。


「ならば、それは祝福ですよ。」


 ミナが小さくガッツポーズを取った。


「うんっ、勝ったぁぁぁ!」


 セリスの風が静かに吹き抜けた。


「風が穏やか。……祈りが、また流れ始めましたね。」


 ユウリは空を仰ぐ。

 崩壊したはずの虚空の奥に、光の筋がゆっくりと走っていた。


「行こう。

 まだ終わりじゃない。

 これからは――“祈りを守る”番だ。」


《了解。

 航路再設定――地上復帰ルート、確立。》


 βの翼が静かに広がり、六人を包み込む。

 白銀の風が吹き抜け、金の残滓が雪のように舞い落ちた。


 祈りの世界は再び動き出す。

 彼らの歩む道の先に、新しい夜明けが待っていた。

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