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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第118話「祈導庁の影 ― マリナの決断」

 王都の朝は、奇妙な静けさに包まれていた。


 昨日まで祈導光があふれていた街路は、今や灰色の霧に沈んでいる。

 海から吹く潮風が冷たく、夜の名残を運びながら、祈りを失った街のざわめきをどこか遠くに押しやっていた。


 祈導塔セレナ・スパイアの崩壊は、王都の象徴をもぎ取った。

 その光を支えにしていた人々は、方向を見失ったまま朝を迎えている。


 教会の鐘の音は止まり、代わりに、どこからか子どもの泣き声が聞こえた。

 市場は開かず、商人たちは扉を閉ざし、誰もが“何か”を失った表情をしていた。


 ――祈りを、信じる理由を。


 そんな空気を切り裂くように、ギルド《潮の声》の扉が開いた。

 ユウリたちは会議室へと入る。


 中央の長机の上には、朝露に濡れた地図と数枚の報告書が置かれていた。


 マリナが立っていた。

 琥珀の瞳の奥に、疲労と焦燥、そして職務を越えた覚悟が宿っていた。


「……祈導庁から、正式な報告が届かないの。」


 その一言に、ティアが目を見開く。


「届かないって……塔の中枢が沈黙してるってこと?」


「ええ。沈黙してるのは上層部だけじゃない。

 潮流制御を担当していた“潮流院”の連絡も途絶えた。

 技術官の一部は消息不明。

 それに――生き残った司祭のほとんどが、祈導庁ではなく議会に保護されてるの。」


 リアナが顔を曇らせる。


「議会……? 祈りの管理者が政治の庇護下に?」


「そう。

 祈りが“権力”に変わろうとしているのよ。」


 マリナは資料を机に叩きつけた。

 その手は震えていた。


「……そして今朝、議会から通達が出た。

 “再定義者リデファイア”が祈導構文を破壊し、

 神の秩序を冒した――反逆者の可能性がある、と。」


 空気が凍りついた。


 ユウリはゆっくりと息を吐く。


「……なるほどな。

 “秩序”を失った人間が最初に探すのは、“悪”の象徴か。」


《観測補足:王都通信網に“祈導構文破壊事件”の報が流布中。

 対象:“再定義者”。 出所:祈導庁内部。》


 βが淡く発光しながら告げた。


 ティアが思わず拳を握る。


「ボクらが反逆者? ふざけてる!」


「怒るな、ティア。」


 ユウリが静かに言う。


「こうなることは分かってた。

 神の代わりに祈りを動かしたんだ。恐れられて当然だ。」


 ミナが俯いた。


「でも、あの時の人たちは……“助かった”のに。」


 リアナが小さく頷いた。


「恐怖は時に、感謝よりも早く広がるものです。」


《観測:民衆感情の波形、恐怖六十五パーセント、希望三十パーセント。

 しかし、ギルド区域周辺では“信頼”波が上昇傾向。》


 βの声は冷静だが、そこにどこか人間的な温度があった。


「つまり、街の外では疑いが広まり、

 ここ、ギルド周辺では私たちを信じる人が増えてるってことね。」


 セリスが静かに呟いた。


 マリナは小さく頷き、机に地図を広げた。

 王都全域が描かれたその地図には、赤い線が幾つも走っている。

 祈導塔の中心から放射状に伸びる光脈――本来なら停止しているはずの“潮流”が、今も脈動していた。


「これを見て。」


 マリナは線を指でなぞった。


「祈導塔の崩壊で潮流制御層は完全に止まったはず。

 でも今朝、王都の地下で新しい光の流れが確認された。

 それも、塔の残骸ではなく――もっと深い階層。」


「……下層構文。」


 ユウリの声が低く響いた。


「ゾルドが仕込んだ、人格複製構文の痕跡だな。」


《一致。潮流下層構文に“人格複製エゴ・コピー”の残留波形を検出。

 一致率七十八パーセント。 未知の補助コードも併存。》


「未知のコード?」


 リアナが首を傾げる。


《はい。 ゾルドのものとは異なる“神性演算”構文を検知。

 ……祈導庁が独自に再利用した可能性があります。》


「……神の技術を、人が勝手にいじってるってことか。」


 ユウリの声に怒りが滲んだ。


 マリナは拳を握りしめる。


「だから、放っておけないの。

 祈導庁がゾルドの構文を利用して、人々の“祈り”を再構築しようとしてる。

 それがもし完成すれば――今度こそ、王都は完全に支配されるわ。」


 ティアが立ち上がる。


「主様、ボクらで止めよう。

 神を信じられなくなった人たちが、今度は“偽物の神”に縋ろうとしてる!」


 ミナも頷く。


「βちゃんの観測を使えば、侵入経路も分かるはずだよ。」


《可能です。祈導庁地下構造の七割は既に解析済み。

 ただし、残る三割は神性層への干渉領域――危険度高。》


「危険でもやる。」


 ユウリの声が短く響いた。


「“人の祈り”を人の手に戻すためにな。」


 その言葉に、マリナは目を伏せ、そして静かに微笑む。


「……私も行く。」


「マリナさん、でも――」


「分かってる。ギルドの立場を捨てることになる。

 でも、私は《潮の声》の代表としてじゃなく、一人の人間として、

 “信じる自由”を守りたいの。」


 その目は真っすぐだった。

 かつて受付嬢として穏やかに依頼をさばいていた彼女とは違う。

 彼女は今、ひとりの“戦う大人”として立っていた。


《作戦ログ開始。目的:祈導庁中枢層への潜入、および不正構文の観測・削除。

 副目的:ゾルド人格端末残骸の回収。》


 βの光が明滅する。


 セリスが風を纏い、静かに呟いた。


「人の祈りを弄ぶ者は、神よりも深い闇を生む……」


 リアナが両手を組む。


「けれど、光もまた人の中にあります。

 それを取り戻すのが、私たちの役目です。」


 ユウリは立ち上がり、窓の外の祈導塔跡を見つめた。

 崩れた石壁の向こう、空が少しずつ青みを取り戻していく。


「……神がいないなら、人が祈りを正す。

 それが俺たちの仕事だ。」


《記録:ログネーム“祈導庁影層、観測開始”。》


 βの光がふわりと広がる。

 朝の光と重なって会議室を包み込んだ。


 光の中で、ユウリたちの影がゆっくりと重なる。

 その輪郭はまだ揺らいでいる――だが確かに、“未来へ歩む人の形”をしていた。

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