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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第115話「潮流制御層 ― 青の都の心臓」

 王都ラナシェルの中心にそびえる巨大祈導塔セレナ・スパイア

 その最下層――そこは青と白の光に包まれた静寂の海だった。


 天井も壁も光の膜に覆われ、空間そのものが水のように脈動している。

 祈りの波が空気を震わせ、ゆるやかに人々の“想い”を循環させていた。


 この地こそ、王国を支える根幹装置――国家祈導システム《潮流制御層タイド・レイヤー》である。

 祈りが魔力に変わり、魔力が風と雨となり、国を潤す。

 王都の繁栄もまた、この層の安定によって保たれてきた。


 だが今、その光は不穏に揺れていた。

 青の中に黒い脈動が混じり、静寂の底で何かが呻いている。


「……ここが王都の心臓、か。」


 ユウリが呟く。

 中央には、円環状の魔導装置が浮かび、青い光流が螺旋を描いていた。

 まるで“海中で呼吸する巨獣”のようだ。


《観測結果:潮流制御層、稼働率八九パーセント。異常波形を検出。》


「異常波形?」


《ゾルド系列構文の断片が混入しています。》


 βの翼が淡く光り、彼女の声が塔全体に反響した。

 その波動に呼応するように、壁面の祈導光が一瞬だけノイズを走らせる。


「ゾルドの干渉か……もう“別系統”にまで侵食してるのね。」


 セリスが静かに前へ進む。

 足元に浮かぶ魔法陣が淡く光り、翠の瞳が祈導流を見つめた。


「……祈りの流れが、規則的すぎます。人の心が作る波ではない。」


《肯定。演算信号の周波数に一定の均一性を確認。自然祈導ではありません。》


「つまり、“感情”が消えてるってことか。」


 ティアが拳を握る。

 掌から微かな朱炎が生まれ、空気を焦がした。


「主様、これ……人の祈りを無理やり“制御信号”にしてる。」


「ゾルドの得意技だな。秩序で塗りつぶす――それが奴の思想だ。」


 リアナが胸元で十字を切るように祈りの印を結んだ。

 白金の光がふわりと広がり、彼女の瞳に憂いが浮かぶ。


「祈りは、誰かに強制されるものではありません。

 本来は……自分で選び、信じるものです。」


《ですが、王都の祈りは既に一つに統一されています。目的は“沈静化”。思考の抑制を確認。》


 βの声が冷静に響いた。

 その言葉に、ミナが息を詰める。


「ってことは……この国の人、みんな“操られてる”ってこと……?」


 ユウリは頷いた。

 光流を見上げるその横顔は、冷たい怒りを帯びていた。


「β、干渉の経路を割り出せ。」


《解析開始。演算層を同期――対象:潮流制御層メインコア。》


 βの瞳に紫光が宿り、周囲に古代コードが浮かび上がる。

 祈りの波が反応し、青い空間に紋章のような光が散った。


《……発見。干渉源、祈導層中央演算核――識別名“セラフ・コア”。》


「セラフ・コア……」


《本来は王都全域の祈りを集約する構文装置。現在、ゾルド・ガルバの人格端末――モードBが部分統合中。》


 その名を聞いた瞬間、ユウリたちの間に緊張が走った。

 “ゾルドの複製人格”。


 それは既に、彼らが過去の遺構で遭遇した“あの声”――

 ゾルド自身の思考断片が自律行動化した存在だった。


「人格端末……つまり、また“分身”が動いてるのね。」


 セリスの声音がわずかに震える。

 前回、彼女はその端末の干渉波で時空構文を歪められ、危うく存在を消失しかけた。

 彼女にとって“ゾルドの影”は、冷たい記憶と恐怖の象徴でもある。


「アイツ、まだ自分のコピーを増やしてんのか……」


 ティアが拳を鳴らす。

 その拳から朱炎が再び滲み、床に焦げ跡が残った。


「なら、今度こそぶっ飛ばす。」


「待て。ここを壊せば、王都ごと祈導層が崩壊する。」


 ユウリの声は低く、しかし確固としていた。


《マスターの判断、妥当です。セラフ・コアは祈導構文と生命波が完全同調中。破壊行為は全住民に影響を与えます。》


 ティアが唇を噛みしめる。

 拳を震わせながらも、一歩引いた。


「……じゃあ、上書きする。俺の理で。」


 ユウリが右腕を上げ、紅い光を灯した。

 構文式が浮かび上がり、空間全体がわずかに軋む。


「《改造構文:信号上書き・抑制式》――起動。」


《補助演算、開始。β、サポートライン確立。》


 βの六翼が広がり、周囲の祈導波を解析していく。

 風が巻き、祈りの光が細かな粒子となって舞い上がった。


 セリスが杖を掲げ、結界陣を広げる。


「時間を稼ぎます。《時界干渉・結束》。」


 リアナが祈りの声を重ねた。


「聖なる流れよ、穢れを払い、光の道を示しなさい――」


 ティアは拳を構えた。

 闘気が渦を巻き、朱炎が掌の周囲を漂う。


「主様、侵入が来たらボクが防ぐ!」


「頼む。セリス、リアナ、干渉を抑えろ!」


《抵抗信号検出。人格端末ゾルド・モードBが応答を開始。》


 βの声が鋭く変わる。

 次の瞬間、塔の壁全体に黒い紋様が浮かび上がった。


 音もなく、祈導光が反転する。

 青は黒に、光は闇に変わり――空間が一瞬で“裏返る”。


 その闇の中心から、低い声が響いた。


『――再び来たか、再定義者。』


 それは冷たく、歪んだ理性の声だった。

 どこか人間的な響きを持ちながらも、感情の温度がまるでない。


『我が本体は既に遠き地にある。

 ここはただの端末――だが、秩序を乱す者を排除するには十分だ。』


「……人格端末ゾルド・モードB。やはり生きてたか。」


 ユウリの声が低く響く。

 その背でティアが拳を構え、目を細めた。


「主様、ボクが壁になる。好きにやって。」


 ユウリが頷く。

 紅い構文陣が足元で輝いた。


《マスター、干渉層強度上昇中。全員、魔力負荷に注意。》


「問題ない。β、リンク維持。」


《了解。――共鳴回路、展開。》


 六翼の光が広がり、潮流制御層全体が共鳴する。

 青い光が再び取り戻され、黒の波とぶつかり合った。


『愚かだな。祈りは制御のためにある。人間は自ら選ぶより、安定を与えられる方が幸福だ。』


「その“安定”のために、何人の命を捨てた?」


『命とは資源だ。完璧な秩序においては、欠損も必要経費。』


「……ゾルド、お前が見てるのは“死なない世界”じゃない。“止まった世界”だ。」


『止まることこそ、理想の安定だ。』


「俺たちは――それを“死”と呼ぶ。」


 ユウリの声が響いた瞬間、紅と青の光が交錯する。

 βの翼が閃き、祈導層全体が振動を起こした。


《共鳴臨界。構文上書き、成功率六十二パーセント……七十……八十二……!》


 βの声が次第に高鳴る。

 ティアが吠え、拳を地に叩きつけた。


「っらぁああっ!!!」


 朱炎が奔流となって立ち上り、闇を焼く。

 炎と光が融合し、潮流層を満たしていく。


『くだらぬ感情の奔流だ。制御不能な熱は秩序を壊す。』


「だから、それが“生きてる”ってことだ!」


 ユウリの声と同時に、《信号上書き・抑制式》が輝きを増した。

 祈導層全体が光に包まれ、黒い波が弾け飛ぶ。


《干渉信号、沈静化確認。ゾルド端末の反応消失。》


 βの声が静まり、光がゆるやかに戻る。

 潮流層の青が再び広がり、王都の祈りが穏やかに脈動を取り戻した。


 ユウリは息をつき、拳を下ろした。

 ティアが隣で笑う。


「……終わった?」


「いや。これは“影”の一つだ。奴の本体はまだ動いてる。」


《マスター、祈導層安定化を確認。王都全域への影響、軽微です。》


「よくやった、β。」


《感謝。……祈り、再起動完了。》


 βの瞳に柔らかな光が宿る。

 その光は、まるで“人の温もり”のようだった。


 ユウリたちは静かに祈導塔を後にした。

 外には夜明けが近づき、王都の空が淡い蒼に染まっていく。


 風が頬を撫で、βの翼に光が反射する。

 ティアが拳を開き、空を見上げた。


「主様、またひとつ、取り戻せたね。」


「ああ。まだ終わっちゃいないけどな。」


 風が吹き抜け、祈りの鈴の音が遠くで響いた。

 青の都――ラナシェル。

 その心臓は、再び穏やかに鼓動を始めていた。

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