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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第111話「祈りの光、堕ちた祈導兵たち」

 ――夜が落ちていた。

 砂を含んだ風が頬を刺す。空は鉛色の雲に覆われ、遠くの地平では断続的に稲光が走っていた。

 ユウリたちは崖上に立ち、眼下に広がる光景を見下ろした。


 そこには――無数の光が整然と並んでいた。

 白銀の装甲に祈りの紋章を刻み、無言のまま佇む祈導兵アーク・プレイヤーたち。

 数は百を超え、まるで一つの巨大な宗教装置のように、天へ祈りを捧げていた。


「……数が多い。β、観測を」

《観測結果:百七十体。祈導構文により完全同調中。中枢からの命令波を受信。》

「百七十……戦線規模だな」


 ユウリの視線が冷たく細まる。ティアが前に出て、槍を肩に担いだ。

「主様、前衛任せて! 焼き払うね!」

「焼く前に確認しろ。リアナ、支援を」

「了解。《聖樹の加護》――皆に祝福を!」


 白光の樹が地に根を下ろし、枝葉が広がる。金色の花弁が降り注ぎ、全員の身体に柔らかな光が宿った。


 ミナが岩陰から姿を消す。影と一体化するように、幻走の気配が夜風に溶けた。

「敵の配置……五列縦隊。中列に異常な魔力核! 中心の一体、光が違うよ!」

「違う?」

「赤じゃなくて金! たぶん、指揮個体だと思う!」


《確認。祈導兵長級構文を検出。周囲の祈導兵の信号を統合しています。》

「つまり――核を壊せば全体が止まるってことだな」

《その推測は妥当です、マスター。》


 ユウリは一歩前へ出る。掌に紅い光を宿し、声を落とす。

「――《改造構文:静音領域展開サイレント・フィールド》」


 音が消えた。

 風の唸りも、祈りのざわめきも、すべて吸い込まれていく。

 ユウリの瞳が輝き、構文層の糸が視える――数百の命令波が金色の核から伸び、祈導兵たちを操っていた。


「β、制御線を視認した。根を切る」

《同期開始。マスターの演算層に接続します。》


 βの光子投影がふわりと浮かび、宙に数式を描く。青い光の線が蜘蛛の巣のように広がり、空気そのものが情報で満ちていく。


「行くぞ、ティア!」

「了解っ! 《龍炎走》ッ!」


 ティアが地を蹴る。

 紅の閃光が夜を裂き、一直線に敵陣へ突っ込む。

 爆風。祈導兵が十体まとめて吹き飛び、空気が震える。

 彼女の槍が炎を纏い、竜の尾のように薙ぎ払った。


 リアナが聖杖を掲げる。

「祈りは命令じゃない! ――《解放祈祷》!」

 聖光が奔り、光核を包む。

 動きを止めた祈導兵の顔に、一瞬だけ“安らぎ”の表情が浮かんだ。


 その隙にミナが影から現れる。

 幻影が三つ生まれ、同時に突き出す。

「幻尾烈閃ッ!」

 銀光が交差し、三体の祈導兵の光核を同時に斬り裂いた。


 セリスがゆるやかに前へ出る。

 翠の髪が風に揺れ、静かな声が響いた。

「……時流干渉・風路。――過去の命令を忘れなさい」

 空気が歪み、祈導兵たちの時間が遅延する。

 まるで糸が切れた人形のように、動きが鈍る。


「今だ、β!」

《了解。反転信号送出――開始。》


 βの光が一斉に弾け、祈導兵の体を包んだ。

 紅と蒼が混ざり合う光――ユウリが即座に構文を重ねる。


「《改造構文:流体干渉領域展開フローディスラプト》!」

 空間そのものが震え、構文の流れが反転した。


 中央の祈導兵長が苦悶の声を上げ、金色の光核が暴走を始める。

《警告――自壊構文発動を確認。》

「セリス、凍結を!」

「了解。《時界干渉・結束》!」


 時が止まった。

 炸裂寸前の光が宙に固定され、世界が静止する。

 ユウリが前に出て、掌をその光核に向ける。

「《改造構文:信号上書き・抑制式》!」

 紅い鎖が奔り、暴走する命令を無理やり書き換える。


 音のない閃光。

 凍結した時がゆっくり流れ始め、爆発のエネルギーが吸い込まれるように消えた。


 崩れ落ちる祈導兵たち。

 その姿は静かで、どこか“眠る”ようだった。


 リアナが静かに跪く。

「……祈りの行方が、命令ではなく願いでありますように。」

 ティアが炎を収め、ミナが短剣をしまう。

 セリスは無言で祈りの残滓を解析し、βが淡く光を放つ。


《観測結果:全祈導兵、命令構文解除。魂波安定を確認。》

「……よし。」


 ユウリが息を吐いた。


「これで一件落着だ。」


 ティアが腕を組んで笑う。

「やっぱ主様の指揮、最高っ! ボク、ノッてたもん!」

「お前、楽しそうだったな。」

「うん! だってリアナ姉の加護、すっごく温かいんだもん!」

「ふふ……それは嬉しいですね、ティアさん。」リアナが微笑む。


 ミナが小首をかしげた。

「ねぇ、あの祈導兵さんたち……最後に笑ってたよ?」

 リアナがそっと目を伏せる。

「なら、救われたのかもしれません。命令から、ようやく解放されたのです。」


 βの声が再び響く。

《マスター。観測層より、異常信号を検知。》

「異常?」

《はい。祈導構文の奥に、同一系統の署名を確認。ゾルドのデータ痕跡です。》

 ユウリは拳を握る。

「……やはり、奴の影はまだ残ってるか。」


 夜空に目を上げる。

 厚い雲の切れ間から、一瞬だけ星が覗いた。

「ゾルド……お前の“秩序”を、俺が再定義してやる。」


 ティアが拳を突き上げる。

「次は絶対ボクの炎で終わらせる!」

 リアナが微笑み、セリスが静かに頷く。

「時は循環します。ならば、今は再生の時です。」


 βの光が柔らかく点滅した。

《了解。航路再設定完了。次なる目的地は未定――マスターの意思を。》

「行こう。……まだ終わっちゃいない。」


 夜明け前の風が吹く。

 崖の下に広がる祈導兵の亡骸が砂へと還り、金の粒となって舞い上がった。

 ユウリたちはその光の雨を背に、静かに歩き出した。

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