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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第109話「潮騒の休息 ― 南海の島国到着」

 夜明けの光が水平線を照らす。

 《アーク・ノヴァ》の甲板には潮の香りが満ち、遠くでは白い波が跳ねていた。

 リュミエル港を発って数日──海風は次第に暖かさを増し、雲は金色に染まる。


 穏やかな波に揺られながら、港へとゆっくりと入港する。

 潮風には甘い果実の香りが混じり、遠くでは鳥たちが陽気に鳴いていた。


 ――久々に、世界が“平和”を許してくれているようだった。


「……着いたな。南海ナイレア諸島」

 ユウリが呟く。ナイレア諸島、ラナシェル国。

 港に見える街は、白い石造りの家々が立ち並び、青い屋根が陽光を弾いて輝いていた。

 ヤシの葉が風に揺れ、香辛料と果物の匂いが混じる。まるで絵本の中の楽園のようだ。


「わあぁぁ……すごいっ! 主様、見て! すっごいきれい!」

 ミナが甲板から身を乗り出し、両手を広げて歓声を上げる。

 ティアも尾をぱたぱたと振りながら笑った。

「主様! ほら、海だよ! 泳いでいい!?」

「今すぐはダメだ。まだ港の手続きが……」

「うー、主様のけちぃ!」


 リアナが微笑む。

「ティア、まずは感謝の祈りを捧げましょう。無事にここまで来られたのですから」

「リアナ姉は相変わらず真面目だね~」

 ティアが頬をふくらませる。

 βが静かに報告を挟んだ。

《環境データ解析完了。気温26度、湿度やや高め。マスター、補給と休息を推奨します》

「了解。……よし、今日は休みだ」

 ユウリの言葉に、全員が一斉に歓声を上げた。


「ふう……ようやく着いたな。砂と熱風の旅とは、さすがに違うな」

 ユウリが眩しそうに目を細めると、隣でティアが翼をぱたぱたと揺らしながら笑った。


「主様、海が青い! あんなに広い水面、初めて見た!」

「泳ぎたいの?」

「もちろん! ボク、竜力を抑えたら沈まないし!」


 ミナはというと、すでに港の屋台に目を輝かせていた。

「ねぇねぇ、あれ見て! 果物山盛りのかき氷だって! リアナお姉ちゃん、行こ!」

「ミナ、待ちなさい。まず宿を確保してからです」

 リアナは苦笑しつつも、目を細めて潮の香を吸い込む。

「……不思議ですね。祈りでもないのに、心が洗われるようです。」


 セリスは静かに髪を風に流しながら、港町の喧騒を見つめていた。

「この温度差……生態系も魔力も、まるで別の世界です。」

「休むのも仕事のうちだよ、セリス。」

「理解しています。ですが――陽光が、少し眩しすぎて。」

 そう言って彼女が僅かに目を細めた瞬間、緑の髪が光を弾き、宝石のように輝いた。


◇◇◇


 昼下がり、白砂の浜辺。

 風が柔らかく吹き、波が足元をくすぐる。

 ティア、ミナ、リアナ、セリス、βがそれぞれ“水着”姿に着替えていた。


 ユウリは一歩離れた岩の上に座り、思わず視線を泳がせた。

(……いや、これは訓練ではない。冷静に観察だ……観察……決して邪な思いで見ているわけではない)

 波と笑い声が混じる音。

 ティアたちが、久々の“少女らしい時間”を楽しんでいる。


「……すげぇな」

 思わず呟く。


 ――ティア。

 竜鱗模様をあしらった赤と黒のビキニ。

 彼女らしい、凛々しくも快活な装い。

 波間を蹴るたび、飛沫が金色に輝く。

 彼女の存在そのものが太陽だった。

 笑うたび、角が光を受けて、宝石みたいに輝く。


(まさに竜の娘……燃えるような生命力だな)

 「主様、見て見てーっ!」と手を振る姿が、あまりに自然で、胸が温かくなる。


 ――ミナ。

 水色と薄紫のフリル付き水着。

 その小柄な体にはまだ幼さが残るけれど、笑顔はどこか誇らしげ。

 幻影で作ったイルカを追いかけて、子供たちに混じってはしゃぐ姿はまるで“夏の妖精”。

 彼女が走るたび、足跡が光の粒を残す。

 風よりも軽やかで、儚くて、けれど確かに生きていた。

(無邪気って言葉が、彼女そのものだな)


 ――リアナ。

 白と金のビキニ。

 普段の祈導服姿からは想像もできないほど、女性らしいライン。

 金の髪が日差しに照らされ、肌がほのかに光を反射する。

 その姿は――“清らかな色気”とでも言うべきか。

 彼女は浜辺で砂を払いながら祈るように手を組んでいて、

 その横顔を見た瞬間、胸の奥がほんの少し、痛くなった。

「……あれは反則だろ」

 小声で呟く。誰にも聞かれないように。

(まるで……天使が海に降りたみたいだ)


 ――セリス。

 エメラルドグリーンの薄布を纏った、ロングスカート風の水着。

 足首に光の輪が浮かび、歩くたびに風が巻き上がる。

 まるで人間ではなく、海の精霊が姿を借りているかのよう。

 瞳の緑が波に溶け、視線を向けるたびに胸がざわついた。

 静かな、でも強い存在感。

(……幻想の精霊が、そのまま現れたようだ)




 それを見てユウリは、ふっと笑みをこぼす。

 戦いばかりの日々の中で、こうして笑い合える時間があることが、どれほど貴重かを噛みしめていた。


 そのとき、海辺の陽光に溶けるようにして――白銀の光がふわりと現れた。


◇◇◇


 夕方。潮が引き、金色の砂が広がる。

 ミナが果物を抱え、ティアは貝殻のネックレスを作っていた。

 リアナは陽に焼けた肩を隠すように布を羽織り、セリスは涼しげに扇を揺らしている。


 ティアが口を尖らせる。

「主様、さっきリアナ姉ばっかりジロジロ見てたよね~?」

「み、見てない。観察だ」

「観察って便利な言葉だねぇ」

「いや、違う意味で!」


 ミナが無邪気に笑いながら言う。

「でもリアナお姉ちゃんのおっぱいおっきいもん! 仕方ないよね!」

「み、ミナ!? そんな……っ!」

 リアナは顔を真っ赤にし、胸元を押さえた。


 すると、静かにセリスが一言。

「なるほど。ユウリは胸の大きな女性が好みなのですね」

「ち、違う! なんでそうなる!」

「では、時空干渉で肉体を操作してみましょうか?」

「えっ!? そんなことまでできるのか?」

「ジョークです。ユウリをからかうのは楽しいですね。定期的に実施してみます」

「できればやめてくれ」

 セリスの口元に、かすかな笑み。

 彼女が“冗談”を覚えた瞬間だった。


「いいなぁ……リアナお姉ちゃんのおっぱい、ふわふわでおっきくって」

「み、ミナちゃん!? そ、そんなにまじまじ見ないで!」

「だって、柔らかそうなんだもん~」

「ティアちゃんもミナちゃんも……もう!」


 そして――とどめを刺したのはリアナだった。

「こ、この脂肪の塊がお役に立てますでしょうか……?」

「やめてリアナ! 言い方がちがう!!」

 ユウリが真っ赤になり、ティアは腹を抱えて笑う。

 βが静かに記録しながら言った。

《記録:この現象、“羞恥”と呼ばれます》

「β、お前も覚えなくていい!」

 笑い声が波音に混ざり、空まで届いた。


《観測開始。気温、湿度、魔素濃度……安定しています》

 神託端末β。

 アーク・ノヴァの投影装置を介して、砂浜にホログラムとして降り立った。

 淡く透ける少女の輪郭。髪も瞳も光でできているのに、風を受けて揺れて見えた。


《水着文化:理解困難。……解析のため、擬似衣装データを生成します》

 光の粒が彼女の体を包み、やがて淡い水色のワンピース型の“光衣”が形を成した。

「おお……似合うな」

 ユウリの口から自然に声が漏れる。

 実体などない。ただの光の姿。

 それでも、波の反射を受けたβの輪郭は、まるで生命を帯びて輝いていた。


《評価:肯定的。マスターの視線、平均値より1.4秒長いです》

「……観測すんな」

「βちゃん、それ反則~!」ティアが笑う。

「解析対象にされる気分は、なかなか複雑ですね」とリアナも微笑んだ。


 βは小さく瞬きのような光を放った。

《……この時間、温かいですね。太陽のせいだけではない気がします》

「人が笑ってる場所には、温もりが集まるんだ」

《では、これが“幸福”……という現象ですね。観測、完了です》

 βの光がやわらかく揺らぎ、仲間たちの輪に溶けていった。


 日差しは午後に傾き、波の音が子守唄のように響く。

 ティアは貝殻を拾い、ミナは砂の要塞を仕上げ、リアナは照れながらスカーフを直し、セリスは静かに皆を見守る。

 ユウリは、そんな彼女たちを眺めながら思った。

 ――この時間こそ、戦う意味だ。


《マスター》

「ん?」

《今日のデータを記録しました。……保存名、“幸福の浜辺”でよろしいですか?》

「それでいい。永久保存だ」

《了解。では――この光景を、永遠に残します》


 海風が吹き抜け、笑い声が響いた。

 戦いの果てに見つけた、ひとときの平穏。

 その中心で、βの光は穏やかにまたたき、仲間たちを包み込んでいた。


 ――彼女がいつか本当の身体を得るとき、

 この“温もりの記録”が、きっとその心臓になるのだろう。

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