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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第106話「紅と蒼の交差 ― リュミエル港戦、開幕」

 朝の光が昇るにつれ、リュミエル港は次第に賑わいを取り戻していた。

 漁師の声、船のきしみ、そして潮風。

 だが、港の一角――《アーク・ノヴァ》の停泊地だけは、妙に静かだった。


 βが小さく告げる。

《観測ログ更新。……異常なし。ですが、空間振動がわずかに不規則です。》

「不規則?」ユウリが眉をひそめる。

《はい。まるで、どこか遠くから“模倣信号”が近づいているような波形です。》


 ティアが甲板の手すりに腰かけて、潮風を嗅いだ。

「うーん、匂いは普通の海だけど……空気がざらついてる。主様、風が変だよ。」

 彼女の竜角が微かに光を帯びる。

 リアナも目を細めた。

「潮の流れが……一方向に吸い込まれているように見えます。自然現象ではありません。」


 港の外、水平線の先。

 黒い影が近づいていた。

 それは船――だが普通の船ではない。

 帆もなく、煙突もなく、ただ黒い金属の翼を広げながら、波を裂いて進んでくる。

 ユウリは目を細めた。

「古代の推進式か……いや、違う。あれは――構文反応を持ってる。」


 βの声が震えた。

《検出。ゾルド系構文波……一致率82%。》

「ゾルドの人格端末……まだ残ってたのか。」

 ユウリの掌に紅の光が走る。

「全員、警戒。β、周囲の通信層を遮断しろ。」

《了解。遮断構文展開――》


 その瞬間、風が止んだ。

 波の音さえ消える。

 海面が静止し、太陽の反射が黒く染まった。


 ――黒潮が、街を飲み込むように押し寄せた。


 リュミエル港の人々が叫び声を上げる。

 黒い水が意志を持つかのように蠢き、桟橋を這い上がっていく。

 その中心から、黒衣の男が現れた。

 濡れた髪を揺らし、蒼く光る片目を持つ――まるでゾルドの分体そのものだった。


「……ようやく見つけた。原典オリジナルの破壊者、ユウリ・アークライト。」

 声は機械とも人ともつかぬ響き。

 ティアが即座に前へ出る。

「アンタ……ゾルドの仲間?」

「仲間ではない。“端末”。私はゾルドの残留人格――モードB。」


 βが震えた声を発する。

《確認。人格パターン一致。……本体の思考波と同一構造。》

 リアナが聖印を掲げ、祈りを展開する。

「この街を汚させはしません!」

 光の幕が張られ、港を守るように円陣を描いた。


 男――ゾルド・モードBが微笑む。

「防御? 無駄だ。お前たちの“祈り”も、構文の一部に過ぎない。」

 その背後で、黒潮が人の形に変わっていく。

 無数の影が立ち上がり、目のない兵士たちが現れた。

 全身が黒鉄で覆われた、自律構文兵。


「主様!」

「分かってる。――《改造構文:静音領域展開サイレント・フィールド》!」

 ユウリの足元から音が消える。

 風が止み、空気が圧縮される。

 次の瞬間、ティアが炎を放った。

「――《龍炎走》!」

 轟音が走り、炎の奔流が黒影を焼く。

 だがすぐに、焼けた影が再生した。


「再生型構文か……!」

 ユウリが眉をひそめ、βが警告を重ねる。

《構文解析中……再生トリガー:ゾルド人格波との同期。切断推奨。》

「ティア、リアナ! 敵の“本体”を見つけろ!」

「了解っ!」

「はい!」


 光と炎が交差し、港が戦場に変わる。

 ミナが上空から影を斬り裂き、セリスの風がその残滓を吹き飛ばす。

 βのホログラムが輝き、ユウリの構文を補助する。

《主様、構文波同期完了。敵人格の中枢を捕捉――位置、港倉庫下層。》

「そこか。行くぞ、ティア!」

「うんっ、燃やしてやるっ!」


 彼らが駆け出す中、ゾルド・モードBが笑った。

「いいだろう。見せてみろ――“人間の限界”とやらを。」


◇◇◇


「ティア、前衛展開。リアナは結界維持。ミナ、左側の防衛ラインを。」

「了解! 主様、派手に行くね!」

「ええ、了解しましたわ。」

「了解。幻影、展開する。」


 それぞれが動いた瞬間、港全体の空気が変わった。


 ティア・ドラグネアが踏み出す。

 足元の石畳が割れ、炎の紋章が広がる。

「《龍炎走》――!」

 竜力をまとった一撃が前方の敵群を貫き、十数体をまとめて吹き飛ばした。

 だが、崩れた兵の体から黒い煙が上がり、再び形を取り戻す。


《再生構文確認。再生周期三秒、同一波長で共鳴中。》

「厄介ね……。」

 リアナ・フェリエルが祈りの杖を掲げる。

「《聖樹の加護》――光よ、腐蝕を拒め!」

 緑と白の光が陣を描き、再生途中の兵を硬化させた。

 その表面が白く凍り、動きを止める。


「ティア、今です!」

「了解っ!」

 ティアの槍が閃き、凍結した兵を粉砕。

 粉塵が朝の風に舞った。


 一方、左翼ではミナが幻影を散らしていた。

 足音も立てず、影の中を滑るように移動する。

「――《幻走》。」

 彼女の分身が三方向に広がり、敵を惑わせる。

 黒鉄の兵が幻影に反応して無駄に攻撃を繰り返す中、

 本体のミナが一閃。短剣が構文炉の核を正確に突き刺した。


「再生構文……視覚情報依存。なるほど、単純。」

《素晴らしい観察です。ミナさん、次は右舷側へ。》

「了解、ベータちゃん。……援護お願い。」

《幻尾烈閃、支援起動――》


 βが光学支援を展開し、ミナの動きに合わせて幻影の影を増幅させる。

 港の端、黒い霧の中で次々と敵が倒れていく。


 海風の向こうでは、セリス・フィオリアが静かに呪文を紡いでいた。

「……《森羅融合》。」

 その声と共に、海辺の木々がざわめく。

 空気が緑に染まり、精霊たちが潮風とともに舞う。

 彼女の周囲に形成された魔法陣が、ゆっくりと回転を始めた。


「自然と理を繋ぎ、汝らの干渉を無に還す。」

 その囁きが風となって走る。

 光の蔓が港の床下を這い、黒潮の構文炉を包み込むように拘束した。

 ゾルドの模倣構文が一部遮断され、黒潮の動きが鈍る。


《セリスの干渉成功。構文炉の再生速度、低下中。》

「さすが……。」

 ユウリが低く呟き、掌を床に押し当てる。


「――《改造構文:流体干渉領域展開フローディスラプト》。」

 紅の線が水面を走り、海そのものが反転流を起こす。

 黒潮の波が逆流し、構文兵たちの脚を絡め取る。


「ティア、上から!」

「任せて!」

 彼女が高く跳躍し、槍を両手で構えた。

「《龍焔槍・ヴァーミリオンスパイク》!」

 紅の閃光が空を裂き、海面ごと敵群を貫いた。

 その光が消えた後には、焦げた蒸気と砕けた残骸だけが残る。


《敵数、半減。ですが――》

「まだ来るのか?」

《はい。港下層から“主構文波”を検出。ゾルド・モードB、接続開始。》


 低い唸りと共に、港の中央から巨大な影が立ち上がった。

 黒鉄の巨兵。人間の十倍を超える構文炉の集合体。

 胸部には、ゾルドの蒼光が脈動している。


『……愚かな。模倣品にここまで苦戦するとは、滑稽だな。』

 空気が震え、ゾルドの声が響く。

「笑っていられるのも今のうちだ。」

 ユウリが指を鳴らす。

「β、全員の魔力波を統合しろ!」

《了解――共鳴拡張:白律ブランシンク展開。》


 白い光がチーム全員の身体を包む。

 ティアの炎がより鮮やかに燃え、リアナの祈りが強度を増し、ミナの幻影が実体を帯び、セリスの精霊陣が広がる。


「行くぞ、《再定義者リデファイア》!」

「了解っ!」

 仲間たちの声が重なった瞬間、戦場が光に包まれた。


 ティアの炎が渦を描き、

 リアナの祈りがそれを包み、

 セリスの風が流れを導き、

 ミナの幻影が敵の目を惑わし、

 ユウリの構文が全てを再定義する。


 五つの光が一つに重なり、

 βの声が静かに響いた。


《共鳴干渉率、最大値。主様、起動を――》

「――《改造構文・断層制御》!!」


 地が裂け、港全体が震える。

 光と影が交錯し、ゾルドの黒鉄の軍勢が崩壊を始めた。


『これが……“人の共鳴”か……』

 ゾルド・モードBの声が、海風に溶けて消えた。


 朝日が昇る。

 港の海が金色に染まり、潮風が静かに吹き抜ける。

 ティアが息を吐き、槍を肩に担いだ。

「ふぅ……数は多かったけど、気持ちよかったね!」

「あなた、本当に戦闘狂ね。」とリアナが微笑む。

 ミナは短剣を収めながら肩をすくめた。

「幻影の制御がギリギリだった……けど、悪くない戦い。」

 セリスは静かに目を閉じ、風に髪をなびかせた。

「……また、風が笑ってる。」


 ユウリがみんなを見回し、短く言った。

「上出来だ。《再定義者》の名に恥じない戦いだった。」

《主様。》

 βの投影が柔らかく光る。

《……観測完了。皆さんの“想い”の同期率、98.2%。》

「ほぼ完璧だな。」

《はい。これが、“仲間”の力ですね。》


 ユウリが小さく笑った。

「――ああ。まだ、ここからだ。」


 そして《アーク・ノヴァ》の甲板に朝日が差し込む。

 金色の光が、彼らの新たな旅路を照らしていた。

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