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【完結保証】追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第4章

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第103話「深海の残響 ― アーク・ノヴァ再起動」

 朝の海が、白く輝いていた。

 港の波止場に、潮の香りと船の軋む音が混じる。

 リュミエル港。旅人と商人が交錯する活気の街でありながら、その一角――海沿いの崖下には、ひときわ異質な存在が静かに鎮座していた。


 古代飛空艇アーク・ノヴァ

 アルセリアの封印層から飛び立った後、ユウリたちの手によって完全制御下に置かれた巨艦だ。

 今は港町の裏手、崖沿いの格納湾に停泊しており、外装の翼は折りたたまれ、静かに朝の光を反射している。

 海風に撫でられながら、金属の外殻が低く唸るように呼吸をしていた。


 ユウリは、甲板の上で朝日を浴びていた。

 潮風に混じる鉄の匂いが、かつてのアルセリアを思い出させる。

 指先を上げると、掌の上に淡い光の輪――βの投影が浮かび上がった。


《航行モード:休止中。環境安定率99.8%。……ですが、異常信号を感知しました。》

「どこからだ?」

《海底構文層。位置、港沖三百メートル。信号波形……未登録。》

「未登録?」

《はい。既存の神罰構文、または堕獣構文と一致しません。形式はむしろ――人為的な干渉。》


 ユウリの眉がわずかに動いた。

 人為的――つまり、何者かがこの港の“下”で構文を動かしているということだ。


「β、解析続行。ティアを呼べ。」

《了解。――ティアさん、主様が呼んでいます。》


 呼びかけに応じて、階段を駆け上がる足音がした。

 朝の光を背に、桃色の髪が揺れる。ティア・ドラグネアが勢いよく姿を現した。

「主様! おはようっ! βちゃんが“異常検出”って言ってたけど、なんか見つけたの?」

「まだだ。だが……嫌な波だ。」

 ユウリは視線を海へ向ける。

 遠く、潮の流れが妙に揺らいでいた。まるで“海そのもの”が息を潜めているように。


 ティアの表情が真剣になる。

「行こう。放っとくと誰かが呑まれる。」

「まだ早い。β、構文層の安定度を。」

《安定率62%。海流構文に乱れあり。主様、異常信号は断続的に“人格波”を含みます。》

「人格波?」

《はい。……類似波形を照合。結果――ゾルド・ガルバの構文記録の0.8%に一致。》


 ユウリの瞳が細まる。

 ティアが息を呑んだ。

「ゾルド……。また、あの人の残滓?」

「断片だ。完全な端末じゃない。だが、放置できん。」

 潮風が、甲板の旗をはためかせた。

 港の下――海の底で何かが蠢いている。

 ユウリは一瞬、空を見上げた。

 雲が流れ、三つの太陽柱が海面に光を落とす。その眩しさが、彼の決意を照らすようだった。


「ティア、装備を整えろ。β、サブ構文制御をアーク・ノヴァ副艦橋に移行。」

《了解。補助制御開始。全観測データを共有ラインに転送します。》

「ユウリ、まさか船で出るの?」

「いや、潜る。」

「……潜るって、海の中に?」

「ああ。“修理が必要なもの”があるなら、どんな場所でも直すのが《改造師》の仕事だ。」


◇◇◇


 アーク・ノヴァ副格納庫。

 かつて神の戦争兵器だったこの艦は、いまや完全に人間のための船として再構築されている。

 装備区画にはユウリ用の《戦術改造スーツ》が、ティア用には耐水魔力装甲が並んでいた。

 ティアがスーツを装着すると、鱗の下から蒸気が立ち上る。

 ユウリはヘルメットをかぶり、静かに呼吸を整えた。


「主様、準備完了。βちゃん、通信よろしく!」

《了解。ユウリ様とティアさんの生体波形を同調。空間干渉通信を維持します。》

「アーク・ノヴァ、ハッチ開放。――出るぞ。」


 水圧隔壁が開く。

 海水が轟音を立てて流れ込み、二人の姿を呑み込んだ。

 瞬間、視界を満たすのは青の世界。

 陽光が揺れ、無数の泡が踊る。

 ティアが掌に魔力を灯すと、光が魚群のように広がった。


《周囲温度、安定。圧力異常なし。》

「主様、あそこ!」

 ティアが指さす先――海底の岩盤が異様に膨らんでいる。

 まるで、何かが“内側から”膨張しているような……。

《警告。構文波動、増幅。ゾルド型人格波――明確な“起動”反応を確認。》

「β、補助構文リンク!」

《接続完了。改造構文層、開放許可。》


 ユウリの掌に紅の回路が走る。

「――《改造構文:流体干渉領域展開フローディスラプト》!」


 紅の陣が水中に広がる。

 海そのものが脈を打ち、流れを支配された。

 岩盤が裂け、黒い光が噴き上がる。

 次の瞬間、現れたのは――半透明の人影。

 顔はなく、ただコードのような線が絡み合って形を保っている。


『……観測……失敗……再構築……開始。』

《警告。人格端末、ゾルド・モードA。稼働率9%で起動。》

 ティアが牙を剥く。

「主様、こいつ、まだ残ってたんだ……!」

「残骸でも、命令構文を持つ限り危険だ。行くぞ、ティア!」


 二人の光が交差する。

 竜炎が爆ぜ、海が紅に染まる。

 炎の渦が人影を貫き、無数の構文が断ち切られた。

『……修理者……人間風情が……。』

「そう言われるの、何度目だろうな。」

 ユウリは冷静に手を翳す。

 紅の光が集束し、断裂した構文を“逆再定義”していく。

 黒影が悲鳴を上げ、霧のように溶けた。


《解析完了。人格端末、完全消失。》

「……終わったか?」

《はい。ただし、断片波がアーク・ノヴァ通信層に一時的な干渉を残しました。》

「β、復旧を急げ。」

《了解。ですが――妙です。通信干渉の中に、“感情波”が含まれていました。》

「感情波?」

《恐怖、そして……興奮。》


 ユウリとティアは顔を見合わせる。

 その瞬間、海底の奥でわずかに光が明滅した。

 まるで、誰かがこちらを見ているかのように。


◇◇◇


 甲板に戻ると、陽はすでに傾き始めていた。

 潮風が温かく、ティアは髪をかきあげて笑った。

「ふぅー……やっぱり水の中は疲れるね。炎が思いっきり出せないんだもん。」

「だが、お前の動きは良かった。竜核の制御も安定してる。」

「えへへ、主様に褒められた!」

《ティアさんの竜核共鳴率、過去最高値を記録しました。》

「βちゃんもありがと!」

《どういたしまして……です。たぶん。》


 甲板に笑い声が広がる。

 その背後で、アーク・ノヴァの外殻がわずかに光った。

 βが報告を続ける。

《残留データの解析を継続します。信号源は、ゾルド本人の“コピー人格”である可能性が高い。》

「人格複製……やはり、あいつの“構文”は生きている。」

「主様、また戦うの?」

「戦うさ。だが次は――完全に終わらせる。」


 夕暮れの風が二人の間を吹き抜けた。

 潮の香りの向こう、沈みゆく太陽が、紅く海を染めている。

 その光がまるで、次の戦いの狼煙のように――ゆらりと揺れていた。

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