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追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―  作者: かくろう
第1章

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第10話「廃都の観測」

 ――ユウリ・アークライトが勇者側から追放されて、三週間。


 廃都アルセリアの外縁、防壁跡に朝の光が差していた。

 崩れた塔の上で、ユウリは片手を掲げ、細い魔力糸を空へ伸ばす。


「《コピー&改造(Copy&Modify)》――外郭ノード、同期。制御式は“選択優先”に変更」


 青い輪が塔の先端で重なり、石と金具が静かに形を整える。

 数百年前の“神造構文”がゆっくりと人間語へ解きほぐされ、今の世界に馴染んでいく。


「主様、右の輪っか、少しだけズレてるよ!」


 地上から、桃色の髪がひらりと揺れた。

 竜人族の少女――ティア・ドラグネアが手をかざし、紅の角に微かな光を宿す。


「《竜焔糸ドラグ・スレッド》、一点だけ……よいしょ」


 糸状の熱が、指先から塔の“隙間”へすっと流れ込む。

 乾いた音。輪がぴたりと噛み合い、塔の外皮に脈動が戻った。


「うん、合格。悪くない制御だ」


「えへへ。主様に褒められるの、やっぱり嬉しい」


 ティアはしっぽを一振りして笑い、すぐ真顔に戻る。

 その目は、もう“檻にいた子”の目じゃない。外の風を知って、少しだけ強くなった目だ。


「次は、東側の監視線をつなぐ。偵察が来ても一秒で気づけるようにする」


「了解! ボク、補助線を引くね。炎、弱めに通すから」


 ユウリは頷き、塔から跳び降りた。

 膝を軽く曲げて着地。砂がわずかに舞う。


 外縁に沿って、再起動した青い筋が点々と灯っている。

 都市の“神経”は、昨日より長く、そして太くなった。



 昼前。

 神殿中枢の観測室。石壁の内側に、薄い水面のようなスクリーンがいくつも揺れている。


「監視線、接続チェック。外郭1~8、正常。東南の四番、遅延0.03……許容内」


「主様、こっちの“耳”も立てておく? 外の音、遠くのまで拾えるやつ」


「立てよう。けど優先は“見えること”だ。見えれば、助けに行くタイミングを選べる」


「……うん」


 ティアは素直に頷き、紅の角をそっと撫でるように抑えた。

 竜核の鼓動を落ち着かせ、肩の力を抜く――最近覚えた“制御の入り方”。


「じゃ、ボクは西側の視界を広げてくる。早めに戻るね、主様」


「危なくなったら戻れ。無理はしない」


「約束ー!」


 軽い足音が遠ざかり、観測室にユウリひとりが残る。

 彼は深呼吸を一つ置き、水面のスクリーンに手をかざした。


《観測モード:世界信号/公開層のみ参照》

《項目:加護波形・奇跡応答ログ・祈祷流量/地域別》


 神殿核は、世界の“表層”だけなら覗ける。

 どこで祈りが起き、どこで奇跡が応答したか――地図の上に薄い光点として浮かぶ仕組みだ。


 ユウリは、自然と“ある地域”に視線を滑らせていた。

 あの小隊が巡回していた、山と谷が連なる帯。

 画面を指で拡大する。


 ……光点が、少ない。

 いや、少ないどころか、一本の線が途中でぷつりと切れている。


 神殿の静寂が、急に音を吸った。

 ユウリの指が止まる。


《補足:祈祷応答ラグ/該当域 平均+0.17秒 → +0.42秒》

《注意:“聖職者級”の奇跡波形 継続0 → 0(検出不能)》

《識別:リアナ・エルセリア/奇跡波形――断線》


 水面の文字が、冷たい。


 ユウリは目を細めた。

 感情が顔に出ることは、あまりない。

 けれど、ほんの一瞬だけ、喉の奥で言葉が引っかかる。


「……神が、線を切ったか。あるいは――自分で、降りたか」


 指先が、ゆっくり画面をなぞる。

 断線の“手前”には、微弱なノイズが幾筋も滲んでいた。

 迷い。圧力。沈黙。

 それらが重なって、最後に「無音」になっている。


 扉の外から、軽い足音。

 ティアが顔を出した。


「主様、戻ったよ! 西側は鳥の巣がいっぱいで可愛い――って、あれ? 顔、ちょっとだけ怖い」


「そう見えるか?」


「うん。主様の“眉間の線”が出てる。なにか、嫌なログ?」


 ユウリは短く息を吐き、スクリーンの一枚を指で閉じた。

 別の画面を開く。外縁カメラ、風向、巡回路、今日のやること。


「……誰かが“神の線”から外れた。以上だ」


「ふーん……その“誰か”、大事な人?」


 ティアの問いは、いつも真っ直ぐだ。

 嘘をつくと、尻尾の先がわかりやすく落ちるから、ユウリは嘘をつかない。


「昔、一緒にいた。いまは、別の道にいる」


「そっか」


 ティアはそれ以上、深くは聞かなかった。

 代わりに、観測室の窓から見える空を指差す。


「主様。ボクたちの“線”は、切れないよ。ちゃんとつないでるから」


「頼もしいな」


「えへへ」


 ティアの笑顔は、あたたかい。

 その温度が、観測室の冷たい光を少し和らげる。


「――仕事に戻ろう。監視線が伸びれば、見える範囲も広がる。見えれば、助けを選べる」


「うん!」


 二人は並んで歩き出す。

 階段を下り、広場を横切り、外縁へ。

 都市の脈動が、足裏からかすかに伝わってきた。



 夕刻。

 外郭の四番塔に、新しい“目”が取り付けられた。

 石の上に浮かぶ薄いレンズが、遠くの地平をゆっくり舐めるように追う。


「視界、クリア。砂塵層……薄い。風向、西北。偵察影、なし」


「主様、次はどこ?」


「北の斜面。あそこに古い導魔管が埋まってる。引き出せば、外壁一つ分の灯が点く」


「了解、先行する!」


 ティアが駆け、ユウリがその背を目で追う。

 紅の角が夕光を弾き、桃色の髪が風にほどけた。


 ユウリはふと、空を見上げた。

 雲が薄く切れ、青が覗く。

 あの“断線”の向こう側で、誰かが空を見ている――そんな気がした。


「……神が沈黙するなら、代わりに人が祈れ。声は届く。届かせる」


 独り言は、風に混ざって消えた。

 それでも、言葉の余韻だけが胸に残る。


 観測塔のレンズが、北へわずかに焦点を寄せた。

 遠い遠い方角に、肉眼では捉えられないほど小さな光の揺らぎ。

 都市の“目”は、確かにそれを見た。


 だが――この日はまだ、誰も走り出さない。

 距離も、時間も、世界の事情も、すべてを織り込んで。


 再会は、もう少し先でいい。

 そのために、まず“見える範囲”を広げる。


 ユウリは工具袋を肩に掛け直し、外壁へ歩を進めた。

 廃都は今日も、少しだけ呼吸が深くなる。

 そして彼の背中は、静かに夕陽を背負っていた。

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