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時魔導士ネネユノの探しもの。~理不尽にパーティーを追放された回復役の私、実は最強でした!?~  作者: 伊賀海栗
故郷探し!

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5.そろそろ休憩したいなって


 解呪は単純な治癒よりも多く魔力を消費するのだと、ネネユノに教えたのは誰だったろうか。


 ネネユノはトルヴァルド隊のヒーラーが、一般的な冒険者パーティーのヒーラーよりも多くの魔力回復薬(ポーション)を持参していることに気付いていた。


 ダンジョンへ入る前には「あんな高価なものをたくさん……月侯騎士団ってすごい……」と思っていたものだが、今ならそれがトルヴァルドのせいだと理解できる。


 そう、トルヴァルドの無鉄砲をフォローするための魔力回復薬であって、呪いの罠()多いこのダンジョンではきっと、いや間違いなく不足するのだ。

 ここへ来る前、トルヴァルドも言っていた。「ヒーラーの数と魔力に不安がある」と。


 だがネネユノならその問題とは無縁である。擦り傷だろうと、瀕死の重傷であろうと、戻す時間が同じなら必要な魔力量も変わらない。

 だからファヴはトルヴァルドに「問題ない」と答えたのだ。


 もちろん時魔法も万能ではなく、ヒーラーが治癒をしてから時間を戻せば怪我の状態が復活する可能性がある。


「えぇ……っ?」


 治癒を止められたヒーラーは困惑しつつ、トルヴァルドへ視線を投げかける。トルヴァルドはもちろん抗議する姿勢を見せたが、ファヴはただネネユノを見つめるだけだ。


「“戻れ(ジール・ナピス)”」


 ネネユノはポッケの懐中時計を左手で握りながら、右手に戦棍を掲げてトルヴァルドの時間を1分だけ戻す。


「おぉ? や、すごいですね。怪我がなくなった。治ったというよりなくなったって感じです」

「の、呪いも解けてる! でも聖魔法ではないですよね、なんですかこれ?」


 さすが月侯騎士団というべきだろうか。トルヴァルドもヒーラーもそれぞれに感じた違和感を口にするが、それに答える者はいない。


 時魔法についてどこまで情報を開示するかの判断はファヴに一任されているからだ。

 その場にいる全員の視線がゆっくりとファヴに向かい、ファヴもまたもったいつけるようにゆっくり息を吸って、そして口を開いた。


「ユノは――」

「あっ、わかった! 時魔法だ! ですよね、団長!」

「あ、はい」


 ファヴが言うより早く正解にたどり着いたのはヒーラーのヨナスである。杖をしっかり両手で握り締め、上気した顔でまくし立てる。


「おぉー! すごい、ボク本物を初めて見ました! まさか実在するなんて。いやボクは実在するって信じてましたけど。わーすごいな、サインってもらえるんですか。ってあるわけないか。すごい、時魔法って伝説なんですよ。それが一緒に戦えるなんて夢みたいだ」

「あー。おっほん」


 わざとらしい咳払いで再び視線が団長へ戻る。


「何を隠そうユノは時魔導士で――」

「ですよね! なんだか緊張しちゃうなぁー。この後も時魔法が見られるなら、トルヴァルドさんどんどんやっちゃってください!」

「……説明は以上だ。先を急ごう」

「はいっ!」


 説明は終わりらしい。

 なんとなく取り残された気分のまま、ネネユノはヨナスからの熱っぽい視線を避けるように、シャロンの陰に隠れて歩く。


 ここまで魔物の襲撃も多くあったが、総勢8名の月侯騎士団の前ではなんの脅威にもならない。

 罠はトルヴァルドが解除するし、気を付けるべきは魔物へ転じる呪いのみ。それだって時魔法があれば恐ろしくないのだ。ネネユノはもちろんのこと、全体的に弛緩した空気が流れ始めていた。


 それからどれだけの階層を降りただろうか。

 何度かミミックに襲われかけたネネユノの顔に疲れの色が浮かんだ頃、ファヴが足を止めて周囲を見回した。


「ここは……50層か。前回の探索は34層までと言ったか?」

「はい。そこで魔族の襲撃に遭いました。このダンジョンは平均より少し小さいですし、そろそろ最下層かと思うのですが」

「ああ。だがボスエリアもなければ、下へ降りる階段もない。正しい道が別にあるのか、それとも」

「ここまで各層念入りに確認しましたし、他に道があったとは思えませんが……」


 ファヴとトルヴァルドの会話に、ネネユノは「ふぅん」と気のない相槌をうつ。


 ネネユノは冒険者だったとはいえ駆け出しだ。ダンジョンへ潜った経験も片手で数えられるくらいしかない。

 そのため下へ続く階段もボスエリアもない、というのがよくある事象なのかイレギュラーなのかの判断もつかないのである。


 それより休憩したいな、小腹が減ったなぁと、ポケットから引っ張り出したサーモンジャーキーを齧りつつ、なんともなしにシャロンを見る。


 シャロンは愛斧を逆さまに床に立て、柄を両手で握ってゆらゆら揺れていた。その視線は遠く、心ここにあらずといった様子。

 そういえばシャロンがぼんやりするようになったのは、ここ最近のことだ。何か考え込むようにため息をつくことが増えた。そんな彼女の大きな瞳がくるっと転がってトルヴァルドを見る。


「よく考えたら、魔族が出て来たからって尻尾巻いて逃げるの、情けないわよね」

「は?」


 トルヴァルドの声が僅かに低くなった。


「だってそうでしょう? 鋼の肉体と怪力がご自慢のくせに、魔族が怖いだなんて可笑しいったら」

「自分は隊を率いる責任を――」

「あら、言い訳? そんなに全力で評判を投げ捨てなくてもいいのよ?」

「言わせておけば!」


 トルヴァルドは気色ばんで戦槌を握り直す。

 ぽかんと口を開けたままだったネネユノの手から、ファヴがサーモンジャーキーを取り上げた。


「あっ、ジャーキー」

「仕舞って少し離れていたほうがいい。巻き込まれるぞ」

「まきこまれる?」


 回答を得るまでもない。

 ガンと金属のぶつかる耳障りな音がして、見ればシャロンとトルヴァルドが武器を構えて向かい合っている。


「止めないの?」

「あのふたりは、たまにはぶつかったほうがいいからな。……が、嫌な予感がするな」


 そう言ってファヴがネネユノを小脇に抱えるのと、床が崩れ落ちるのはほぼ同時であった。


「ひゃあああああああああ」


 ネネユノの叫び声とともに、月侯騎士団総勢8名が闇の底へと落ちていったのである。




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