4.なるほどこれが漢
確かに以前ネネユノは、ファヴが「脳筋の戦槌バカ」なる人物をこのフリーランドの新興ダンジョンに向かわせた、と言っていたのを聞いている。
しかし戦槌を持つのはトルヴァルドしかおらず、そのトルヴァルドはいたってまとも……少なくともファヴやクローやシャロンよりは真面目で理知的に見えた。
というか、斧を振り回して魔物を一手に引き受けるシャロンより、特大魔法を放つことで快感を得ているクローより、そして何より爆発四散特攻をかけるファヴよりも脳筋なはずがない。
この人たちは、自分たちがいかに脳筋であるかを理解していないに違いない。と、ネネユノはおかしなレッテルを貼られたトルヴァルド氏を憐れんだ。
……ダンジョンの下層へ向かうまでは。
「ふんぬぅああ!」
ダンジョン35層にトルヴァルドの唸り声が響く。
と同時に、細い坂道から転がり落ちて来た鉄球を、トルヴァルドがその身体で受け止めた。ネネユノを縦にふたり並べられるほどの直径を持つ鉄球を、だ。
「せいぃやぁっ!」
さらに掛け声とともに鉄球を抱え上げ、道の脇へと放り投げる。ダンジョン内部は住宅街によく似た景色で、脇にあった住宅の壁が鉄球によって破壊された。
トルヴァルドは手を叩いて埃を払いながら満足げに頷いて見せる。
「この手の罠は球が正規のルートから外れるとエラーを起こして機能を止めるので、実質罠解除ですね! 先を急ぎましょう!」
トルヴァルドの隊が攻略を終えた階層は遍く罠が解除されていたのだが、ネネユノはここでその理由を知った。トルヴァルドがわざと罠にかかって、全て解除していたのである。
「あの球が正規のルートから外れることあるんだ……」
ネネユノが呟くと、シャロンがネネユノの頭をぎゅっと胸に抱え込んだ。
「ユノちゃん。あんまり見ちゃダメよ、脳筋が伝染るから」
「かっけぇよなぁ、漢探知! オレにはできねぇわ」
「それ半分馬鹿にしてるでしょ、クロー」
「あ! 聞いたことある。あれがおとこたんち……!」
冒険者の間でもたまに聞く、罠の斬新な処理方法である。
処理方法というと計画的なものに感じるが、実際は単純に罠を回避せず突き進むのみ。罠にかかったときが探知したとき、というものである。
罠に飛び込む度胸だけでなく、いかなる罠にも耐えてみせる鋼の肉体が必要であり、尊敬の念を込めて漢探知と名付けられた……とか。
そんな話をしている間にも、先頭を行くトルヴァルドは次の罠にかかっていた。
「んぬぁぁぁ! っしゃー!」
カコンと独特な音をさせて罠を踏んだかと思うと、左右からいくつもの矢が飛んできたのである。しかしトルヴァルドは戦槌でその多くを叩き落し、身体に刺さった矢はわずか3本。
それも自分の手で抜くが早いか、彼の隊のヒーラーが慣れた様子で治してしまった。素晴らしいが、あまり慣れたくないタイプの連携である。
さらにトルヴァルドは自分がたった今踏み込んだスイッチを、戦槌で叩き割った。あまりにも乱暴で、しかし確実な罠の解除だ。
「相変わらずだな、トルヴァルド」
「はい。自分が誇れるのはこの肉体くらいですから!」
真面目な顔で肩を叩くファヴに、トルヴァルドは誇らしげに胸を張った。
トルヴァルドの背後では部下であるヒーラーが微かに肩をすくめている。尻拭いさせられる気持ちはネネユノにもよくわかるため、憐みを込めて深く頷いておく。
一方で他の部下2名はしっかりと気をつけをして、指示を待っている様子だ。彼らの得物はそれぞれ弓と槍だろうか。
シャロンが大げさに溜め息をつき、サラサラの髪を揺らしながら首を横に振る。
「誰も褒めてないわよ。ヒーラーに負担かけといて、なぁにが誇りだか。ご自慢の肉体持ってさっさと自分の国に帰ればいいのに」
「おい、シャロン。君は――」
「先に進むぞ」
ファヴが歩き出し、他の人間も従う。一触即発なふたりはそのままで、ヒリついた空気にネネユノは自分の肩を両腕で抱いた。
このダンジョンの担当は元々トルヴァルドだったのだし、そもそも月侯騎士団は団員の数が多くない。魔族がいるとわかっている状況で、団員同士の相性など気にしてはいられないのだろう。
だが、それにしたって。とネネユノは思う。
「ねぇ、なんであのふたり仲悪いの」
こそこそっとクローに問うてみれば、彼は頭をポリポリとかいて「あー」と歯切れの悪い様子だ。
「あいつら、同郷なんだわ。お隣の国の出身なの」
「シャロンが言ってた『国』って故郷みたいな意味じゃなくて、そのまんま国なんだ」
「そ。隣の国の貴族でさ」
「貴族ぅ?」
だからシャロンがネネユノの社交マナーの教師だったのか、と納得する。その一方でトルヴァルドが貴族だというのは少々納得しがたい。……いや、漢探知を見る前なら納得したかもしれないが。
クローは立てた人差し指を己の唇にあてて「内緒だぞ」と意思表示した。
「シャロンの家……ピエドラ家が取り潰されたのは、トルヴァルドの家のせいだって話なわけ」
「えぇ……」
「貴族って煌びやかに見えて水面下は色々あるからなぁ。よくある話って言っちゃえばそれまでだけどな」
そりゃ仲がいいはずがないかぁ……と頷き合うネネユノとクローの脇を、トルヴァルドが走り抜ける。
「んんぬがぁーっ!」
次の罠もやはり矢の雨が降り注ぐものだった。
が、よく見れば魔物へと転じる呪いもあったらしい。トルヴァルドの首に赤い呪いの線が浮かび上がっている。
「ヒールするな」
ネネユノが「あっ」と思うよりも先にファヴが短く告げ、トルヴァルド隊のヒーラーは杖を抱えて身をすくめた。




