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時魔導士ネネユノの探しもの。~理不尽にパーティーを追放された回復役の私、実は最強でした!?~  作者: 伊賀海栗


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41.賑やかなキラキラより静かなキラキラがいい


 お城ってすごい。夜会ってすごい。

 ネネユノは煌びやかな会場と艶やかな装いの貴族たちに圧倒され、ホールの隅っこで震えていた。


 ネネユノだって、月侯騎士団の式典用の礼装に身を包んでいるのだからピカピカである。

 ただ、月侯騎士団であっても女性用の礼装はスカートだ。くるぶしまでしっかり隠れる長さだが、ヒラヒラしてスースーするのが妙に慣れない。下半身が心許ないと不安になってしまう。


 しかもあれだけネネユノにダンスやマナーを教え込んだシャロンは欠席だと言う。欠席できるならネネユノも誘ってくれればよかったのに。

 ファヴはファヴで、さっきまで視界の隅っこで貴族のご令嬢に囲まれていたはずなのに今はいない。多分逃げたのだろう。


 一応クローが近くにいるにはいるのだが、彼はヤケ酒の最中でネネユノのことはもう頭にないらしい。というのも、シャロンの言っていた通り花屋のリリーちゃんには婚約者がいて、来春にも結婚するのだとか。


 というわけで、ネネユノはひとりでお肉を食べる羽目になっている。本日初めての食事がお城の豪華ご飯。我慢した甲斐あって特別美味しい。

 特別美味しいはずなのに、味気ない。


 そういえばひとりでご飯を食べるのはすごく久しぶりだ。こんなにもたくさんの人と同じ空間にいるのに、いや、同じ空間にいるからこそ、ネネユノは孤独を強く感じたのかもしれない。


「あの、その制服って月侯騎士団の方ですよね。こんなに小柄で可愛らしい方もいるなんて知らなかったなぁ」


 真横から若い男の声。上等な服だし首元がヒラヒラしているから貴族に違いない。

 口の中のお肉をどうにか飲み込んで「はひ」と声を絞り出した。なんの用かはわからないが、貴族を無視してはいけないと、シャロンから散々言われているのだ。


「な、なんでしょうか」

「よかったらダンスを1曲いかがですか」

「ダダダダ」

「ダダダダ?」

「ダダダンスは、えっと、先約がありますので!」


 シャロンの教えは忠実に守らなくてはいけない。絶対にダンスは踊るな、誘われたら先約があると言え、だ。

 しかし貴族の男は引かなかった。ネネユノの手にある、料理のこんもり乗った皿をチラっと見て苦笑する。なんだその笑いは。


「本当に?」

「あるあるあるあるあります!」


 東方に住む赤い牛は超高速で頷くと言うが、ネネユノも負けてはいない。首が壊れそうなほどブンブンと何度も頷いていると、また別の男性の声がした。さすが夜会、騒がしい。


「私と約束があるんだ。今夜は私に免じて彼女を解放してくれないかな」

「ヒッ! メメメメメイナード殿下っ、もちろんです。しししししし失礼しますっ!」


 そういえばこの夜会は、メイナード殿下の快癒記念だという。

 10年以上寝たきりだったためか、今夜の彼は車いすに乗っていた。


「王子さま。昨日目覚めたばっかりなのに、大丈夫なんですか」

「あはは。私が望んだことだよ。1日でも早く皆に姿を見せて、王家の威光に翳りなどないと知らしめなくてはね」

「王族も楽じゃないですね……」

「何もできず父や母の暗い声を聞くしかなかった12年よりずっといい」

「はるほろ」


 口の中に肉を突っ込んでから、シャロンの教えのふたつめを思い出した。

 王侯貴族と話しているときは食べるな、だ。ユノちゃんはまだ上手に品よく食べられないんだから、と割と失礼めなことを言っていた。


「あっあっ。ごめんなさい食べちゃった」

「ああ。どんどん食べてくれ。私はまだあまり食べられないが、誰かが美味しそうに食べているのを見ると自分でも食べられるような気になるよ」


 メイナードの車いすを押す従者が「そろそろ」と王子に耳打ちする。メイナードは頷いてネネユノを見上げた。


「君は私の恩人だからね。国益に反しない限り、君の望むことには助力を惜しまないつもりだ」

「あ……あり、ありがたき、あれ? あり、がとござます」


 貴族の言葉遣いは難しい。ネネユノが混乱している間に、メイナードはニコニコ手を振ってその場を後にした。


 ネネユノも、メイナードを見送るとすぐに会場を出ることに。

 クローは相変わらず酒を浴びるように飲んでいて頼りにならないし、いつまた貴族に声を掛けられるかわからない。逃げるが勝ちである。それに、ご飯の味もよくわからなくなっていたし。



 月侯騎士団の宿舎には戻ったものの、メイナードのニコニコ笑顔を思い出すとなんとなく部屋に帰るのがもったいない気がした。

 今夜は特別なのだ。だって自分のしたことが誰かの人生を大きく変えたと知ったから。


 今夜も星が綺麗だ。ネネユノは宿舎の東側にある外階段をずんずん上って、屋上へ向かう。と、先客の姿があった。


「あれ、ファヴ」

「来たのか」


 振り返った先客のプラチナブロンドは今夜も星明りで静かに輝いている。夜会のホールとは全然違うキラキラだ。

 手にはアストロラーベ。彼も星を見ていたのだろう。


「空を見たくて」

「では、こちらへどうぞ」


 以前そうしたように、今夜もファヴは上着を床に広げる。ネネユノが寝転んでもいいようにだ。

 お言葉に甘えて彼の横でごろんと転がると、やっぱり空は広かった。あの中の星ひとつ、ほんの1秒だって、ネネユノには時間を止めることはできない。


「空を見てると」

「うん」

「すごく広くて、自分がちっぽけな存在だとわからされる」

「そうだな」

「でも、私たちは王国の未来を変えたんだね」

「そうだ」


 ファヴも座ったままで空を見上げている。

 静かな時間が心地いい。


「ファヴには聞きたいことがたくさんあるんだよね。聞いていい?」

「構わない」

「そのアストロラーベのおじさんと、ネネウラが仲間だったって言ったのは当てずっぽうじゃないよね? 私の本名がわかったのはどうして? 最初から私が時魔導士だってわかってた?」


 ネネユノが矢継ぎ早に質問するのを、ファヴはただ黙って聞いている。

 そして最後に「ふ」と笑みを漏らした。




お読みいただきありがとうございます!

明日は1話のみ、お昼前くらいに更新する予定です。

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― 新着の感想 ―
ユノをダンスに誘うなんてろr・・・特殊性癖に違いない。助けてくれたメイナード殿下に感謝を。そしていい感じのファヴに「お持ち帰り」されるのね。
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