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時魔導士ネネユノの探しもの。~理不尽にパーティーを追放された回復役の私、実は最強でした!?~  作者: 伊賀海栗


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36.一緒に帰ろう


 クローはピクリとも動かないファヴやシャロンを見て、大きく頷いた。


「大体察したぜ! よーし、こっからは魔術師同士の戦いだな。ユノちゃん、まずファヴとシャロンを起こす。そしたら、すぐにあのガーゴイルを止めるんだ」

「止める?」

「時間停止だ。やられたらやり返さなきゃな!」

「や、やってみる」


 言いながらもクローは、無詠唱の簡単な魔法でガーゴイルの意識を自分に向けている。腹を立てたガーゴイルは羽をバサバサと乱暴にはばたかせ、天井ギリギリまで高く飛んだ。

 恐らくガーゴイルの得意とするのが、急降下しながら繰り出す鋭い爪による攻撃なのだろう。


「今だ」

「ん。……“発展せよ(アナン・ティクシ)”! “止まれ(ミ・グヌティ)”! ――や、弾かれた!」


 クローの合図でファヴとシャロンの時を動かし、すかさずガーゴイルへ時間停止を、と思ったのだがまるで手応えがない。

 というより、放り投げたボールが壁に当たって明後日の方向へ飛んでいくような感覚だ。


「やっぱ耐性(レジスト)か。……んじゃ、オレが一肌脱ぐしかねぇな。ファヴ、アーティファクト頼んだぜ!」

「は? クローお前まさか――ユノ! そこのバカを止めろ!」

「えぇっ?」


 クローは杖を地に刺し、ガーゴイルが突っ込んでくるのを待つように両腕を真横に広げている。さらに通常より長い詠唱で、彼の真下には大きくて真っ赤な魔法陣が広がっていた。


 ネネユノでさえ知っている、自己犠牲魔法だ。自らの命と引き換えに相手に特大のダメージを与えるというもの。その威力は唱える者の魔力量および技術によって変わる。

 月侯騎士団に所属するような魔術師ならば、大抵の魔物はまず間違いなく退治できるだろう。


「みんなで生きて帰るって言ったじゃんっ! “止まれ(ミ・グヌティ)っ”!」


 ネネユノがクローの時を止めると同時に、ガーゴイルが柱を蹴って急降下し始めた。


「シャロン!」


 ファヴが叫びながらクローの前に飛び出て、シャロンがガーゴイルへボーラを放つ。

 その一連の流れがネネユノにはとても静かに、そしてゆっくりに見えた。どこかでピチョンと水音がする。

 ネネユノの視界の中にはガーゴイルが2体。一方はクローに向けて急降下中のもので、もう一方は柱に彫られた本物の石像だ。

 本物の石像は真下に広がる池を覗き込むように下を向いている。その口もとから雫が落ちているようだ。しかも計ったように一定の間隔で。ピチョン、ピチョン、ピチョン……。


「ファヴ! 水だ!」

「水?」

「あれ! あのガーゴイルを壊して!」


 魔法はイメージが大切だとクローは口を酸っぱくして言う。

 そのへんの時計で術を発動できる時魔導士にとっては、己がそれを「時計」だと認識すればどんなものでも武器にできる。あのガーゴイルにとって、1秒間隔で落ちる水音は間違いなく時計だった。

 ガーゴイルがシャロンによって引きずり落とされたのを確認すると、ファヴは剣を放り出して岩を抱え、ネネユノが指差す柱へ投げ飛ばす。


「うぉぉおおおっ!」


 命中だ。

 石像は首がもげ、ざばんと大きな音をたてて池へ落ちた。今まで1秒毎に落ちていた水は、石像の首からチョロチョロと筋になって流れ落ちて行き、もう音はしない。


「いい加減、死んじゃいなさいよぉっ!」


 シャロンが斧を振り上げ、思い切り打ちおろす。

 魔物のほうのガーゴイルもまた、ごろりと頭が落ちた。無抵抗に見えたのは、魔術が使えなくなって混乱していたからかもしれない。

 こうして、ネネユノたちのダンジョン攻略は終わりを告げたのである。


 時が動き始めたクローは、シャロンから30回くらい平手打ちされたが、ファヴもネネユノも止めなかった。


「手加減しろよなぁ……あー痛ぇ」

「ユノちゃんに感謝しなさいよね」

「してるって。ってか、あのガーゴイルは結局なんだったんだよ。なんで時魔法なんか」


 ネネユノは奪い取ったクローの杖でガーゴイルを突きながら、金目のものはないかと探っている。ファヴもまた、ネネユノと一緒になってガーゴイルの周囲を確認した。


「指輪と腕輪か……」

「待って、指輪ってそれ私のじゃない?」

「ん? だが腕輪と同じ紋章が刻印されているぞ。どちらもガーゴイルの物と考えるほうが自然だろう」

「ううん、やっぱりそれ私の指輪」


 ネネユノとファヴが問答する横で、クローがファヴの手から指輪も腕輪も奪い取ってしまった。


「あー、この指輪はユノちゃんのだわ。さっきオレ見たもん。この古代語と紋章は見覚えある」

「ではなんで同じ紋章が」

「ちっと待てよ。紋章は同じだけど、古代語の中身が違うな……カ、カタ……トリィ……マギ……」


 ネネユノもシャロンも難しいことはわからないので、顔を見合わせて首を傾げるばかりである。

 一方ファヴは、腕を組んで何事か考え込んでいたが不意に顔をあげてネネユノを見つめた。


「ユノ・カバナ……。そうか、なんで今まで気づかなかったんだ」

「ん?」

「本名は」

「ユノ・カバナだけど」

「いいや、違う。君はネネユノ・ネネカバナだ」


 突然本名を言い当てられ、ネネユノは言葉を失ってしまった。

 シャロンが困惑しつつユノの肩を抱く。


「い、いきなり何言ってるのよ。説明してくれるわよね?」

「呪いで魔物になった人間は、人間であったころの動きや技術を忘れないのは知っているな?」

「それくらいわかってるわ」

「12年前、解呪のアーティファクトを求めて時魔導士が旅に出た。その名をネネウラ・ネネカバナと言った。指輪や腕輪に刻まれた紋章は、ネネカバナ家のものだ」

「……は?」


 もうどこから突っ込んでいいのかわからない。

 なぜファヴがネネカバナ家のことを、それも紋章まで知っているのか。なぜ12年前にいなくなった時魔導士のことを知っているのか。

 ネネユノが声にならない声を出そうと唇をハクハク動かす横で、シャロンもまた天を仰いだ。


「あのガーゴイル、ユノちゃんのご親戚だったってこと……?」

「おじいちゃんだ……」


 そう、ネネユノは幼い頃、確かに両親からその名を聞いた。

 故郷で最も強い時魔導士だったのだと。




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