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時魔導士ネネユノの探しもの。~理不尽にパーティーを追放された回復役の私、実は最強でした!?~  作者: 伊賀海栗


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30/42

30.こういうのをウザ絡みっていうんだ、きっと


 翌日、攻略を再開しつつもネネユノの気分は落ち込みっぱなしだ。クローがお腹を抱えながらネネユノを指差して笑う。


「おやつゲットできてよかったなぁ!」

「うるさいうるさいクローのばか!」


 どこからどう見てもサーモンジャーキー以外の何でもなかったそれは、結局ネネユノの非常食になった。あんなに苦労して手に入れた宝箱が、サーモンジャーキーひとつとは。


「んふふ。ダンジョンの宝箱ってそういうとこあるわよね。ハズレだとこう……んふふふふ」

「シャロンまで!」

「一般的な漁獲期と異なる時期に獲れる鮭をトキシラズと言うそうだが――」

「ファヴ、あれはどっちかっつーと時を知った鮭だぜ――って、うわっ!」


 ヘラヘラ笑いながら歩くクローが思い切り罠を踏み抜いた。

 足元の石が赤く光ると同時に、彼の首と左右の手首に異様な紋様が浮かび上がり、「呪い」の状態になったことがわかる。

 この紋様は王太子のそれとよく似ているが、全く同じかどうかまではネネユノには判断できない。


 シーフのように罠を発見し解除する技術を持つメンバーがいない以上、罠にはかかるものと思って歩くほかない。とはいえ、お調子者のクローを解呪してやるかどうか決めるのは、ネネユノである。


「ユノちゃんー、オレ呪われたっぽいんだけど!」

「トキシリジャーキー食べます?」

「ごめんてぇーー!」

「うわぁ、重い、どいて!」


 がばっと抱きついてきたクローに、小柄なネネユノはすっかり潰されてしまう。

 もちろん次の瞬間にはファヴがクローを剥がし、シャロンがネネユノを助け出すわけだが。


「ちょ、ちょっと治しますね。全身の状態を戻すのもそれはそれで大変で。さすがに今みたいなわかりやすいやつは、あんまり踏まないでほしいなぁ……なんて」


 ポケットから引っ張り出した懐中時計を開き、クローのそばに立つ。戻す時間は1分ほどでいいだろうか。

 ネネユノが右手をクローに向けて何事か呟くと、彼の身体は青白い光に包まれた。


「だよなぁ、大変だよなぁ。やっぱ可愛いシーフの女の子とか加入させるべきだよなぁ?」

「なぜ女の子なんだ?」

「かー! これだから童て――」

「治りました!」


 クローが自分の手首を持ち上げて呪いの紋様がないことを確認する。


「これってさぁ、解呪できるヒーラー連れて来たとしても、攻略終わる前に魔力切れになるよなぁ。解呪って魔力食うし」

「そそそそれです! わ、私の疲労も心配してほしいんですけどって言ってるんですけど!」

「あらっ。ユノちゃん、魔力やばいの?」

「え。いや」


 シャロンが了承も得ずにクローのカバンを開けた。

 ピンク色の本を放り投げると、クローが「あー」と叫ぶ。それを無視してシャロンが取り出したのは魔力用のポーションだ。

 ネネユノも一度だけ飲んだことがあるが、すこぶる味が悪い。トカゲと土と各種薬草を煮込んだところにブドウと蜂蜜を足したみたいな味がする。


「や、魔力はまだ全然大丈夫ですけど神経使うから疲れちゃ――」

「よし! では先へ進もう」


 ネネユノが言い終えるより先に、ファヴは全員に背を向けた。


「鬼だこの団長!」

「俺は鬼ではない。鬼というのはこの目の前にいる奴らを言う」


 放り投げられたピンク色の本を取りに走るクローを見送りながら、ファヴの言葉を頭の中で反芻する。


「目の前?」

「ああ。ゴブリンがいる」

「確かにゴブリンは鬼ですね――って、はいぃ?」

「さすがに悠長すぎない?」


 ファヴを挟んで左右からネネユノとシャロンが前方を確認する。

 と、そこには群れをなしたゴブリンがいた。ギャッギャッとこちらを煽るように飛び跳ねながら何か叫んでいる。

 シャロンが斧を構えて前へ出ようとするのを、ファヴが手をあげて制止した。


「背後に気を付けろ。こいつらが群れで出てくるときは、獲物を取り囲んで一気に畳み掛けることが多い」

「じゃあちょっとそっち任せるわよ! ユノちゃんは下がっ――」

「う、うわぁーっ!」


 後方からクローの叫び声が響いた。そういえば彼はピンクの本を拾いに行っていたのだ。

 クローは歴戦の猛者であり無詠唱での攻撃手段もあるにはあるが、それでもやはり、魔法職は近接戦を仕掛けられたら弱い。


 しかもゴブリンはすばしっこく、人間を傷つけることに執念を燃やす生き物だ。魔術師との相性は最悪と言えよう。それが突然現れたとあらば、さすがのクローも叫んでしまうというものである。


 シャロンが弾かれたように駆け出した。


「クロー! ユノちゃんのほうに走って!」

「一般人がおまえと同じ速度で走れると思うなよッ? 逃げ切れるわけなくねぇ?」

「つべこべ言わないの!」

「わ、私が逃げ切らせます!」


 転げるようにネネユノのほうへと向かって来るクロー。その一歩向こうにはゴブリンの姿があった。

 群れの総数はわからないがその内2匹ほど動きの速い個体がいて、クローのローブを今にも掴まんとしている。

 ネネユノは懐中時計を両手のひらに載せ、意識を集中させた。


「“止まれ(ミ・グヌティ)”!」


 懐中時計が眩く光り、ゴブリンたちの足元に魔法陣が出現する。

 ネネユノの手中にある懐中時計と同じ青白い光を発する魔法陣は、その正円上にいる2匹のゴブリンの「時」を止めた。


 床に現れた魔法陣は刹那のうちに消えたが、戦いの場ではその一瞬が生死を分けるもの。

 ゴブリンたちが静止する僅かな隙に、クローは彼らの魔の手からすり抜けることに成功したのである。


 一方、クローと入れ違いにゴブリンの群れへとたどり着いたシャロンは、時間停止から戻った直後で混乱する2匹を愛斧でいっぺんに薙ぎ払った。

 ゴブリンたちは深緑色の血を吹き上げながら後方へ飛び、後続の群れへと突っ込んで仲間の進攻を妨げる。


「ユノちゃんマジ愛してる」

「いいいいいいらないから、そういうの!」

「おかげで『ワクワク★エリンちゃんのムチぷり♡アドベンチャー』を死守できたわ」

「なにそれェ……」


 クローがピンク色の本をネネユノの目の前でバサバサと振る。その表紙には、何とは言わないがたわわな女性が官能的なポーズで描かれていた。


「お礼にチュウしてあげようじゃあないか!」

「ぎゃっ! や、いらない! けけっけ結構ですから――」


 片手にエリンちゃんを持ったまま大きく手を広げたクロー。

 が。

 次の瞬間にはたわわな女性のたわわな部分にナイフが飛んで来て、ピンクの本を壁へと貼り付けてしまった。



お読みいただきありがとうございます!

今後、更新時間がちょっとランダムになりますがご容赦くださいませ!

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