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時魔導士ネネユノの探しもの。~理不尽にパーティーを追放された回復役の私、実は最強でした!?~  作者: 伊賀海栗


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28.さすがに反省します


 これは「当たり」だと本能がネネユノに訴える。

 ミミックならもっと目立つ場所にいるはずだし、暗いということは誰も立ち入っていない証。手つかずの宝箱に違いないのだ。


 奥へ行けば行くほど光が届かなくなって、まるで身体が闇に溶けていくように感じられる。それでも背後からの微かな光が宝箱の金属部に反射し、ネネユノを導いた。

 もうすぐ。もうあと数歩で宝箱にたどり着く、というそのとき。宝箱のさらに奥で、赤く鋭い瞳がふたつ、瞬いた。


「やば――」


 宝箱に気を取られてすっかり忘れていたが、魔物がいてもおかしくないのである。この階層には降りてきたばかりなのだから。それにこの路地は前人未到、どんな魔物がいるのかもわからない。


 ネネユノは腰に手を伸ばしポケットから懐中時計を取り出した。はずだったが、慌てていたため自分の指で弾いて取り落としてしまった。カシャンという音が無情に響く。


「グルルルァ」

「えっと、あの、話せばわかる、と思う」


 唸る魔物に停戦を呼び掛けたが、聞き入れてくれる雰囲気ではない。


 暗闇から態勢を低くしたままゆっくり近づくそれは猫――ではない。少ない光でかろうじて見えたその姿は猫トカゲ(ストレンヴルム)であった。

 頭部は猫だが身体はトカゲで鱗に覆われている。


 後ろ足で立ち上がって威嚇しながら相手の強さを測るのが常だが、この個体はそうしない。つまりネネユノが威嚇するに値しない……「見るからに弱い」と判断されたということだ。正しい。

 じりじりと後退するも、敵の攻撃範囲からは出られない。そもそもストレンヴルムの動きはかなり速く、逃げられる相手ではないのであった。


「シャッ」

「ひぃぃっ」


 ストレンヴルムが地を蹴った。ネネユノはもう、頭部を庇いながら丸くうずくまるほかない。


「パパママごめんなさいネネユノは宝箱に目がくらんで17の若さで死にます天国に行けるように神様になんかいい感じに言っておいてくださいできれば美味しいものが食べたいですふかふかのベッドもあると嬉しいですそれからマカロンはチョ――」

「邪魔だ」

「わぁっ」


 早口で祈りの言葉を口にするネネユノの身体が力任せに引き倒され、後ろへ転がされた。

 顔を上げると、ネネユノとストレンヴルムの間にファヴの広い背中があった。


「クロー!」

「はいよぅっ」


 ファヴの呼び掛けに応じて背後から鋭い魔力の塊がふたつ、ネネユノとファヴを飛び越えて行く。ひとつは火弾で、ストレンヴルムの背に命中した。「ギャッ」と悲鳴をあげて後ろ足で立ち上がったストレンヴルムの首を、ふたつ目の風刃が切断する。流れるような美しい連続攻撃であった。


「さ、っすがクロー……!」

「だろぉ?」

「ユノ、回復を頼む」

「え」


 ファヴはネネユノに背を向けたまま膝をつき、肩で息をしている。

 腰が抜けてしまったネネユノが這うようにしてファヴのそばへ向かうと、彼の腹には大きな爪痕が3本走っていたのだった。


「えっ、これ、なんで……っ! あ、懐中時計どこだっけ、えっとえっと」


 混乱して慌てふためくネネユノの手に、ファヴが懐中時計を差し出す。その手は血に濡れ、震えていた。

 ネネユノの目が悔しさに濡れる。


 クローの熱心な指導によってできることが増えたし、魔術の精度も上がった。対象の時を止めるその効果時間も、数秒だったものが十数秒にまで延長できるようになった。だから少しくらい平気だと……つまり、慢心である。

 その慢心がファヴに怪我をさせた。


「ごめんね、ファヴ。ごめん」


 懐中時計を左手に持ち、右手はファヴの腹に。青白い光が彼の傷口を塞いでいく。


「いや……。ユノは俺たちを()()しているんだろう? 俺も、ユノの回復を信頼しているから怪我を恐れず飛び込める。それだけだ」

「ファヴ……」

「ありがとう、傷はすっかり治ったようだ」


 ファヴが立ち上がるのと、辺りが明るくなるのは同時だった。クローが灯りを設置したのである。

 ネネユノはファヴの手を借りながら立ち、周囲を見回す。

 路地は袋小路になっており、行き止まりとなる最奥の隅に卵が3つ落ちていた。なんとも申し訳ない気持ちである。が、それはそれとして。


「たったった……たからばこー。あった!」


 以前、新興ダンジョンで見かけたミミックと、色も形もよく似た宝箱だ。留め具などの金属はこちらのダンジョンのほうが古い分、かなり劣化が進んでいる。

 ネネユノは駆け寄ろうとして首が詰まった。襟首を掴まれたのだ。


「ゲホッ、ぐるじ」

「度重なる独断専行は信頼を傷つける」

「あぃ……」


 おっしゃる通りである。

 ファヴとクローを両脇に控えさせ、ネネユノは宝箱と対峙した。開けようと試みるも、しっかり施錠されている。ネネユノの主張通り、ミミックではない本物の宝箱ではあったが開かないのではどうしようもない。

 クローが残念そうに溜め息をついた。


「シーフかなんかがいればなぁ。箱を破壊すると中身までダメにすることがあるから、やりたくねぇんだよな」

「でーすーがー! ここにはなんと時魔導士ちゃんがいます!」

「なるほど?」

「半日ほどお時間をいただければ!」

「よし、置いて行こう」


 宝箱に抱き着いて「ヤダー」と叫ぶネネユノのベルトを掴んで、ファヴが路地を出ようとする。ズリズリと宝箱ごと引きずられること数歩、前方からもズリズリと何かを引きずる音が聞こえてきた。


「あんたたち」

「シャロンさんちーっす!」


 斧を引きずるシャロンである。


「いつまで騒いでるのよ。こっちに魔物が集まって来て大変だったんだからね」

「すまない。だが助かった」

「無事ならいいんだけど。で、その……東方の子泣きマンみたいなそれ、なに?」

「妖怪・抱き宝箱だ」


 絶対に宝箱は離さないぞと誓うネネユノのもとに、シャロンがやって来る。さすがにファヴとシャロンのふたりがかりでは敵わないか……と覚悟を決めたところで、甲高いシャロンの声が響いた。


「キャーちょっと卵じゃない! あれなに、なんの卵?」


 言い終えるより先に卵を3つとも抱きかかえていたのであった。




お読みいただきありがとうございます!

実はタイトルを変えようかなぁ~~って思ってるんですが(名案が思い付いたら)

もしブクマがまだの方がいらっしゃいましたら、しておいていただけると

タイトル変更後にも迷子にならないで済むかもしれません!

よろしくおねがいします!

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― 新着の感想 ―
追放された時魔導士回復役の私、本当は妖怪・抱き宝箱でした ~ヒーラーやれます!宝箱ほしいです!~ 長いな。 追放されても時魔導回復士は宝箱を離さない 追放されてもしょうがないタイトルに・・・
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