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時魔導士ネネユノの探しもの。~理不尽にパーティーを追放された回復役の私、実は最強でした!?~  作者: 伊賀海栗


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26.そういうとこ!


 ファヴは「勢いが大事なのではないか」というクローの助言に従って結界から数歩離れる。


「ちょちょちょいちょい! 降ろして!」


 ネネユノは慌てて身を捩り、彼の腕の中からまろび出ることに成功した。

 もしファヴが弾かれたら、ネネユノだけが勢いのまま向こう側に行く可能性があるからだ。それはもう、スポーンと。


 転がり落ちた先に蛇がいたため、お互いに「シャー」と威嚇し合うことにはなったものの、これはまだ最悪の事態ではない。

 と同時にドンとすごい音がして、ファヴが結界に拒絶されたことを知る。ハッとした瞬間、蛇はどこかにいなくなっていた。


「やっぱファヴはちょっと生真面目すぎるんじゃねぇの?」

「真面目であることが何か関係するのか」

「真面目すぎて聖性が生まれたとか。清く正しく生きすぎたんだ」

「それは聖職者への冒涜だぞ。彼らの努力と信仰心を軽んじて――」

「あいあい」


 シャロンが結界に触れると、その手は抵抗もなく向こう側へと吸い込まれていく。クローも同様だ。

 ネネユノは立ち上がって埃を払い、ふたりと同じように結界へ手を突っ込んだ。


「やっぱり入れないのはファヴだけだね。そういえば東方の国だと貞操を守り通した男性に、不思議な力が宿るんだって聞いたことあるよ。だからファヴも――」

「俺が貞操を守るのは信仰によるものじゃない」

「でも貞操を守ってはいるのね?」


 シャロンがもの言いたげにファヴを横目で見てから、そのままの表情でネネユノに視線を移す。


「ユノちゃんはなんでそんなこと知ってるの」

「東方の魔法使いの話?」

「そっちじゃなくて……いえ、そっちもだけど」


 シャロンとネネユノの会話などには聞く耳を持たず、ファヴはひとりで演説を続けている。


「それに経験の有無を聖職に就く条件とする団体は俺の知る限りひとつとしてなく、つまりそれが直接的に聖性に関連するとは考え難いわけで――」


 マイペースなのはクローも同じである。早口で語るファヴの身体をクローがペタペタと触り続けている。

 肩、胸、脇、臀部。再びその手が上半身に戻って来て、右胸のあたりで止まった。


「おい、俺が貞操を守るのは同性への愛情からでもないぞ。そんなスキンシップを求められても、気持ちに応えることはできない」

「求めてねぇわ! 変なこと言うなよ。そうじゃなくて、これだよこれ。お前、これのせいで入れなかったんじゃねぇの?」


 クローがファヴの胸ポケットから取り出したのは、真ん中に穴の開いたコインだ。穴に革紐が通してあってペンダントのようにも見える。

 コインにはオリーブの葉となんらかの文字が刻まれているようだが、ネネユノには読めなかった。


「あら。それ、王都を出るときに女の子からもらってたわね」

「えっ。お、女の子からっ? ですかっ?」

「ああ。お守りだと聞いた」

「お前なぁ~。なんでも受け取る癖どうにかしろよ、いつか毒盛られるぞ」


 月侯騎士団はモテる。

 初対面のファヴに対して、月侯騎士団だというだけで冒険者ギルドの女性がおっぱいを寄せるくらいにはモテる。


 シャロンはクローの手からお守りを引っこ抜き、結界へと放り投げた。見えない壁にぶつかるように跳ね返って、ネネユノたちの足元に転がり落ちる。

 ネネユノは「はわ……」と口を手で抑えながらコインを見つめてしまった。まさか投げるとは。プレゼントを貰い慣れている人たちは、時に誰かの気持ちに無頓着だ。


「決まりだな……っておい、拾うな拾うな。入れなくなんだろうが」

「そうよ。ここまでの道中を守ってくれたんだから、もういいじゃない。行きましょ」


 クローとシャロンがそう言って順に結界の中へと入っていった。

 ファヴはペンダントを拾い上げ、埃を払ってから入り口近くの木の枝にそれを掛ける。


「律儀だね」

「俺の信仰する神ではなかったが、誰かの崇めるものを無下にもできない」

「そういうとこ――」

「なんだ?」

「や、なんでもない」


 ネネユノ自身でも何を言おうとしたのか、ちょっとわからずに言葉が出て来なかったのである。尊敬するとか、ファヴらしいとか、あるいは、好き、とか? そう思い至って、首をぶるぶると横に振った。

 

「じゃあ行こうか」


 しかしファヴは結界をくぐろうとして、弾かれた。


「は?」

「おや?」

「え、まだ駄目なの? ちょっと、他にもお守りもらってたりしません?」


 ほら全部出して、とネネユノはファヴの身体をベタベタとまさぐった。

 性域に触れかけたときにはさすがに、ファヴがネネユノの手をとってそれを阻止したが。


「ないぞ。もうこれ以上、聖性のありそうなものは持ってない」

「え。じゃあなんで。やっぱりファヴさん自身が聖性を帯びてしまった……? まさかこのダンジョン、ファヴさん無しで攻略しないといけないの? 嘘でしょ、いや、困る困る」


 クローもシャロンも先に行ってしまったし、とりあえず自分だけ中に入って状況を知らせるべきだろう。それで一度王都に戻って――とブツブツ独り言をいうネネユノを、再びファヴが抱え上げる。


「えっ、なに」

「行こう」

「行こうってなに、どこ行くの。えっ、ちょ、落ちるヤダヤダ」


 ファヴはネネユノを抱えたまま結界をくぐろうとしているのである。

 入れないくせに何をしているのかとネネユノが猛抗議するも、彼は聞く耳を持たない。このままではネネユノだけ向こう側に放り込まれて、ベチョっと落ちるのは目に見えているというのに!


 ぎゅっと目をつぶったネネユノだったが、いつまでたっても落ちる気配はない。


「んもう、ふたりとも遅いわよ」

「えっ?」


 パチッと目を開ける。左右の岩の壁に明かりがあり、奥にどこまでも道が続いているように見える。静かで、洞窟といった風の場所だ。


「入れた……?」

「お守り置いて来たなら入れるでしょう?」

「え、だってさっきファヴが」


 小脇に抱えられたまま顔を上げると、ファヴは実に楽しそうな笑顔を浮かべた。


「さっきのは冗談だ」

「は? は?」

「あまり生真面目にしていると聖性が生じると言われたからな。たまには嘘をつくのもいいものだ」

「そういうとこ! そういうとこ! そういうとこーっ!」


 今度はハッキリ言える。そういうとこが嫌いだ。

 全員揃ったところで、さっそくダンジョンの探索をしようとネネユノを下ろしたファヴを、クローが引き留める。


「っていうか、やっぱコレおかしいんだよな」


 彼が見つめているのは、たった今自分たちが入ってきた入り口の結界であった。




お読みいただきありがとうございます!

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