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時魔導士ネネユノの探しもの。~理不尽にパーティーを追放された回復役の私、実は最強でした!?~  作者: 伊賀海栗


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21.はめられた気がする


 ゴドフリーはネネユノとファヴを連れて城の奥へ向かった。

 お願いとやらを伝える前に見てもらいたいものがある、と彼は言う。


 一行が城の最奥、王族の住居とも言える私的空間へ至ると、ゴドフリーは窓の外を見るともなしに見ながらネネユノの名を呼んだ。


「ユノ。この国に王子がふたりいることは知っているかな?」

「……なんとなく。どっちかは病気だって聞いたことがある。ます」

「ユノは17歳だったね。……ふむ、やはり12年とは長いものだな」


 ゴドフリーの言葉は独り言のようにも聞こえ、ネネユノはどう反応したものかとファヴを見上げた。しかしファヴは難しい顔で目を伏せるばかりである。


「さあ、ここだ」


 立ち止まったのは城の奥のさらに奥、飾り気のないシンプルな扉の前だ。向こう側から温かな気配がある。ダンジョンで感じた聖属性の魔力によく似た気配だ。


 両脇に立つ衛兵が右手の先で額に触れる敬礼をし、そして扉を開けた。

 扉そのものに飾り気はないが、しかし開いた先には鉄格子があった。こんな二重扉をネネユノは初めて見た。


「え……」


 キィ、と耳障りな金属の音が鳴って鉄格子の一部が扉のように開く。ゴドフリーもファヴも慣れた様子で中へと入っていき、ネネユノは急いでふたりに続いた。


 部屋の中にはベッドがあるばかり。ベッドを囲んで杖を構える複数の聖職者らしき人々が、少しずつずれてネネユノたちのために場所を空ける。


「ユノ。これが我が息子であり第一王子のメイナードだよ」


 ベッドに横たわっていたのは魔物に似た何かだった。

 ネネユノはすぐには言葉を発することができず、ただその姿を無遠慮に見つめる。


 肌は青白く、長く伸びた爪はまるで磨いたかのように鋭利。整っているであろう顔立ちより先に、赤紫色に浮き出た血管に目がいってしまう。そして首には赤い線。


「呪い……?」

「そう、魔物に転じる呪いだよ。報告書によると最近ユノもダンジョンでその呪いを見たそうだね」


 髭を撫でながらメイナードを見つめるゴドフリーの瞳はどこまでも温かい。


「ダンジョンで見たのとはちょっと違う、気がする。わかんないけど」

「ほう?」


 手を伸ばし、メイナードの頬に触れる。

 慌てて周りの聖職者たちが何か言おうとしたのを、ゴドフリーが止めた。


 どんなものであれ、物体は絶えず変化している。乾燥したりあるいは湿ったり。劣化したり、活性化したり。

 時を戻すときにはまず、それらの変化に抗うことから始めるものだ。その変化が大きければ大きいほど、必要な魔力も増大する。


 メイナードはその変化が大きすぎる。ネネユノのちっぽけな魔力放出量ではとても対抗できないだろう。


「こっちのほうが強力で……私には戻せない」

「うん、そうだろうね」

「そうだろうって、陛下はわかってた?」

「国の総力をあげて解呪しようとしたが無理だった。今は聖術によって現状維持とするのがやっとでねぇ。メイナードがこうなってから12年になるかな。目は覚ますし食事もするが、意思の疎通はできずベッドから降りることもない。そんな状態が続いているよ」


 王家から魔物を出すわけにはいかない。しかし今の状態はまだ人間の範疇に思えて、殺せない。息子を殺したくない。

 有能な聖職者たちをこんなことで拘束するのは馬鹿げていると、頭では理解している。しかしいかに愚王と罵られても、親でありたい。


 そんなようなことを、ゴドフリーがぼそぼそと語る。最後まで聞いていたファヴがそれを優しく否定した。


「メイナード殿下が元の意識を取り戻されたとき、殿下を陥れた者が誰であったかお教えくださるでしょう。反逆の徒を見つけ出すために必要なことです」


 なるほど、それが王子を生かす大義名分か。とネネユノは納得した。

 起きて食事をする息子を殺せる親はいないだろうが、親である前に王でなければならないゴドフリーには、言い訳が必要なのだ。

 震える息を吐いたゴドフリーは、ネネユノとファヴを順に見て頷く。


「現状は理解してもらえたと思う。場所を変えようか」


 メイナードの檻を出て向かったのはゴドフリーの私室である。

 王の対面にネネユノとファヴが並んで座る。ネネユノの目の前には再びマカロンがこんもりと山になって置かれていた。

 紅茶で唇を湿らせたゴドフリーがおもむろに口を開く。


「実は、どのような呪いもたちどころに解呪するという前時代の遺物(アーティファクト)がある、らしい」

「はぇー、便利」

「あらゆる文献をあたって、それが保管される場所を特定したのだけどねぇ」


 ネネユノが真っ先に手を伸ばしたのはチョコのマカロンだ。茶色い生地の表面が鈍く光っている。


 そういえばさっきファヴは、鳩のクリスティンに「チョコは食べるな」って言っていたっけと思い出す。それってなんだか、アップルパイは食べていいけどって意味にとれる気がする。

 見上げたファヴの横顔から感情は読み取れない。


「そこはダンジョンになってて」

「ダンジョン」

「アーティファクトが埋もれたままになっていることからもわかる通り、攻略は終わってないんだ。あまりにも難度が高すぎてね。今はもう攻略しようという人間さえいない」


 嫌な予感がする。惰性でマカロンを口に放り込んだものの、あまり味がしない。


「取りに行ってほしいんだよね。それが『お願い』だよ」

「えぇ……」

「お願いとは言ったけど、ユノはもう月侯騎士団の一員だから。拒否権はないのだけどね」


 このジジイ。

 無害そうなほんわかおじさんの顔して……! と言いたいのをなんとか堪え、助けを求めてファヴを見上げる。


「初仕事だな。俺も行くから一緒に頑張ろう」

「新人に最難関ダンジョンぶちあてる団長って存在するんだ」

「周辺地域も魔物だらけで近づくことさえ容易じゃないらしい。頑張ろう」

「もう頑張ろうしか言わないじゃん」


 遺書を書こうと決心した瞬間であった。

 



お読みいただきありがとうございます!


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これだから王家ってやつはえげつないんだ! まったくもう! アクロバティック首輪はめ!
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