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2.最高の依頼


 ギルドに寄せられた依頼(リクエスト)(カード)が張り出された掲示板の前で、ネネユノは溜め息と一緒に弱音をこぼす。


「ぐぬぬぬぬ。そんな都合よく見つかるわけないかー」


 ヒーラーが引っ張りだこになるのは高ランクになってからだ。ネネユノを含むCランク以下のヒーラーは大抵、回復薬に負ける。悲しいかな、回復薬のコスパの良さには敵わないのだ。


 勝ち目があるとすれば、長距離移動を伴う案件だろうか。回復薬の運搬コストより人間のヒーラーのほうが安上がりだからだ。もちろん、そのような依頼は滅多にないのだが。


 そういう意味では、あんなパーティーであっても追い出されたのは大変に由々しき問題であった。


「大体、ヒトの能力をランク分けしようってのがさー間違いっていうかさー……っと、うわっ」

「緊急依頼だよー!」


 ぶつぶつ文句を言うネネユノを押しのけて、若い女性が新しい紙を掲示板のど真ん中に貼り出す。

 ネネユノの深い海のような瑠璃色の瞳ももちろん、手垢も折れ曲がりもない新品の紙へと吸い寄せられた。


『タイトル:インビジブルフロッグの討伐

 募集職種:ヒーラー(ランクB以上)

 人数:ひとり

 報酬:20万ゴルグ

 期間:ひと月程度を想定、場合により前後する

 その他:即日から討伐完了まで終日拘束、期間中の食事保証

 場所:イコニラ雨林

 依頼者:月侯騎士団』


「これだ……」


 震える手で依頼書を掲示板から剥ぎ取り、ネネユノは受付へと走る。


 20万ゴルグといったら一般的な冒険者ならひと月は生きていける金額だし、ネネユノは節約のプロだ。これだけあれば、次のパーティーを見つけるまで十分食いつなげるはず。

 リクエスト達成までの食事に困らないというのも好条件だ。食事なんか各自で調達しろと言われるのが普通だし、冒険者は自給自足する中で毒性植物を覚えていくものだ。ネネユノも今までで優に10回は腹を壊した。


 それに何より、依頼者が月侯騎士団だというのが最高にイイ。王様直属のエリート集団であり、詐欺の心配がないのだから。


「これ! お願いします!」


 先ほど掲示板に依頼書を張り付けた受付の女性が、困ったように眉を下げる。


「ユノちゃん、ランクCでしょう? これB以上って書いてあるから」

「でも、今って高ランク帯のヒーラーは出払ってますよね? これ、緊急なんですよね?」

「そうだけど……」

「これ! この依頼が受けれないと死んじゃうので!」


 表情を曇らせる受付女性に、ネネユノは「死んじゃう死んじゃう」と半泣きで食い下がった。

 この案件を逃せば極貧生活が決定してしまうので、ネネユノも諦めるわけにはいかないのだ。彼女は花も恥じらう17歳の乙女であり、酒場のゴミ箱を漁るのには少々抵抗がある。


 しばし押し問答を繰り広げていると、受付女性が訴えかけるようにネネユノの脇へ視線を投げた。いつの間にかネネユノの左側には、背の高い男性が立って彼女を見下ろしていたのだ。

 パリッと糊のきいた白シャツは小汚い冒険者ギルドでは少々浮いているが、彫刻のような端正な顔立ちにはよく似合っている。


「それは俺が依頼した案件だ。話は聞いてやるから、これ以上他人の邪魔をするな」

「邪魔……?」


 ネネユノがハッと我に返って周囲を見れば、確かに彼女の後ろには長蛇の列ができていた。


 冒険者には国や貴族の抱える正規の兵をドロップアウトした者も多い。その理由として、「厳しい規律に嫌気がさしたから」というのは真っ先に挙げられるであろう。

 往々にして彼らは血の気が多く、短気だ。


 そんな気の短い彼らが何も言わず素直に並んでいたのは、ひとえにネネユノの境遇に同情したからに他ならない。経験の浅いCランクヒーラーが放り出されれば、路頭に迷うことは目に見えている。


「ごごごごごめんなさい!」

「おー。いいってことよ」


 ネネユノがペコリと頭を下げると、彼女の背後で順番を待っていた冒険者たちはそれぞれに「気にするな」と声を掛けてくれた。


 それから依頼主だという男と共にギルド内の喫茶スペースに移動し、向かい合わせに座る。

 シャツの襟から伸びる男の首はすらりと長く、耳がすっかり隠れる長さのプラチナブロンドはサラサラだ。汚れひとつないシャツといい、埃や汗とは無縁に見える。しかし森を映したみたいな翠色の瞳は確かに鋭く、歴戦の強者の風格であった。


「俺はファヴ・ファレス。月侯騎士団の団長を拝命している」

「ユ、ユノ・カバナ……です。だ、団長さんだったんですか。すごいな」

「凄くはない。『お前しかいない』と言われて拝命したにすぎない。誰もやりたがらないだけだ」

「んん?」


 一瞬、ネネユノの思考が止まった。ちょっと言っている意味がわからない。

 お前しかいないは最上級の褒め言葉だと思って17年生きてきたが、王都では違うのだろうか。それとも冗談のつもりだろうか。


「早速本題に入ろうと思うのだが」


 この真顔は冗談を言っているようには見えない。

 考えたところで答えは出ないし、かと言って真意を問うのも憚られる。ネネユノは聞かなかったことにした。


「コーヒーふたつね。お待たせしましたー」


 ピタピタの際どい服を着た給仕の女がふたりのテーブルに飲み物を運ぶ。

 誰が見てもイケメンだと評するであろうファヴに、給仕が胸部を寄せて見せた。あれは獲物を狙う捕食者の目だ! 怖い!





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