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13.綺麗な弓


 ゴブリンは真っ直ぐ狙いを定めてネネユノに(やじり)を向けた。ピンと張られた弦と大きくしなる弓に殺意の高さが窺える。

 時魔法があるのだから死ななければどうと言うことはない。それはわかっているが、しかし。

 ネネユノの呼吸が荒くなって、目が泳ぎ始める。


「ユノ! 蛙の舌だ!」


 ファヴがそう叫ぶのとゴブリンが矢を放つのはほぼ同時だった。

 ピチチと跳ねるピンク色の物体。身体を掴まれ高速で引き寄せられたときの景色。そんなものが瞬時に脳内を駆け抜けていく。


「“止まれ(ミ・グヌティ)っ”!」


 物体の時間を戻す魔法は時魔法の基礎の基礎だ。

 一瞬だけ戻すことを積み重ねると物体の時を止めることができるが、積み重ねた分だけ魔力を消費する。対象が物体から空間になるとさらにだ。


 ネネユノは魔力量こそ無尽蔵にあるような気がしているものの、それを放出するのは不得手である。口の細い水瓶をひっくり返してもチョロチョロとしか出ないのと似ている。

 だから蛙の舌を長い時間止めることはできなかったし、今ネネユノの目の前で制止する矢だって次の瞬間には動き出してしまう。


 ネネユノは鼻先でピタリと止まった矢を摘まみ上げると、くるっと逆側に回して鏃を弓ゴブリンのほうへと向けた。


「あっぶな。死ぬとこだった……でも、死ぬのはお前だから」


 再び動き出した矢は最初からその予定でしたと言わんばかりに、持ち主の元へと向かっていく。「ぎゃっ」と短い悲鳴があがって弓ゴブリンは倒れた。


 ネネユノは安堵と疲労で深く息を吐く。必要な魔力を無理に絞り出しているせいだろうか、時を止めるのは少々疲れるのだ。


「大丈夫か?」

「はい、ちょっと疲れただけ」


 ファヴに答えながら周囲に視線を走らせると、魔物はすでに殲滅されていた。

 アカロンも小走りで二人の元にやって来て、パチパチと手を叩く。


「こんな一瞬で、しかもひとりで全部倒すとかすげー! 俺も月侯騎士団に入りてぇなー」

「……仲間とやらのところに行こう」


 薄暗いせいか、そもそもネネユノのやることに興味を持っていなかったのか、アカロンは弓矢の不可思議な動きには気付いていないようだ。


 パッとアカロンに背を向けたファヴと並んでネネユノが再び下手くそなスキップを始めたとき、彼女の爪先が硬いものを蹴った。ズサーと音を立てて滑ったのは弓だ。

 首を傾げつつ、ネネユノが弓を拾う。


「ゴブリンの武器にしては綺麗でしたよねぇーこの弓。手入れなんてしないくせに」

「ああ、それは手に入れたばかりだったんだろう」

「なるほど」


 ゴブリンには道具を使う知能がある。しかし新たに作り出したり、あるいは品質維持のための手入れをする個体はほとんどいない。

 綺麗な武器を持っているとすれば、襲った人間から奪ったばかりということだ。


「他の魔物が集まる前に行こう、ここは魔物を寄せ付ける」

「えっ、なんでですか」


 すぐに歩き出したファヴを追いかける。アカロンも「置いて行くなよぉ」と情けない声を出しながらさらに後ろについた。


「わからないか? あの家の中から弱々しいながら聖属性の気配を感じる」

「結界で身を守ってる?」

「結界なら気配がこんなに漏れることはない。恐らく防御魔法だ」


 ネネユノは「ほえー」とわかっていなさそうな声をあげながら頷いた。


 ファヴは簡単な魔法なら使える魔剣士で、シャロンは魔力によって肉体を強化するタイプの戦士だ。一方アカロンのパーティーは全員が物理専門で魔法の知識は皆無と言っていい。

 だから2年の間、ネネユノの本来の能力について何も疑われることがなかったし、ネネユノ自身も一般的な魔法について学ぶ機会がなかった。

 最近はクローのおかげで攻撃系の魔術については理解が深まってきたが、聖属性は初めてだ。


「た……確かになんか温かい感じします」

「ユノは聖属性魔法は使わないもんな」

「ひゃっ、ひゃい!」


 ファヴの翠色の瞳がいたずらに細められる。

 まずいまずい、と心臓が強く跳ねた。聖属性魔法は僧侶など聖職者の使うものであり、聖属性じゃないヒーラーはいくらでもいる。とはいえ時魔法であるとバレるのも時間の問題かもしれない。

 ネネユノは逃げ出すべきか否か悩みながら視線を逸らし、その先で宝箱を見つけた。


「あっ、宝箱だ!」


 ダンジョン研究は遅々として進まないが、その中でも議論が割れるのが宝箱である。攻略の終わった階層でさえ、少ないながら中身の入った宝箱が存在するのだ。なぜあるのか、なぜなくならないのか、答えは一向に出ない。


 最近では、魔物は潜在的に人間の集め方を知っているから、というのが主流の考え方らしい。

 ヒトが落としたものを魔物が集めて箱に放り込むのではないか、と言うのだ。それはそれでいくつも反論を呼び、やはり答えは出ていないのだが。


 しかしそんな難しいことはネネユノには関係ない。金目のものはなんであれ頂きたいのである。

 宝箱へ全力ダッシュしようとしたネネユノの首根っこを、ファヴが力強く掴む。首が詰まって「グェ」と変な音が出た。


「ミミックだ」

「うそぉ……。あんなにご立派なのに!」

「ご立派だからだ」


 開けてみないとわからないではないかと必死に主張するも、ネネユノはあえなくファヴに引きずられ、一軒の古い家へ入ることとなった。

 と同時に、黒い影がファヴに飛び掛かってきたのである。




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