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10.古巣のリーダーとの再会


 馬車を乗り継ぎながら旅すること約3日。

 ネネユノたちは小さな宿場で足止めされた。利用者過多のため王都方面に向かう馬車がないらしい。


 馬車がないなら歩けばいい。が、今は昼時。まずは腹ごしらえをしようと店を探すこととなった。

 頭上にはカラフルなガーランドが風に揺れ、「ようこそフリーランドへ」などと書いた旗や看板が目につく。まるでお祭りだ。


「ここって本当にフリーランドか? 地味の代名詞みたいな土地だっただろ。なんでこんな小さい宿場に人が溢れてんだ?」

「周りをよく見るといい、クロー。冒険者ばかりだ。恐らく、ユノの言っていた新興のダンジョンが近いんだろう」


 ファヴが左から右へぐるっと回した腕を、ネネユノの視線が追いかける。

 確かに冒険者然とした雰囲気の人間が多く、そうでない者は商売人風の身なりをしていた。新たに家屋を建築する職人の姿も見える。いずれここは宿が増え道具屋や鍛冶屋が現れ、都市へと変貌するのだろう。


 そんなたくさんの冒険者で溢れる道を快適に歩けるのは、背の高い3人がネネユノを囲んでいるから……だけではない。彼らの纏うマントやローブに月侯騎士団の紋章が入っているからだ。

 人々は道をあけ、尊敬と畏怖の目で彼らを見る。


 一方でネネユノに対しては眉をひそめているようだが、月侯騎士団に捕まった小悪党では断じてないと、声を大にして言いたいところである。


「ねぇ見て。あの小さな教会に長蛇の列よ」

「信心から遠い冒険者が教会に集まるということは……。例のダンジョン、呪術系の魔物が多いのかもしれないな。解呪を求めてのことだろう」

「うわーめんどくせぇダンジョン。オレ絶対行きたくない」


 ネネユノは3人の会話を聞きながらうんうんと頷いたが、話のほとんどを理解できていない。

 とはいえ、この宿場は食事をして通り過ぎるだけだ。新興ダンジョンについて理解する必要もなく、彼らの興味はすぐに他へと移った。


「さて、飯屋はいくつかあるようだが……」

「ハンバーグ! ハンバーグ食べたいですっ」

「いいわねぇ。このダンジョンにイポトリルはいるのかしら、あのお肉最高なのよね」

「いぽぽ……」

「あら、知らない? 頭がイノシシで――」


 シャロンの言葉がそれ以上発されることはなかった。若い男が全速力で駆けて来たからだ。

 装備の損傷は激しく、頬や手にも細かい傷がいくつもある。冒険者らしきその男はネネユノをしっかりと見据え、真っ直ぐ向かって来る。


「ユノ、ユノだよな、いいところに! ちょっとダンジョン付き合ってくれ!」

「うわっ。アカロンだ……」


 思わずファヴの後ろに隠れると、何かを察したらしきクローとシャロンが一歩前へ出た。自然、アカロンは3人の月侯騎士団に囲まれることとなる。

 しかしアカロンは彼らが何者であるかには気付いていないらしく、不機嫌に睨みつけるばかりである。


「もしかして、ユノちゃんの以前のパーティーの人かしら? 女の子に振られた腹いせにっていう」

「ですです。ローズちゃんに振られたんです」


 ネネユノがローズの名を出すと、反応したのはクローであった。

 クローは飄々とした口調と整った顔立ちで女性ウケが良く、さらに彼自身も女の子が大好きなのだ。旅の間も女の子に声を掛けてはファヴやシャロンに叱られていた。


「ローズって……冗談だろ。あの街でローズって言ったらひとりだけだぜ。娼館の人気ナンバーワンだ。……いや、オレは行ってないよ? 待って、シャロンちゃんそんな目で見ないで」


 冒険者ギルドのある街には大抵、公営の娼館がある。荒っぽい冒険者が集まる街で犯罪防止に重要な役割を果たすのだ。

 そこで働く女性たちは孤児や寡婦など、手に職を持たない者ばかり。公営の(やかた)は客層や待遇が良く、退職も自由なため人気の職場であった。


「仕事にしろプライベートにしろ、男の扱いに長けた商売女がちょっとやそっとの遅刻で振るとは考え難いな。他に理由があるんじゃないか」 

「う、うるせぇな! 外野は黙ってろよ」


 アカロンは何かを思い出したかのように股間を両手で隠しながら吠えた。

 月侯騎士団の面々にとってネネユノの追放理由などどうでもよく、うるさいと言われればその通りである。それぞれに肩をすくめつつ口を閉じる。


「とにかくユノ、ダンジョン付き合ってくれよ。仲間が中で怪我して助けを待ってんだ」

「わた、私は行かない」

「はぁ? 怪我人を見殺しにすんのかよ、お前ヒーラーだろ!」

「だだだだだって、代わりを見つけたって言ってたじゃん。それに、お金も装備も取られた、のに、なんで私が」


 アカロンに睨みつけられて、ネネユノはピャッとファヴの背中に隠れた。


 彼に怒られるのには慣れた……と思っていたがそれは勘違いで、実際には麻痺していただけだったのかもしれない。

 パーティーからの追放というカタチではあったが、毎日怒られるという異常な空間から抜け出た今、ネネユノの胃はアカロンの苛立った声を聞くだけで、ぐるぐるとかき混ぜられように不快な熱を持つ。


「だからその代わりのヒーラーがダンジョンに――」

「俺たちは先を急いでいる。ユノはもう俺たちの仲間であり、お前を助けてやる義理はない」

「仲間ァ?」


 ファヴが仲裁に入ったことでアカロンの意識がやっと3人のほうへ向いた。

 彼らの装備をひとつひとつ確認し、やっと自分が相手にしているのが月侯騎士団であると気付いたらしい。


「げげっ。なんだよ、月侯騎士団かよ。なんでユノなんかが……いや、わかった。金返すから助けてくれよ」

「奪ったものを返すのは当然のことだ。助ける理由にはなり得ない」

「金は仲間が持ってんだよ。助けてくれなきゃ返せない」


 アカロンはなぜか偉そうにずいっと顎を上げて胸を張る。

 一瞬だけ悩むような素振りを見せたファヴだったが、背後に隠れたネネユノの首根っこをしっかり掴んだ上で頷いた。


「よし、行こう」

「ふぇぇ……なんでェ……」


 お金は惜しいが、アカロンと行動を共にすることと比べると紙一重でアカロンへの嫌悪が勝る。

 しかしファヴの決定は大抵の場合において絶対であると、騎士団の厳格な規律をネネユノは十分理解していたのであった。




お読みいただきありがとうございます!

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ではまた明日7時30分に!

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