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第8話:私の手からビーム!?って、そんなのアリ!?おばあちゃん、何とかしてよ!

美術準備室での一件から数日、私は保健室のベッドの上で、重い瞼をゆっくりと持ち上げた。窓から差し込む午後の柔らかな光が、白いシーツを淡く照らしている。最後に見たのは、私を支える冬城の真剣な顔と、駆けつけてくれた秋月先輩の心配そうな顔…。そこからの記憶は、まるで霧の中にいるように曖昧だった。


「…ん…」

掠れた声を漏らすと、すぐそばから優しい声がした。

「夏海さん、気がついたかい?良かった…本当に良かった…」

視線を向けると、そこには椅子に腰掛け、私の顔を心配そうに覗き込む秋月先輩の姿があった。その整った眉が、心なしかいつもより少し下がっているように見える。彼の大きな手が、私の額にそっと触れようとして…寸前で止まり、代わりに私の肩にかかったブランケットを優しくかけ直してくれた。その仕草だけで、私の心臓はドクンと大きく跳ねた。

「せ、先輩…なんでここに…?私、どれくらい…」

「丸一日、眠っていたんだよ。冬城くんが君をここまで運んできてくれてね。顔色が悪かったから、僕も心配で…授業の合間や放課後、ずっと様子を見に来ていたんだ」

「え…ずっと…?」

先輩の言葉に、私の頬がカッと熱くなるのを感じる。心配して、ずっと…?そんなこと言われたら、期待しちゃうじゃないの、バカ。しかも、寝ている間、ずっと先輩に見られていたなんて…!どんな寝顔してたのかしら私!

そこへ、まるでタイミングを見計らったかのように、保健室のドアが静かに開いた。

「…目が覚めたか、夏海瑠々。随分と寝坊助だな。おかげで、こちらの予定が狂った」

現れたのは、もちろん冬城紫苑。相変わらずの無表情(でも、その声にはほんの僅か、棘が取れたような…いや、やっぱり気のせいね、この男に限ってそんなことあるわけないわ)で、ベッド脇に立つと、腕を組んで私を見下ろしている。その銀髪が、窓からの光を反射してキラキラと輝き、腹立たしいほどに美しい。

「冬城くん、ありがとう。夏海さんを助けてくれて」

先輩が彼に礼を言うと、冬城は「別に。俺は俺の目的のために動いただけだ。それに、助けたのは俺だけじゃない。彼女自身の“何か”が、あのマガツモノを退けたようなものだ」と素ッ気なく返し、意味ありげな視線をちらりと私に送る。その視線には、「お前の秘密は分かっているぞ」とでも言いたげな何かが含まれているようで、私は思わず目を逸らした。秋月先輩と冬城くん、タイプは全く違うけれど、二人のイケメンに挟まれているこの状況、なんだかものすごく居心地が悪い…!


保健室を出て、自分の足で歩けるようになったものの、私の心は晴れなかった。美術準備室で私が放った、あの謎の光。あれは一体、何だったのだろう…?私、どうかしちゃったのかな…。そんな言いようのない不安が、鉛のように胸にのしかかる。自分の体に、何か得体の知れないものが宿っているような感覚。

学校からの帰り道、夕暮れの公園のベンチに一人座ってため息をついていると、不意に背後から影が差した。

「…随分と物思いに耽っているようだな、夏海瑠々。悩み事か?それとも、あの力のことで頭がいっぱいか?」

振り返るまでもない。冬城だ。いつの間に私の後ろに…本当にストーカーじゃないの、この男は。というか、なんで私の考えてることが分かるのよ!

「昨夜のあの力…説明してもらおうか。君は、ただの“見える”人間ではないはずだ。あの光、そしてお前の手首に一瞬現れた紋様…あれは何だ?」

彼は私の隣に音もなく腰を下ろし、単刀直入に切り込んできた。その黒曜石のような瞳が、夕日を受けて妖しく光り、私を真っ直ぐに見据える。逃げ場はないとでも言うように。

「何のことか分からないわよ!私は普通の女子高生だって言ってるでしょ!ちょっと貧血で倒れただけ!」

必死で否定するが、冬城は私のそんな言葉を鼻で笑うかのように、おもむろに私の右手首を掴んだ。その手は驚くほど冷たく、そして有無を言わせぬ力強さがあった。

「きゃっ!な、何すんのよ、変態!離しなさいよ!」

思わず悲鳴を上げて振り払おうとするが、彼の力は意外に強く、びくともしない。その距離の近さと、彼の手のひらの冷たさに、心臓がドキドキと早鐘を打つ。彼の指が、私の手首の内側、うっすらと星のような形にも見える淡い痣の痕跡を、確かめるようになぞる。その感触に、全身の血が逆流するような感覚を覚えた。

「とぼけるな。君の手首の痣…昨夜、光を放った後、確かにこれが見えた。これはただの痣ではない。“星影の印”の兆候だ。そして、君が放ったあの光…あれは間違いなく、強力な浄化の力だ。夏海瑠々、君は一体…何者なんだ?」

冬城の真剣な眼差しと、彼の口から出た「星影の印」という言葉に、私はただただ混乱するしかなかった。彼の顔が、すぐそこにある。その整った顔立ちと、普段は見せない真剣な表情に、不覚にもドキッとしてしまう自分が悔しい。


家に帰り、おばあちゃんに学園の異変について、恐る恐る切り出してみた。もちろん、マガツモノのことや、自分の力のことは隠して。

「最近、学校でおかしなことが続いてて…体調を崩す子も多いの。何か、悪いものでもいるのかしら…?」

おばあちゃんは、お茶をすする手を止め、私の顔をじっと見つめた後、静かに呟いた。

「…やはり、動き出したか…あの土地に眠る古きものが」

その言葉は、まるで全てを見通しているかのようで、私の背筋をぞくりとさせた。

「瑠々、お前も、そろそろ自分の血と向き合う時かもしれんぞ。夏海家に伝わる古い書物…あれに、何か手がかりがあるやもしれぬ。お前のその“力”のこともな」

おばあちゃんは、私の力のことに気づいていた…?またその話…と反発したい気持ちと、でも、自分の身に起こった不可解な現象の答えを知りたいという気持ちが、私の中で激しくせめぎ合う。

結局、その夜、私はこっそりとおばあちゃんの書斎に忍び込み、ホコリを被った桐の箱の中から、古びた和紙の束――夏海家の古文書の断片と、以前資料室で見つけたかもしれない奇妙な紋様の描かれた木の欠片を手に取った。このザラザラとした和紙の感触と、墨のかすれた文字が、私の運命を握っているというの…?


翌日、緋和の体調が少し回復したと聞き、私はお見舞いに行った。

「瑠々ちゃん、来てくれたんだ!もう大丈夫だよ!」

まだ少し顔色は悪いけれど、いつもの元気な笑顔が戻っていて、私は心底ホッとした。その笑顔を見ていると、私も自然と笑顔になれる。

「瑠々ちゃん、何かあったでしょ?昨日、保健室で秋月先輩がすごく心配してたよ!『夏海さんのこと、頼むね』って、私にまで言ってたんだから!もう、瑠々ちゃんのこと、絶対好きだって、あれは!間違いなし!」

緋和がニヤニヤしながら、とんでもない爆弾発言を投下する。その瞳は、好奇心でキラキラと輝いている。

「なっ…!そ、そんなわけないじゃない!緋和の勘違いよ、絶対!先輩は、ただ優しいだけだってば!」

顔が真っ赤になるのを抑えられない。お見舞いに来たはずなのに、なんで私がこんなに恥ずかしい思いをしなきゃいけないのよ!もう、緋和のバカ!

でも、心のどこかで、緋和の言葉が本当だったらいいな、なんて思ってしまう自分もいて、さらに混乱する。


緋和の家からの帰り道、夕日が差し込む坂道で、私はバッタリと秋月先輩に出会った。まるで、緋和の話が現実になったかのようなタイミングに、私の心臓はまたしてもドキドキと高鳴る。

「夏海さん。体調はもう大丈夫かい?」

先輩の優しい声が、私の耳に心地よく響く。その声だけで、さっきまでのモヤモヤした気持ちが、少しだけ晴れていくような気がした。

「は、はい!もうすっかり…!ご心配おかけしました…」

「それなら良かった。…実は、相談したいことがあるんだけど…いや、相談というか、お願いというか…もしよかったら、今度の日曜日、気分転換にどこか行かないか?駅前に新しくできたカフェ、美味しいって評判なんだ。君が好きそうな抹茶のケーキもあるみたいだし…それに、少し話したいこともあるんだ。君のこと、もっと知りたいから」

先輩からの、思いがけない、そしてあまりにもストレートなお誘い。私の頭は完全にショート寸前だ。え、これって、もしかして、デートのお誘い…!?しかも、「君のこと、もっと知りたいから」って…!そんなこと言われたら、期待するなって方が無理じゃないの!

「え…あ…その…わ、私でよければ…喜んで…」

驚きと喜びと、そしてほんの少しの戸惑いで、私の声は震え、顔はきっと茹でダコみたいに真っ赤になっているだろう。先輩の顔をまともに見ることができず、俯いたまま、私はかろうじてそう答えることしかできなかった。

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