第50話: せ、先輩の告白!?う、嘘でしょ…このドキドキ、どうすればいいのよ!
雷の番人との激闘を終え、第四の封印「雷鳴の護符」を手に入れた私たちは、心身ともに疲労困憊しながらも、確かな達成感と、仲間たちとの揺るぎない絆を感じていた。嵐の孤島から本土へと戻る船の上、夕日が水平線を茜色に染め上げ、私たちの旅の一つの区切りを、美しくも切なく照らし出していた。その光景は、まるでこれから始まるであろう、さらに過酷な戦いを予感させるかのようだった。
冬城の、あの掠れた「ありがとう」という言葉と、ほんの少しだけ特別な感情が浮かんでいた瞳が、私の脳裏に焼き付いて離れない。顔を真っ赤にしてそっぽを向いたけれど、彼の言葉が残した温かいものは、私の心の奥でじんわりと広がっていく。でも、それと同時に、さっき感じた「星影の印」の微かな痛みと、一瞬視界が霞んで、指先が陽光に透けて見えたあの奇妙な感覚…あれは、気のせいなんかじゃなかったのかもしれない。この力の「代償」は、確実に私に迫ってきている。そんな不安が、温かい気持ちのすぐそばで、小さな、しかし無視できない影を落としていた。私の白い肌は、夕陽を浴びてほんのり薔薇色に染まっているけれど、その下には、誰にも言えない秘密と恐怖が渦巻いているのだ。
「…夏海さん?さっきから、ぼんやりしてどうしたんだい?もしかして、まだ船酔いが…」
不意に、鼓膜をくすぐるような優しい声と共に、秋月先輩の心配そうな顔が私の視界に入ってきた。彼の柔らかな茶色の髪が、夕陽を受けてキラキラと輝き、まるで後光が差しているみたい。その穏やかな笑顔は、いつも私の不安を少しだけ和らげてくれるけれど、今はその完璧すぎる王子様っぷりが、私の心臓を妙に騒がせる。
「せ、先輩…!いえ、なんでもありません!ちょっと…その、あまりにも夕焼けが綺麗だったものですから、見とれていただけです!」
思わず少し上擦った声になってしまって、自分で自分に赤面する。慌てて取り繕う私に、先輩はくすりと優雅な笑みをこぼした。その仕草の一つ一つが、どうしようもなく格好良くて、私の心臓はまた勝手に早鐘を打ち始める。もう、いい加減にしてよ、私の心臓! このままじゃ、いつか破裂しちゃうわ!
「そう?ならいいんだけど。…それにしても、今日の夕焼けは格別だね。まるで、僕たちの未来を祝福してくれているみたいだ」
先輩は、私と同じように船べりに寄りかかり、遠ざかる孤島を見つめながら、ぽつりと呟いた。その彫刻のように美しい横顔は、夕陽に照らされて、いつもより少しだけ大人びて、そしてどこか切なげにも見える。その長いまつ毛の影が、白い頬に落ちていた。
「未来…ですか?私たちの未来に、そんな綺麗なものが待っているんでしょうか…」
思わず弱音めいた言葉が口をついて出てしまう。だって、私たちの前には、まだ「黒き月影」っていう大きな壁が立ちはだかっているんだもの。
「うん。…夏海さん、少し、二人で話せないかな?大切な話があるんだ」
先輩が、真剣な表情で私を見つめてくる。そのブラウンの瞳には、どこか決意のようなものが宿っていて、私は思わず息をのんだ。周囲を見渡すと、少し離れた場所で、緋和と冬城が何やら話し込んでいる。冬城は相変わらず仏頂面で腕を組んでいるけれど、緋和が身振り手振りを交えて熱弁しているのに、時折、ほんの少しだけ口角を上げているのが見えた。…あの二人、まさか、私たちのことを話してるんじゃ…!?そう思っただけで、顔にカッと血が上る。
先輩に促されるまま、私たちは船の舳先に近い、少し人気のない場所へと移動した。潮風が、私の少し乱れた艶やかな黒髪を優しく撫でる。その髪には、まだほんのりと雷の匂いと、そして…冬城が私を庇った時の、彼のシャンプーの匂いが微かに残っているような気がして、胸の奥がキュンと痛んだけど、今は先輩のことで頭がいっぱいだった。私の白いブラウスの襟元が、風にはためいて少しだけ素肌が覗く。
「夏海さん…」
先輩が、一度そこで言葉を切り、私の目をじっと見つめた。その真剣な眼差しに、私の心臓がドキリと跳ねる。そして、彼はまるで大切な宝物に触れるかのように、私の名前を、熱を込めて呼んだのだ。
「…瑠々。僕はね、君と出会ってから、毎日が本当に輝いて見えるようになったんだ」
その瞬間、私の思考は完全に停止し、言葉を失ってしまう。先輩が、私を「瑠々」って…!彼の大きな、それでいて綺麗な形をした手が、私の華奢な手をそっと包み込み、その温もりが、私の心の奥底までじんわりと染み渡っていく。彼の指先が、私の手の甲を優しくなぞるだけで、体中の血液が沸騰しそうになる。
「君のその…困難に立ち向かう時の、キリッとした大きな瞳も、仲間を想う時の、春の日差しみたいな優しい笑顔も、そして時折見せる、ちょっと意地っ張りで、でも本当はすごく優しいところも、全部が僕にとって、かけがえのない宝物なんだ。君がそばにいてくれるだけで、僕はどんな困難にも立ち向かえる気がする」
先輩の瞳には、もう迷いの色はなく、ただ私だけを真っ直ぐに見つめていた。その熱い視線に射抜かれて、私はもう、どうにかなってしまいそうだった。こんな…こんな少女漫画のヒロインみたいなこと、言われたら、私…!
「せ、先輩…!そ、そんな…お世辞はよしてください!私なんて、いつもドジばっかりで、先輩に迷惑かけてばっかりですし…それに、意地っ張りなんかじゃありません!ちょっと!…ほんのちょっとだけ、素直じゃないだけです!」
顔を真っ赤にして俯きながらも、私は震える声で、かろうじてそう答えるのが精一杯だった。ああもう、なんで私はこんなに可愛くない、ツンケンした言い方しかできないのよ!
「ふふ、そういうところも、君らしくてたまらなく愛しいよ、瑠々」
先輩は、そんな私の言葉を、世界で一番大切な宝物を受け取るかのように、その美しい顔を喜びで輝かせ、優しく微笑んでくれた。その笑顔は、どんな夕焼けよりも美しく、私の心を永遠に照らし続けるだろう。そして、彼はさらに一歩私に近づき、私の両手をしっかりと握りしめた。彼の指が、私の指にそっと絡みつく。
「瑠々…僕は、君のことが好きだ。心の底から、愛している。ずっと、君のそばで、君を守りたい。この気持ちは、誰にも負けない自信がある。こんな僕でよければ…僕と、付き合ってくれないか?」
「え……?」
先輩の、真っ直ぐで、熱のこもった、そして甘く溶けるような告白。
私の頭の中は、完全に真っ白になった。思考回路がショート寸前。心臓が、今にも張り裂けそうなくらい、いや、もう張り裂けてるかもしれないくらい、ドキドキと音を立てている。嬉しい。すごく、嬉しい。まるで夢みたい。でも、それと同時に、戸惑いと、そして…ほんの少しの、拭いきれない不安が胸をよぎる。
私が、こんな完璧な先輩の隣にいていいの? この「星影の印」の秘密も、「代償」のことも、先輩はまだ全部は知らない。もし、この力のせいで、先輩を不幸にしてしまったら…? それだけは絶対に嫌だ。
それに、さっきの冬城の顔が、なぜか脳裏をチラつく。彼のあの、私に向けられた、どこか切なくて、でも強い意志を秘めたような瞳…。私を庇って血を流した時の、あの苦悶に歪んだ美しい顔…。
「…瑠々? もしかして…迷惑だったかな…?」
不安そうに眉を寄せる先輩の声に、私はハッと我に返った。ダメよ、こんな時に、他の男のことなんて考えちゃ!先輩は、こんなに真剣に、私に想いを伝えてくれているのに! しかも、こんな少女漫画のクライマックスみたいなシチュエーションで!
「…先輩…わ、私も…!私も、先輩のことが…その…!あ、あの…!す、好き…です…!ずっと、前から…!」
顔を耳まで真っ赤にして俯いたまま、私はかろうじてそう言葉を絞り出した。ああもう、なんでこんな肝心な時に、こんなにどもっちゃうのよ、私! もっと可愛く、「はいっ!」って言えないものかしら!
「…でも…でも、私…先輩に迷惑ばかりかけるかもしれないし…それに、私には、まだ言えない秘密もあって…普通の女の子とは、違うから…それでも、先輩は…本当に、私なんかでいいんですか…?」
言い終える前に、先輩は私の言葉を遮るように、優しく、でも力強く私を抱きしめた。彼の温かい胸の中で、私は息をのむ。彼の逞しい腕が、私の細い体をしっかりと包み込んでくれる。彼の清潔なシャツの匂いと、微かに香る爽やかなコロンの香りが、私の鼻腔をくすぐって、さらにドキドキさせる。
「瑠々…君の全てを受け止めたい。君の抱えるものも、秘密も、全部含めて、君が好きだ。君がどんな存在であろうと、僕のこの気持ちは変わらない。だから、何も心配しないでほしい。僕が、必ず君を守るから。君の笑顔を、僕が一生かけて守り抜いてみせる」
耳元で囁かれた、甘くて力強い、そしてどこまでも真摯な言葉。その言葉の一つ一つが、私の心の不安を、まるで春の雪のように溶かしていくようだった。ああ、やっぱり、私、先輩のことが、本当に、本当に好きなんだわ…! この人の隣にいられるなら、どんな困難だって乗り越えていける気がする!
「…はい…!こんな私でよければ…これからも、ずっと、ずっとそばにいさせてください…!先輩…ううん、浩希さん…!」
私は、先輩の胸に顔をうずめたまま、涙声でそう答えた。自然と、彼の名前を呼んでいた。もう、この温もりを、この幸せを、絶対に手放したくない。
どれくらいそうしていただろうか。夕日が完全に水平線に隠れ、空には一番星が瞬き始めた頃。ふと、少し離れた場所から、わざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「…フン、ようやくお互いの気持ちを確かめ合ったか。随分と時間がかかったものだな。見ていてじれったくて、虫酸が走るかと思ったぞ。まったく、どいつもこいつも、浮かれた恋愛脳ばかりで話にならん」
そこには、船のマストにもたれかかり、腕を組んで心底呆れたような顔をしている冬城と、その隣で、ハンカチで目頭を押さえながらも、満面の笑みを浮かべている緋和が立っていた。緋和の大きな瞳は、感動でキラキラと潤んでいる。
「なっ…!と、冬城!あんた、いつからそこにいたのよ!盗み聞きなんて、最低最悪よ!それに、恋愛脳ってどういう意味よ!失礼しちゃうわね!」
私は、浩希さんの腕の中から慌てて飛びのき、顔を真っ赤にして冬城に食ってかかった。この男は、本当にデリカシーというものが皆無なんだから!私たちのこの神聖でロマンチックな感動の瞬間を!
「最初からだが?お前たちのその甘ったるい会話は、正直、反吐が出そうだったがな。だが、まあ…悪くはないんじゃないか。お前には、ああいう太陽みたいに眩しくて、少々頭がお花畑な男の方がお似合いだろう。俺のような、どす黒い闇の中でしか生きられない者とは、住む世界が違う」
冬城は、そう言って、ふいと顔を背けた。その完璧なまでに整った横顔は、どこか吹っ切れたような、でもほんの少しだけ…何かを諦めたような、痛々しいほどの寂しさが滲んでいるように見えた。そして、彼が私の頭をポン、と子供にするみたいに軽く叩き、「…せいぜい、幸せになるんだな、夏海瑠々。お前のその馬鹿みたいに明るい笑顔は、まあ…たまには悪くない。虫唾は走るがな。だが、もしあの能天気な男がお前を泣かせるようなことがあれば、その時は…俺が容赦なく叩き斬ってやるから、覚悟しておけ」と、いつになく素直な、そしてどこか独占欲を隠しきれていない言葉を口にしたのだ。その不器用すぎる祝福の言葉と、最後の物騒極まりない付け加えに、私の胸は温かいもので満たされていく。
「…あんたこそ、せいぜい早くその捻くれた性格をどうにかしなさいよね、冬城!あんただって、いつか本当に心から笑える日が来るといいわね。…まあ、私は別に、あんたのことなんてこれっぽっちも心配なんかしてないけど!ちょっと気にかけてあげなくもないだけよ!それに、浩希さんが私を泣かせるわけないでしょ!この朴念仁!」
私も、負けじとそう言い返したが、その声は少しだけ震えていたかもしれない。この口の悪い銀髪の美少年との間にも、確かに友情と呼べるものが、そしてそれ以上の何か特別な、言葉では言い表せない絆が芽生えていたのだ。彼のその不器用な優しさが、今はなんだか無性に愛おしくさえ感じる。まったく、世話が焼けるんだから!
「瑠々ちゃん、浩希さん、おめでとー!うわーん、もう、私、感動して涙が止まらないよぉ!私の親友が、こんなに素敵な人と結ばれるなんて、まるで夢のようだよぉ!冬城くんも、なんだかんだ言って、瑠々ちゃんのこと大好きだよねー!」
緋和が、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、私と浩希さんに交互に抱きついてくる。その純粋な祝福が、私たちの心をさらに温かくする。ちょっと、緋和!冬城が私のこと好きとか、そういう誤解を招くこと言わないでよ!
「ありがとう、緋和ちゃん。君がいつも、僕たちの背中を押してくれたからだよ。君がいなければ、この想いを伝える勇気も出なかったかもしれない」
浩希さんが、緋和の頭を優しく撫でる。
「そうよ、緋和。あんたがいなかったら、私、ここまで来られなかったかもしれないわ。本当に、ありがとうね、私の最高の親友!これからも、ずーっと、ずーっと一緒だからね!」
私たちは、四人で肩を寄せ合い、満天の星が輝き始めた夜空を見上げた。そこには、これまでの戦いの厳しさも、これから待ち受ける困難も、全てを乗り越えていけるという、確かな絆の輝きがあった。その絆は、どんなマガツモノよりも強く、そしてどんな闇をも照らし出す、希望の光となるだろう。
船が本土に着く頃には、すっかり真夜中に近くなっていた。おばあ様には、あらかじめ連絡を入れてある。今夜は夏海家に戻り、明日からはまた、残りの封印を探す旅が、そして「黒き月影」との本格的な戦いが始まるのだ。
その夜、私は久しぶりに自分の部屋の、桜の香りがする柔らかな布団で眠りについた。浩希さんのことを思い出すと、胸が甘く高鳴ってなかなか寝付けなかったけれど、同時に、あの「赤黒く輝く不吉な星」のことを考えると、背筋が寒くなるような思いだった。おばあ様の話では、あの星は「災厄の星」と呼ばれ、古の時代にも何度か現れては、世界に大きな災いをもたらしたという。その星が、今、星影高校の真上に輝いている。偶然とは思えない。
そして、私の右手首の「星影の印」の「代償」…。浩希さんに抱きしめられた時、一瞬、彼の体温を感じにくくなったような気がした。まさか、私の五感が…? 私は、この幸せを守り抜けるのだろうか。この印に隠された本当の秘密、そして「黒き月影」がこの印を狙う本当の理由は何なのかしら。夏海家の古文書にも、まだ解読できていない部分がたくさんある。
翌朝、私たちは星影高校の校門の前に集まった。久しぶりに見る母校は、どこか不気味な静けさに包まれていた。おばあ様の話によると、私たちが第四の封印を守り抜いたことで、学園を覆っていた不穏な気配はいくらか薄らいだものの、依然として「黒き月影」の強力な呪いの影響は残っており、特に旧校舎や体育館裏の森など、いくつかの区画は空間が歪み、危険なマガツモノが徘徊しているため立ち入り禁止になっているらしい。そして、あの「赤黒く輝く不吉な星」も、忌まわしい光を夜空に放ち続けているという。
「第五の封印の場所は…おそらく、この学園の最も聖なる場所…あるいは、この学園が建てられるずっと以前から存在する、最も古い記憶が眠る場所にあるはずだわ。古文書には、『星影の丘、七不思議の集う場所に、古の巫女の祈りあり』と記されているの」
おばあ様から受け取った古文書の新たな解読結果を手に、私は仲間たちを見回した。浩希さんの私を見守る優しい笑顔、緋和の「任せて!」と言わんばかりの力強い頷き、そして…どこか覚悟を決めたような、冬城の鋭く冷徹な、しかしその奥に熱いものを秘めた眼差し。彼の腰には、いつもの銀の短剣に加えて、おばあ様から託されたという、古風な装飾が施された魔除けの小刀が差してあった。
「みんな、準備はいい?私たちの戦いは、まだ終わっていない。むしろ、ここからが本当の始まりよ。最後の封印まで、必ず守り抜くんだから!そして、この学園にかけられた呪いを解き、みんなの笑顔を取り戻すの!」
私の言葉に、三人は力強く頷いた。私の新しい旅装束(それは、白と茜色を基調とし、金糸で星と月の刺繍が施された、巫女装束と戦闘服を融合させたような、機能的で息をのむほど美しいデザインのものだった。風に舞う裾が、私の決意を後押ししてくれるようだ)も、朝日を浴びてキラキラと輝いている。
この胸の高鳴りは、浩希さんへの恋のドキドキだけじゃない。仲間たちと共に、未来を切り開いていくという、熱い決意の表れなんだから!
さあ、行こう。私たちの、新しい物語を紡ぎに。そして、この星影高校に隠された最後の謎と、七不思議の真相、そして「黒き月影」の本当の狙いを暴き出すために――!このドキドキは、きっと素晴らしい未来へと繋がっているはずだから!




