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第5話:転校生は嵐の予感?私の平穏、さようなら!

「な、何のことよ!あんたに関係ないでしょ!」

冬城紫苑の射るような視線から逃れるように、私は半ば叫ぶように言い放ち、その場を走り去った。背後で、彼が意味ありげな薄笑いを浮かべたような気がしたが、振り返る勇気なんてなかった。心臓が、まるで警鐘のようにドクドクと鳴り続けている。あの男、一体何者なの…?そして、あの最後の問いかけは…?私の頭の中は、疑問と不気味な予感でいっぱいだった。逃げ帰った部屋の鏡に映る自分の顔は、恐怖と動揺でほんのり赤く上気していた。


翌朝の教室は、昨日までとは明らかに違う、どこか浮足立った空気に包まれていた。原因は言うまでもない、あの謎の転校生だ。

ホームルームが始まり、担任の先生が改めて冬城紫苑を紹介すると、クラスの女子生徒たちから、抑えきれない感嘆のため息が漏れた。確かに、彼の容姿は非の打ち所がない。色素の薄い銀髪は窓から差し込む朝日を浴びてキラキラと輝き、その光は彼の少し長いまつ毛に影を落としている。そして、切れ長の黒曜石のような瞳はミステリアスな光を湛え、ただそこに立っているだけで、周囲の空気を変えてしまうような、圧倒的な存在感。まるで少女漫画から抜け出してきた王子様か、はたまた近寄りがたい魔王か…どっちにしても、私とは住む世界が違うわよ、絶対に、と私は心の中で結論づけた。彼の隣の席になった女子なんて、緊張で教科書を落としていたくらいだ。


休み時間になるたびに、私の平穏は打ち砕かれた。冬城は、まるで私の席が彼の定位置であるかのように、音もなく近づいてくるのだ。そのたびに、周囲の女子生徒たちの好奇と嫉妬が入り混じった視線が、私に突き刺さる。お願いだからこっちに来ないで!と念を送るが、もちろん彼には通じない。

「昨日の続きだが…」

彼は、わざと私の耳元に顔を近づけ、周囲には聞こえないような低い声で囁いた。彼の吐息がうなじにかかり、思わずゾクッとして全身に鳥肌が立つ。近い、近いってば!石鹸のような、どこか冷たくて清潔な香りが鼻を掠める。

「君の“特別な目”は、一体何を見ているんだ?夏海瑠々」

その声は、私の鼓膜を直接震わせ、心臓を鷲掴みにするような感覚を覚えた。顔がカッと熱くなるのが自分でも分かった。心臓はバクバクと暴れ出し、喉がカラカラに渇いていく。

「ス、ストーカー!?変態!な、なによ、そんなにジロジロ見て!」

かろうじて絞り出したのは、そんな子供じみた悪態だった。冬城は、そんな私の反応を面白がるように、ほんの少しだけ口の端を上げた。その整いすぎた顔が間近にあると、なんだか吸い込まれそうで、余計に腹が立つ。


次の休み時間、私は気分転換も兼ねて、飲み物を買いに自動販売機のある廊下へ向かった。さっきの冬城とのやり取りで、なんだか喉がカラカラだったのだ。

「あっ…」

角を曲がったところで、不意に誰かとぶつかりそうになった。見上げると、そこにいたのは――秋月先輩だった。手には数冊の本を抱えている。

「わ、悪い、夏海さん。大丈夫だったかい?」

先輩は、少し驚いたように目を見開いた後、いつもの優しい笑顔を私に向けた。

「せ、先輩こそ、ごめんなさい!私、前を見てなくて…」

まただ。先輩を前にすると、途端に心臓が早鐘を打ち始め、言葉がしどろもどろになってしまう。さっき冬城に見せたような強気な態度はどこへやら、顔が熱くなっていくのが自分でも分かった。

「いや、僕の方こそ。本に気を取られていたからね」

先輩はそう言って微笑むと、私の少し赤い顔を見て、ふと「何かあったのかい?少し顔色が…」と心配そうに眉を寄せた。

その優しい眼差しに、私は余計にパニックになり、「な、何でもないです!全然!ちょっと暑いだけですから!」と早口でまくし立ててしまった。ああもう、私のバカ!

先輩は、私の慌てぶりに少し困ったような顔をしたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻り、「そうか。無理はしないようにな」と言って、軽く手を振って去っていった。その去り際、彼がほんの少しだけ、私が来た方向――つまり、冬城がいるであろう教室の方を、何か気にするように一瞥した気がしたけれど、それは私の気のせいだろうか。


そんな私の個人的な受難とは裏腹に、学園全体の不穏な空気はますます濃くなっていた。体調不良を訴える生徒は後を絶たず、特に緋和の症状は悪化の一途を辿っていた。

「瑠々ちゃん…また、あの夢を見たの…真っ暗な中で、黒い影が私を追いかけてきて…それに、なんだかずっと、誰かにじっと見られているような気がして、怖くて眠れないの…」

昼休み、保健室のベッドで横たわる緋和は、いつもの元気はどこへやら、青白い顔で弱々しく私に訴えかけてきた。その潤んだ瞳を見ていると、胸が締め付けられるように痛む。彼女の細い手首が、シーツの上で力なく投げ出されているのが痛々しい。

「大丈夫よ、緋和。きっと、ただの疲れだって。私がついてるから」

私は、ぶっきらぼうながらも、彼女の手をそっと握った。気休めにしかならないかもしれないけれど、そうせずにはいられなかった。握った緋和の手は、驚くほど冷たかった。

保健室の先生も、「最近、同じような症状を訴える生徒が増えているのよね…。ただの風邪じゃなさそうだし、何か集団的なストレスかしら…」と深刻な顔で首を傾げている。この学園で、一体何が起ころうとしているのだろうか。そして、私に何かできることはないのだろうか。陰陽師の力を使えば…いや、ダメだ。私は、普通の女子高生でいたいんだから。でも、緋和の苦しそうな顔を見ていると、そんな決意も揺らぎそうになる。


放課後、私は緋和の家へお見舞いに行くことにした。少しでも元気が出るように、彼女が好きだと言っていたフルーツゼリーを途中で買っていこう。

そんなことを考えながら校門へ向かっていると、ふと、人気のない旧校舎の裏手の方から、微かな金属音が聞こえた気がした。こんな時間に、あんな場所で誰が…?

好奇心と、ほんの少しの胸騒ぎに導かれるように、私は音のする方へゆっくりと足を向けた。そして、物陰からそっと覗き込むと、そこにいたのは――冬城紫苑だった。

彼は、銀色に鈍く光る羅針盤のようなものを片手に持ち、もう一方の手には古びた羊皮紙のような巻物を広げ、何かを熱心に調べているようだった。夕日に照らされたその真剣な横顔は、教室で見せる人を小馬鹿にしたような態度とは全く異なり、どこか張り詰めた、近寄りがたい雰囲気を漂わせている。風に揺れる銀髪が、まるで生きているかのように彼の頬を撫でる。羅針盤の針が、カタカタと不規則に揺れ、微かな光を放っているのが見えた。やっぱり、ただの高校生じゃない…!あれは一体、何をしてるの…?


息を殺して見つめていると、冬城がふいに顔を上げた。その動きは、まるで私の存在を最初から察知していたかのようだ。そして、真っ直ぐに、私が隠れている物陰へと視線を向ける。

バレた…!

「…物好きなことだ。だが、君のような素人が首を突っ込むと、命取りになるぞ」

彼の冷たい声が、夕暮れの静けさの中に響く。その声には、何の感情も込められていないように聞こえたけれど、その瞳の奥には、確かな警告の色と、そしてほんの少しだけ、私を見定めるような光が宿っていた。

私は、反論しようと口を開きかけたが、彼の言葉に妙なリアリティを感じてしまい、何も言えなくなる。命取り…?たかが学校の噂話で、そんな大げさな…。でも、彼の纏う雰囲気は、それが決して冗談ではないことを物語っていた。心臓が、早鐘を打つ。


冬城は、ゆっくりと私の方へ歩み寄ってくる。夕日を背にした彼の姿は、まるでこの世のものではない何かのようだ。その長い影が、私を飲み込もうとするかのように伸びてくる。

「見てしまったのか、夏海瑠々」

彼の声は、すぐ間近で聞こえた。いつの間にか、彼は私の目の前に立っていた。逃げ場はない。

「ならば、君にも手伝ってもらおうか。君のその“特別な目”でね。拒否権はないと思え」

有無を言わせぬ、絶対的な命令。その黒曜石のような瞳が、私を射抜く。私の平穏な日常は、このミステリアスで超絶感じの悪い、そしてなぜか目が離せない転校生によって、どうやら本格的に終わりを告げようとしていた。そして、なんだかとても、厄介な予感がする。

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