第49話:雷鳴の誓いと、赤き瞳の真実。この絆、絶対に離さない!
「ひ弱なんかじゃないわ!私たちは、絶対に負けないんだから!そして、あんたなんかの雷より、私たちの絆の方がずっと強いんだから!」
私が、冬城の手をぎゅっと握りしめたまま、雷の番人を真っ直ぐに見据え、力強く宣言した瞬間。私の体と、そして冬城の体から、黄金色の光と、禍々しくも力強い赤いオーラが同時に放たれたのだ!二つの異なる色の光が、まるで互いを求め合うかのように絡み合い、共鳴し、これまでにないほどの強大なエネルギーの奔流となって、雷の番人へと襲いかかる。それは、まるで嵐の中で生まれた、新たな希望の光のようだった。その光は、私の黒髪を黄金色に染め上げ、その輝きは雨に濡れた私の白い肌をさらに透き通るように見せた。冬城の銀髪もまた、血のように赤く照らし出され、その姿はどこか悲壮で、しかし圧倒的な美しさを放っていた。
「なっ…!なんだ、その力は!?二つの相反する力が、一つに…!?ありえん…!小娘、お前は一体、何者なのだ…!?」
雷の番人が、初めて狼狽したような声を上げる。彼の放つ紫電の槍も、私たちの光の奔流の前には、まるで子供の玩具のようにかき消されていく。その厳めしい顔には、信じられないものを見るような、驚愕の色が浮かんでいた。
「冬城、今よ!私たちの力を合わせれば、きっと…!」
「…ああ、言われなくとも!夏海瑠々、お前のその力を、俺に預けろ!」
私たちは、まるで長年連れ添った戦友のように、互いの呼吸を合わせ、同時に雷の番人へと突進する。私の手には「星詠みの竪琴」と「風の心」、そして胸元には「炎の勾玉」と「大地の勾玉」が、それぞれの力を最大限に解放し、黄金色のオーラをさらに増幅させている。その輝きは、まるで私自身が光の源となったかのようだ。冬城の銀色の短剣は、赤いオーラを纏い、まるで生きているかのように脈打っていた。その切っ先は、正確に雷の番人の核を捉えている。
しかし、雷の番人もまた、この孤島の封印を守護する強大な存在。彼は、天に轟く雷鳴と共に、その身に雷そのものを宿らせ、最後の力を振り絞って私たちに襲いかかってきた。その姿は、まさに雷神そのものであり、その怒りは天変地異を引き起こさんばかりの勢いだ。
「我が雷の裁きを受け、この島と共に消え果てるがいい、小娘ども!お前たちのような未熟な者たちに、この聖なる封印を汚されてたまるか!」
無数の雷の槍が、雨のように私たちに降り注ぐ。それは、一本一本が家屋を貫くほどの威力を持っていた。
「きゃあああっ!」
「瑠々ちゃん、危ない!みんな、伏せて!」
緋和の悲鳴と、秋月先輩の叫び声が重なる。先輩は、神社の秘伝の結界術で私たちを守ろうとするが、雷の威力はあまりにも強大で、結界はガラスのように脆く砕け散ってしまう。その衝撃で、先輩の口の端からは、一筋の赤い血が流れ落ちた。
絶体絶命のピンチ…!このままでは、みんなが…!
その時だった。私の目の前で、信じられない光景が広がった。
「夏海瑠々…!お前は、俺が守る…!もう二度と…大切なものを、目の前で失ってたまるか…!」
冬城が、まるで獣のような咆哮を上げながら、私を庇うように前に飛び出し、その赤いオーラを纏った短剣で、降り注ぐ雷の槍を次々と弾き返していくのだ。しかし、その数はあまりにも多く、彼の体は徐々に限界を迎えつつあった。その肩口からは、鮮血が流れ落ち、彼の白いシャツを赤く染めていく。その瞳は、完全に血のような赤色に染まり、苦痛と怒りと、そして…深い悲しみで歪んでいた。
「冬城…!ダメよ、無茶しないで!そんなことしたら、あんたが…!」
「…うるさい…!俺のことは気にするな…!お前は…お前だけは、絶対に死なせるわけにはいかないんだ…!お前まで失ったら、俺は…!」
彼の赤い瞳が、私を真っ直ぐに見つめる。その瞳の奥には、これまでに見たことのない、深い絶望と、そして私への…言いようのない強い想いが宿っているように見えた。その瞬間、彼の脳裏に、あの忌まわしい過去の記憶が、鮮明に蘇っていた。――激しい雷雨の中、小さな妹の手を握りしめ、必死で逃げる自分。しかし、非情な雷の一撃が、愛する妹の命を奪い去った、あの絶望の瞬間…。妹の、最後の笑顔…。
「うわあああああああああっ!」
冬城の絶叫と共に、彼の体から、制御不能なほどの強大な赤いオーラが迸る。それは、まるで彼の心の叫びそのもののようだ。その力は、雷の番人の雷さえも押し返し、周囲の岩盤を砕き、大地を揺るがす。しかし、その力はあまりにも荒々しく、彼自身の魂をも蝕んでいるように見えた。
「冬城…!その力は…!まさか、あんた…自分を犠牲にするつもりなの!?」
私は、息をのんでその光景を見つめていた。彼のあの赤い瞳の力は、ただのマガツモノの力ではない。もっと根源的で、そして…あまりにも危険な、禁断の力だ。あの力を使えば、彼自身も無事では済まないかもしれない…!彼の銀髪が、赤いオーラの中で逆立ち、その白い肌はまるで陶器のように冷たく見えた。
「冬城、もうやめて!そんな力を使ったら、あんたが壊れちゃうわ!」
私が叫ぶと同時に、秋月先輩もまた、傷ついた体を引きずりながら、冬城のそばへと駆け寄った。
「冬城くん、君の気持ちは分かる…!でも、一人で抱え込まないでくれ!僕たちもいるじゃないか!君のその痛み、僕たちにも分けさせてくれ!」
そして、緋和もまた、涙を浮かべながら必死に叫ぶ。
「冬城くーん!瑠々ちゃんが、あんなに心配してるんだよ!お願い、もうやめて!瑠々ちゃん、お願い!冬城くんを助けてあげて!瑠々ちゃんのあの優しい歌声なら、きっと…きっと彼を救えるはずだから!私、信じてる!」
仲間たちの必死の呼びかけが、暴走しかけていた冬城の心に、ほんの少しだけ届いたのかもしれない。彼の体から放たれる禍々しい赤いオーラが、ほんの僅かに揺らぎ、その血のように赤く染まっていた瞳に、一瞬だけ、元の美しい黒曜石の色が戻ったような気がした。彼の苦悶に歪んだ顔が、ほんの少しだけ和らいだようにも見えた。
私は、緋和のその言葉にハッとした。そうだ、私にはこの「星詠みの竪琴」がある。そして、「星詠鳥の唄」がある!そして何よりも、彼を助けたい、彼の心の闇を祓いたいという強い想いがある!
私は、竪琴を構え、ありったけの想いを込めて歌い始めた。それは、冬城の荒ぶる魂を鎮め、そして彼の心の傷を癒やすための、祈りの歌だった。私の黄金色の光と、竪琴の清らかな音色、そして私の歌声が、冬城の禍々しい赤いオーラと激しくぶつかり合い、そして…ゆっくりと、しかし確実に、彼を優しく包み込んでいく。
私の歌声は、彼の心の奥底に眠っていた、妹への深い愛情、そして守れなかった後悔の念を優しく呼び覚まし、その悲しみを浄化していく。私の白い肌は、黄金色の光を浴びて神々しいまでに輝き、その瞳からは、彼への慈しみの涙が静かに流れ落ちていた。
彼の赤い瞳から、一筋の涙が流れ落ちた。それは、彼がずっと一人で抱え込んできた、深い悲しみの涙だった。そして、その涙と共に、彼の体から放たれていた禍々しい赤いオーラは徐々に収まり、代わりに、どこか温かく、そして力強い、本来の彼自身の清浄な霊力が溢れ出し始めたのだ。彼の赤い瞳もまた、元の美しい黒曜石の色へと戻っていた。その瞳は、もう絶望の色ではなく、何かを乗り越えた者の、強い輝きを宿していた。
「…夏海瑠々…お前は、本当に…お節介で、そして…厄介な女だな…だが、悪くない…」
冬城は、掠れた声でそう言うと、ふっと力なく微笑んだ。それは、私が初めて見る、彼の心からの、そしてどこまでも優しい笑顔だったのかもしれない。その笑顔は、いつもの彼からは想像もつかないほど、魅力的で、私の心臓を強く打った。
「うるさいわね…!あんたが、いつまでもウジウジしてるからでしょ!それに…あんたのそんな顔、見てらんないのよ…!だから、もう二度と、あんな無茶しないでよね!約束よ!」
私は、顔を真っ赤にしながら、いつもの調子でそう言い返した。でも、本当は、彼の笑顔が見られて、すごく…嬉しかった。そして、彼のその弱さを、私が支えてあげたいと、強く思った。彼のその細い肩に、そっと自分の手を重ねた。
「…見事だ、人間どもよ。お前たちのその絆の力、そしてその巫女の歌声…確かに、我が雷の魂をも揺さぶったわ。お前たちのその想い、確かに受け取った」
雷の番人が、いつの間にか私たちの目の前に立っていた。その顔には、もう敵意はなく、ただ深い感銘の色と、そしてほんの少しの寂しさのようなものが浮かんでいる。
「特に、そこの小娘…星影の巫女よ。お前のその力は、ただ強いだけではない。人の心を癒やし、そして繋ぎ、絶望の中から希望を生み出す力を持っている。それこそが、真の巫女の力なのかもしれんな。その美しい魂は、まさに星のようだ」
雷の番人は、私に向かって深々と頭を下げた。
「この“雷鳴の護符”を受け取るがいい。それは、お前たちの勇気と絆の証。そして、この島の封印を守りし者の証でもある。これを持つ限り、いかなる雷も、お前たちを傷つけることはできまい。そして、お前たちの未来を照らす、導きの光となるだろう」
彼が差し出したのは、雷の紋様が勇ましく刻まれた、力強い霊力を放つ古い護符だった。それを受け取ると、私の手首の「星影の印」が、そして冬城の胸の「風魔の護符」が、さらには秋月先輩の持つ神社の秘宝である「月の鏡」が、共鳴するように温かい光を放った。
第四の封印は、こうして守られたのだ。そして、私たちは、冬城の心の奥底に触れ、彼の本当の姿を少しだけ知ることができたのかもしれない。そして、私のこの力も、また一つ成長できたのかもしれない。
嵐は完全に止み、孤島には穏やかな日差しが戻っていた。空には、大きな七色の虹がかかっている。
私たちは、雷の番人に別れを告げ、再び本土へと戻る船に乗った。
船の上で、冬城は珍しく、私に自分から話しかけてきた。その顔には、まだ少しだけ疲労の色が残っているけれど、その瞳は、以前よりもずっと穏やかで、そして澄み切っていた。
「…夏海瑠々。さっきは…ありがとう。お前がいなければ、俺は…また、取り返しのつかない過ちを犯すところだったかもしれない。お前のその…歌声、そしてその温かい光が、俺を救ってくれた」
その声は、いつになく素直で、そして彼の瞳には、私への深い感謝の色と、そしてほんの少しだけ…特別な感情が浮かんでいた。
「…別に、礼を言われる筋合いはないわよ。私は、ただ…仲間として、当然のことをしたまでだから…。それに、あんたのあの情けない顔、二度と見たくないしね!」
私は、顔を真っ赤にしてそっぽを向きながら、しどろもどろにそう答えた。もう、この男のせいで、私の心臓はドキドキしっぱなしだわ!でも、彼のその言葉は、私の心の奥底に、温かい何かを残していった。
そんな私たちを、秋月先輩と緋和が、微笑ましそうに、そしてほんの少しだけ…ヤキモチを妬いているような、そんな複雑な目で見つめていたのは、きっと気のせいではないはずだ。
私の恋の行方も、この嵐の孤島での出来事を通して、また少しだけ、複雑に、そしてドキドキするものへと変わっていこうとしていた。




