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第48話:嵐の孤島と、雷鳴の記憶。この震え、あんたのせいじゃないんだから!

古の森の試練を乗り越え、「大地の勾玉」を手に入れた私たちは、休む間もなく次なる封印の場所、「雷の記憶が轟く嵐の孤島」へと向かっていた。「星詠みの竪琴」が示すその場所は、本土から遠く離れた、地図にも載っていないような小さな島だった。その島は、一年中激しい雷雨に見舞われ、「神の怒りに触れた島」として、古くから船乗りたちに恐れられているという。船の上から見える故郷の星影高校は、今はもう米粒ほどの大きさにも見えない。あの学園は、今どうなっているのだろうか…私たちが旅立ってから数日、緋和がお母さんにこっそり電話で聞いた話では、まだ原因不明の体調不良を訴える生徒が後を絶たず、学園全体が重苦しい空気に包まれているという。私たちがいない間、おばあ様や、もしかしたら氷華ちゃんが、何かと戦ってくれているのかもしれない…。そんなことを考えると、一刻も早く全ての封印を守り抜き、学園に戻らなければという焦りが募る。


「…なんだか、名前を聞いただけで、ものすごく嫌な予感がするんですけど…それに、この海の荒れ具合、尋常じゃないわ…」

小さな漁船に揺られながら、私は不安そうに呟いた。空は鉛色に垂れ込め、海のうねりも激しい。時折、遠くでゴロゴロと雷鳴が轟き、私の心臓を不気味に揺さぶる。その音は、まるで何かの怒りのようだ。

「大丈夫だよ、夏海さん。僕たちがついている。どんな嵐だって、きっと乗り越えられるさ。それに、君のその…少し不安げな表情も、僕は…守ってあげたくなるよ」

秋月先輩が、私の肩を優しく抱き寄せ、力強く励ましてくれる。その温かい腕と、揺るぎない信頼に満ちた瞳に、私の不安は少しだけ和らいだ。でも、最後の言葉は何!?先輩、そんなことサラッと言わないでください!顔が熱くて、嵐のせいなのか先輩のせいなのか分かりません!

「瑠々ちゃん、見て!イルカだよ!すごいすごい!私たちを歓迎してくれてるのかも!」

緋和が、船べりから身を乗り出して、嬉しそうに指差す。そこには、数頭のイルカが、まるで私たちを先導するかのように、船と並んで楽しそうに泳いでいた。その光景は、この重苦しい雰囲気の中で、一服の清涼剤のようだ。彼女の純粋な喜びが、私たちの心にも伝染していく。

「…フン、呑気なものだな。この先の嵐の激しさを知れば、そんなことは言っていられなくなるだろう。イルカだって、ただの気まぐれだ」

冬城は、船の舳先へさきに立ち、腕を組んで遠くの水平線を見つめながら、冷ややかに呟いた。その銀髪が、潮風に激しく靡いている。彼の横顔は、いつも以上に険しく、そしてその瞳の奥には、何か深い苦悩の色が浮かんでいるように見えた。この島に、何か特別な思い入れでもあるのだろうか…。彼のその表情が、私の胸をチクリと刺す。


数時間の航海の末、私たちはついに「嵐の孤島」へとたどり着いた。その島は、想像を絶するほど荒れ狂っており、天からは絶えず激しい雷が降り注ぎ、大地を焦がしていた。まるで、世界が終わるかのような光景だ。岩肌は黒く焼け焦げ、草木一本見当たらない。

「ひどい嵐だ…!こんなところに、本当に封印があるというのか…!まるで、神々が見捨てた土地のようだ…!」

秋月先輩が、息をのむ。

「古文書によると、この島の最も高い場所にある、雷神を祀った古い祠に、第四の封印が隠されているらしいわ。でも、この嵐の中をどうやって…それに、この雷、なんだか特定の場所を狙って落ちているような気がする…」

私が言いかけると、冬城が「…俺が行く」と、低い、そしてどこか押し殺したような声で呟いた。その声は、微かに震えているように聞こえた。

「なっ…!冬城、あんた一人でなんて無茶よ!こんな嵐の中じゃ、いくらあんたでも…!」

「これは、俺の…俺自身の問題でもあるんだ。お前たちは、ここで待っていろ。必ず、封印を守り、そして戻ってくる。これは、俺の…誓いだ」

冬城は、そう言うと、私たちの制止を振り切るように、一人で嵐の中へと飛び出していった。その背中は、どこか悲壮な決意を秘めているように見え、そして嵐の中に消えていく彼の姿は、あまりにも儚く、そして孤独に見えた。彼の赤い瞳(今は元の黒曜石の色だが、雷光が差すたびに、一瞬だけ赤く光るような気がした)が、私に向けた最後の視線が、なぜか胸に焼き付いて離れない。その瞳には、言いようのない苦しみと、そしてほんの僅かな…助けを求めるような色が浮かんでいたような気がしたのだ。


「冬城くん…!」

秋月先輩が、思わず彼の後を追おうと一歩踏み出す。その表情には、仲間を案じる焦りの色が浮かんでいた。

「待って、先輩!」

私は、咄嗟に先輩の腕を掴んで制止した。

「夏海さん…?でも、冬城くんを一人で行かせるわけには…!」

先輩は、戸惑ったように私を見つめる。

「…分かっています。でも、彼のあの目は…何か、彼自身が乗り越えなければならないものと戦おうとしているように見えました。私たちが行っても、きっと邪魔になるだけです」

そうは言ったものの、私の心の中では、別の感情が渦巻いていた。冬城のあの苦しそうな顔、そして孤独な背中が、私の脳裏から離れないのだ。彼が何を抱えているのかは分からない。でも、このまま彼を一人で行かせるなんて、私にはどうしてもできなかった。

「…ごめんなさい、先輩、緋和。私…やっぱり、彼を一人にはしておけない…!」

私は、二人にそう告げると、今度は私自身が、嵐の中へと駆け出していた。

「瑠々ちゃん!?」

「夏海さん、危険だ!待ってくれ!」

背後から、秋月先輩と緋和の必死な声が聞こえてくる。でも、もう私の耳には届かなかった。私の足は、まるで何かに導かれるように、冬城の後を追っていた。私の黒髪が風雨に激しく打たれ、旅装束もびしょ濡れになるが、そんなことは気にしていられない。私の白い肌は、雷光を反射して青白く光り、その瞳には、仲間を想う強い意志の光が宿っていた。この嵐の中で、私が彼のためにできることがあるのなら、私はそれを全力でやり遂げる。それが、私の選んだ道だから。そして、この胸騒ぎの正体を、確かめなければならないから。


嵐の中を必死で進むと、岩陰で激しい雷雨に打たれながら、苦しげに膝をついている冬城の姿を見つけた。その顔は蒼白で、呼吸も荒く、そしてその瞳は…恐怖に染まり、焦点が合っていない。まるで、何か恐ろしいものを見ているかのようだ。

「冬城っ!大丈夫!しっかりして!」

私が駆け寄ると、彼はハッとしたように顔を上げ、そして私を突き飛ばそうとした。その力は弱々しく、彼の消耗ぶりを物語っていた。

「来るな…!俺に近づくな、夏海瑠々…!お前まで、巻き込むわけには…!」

その声は、いつもの彼からは想像もつできないほど弱々しく、そして怯えていた。その瞳には、深い絶望の色が浮かんでいる。

「何言ってるのよ!あんた、何かに怯えてるんでしょ!?一体何があったの!?私に話して!」

「…雷だ…この雷の音が…あの日の記憶を…妹が…俺のせいで…!俺が、もっと強ければ…!」

冬城は、途切れ途切れにそう言うと、頭を抱えて蹲ってしまった。その肩は、小刻みに震えている。彼の過去のトラウマ…妹の死に、この雷が関係していたというの…?そして、彼はそのことをずっと一人で抱え込んできたというの…?その事実に、私の胸は締め付けられるように痛んだ。

その時、私たちの頭上で、ひときわ大きな雷鳴が轟き、まるで天罰のように巨大な雷が冬城に向かって落ちてきた!その雷は、禍々しい紫色の光を放っていた。

「危ないっ!冬城、逃げて!」

私は、咄嗟に冬城の前に立ちはだかり、両手を広げて彼を庇った。そして、ありったけの力を込めて叫ぶ。

「私の大切な仲間に、指一本触れさせないんだから!あんたなんかの雷に、負けてたまるもんですか!」

その瞬間、私の体から黄金色の光が迸り、雷の直撃を防ぐ強力な結界を作り出した。しかし、雷の威力はあまりにも強大で、結界はすぐに砕け散り、私はその衝撃で意識を失いそうになる。口の中に鉄の味が広がり、視界が霞む。

「夏海瑠々…!なぜ…俺なんかのために…!お前まで…!」

冬城が、信じられないというように目を見開いて私を見つめている。その瞳には、驚愕と、そしてほんの僅かな…希望のような光が宿っている。

「…当たり前じゃない…!あんただって、私の大切な仲間なんだから…!それに…あんたのそんな情けない顔、見てらんないのよ…!しっかりしなさいよ、このヘタレ!」

私は、力を振り絞ってそう言うと、彼の冷たい手を強く握りしめた。その手は、驚くほど震えていた。でも、その震えは、恐怖だけではないような気がした。

「…俺は…俺は、妹を守れなかった…俺には、誰も守る資格なんて…ないんだ…」

「そんなことない!あんたは、今までだって、何度も私たちを助けてくれたじゃない!あんたは強い!だから、もう一度立ち上がって!一緒に、この試練を乗り越えましょう!あんたの妹さんのためにも!」

私の言葉と、握りしめられた手の温もりに、冬城の瞳に、ほんの少しだけ光が戻ったような気がした。彼の唇が、微かに何かを形作ろうとしていた。


そこへ、秋月先輩と緋和も、息を切らしながら駆けつけてきた。

「二人とも、無事か!?なんて無茶をするんだ、夏海さん!」

「冬城くん、しっかりして!瑠々ちゃんが、こんなに頑張ってるんだよ!」

私たちは、四人で力を合わせ、再び雷神の祠を目指す。冬城は、まだ完全に立ち直ってはいないけれど、その瞳には、先ほどまでの絶望の色は消え、代わりに小さな決意の光が灯っていた。そして、私の手を握る彼の手に、ほんの少しだけ力が込められたような気がした。

そして、祠の前で私たちを待ち受けていたのは、雷を自在に操る、鎧武者のような姿をした、まさに「雷の番人」だった。その全身からは、バチバチと紫色の電光が迸り、その手には巨大な雷の槍が握られている。

「よくぞ来た、小娘ども。だが、この先の道は、貴様らのようなひ弱な者たちが通れるほど甘くはないぞ!我が雷の裁きを受けるがいい!」

雷の番人が、その手に持つ巨大な雷の槍を私たちに向けてくる。その切っ先は、確実に私を狙っていた。

「ひ弱なんかじゃないわ!私たちは、絶対に負けないんだから!そして、あんたなんかの雷より、私たちの絆の方がずっと強いんだから!」

私は、冬城の手をぎゅっと握りしめたまま、雷の番人を真っ直ぐに見据え、力強く宣言した。その瞬間、私の体と、そして冬城の体から、黄金色の光と、そして…なぜか、冬城の体からは、彼の赤い瞳と同じ、禍々しくも力強い赤いオーラが同時に放たれたのだ!二つの光が絡み合い、共鳴し、これまでにないほどの強大な力を生み出していく。それは、まるで嵐の中で生まれた、新たな希望の光のようだった。

私の胸のドキドキは、もう止まりそうにない。これは、恐怖からくるものじゃない。仲間との絆と、そして…この、冬城との間に生まれた、言葉にできない不思議な感覚のせいだ。そして、この力が、きっと私たちを勝利へと導いてくれるはずだ。

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