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第46話:古の森の囁きと、緑の迷路。このドキドキ、森の精霊のイタズラ!?

風の神器「星詠みの竪琴」と「風の心」を手に入れ、風の精霊から次なる封印の場所――「地の記憶が脈打つ古の森」――への道しるべを得た私たちは、新たな決意を胸に、再び険しい旅路へと足を踏み出した。竪琴の弦を軽く爪弾けば、まるで風が囁くような優しい音色が響き、私たちの疲れた心を癒やしてくれる。その音色は、まるで氷華ちゃんの励ましの声のようにも聞こえ、私の心に勇気と、そしてほんの少しの切なさを運んできた。あの時、彼女を助けに戻れなかった後悔が、まだ胸の奥にチリチリと残っている。


数日間の旅は、決して楽なものではなかった。険しい山道を踏破し、時には道なき道を進み、夜は洞窟や廃屋で、獣の遠吠えにおびえながら身を寄せ合って眠ることもあった。そんな過酷な状況でも、緋和は持ち前の明るさで私たちを励まし、「見て見て瑠々ちゃん!あそこにすっごく綺麗な蝶々がいるよ!もしかして、幸運の蝶かも!」なんて、些細なことにも喜びを見つけては、私たちの心を和ませてくれた。その笑顔は、どんな困難も吹き飛ばしてくれそうだ。彼女の頭の上の星形のヘアピンが、まるで小さな太陽のようにキラキラと輝いている。

秋月先輩は、豊富な知識と経験で私たちを導き、「このキノコは食べられるけど、こっちは猛毒だから気をつけて。夏海さん、君は食いしん坊だから特にね」なんて、さりげない優しさ(と、ちょっとしたイジり)を見せてくれる。その度に、私の心臓はキュンと高鳴り、顔が熱くなるのを抑えられない。「誰が食いしん坊ですって!」と反論しつつも、彼のその悪戯っぽい笑顔が、たまらなく好きだったりする。

そして冬城は…まあ、相変わらずの憎まれ口を叩きながらも、いざという時には誰よりも頼りになった。私が崖から滑り落ちそうになった時、無言で私の腕を掴んで力強く引き上げてくれたり、夜の見張りを率先して買って出て、私たちが眠っている間、ずっと入り口で番をしてくれていたり…その不器用な優しさに、私は戸惑いつつも、どこか安心感を覚えていた。彼が時折見せる、遠い目をするような寂しげな表情が、私の心を締め付ける。この男も、きっと何か大きなものを背負っているのだろう。そして、彼が私のために(絶対にそうだとは認めないだろうけど!)倒してくれた、森の奥で遭遇した牙をむく巨大な猪の幻影のことは、私だけの秘密にしておこう。


そして、ついに私たちは「地の記憶が脈打つ古の森」の入り口へとたどり着いた。そこは、樹齢千年を超えるかのような巨大な木々が天を覆い、昼なお暗い、神秘的で、そしてどこか…私たちを試すような、厳粛な雰囲気を漂わせる広大な森だった。地面は柔らかな苔で覆われ、私たちの足音を優しく吸い込んでしまう。時折、獣の遠吠えのような音や、木々の葉が擦れ合う音が、まるで森自身が私たちに囁きかけてくるかのように聞こえてくる。「お前たちに、この聖域へ足を踏み入れる資格があるのか」と。

「わぁ…なんだか、おとぎ話に出てくる魔法の森みたいだね…でも、ちょっと怖いかも…木の枝が、なんだかこっちを見てるみたい…」

緋和が、私の腕にそっとしがみつきながら、不安そうに呟く。彼女の大きな瞳が、暗い森の奥を怯えたように見つめている。

「大丈夫よ、緋和。私たちがついているから。それに、この森、なんだか懐かしいような、優しい気配もするわ。まるで、誰かに呼ばれているような…」

私は、緋和の手を握り返し、できるだけ力強い声で言った。実際、この森からは、禍々しい気配は感じられない。むしろ、どこか清浄で、そして私たちを試すような、そんな不思議な力を感じていた。私の胸元の「炎の勾玉」と、手にした「風の心」が、微かに温かく反応し、まるで森の呼吸と共鳴しているかのようだ。

「夏海さんの言う通りだね。この森は、ただ不気味なだけじゃない。何か、とても古く、そして尊いものが眠っているような気がするよ。僕の家の神社にも、こんな雰囲気の場所があるんだ。そこは、神様が降りてくる聖域だと言われているんだ」

秋月先輩も、周囲の気配を探るように、真剣な表情で頷いた。彼の持つ神社の古いお守りが、微かな光を放ち、私たちを導くように揺れている。

「…フン、感傷に浸っている暇があるなら、さっさと進むぞ。この森は、見た目以上に厄介だ。幻覚を見せる植物や、旅人を惑わす精霊もいると聞く。油断すれば、二度と出られなくなるぞ。特に、お前のような方向音痴で、すぐに幻に惑わされるような奴はな、夏海瑠々」

冬城は、相変わらずのぶっきらぼうな口調だが、その瞳は鋭く周囲を警戒しており、私たちの安全を気遣っているのが伝わってくる。彼の腰に差した銀の短剣が、森の木漏れ日を反射してキラリと光った。そして、最後の言葉は何よ!誰が方向音痴ですって!失礼しちゃうわね!

「なっ…!誰が方向音痴ですって!?あんただって、さっきから同じ場所ぐるぐる回ってるじゃない!それに、幻に惑わされるのは、あんたの方でしょ、この朴念仁!」

私は、思わずカッとなって冬城に食ってかかった。この男は、本当に一言多いんだから!でも、その時の彼の、ほんの少しだけ驚いたような、そしてすぐにふいと顔を背けた時の、耳まで赤くなっているように見えた横顔が、なぜか私の脳裏に焼き付いて離れなかった。


私たちは、緋和が「これなら道に迷わないかも!それに、可愛いし!」と持ってきた、カラフルな花の形をしたリボンを木の枝に結びつけながら、慎重に森の奥深くへと進んでいった。しかし、冬城の言った通り、この森は一筋縄ではいかなかった。

突然、目の前の道が消え失せ、気づけば私たちは同じ場所をぐるぐると回っているような感覚に陥った。まるで、森自身が私たちを拒絶しているかのようだ。

「きゃっ!へ、蛇!大きな蛇がいるよぉ!しかも、七色の!」

緋和が悲鳴を上げるが、そこにはただの虹色に光る木の蔓があるだけ。

「うわっ!先輩、あそこに月影先生が…!いえ、あれは…おばあ様…?」

私が指差した先には、不気味な笑みを浮かべる月影先生の幻影と、なぜか厳しい顔で私を叱りつけてくるおばあ様の幻影が、交互に現れては消えていく。それは、私の心の奥底にある恐怖と罪悪感を映し出しているかのようだ。

「…落ち着け、夏海瑠々。あれは幻だ。お前の心の弱さが見せる、ただの虚像に過ぎん。お前が本当に向き合うべきは、そんなものじゃないはずだ」

冬城が、私の肩を掴み、低い声で、しかし力強く叱咤する。その力強い手と、真剣な眼差しに、私はハッと我に返った。彼の言葉は、まるで私の心を見透かしているかのようだ。

「ご、ごめんなさい…私としたことが…取り乱してしまって…」

「大丈夫だよ、夏海さん。誰だって、怖いものは怖いんだから。僕も、正直ちょっとドキッとしたよ。でも、君のその…涙を堪える健気な姿、僕は…すごく綺麗だと思うよ」

秋月先輩が、優しく微笑んでくれる。その笑顔と、ストレートな褒め言葉に、私の心は少しだけ軽くなり、そして顔がカッと熱くなるのを感じた。先輩、そんなこと言われたら、私、もっと頑張っちゃいますから!


そんな中、私たちはついに森の最深部、ひときわ巨大な、まるで天を突くかのような大樹の前にたどり着いた。その大樹は、何千年もの時を生き抜いてきたかのような圧倒的な存在感を放ち、その枝葉は空を覆い尽くさんばかりに広がっている。そして、その大樹からは、他の場所とは比較にならないほど強く、そして清浄な「地の気」が溢れ出していた。ここが、第三の封印の場所、「地の記憶が脈打つ古の森」に違いない。その神々しいまでの光景に、私たちはただ息をのむ。

しかし、その大樹の根元には、一体の巨大な、熊のような姿をした、しかし全身が鮮やかな緑色の苔と美しい花々で覆われた、森の精霊のような存在が、静かに座っていた。その瞳は、深い森の湖のように澄み切り、そしてどこか物悲しい光を宿しながら、私たちをじっと見つめている。その姿は、恐ろしいというよりも、むしろ神聖で、そしてどこか愛らしい。

『…よくぞ参った、人の子らよ。そして、星影の巫女よ。我は、この古の森と、ここに眠る“地の記憶の封印”を守護する者、“森のぬし”じゃ。お前たちの来訪を、長きに渡り待ちわびておったぞ…』

その声は、古木の幹がきしむような、低く、そしてどこか懐かしい、温かい響きを持っていた。

『お前たちが真にこの封印を守るに値するか、そして、その力が自然と調和し、万物を慈しむ心を持っているか…試させてもらうとしようかのう。この森の試練を、乗り越えてみせよ。お前たちの、その美しい魂の輝きをな』

森の主がそう言うと、周囲の木々がざわざわと揺れ動き、私たちの目の前に、緑の蔦と、色とりどりの花々でできた、美しくも複雑な迷路が現れたのだ。そして、その迷路の中からは、森の動物たちの姿をした、しかしどこか禍々しい気を放つ、幻影の獣たちが次々と姿を現し始めた。その獣たちは、まるで私たちの心の迷いを映し出すかのように、悲しげな瞳で私たちを見つめている。

「これは…!私たちの、自然を敬う心と、生きとし生けるものへの慈しみの心が試されるというの…!?そして、この迷路は…私たちの心の迷いを表しているのかしら…?」

秋月先輩が、息をのむ。その瞳には、試練への覚悟と、そして私への信頼が宿っている。

「面白い…やってやろうじゃないか。こんなぬいぐるみみたいな奴ら、俺一人で十分だ!だが、夏海瑠々、お前のその浄化の力も、ここでは必要になるかもしれんな。せいぜい、俺の足を引っ張るなよ」

冬城が、好戦的な笑みを浮かべて銀の短剣を構える。その言葉は相変わらずだが、その瞳の奥には、私への期待のようなものが微かに揺らめいていた。

「瑠々ちゃん、どうする…?なんだか、この迷路、すごく難しそうだよ…それに、あの動物さんたち、なんだか可哀想…」

緋和が、不安そうに私を見上げる。その大きな瞳は、優しさと困惑で揺れていた。

私は、緋和の手をぎゅっと握りしめた。そして、胸に抱いた「星詠みの竪琴」にそっと触れる。そこからは、温かい風の記憶が流れ込んでくるようだ。

「…大丈夫よ、緋和。私たちは、絶対にこの試練を乗り越えられる。だって、私たちには、仲間がいるんだから。そして、私のこの力は、きっと自然とも調和できるはずだわ!この森の悲しみも、私たちの愛で、きっと癒せるはずよ!」

私は、力強く宣言した。その瞳には、迷いのない強い意志の光が宿っていた。私の白い肌は、森の木漏れ日を浴びて、まるで新緑のように瑞々しく輝いている。私の黒髪が、決意と共に風に美しく舞う。

私たちの、新たな試練が始まろうとしていた。そして、この森の奥に眠る「地の記憶の封印」とは、一体何を意味しているのだろうか…?

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