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第43話:風の記憶と、空の迷宮。このドキドキ、試されてる!?

温泉宿での束の間の休息と、ちょっぴり(いや、かなり?)ドキドキする夜を過ごした私たちは、新たな決意を胸に、次なる封印の場所、「風の記憶が囁く天空の社」を目指して再び旅路についた。焔群さんから託された「炎の勾玉」は、私の胸元で温かく輝き、その力強いエネルギーが私の体を満たしていくのを感じる。そして「星詠みの竪琴」は、時折優しい音色を奏でて、私たちの進むべき道を示してくれているようだ。その音色は、まるで氷華ちゃんの励ましの声のようにも聞こえ、私の心に勇気を与えてくれた。


数日間の旅は、決して楽なものではなかった。険しい山道を踏破し、時には道なき道を進み、夜は洞窟や廃屋で野宿することもあった。そんな過酷な状況でも、緋和は持ち前の明るさで私たちを励まし、「瑠々ちゃん、見て見て!あそこに虹が出てるよ!きっと良いことあるって!」なんて、些細なことにも喜びを見つけては、私たちの心を和ませてくれた。その笑顔は、どんな困難も吹き飛ばしてくれそうだ。

秋月先輩は、豊富な知識と経験で私たちを導き、「この薬草は傷に効くんだ。夏海さん、さっき擦りむいたところに塗っておくといいよ」なんて、さりげない優しさを見せてくれる。その度に、私の心臓はキュンと高鳴り、顔が熱くなるのを抑えられない。

そして冬城は…まあ、相変わらずの憎まれ口を叩きながらも、いざという時には誰よりも頼りになった。私が崖から滑り落ちそうになった時、無言で私の腕を掴んで引き上げてくれたり、夜の見張りを率先して買って出てくれたり…その不器用な優しさに、私は戸惑いつつも、どこか安心感を覚えていた。

私の旅装束も、おばあ様が「夏海家の巫女としての正装じゃ。その身に宿る力を、正しく導いてくれるはずじゃ」と言って用意してくれた、動きやすくて丈夫な、それでいてどこか神聖な雰囲気を漂わせる白い上衣に、茜色の袴。髪も、邪魔にならないように高い位置でポニーテールに結い上げ、そこに氷華ちゃんにもらったのと同じような、小さな青い鳥の羽根の髪飾りをつけてみた。鏡で自分の姿を見た時は、なんだか恥ずかしくてたまらなかったけれど、緋和には「瑠々ちゃん、めちゃくちゃ似合ってる!凛としてて、まるで戦うお姫様みたい!そのポニーテール、うなじがセクシーだよ!先輩も冬城くんも、絶対ドキドキしてるって!」と絶賛されたし、先輩も「…すごく、綺麗だよ、夏海さん。その髪飾りも、君の黒髪によく映えて…まるで、物語の中の巫女姫様みたいだ。僕が、必ず君を守るからね」なんて、顔を赤らめながら、でも真剣な眼差しで言ってくれたものだから、まあ、悪くないかもしれない、なんて思ったりして。冬城は…相変わらず何も言わなかったけれど、その視線が、ほんの少しだけ私の髪飾りと、そして…うなじのあたりを追っていたような気がしたのは、きっと気のせいだわ。絶対に気のせい!でも、その視線を感じるたびに、私の背中がなんだかソワソワしてしまう。


そして、ついに私たちは「風の記憶が囁く天空の社」のふもとへとたどり着いた。そこは、天にも届きそうなほど高くそびえ立つ、巨大な螺旋状の岩山だった。山頂付近は常に厚い乳白色の雲に覆われ、その全容を窺い知ることはできない。そして、その岩山からは、まるで生きているかのように、絶えず強い風が吹き下ろしてきていた。その風は、時に優しく頬を撫でるかと思えば、次の瞬間には全てを薙ぎ払わんばかりの暴風へと変わる、気まぐれで、そしてどこか神聖な気配を纏っていた。

「ここが…天空の社…。古文書によると、この山頂に、風の記憶を司る古の社があり、そこに第二の封印が隠されているらしいわ。でも、この風…なんだか、ただの風じゃないみたい…まるで、私たちを試しているみたい…」

私は、風で乱れる髪を押さえながら、目の前の圧倒的な光景を見上げた。

「すごい…本当に、空に浮かんでいるみたいだね…まるで、神々の住まう場所のようだ…でも、瑠々ちゃんの言う通り、この風には何か特別な力を感じるよ。気を引き締めていこう」

秋月先輩も、感嘆の声を漏らしながらも、その表情には警戒の色が浮かんでいる。

「…だが、この風は尋常ではない。ただの自然現象ではなさそうだ。おそらく、社を守るための強力な結界の一種だろう。そして、この風の中には、無数の“声”が混じっている…悲しみ、怒り、そして…ほんの少しの喜びも…そして、微かにだが、マガツモノの気配もする。油断は禁物だぞ」

冬城が、目を細めて山頂を見据えながら、鋭い分析を口にする。彼の言う通り、風の音に混じって、まるで誰かの囁き声のような、あるいは遠い昔の誰かの嘆きのような、様々な感情を乗せた不思議な音が聞こえてくるような気がした。それは、この土地に刻まれた、永い「記憶」の残響なのかもしれない。そして、マガツモノの気配…やはり、ここも「黒き月影」に狙われているというの…?


私たちは、意を決してその螺旋状の岩山を登り始めた。道は険しく、一歩足を踏み外せば奈落の底へと真っ逆さまに落ちてしまいそうだ。そして、登れば登るほど、風はますます強くなり、私たちの体力を容赦なく奪っていく。時には、突風が私たちを吹き飛ばそうとし、その度に私たちは必死で岩肌にしがみついた。私のポニーテールも、もうぐちゃぐちゃだ。

「きゃっ!…うっ…!」

突然の強風に煽られ、私がバランスを崩して崖から落ちそうになった瞬間、力強い腕が私の体をぐっと引き寄せ、その危機から救ってくれた。しかし、その勢いで、私たちは二人とも岩肌に強く体を打ち付けてしまう。

「だ、大丈夫か、夏海さん!?しっかり僕に捕まって!絶対に離さないから!君のその…細い体が、風に飛ばされてしまいそうで、気が気じゃなかったんだ…!」

秋月先輩だった。彼は、私を自分の胸に強く抱きしめ、その逞しい体で風から守ってくれていた。その距離の近さと、彼の心臓の音が、私の心臓の音と重なり合う。彼の首筋から、汗と、そしてほんのり甘いような、男の人の匂いがして、私の顔がカッと熱くなる。

「せ、先輩…ありがとうございます…!もう、大丈夫ですから…!先輩こそ、お怪我は…?」

顔を真っ赤にして身を捩ろうとする私に、先輩は「いや、まだ危ない。もう少しだけ、このままでいさせてくれ。君が…心配なんだ。君のその華奢な肩を見ていると、僕が守ってあげなくては、と強く思うんだ」と、真剣な眼差しで私を見つめてきた。その瞳の奥には、私への深い想いが揺らめいているように見えて、私はもうどうしていいか分からなかった。彼の言葉と、その熱い視線が、私の心を溶かしていくようだ。こんな状況なのに、不謹慎かもしれないけれど、先輩の腕の中は、すごく安心する…。

そんな私たちを、少し離れた場所から、冬城が腕を組み、何か言いたげな、しかし結局何も言わずに、ただじっと見つめていた。その黒曜石のような瞳の奥に、ほんの僅かだけ、チリッとした嫉妬のような、そして何か諦めたような複雑な光が宿っていたような気がしたのは、きっと私の気のせいだわ。でも、彼がふいと顔を背けた時の、その寂しげな横顔が、なぜか私の胸に焼き付いて離れなかった。彼も、何かを抱えているのだろうか…。


数時間に及ぶ過酷な登山の末、私たちはついに山頂へとたどり着いた。そこは、まるで天空に浮かぶ秘密の庭園のような、息をのむほど美しい場所だった。眼下にはどこまでも続く雄大な雲海が広がり、空はまるで磨き上げられたサファイアのように青く澄み渡っている。そして、その中央に、風化した石造りの、しかしどこか神聖な雰囲気を漂わせる古の社が、静かに佇んでいた。社の周囲には、見たこともないような美しい高山植物が咲き乱れ、優しい風が私たちの汗ばんだ頬を撫でていく。その風は、まるで私たちを歓迎しているかのようだ。

「ここが…天空の社…。なんて…綺麗なの…。本当に、神様が住んでいるみたい…」

私は、その荘厳で幻想的な光景に圧倒され、言葉を失う。こんな美しい場所が、この世に存在するなんて…。私の心は、洗われるような清々しい気持ちで満たされていた。

しかし、私たちが社に近づこうとした、その瞬間。

社の周囲に、突風と共に無数の、まるでガラスの破片のように鋭く尖った風の刃が渦を巻いて現れ、私たちの行く手を阻んだ。そして、社の中から、鈴を転がすように美しく、しかしどこか冷たく、そして威厳に満ちた女性の声が聞こえてきた。その声は、風そのものが語りかけてくるかのようだ。

『何奴じゃ…?この聖なる風の社に、土足で踏み入ろうとする不埒者は…。その身に纏う気配…人の子か。そして、その中には…星影の印を持つ者もいるようじゃな。その力…それは、希望か、それとも災厄か…』

声と共に、社の中から、淡い翠色みどりいろの、風にそよぐ薄絹のような衣を纏い、風のように軽やかな銀色の長い髪を持つ、人間離れした美しさを持つ女性の姿をした存在が現れた。その瞳は、嵐の前の空のように深い青色をしており、私たちを厳しく、そしてどこか探るように見据えている。彼女こそが、この天空の社を守護する「風の巫女」なのだろうか。その全身からは、気まぐれで、しかし抗いがたいほどの強大な風の力が溢れ出していた。彼女の周りには、小さな風の精霊たちが戯れるように舞っている。

「私たちは、この世界の封印を守るために参りました!どうか、私たちに道をお示しください!そして、この社に眠るという“風の記憶の封印”について、教えていただけませんか!私たちは、決してこの聖域を汚すつもりはありません!」

秋月先輩が、代表して礼儀正しく、しかし毅然とした態度で声をかける。その声には、一切の迷いがない。

しかし、風の巫女は、冷ややかに私たちを一瞥すると、特に私にその視線を向け、その美しい唇に酷薄な笑みを浮かべてこう言い放った。

『…ほう、星影の印を持つ小娘か。その身に宿す力は確かに強大じゃが、その心にはまだ多くの迷いと、そして…甘ったるい恋心が見えるわ。まるで、熟れる前の果実のようじゃな。そして、その隣に立つ二人の男…お主の心を惑わす、二つの異なる風じゃな。一方は温かく包み込む陽だまりの風、もう一方は全てを凍てつかせるような鋭い北風か。果たして、お前はその風に正しく導かれるのか、それともただ翻弄され、道を見失い、そして破滅するのか…試させてもらおうかのう。この“天空の迷宮”でな!お前たちの絆と、そしてお前自身の心の強さを!もし、お前たちが真にこの聖域を守るに値する者たちならば、この迷宮を突破し、風の神器を手に入れることができるじゃろう。だが、もしそうでなければ…永遠に風の戯れに弄ばれるがよい!』

その言葉と共に、私たちの周囲の景色がぐにゃりと歪み、気づけば私たちは、風が吹き荒れる、出口の見えない巨大な石造りの迷宮の中に立たされていた。壁は天高くそびえ立ち、空は厚い雲に覆われて太陽の光も届かない。そして、迷宮の壁には、無数の風穴が開いており、そこから絶えず方向の定まらない突風が吹き付けてくる。

「きゃっ!な、何が起こったの!?ここ、どこ!?」

緋和が悲鳴を上げる。

「…どうやら、試練が始まったようだな。この迷宮を突破し、風の巫女に我々の力を認めさせなければ、先へは進めないということか。面白い…やってやろうじゃないか。だが、この風…ただの風ではないな。我々の心を惑わす、幻影の風か…」

冬城が、冷静に状況を分析しながらも、その瞳の奥には好戦的な光が宿っている。彼の言葉通り、風の中には、時折、私たちの過去のトラウマや、心の弱さを見透かすような、不気味な囁き声が混じっているような気がした。

「でも、どうやって…?どこもかしこも同じような壁ばかりで…それに、この風、なんだかおかしいわ…まるで、私たちの心を読んでいるみたいで、気持ち悪い…」

私が不安そうに呟くと、秋月先輩が私の手をそっと、しかし力強く握った。その手の温もりが、私の心を少しだけ落ち着かせてくれる。

「大丈夫だよ、夏海さん。僕たちがついている。どんな困難な迷宮だって、みんなで力を合わせれば、きっと抜け出せるはずだ。それに、君には“星詠みの竪琴”があるじゃないか。その清らかな音色が、きっと正しい道を示してくれるはずだよ。君のその美しい瞳で、真実の道を見つけ出すんだ。僕はずっと、君のそばにいるから」

先輩の言葉に、私はハッとした。そうだ、私にはこの竪琴がある。そして、信じられる仲間たちがいる。そして、先輩のその熱い視線と、握られた手の温もりが、私の心に勇気の炎を灯してくれる。

私は、竪琴を構え、深呼吸を一つした。その瞬間、私の髪がふわりと風に舞い、その白い肌は、迷宮の薄暗がりの中で、まるで内側から淡い光を放っているかのように見えた。

「…ええ、そうですね、先輩。私、やってみます!このドキドキは、きっと試練への武者震いですから!そして、私のこの想いも、きっとこの風に乗って、どこまでも届くはずですから!みんな、行くわよ!」

私は、二人に向かって力強く微笑んでみせた。その笑顔は、自分でも驚くほど、自信に満ち溢れていた。私の黒髪が、迷宮の中を吹き抜ける風に美しく舞う。私たちの新たな試練が、今、始まろうとしていた。

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