表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/51

第41話:炎の涙と、浄化の歌声。この熱い想い、きっと伝わるはず!

「夏海さん、今だ!冬城くんが時間を稼いでくれているうちに、君のその竪琴の力で、炎の獅子の心を鎮めるんだ!彼のあの苦しそうな瞳…きっと、何か理由があるはずだ!彼を、救ってあげてくれ!」

秋月先輩の切実な叫び声が、激しい炎と氷の応酬の中で、私の鼓膜を、そして心の奥底を強く打った。先輩の言う通り、炎の獅子の燃え盛る瞳の奥には、ただの怒りだけではない、何か深い悲しみと、そして救いを求めるような苦しみが宿っているように見える。彼は、本当に私たちを滅ぼしたいわけではないのかもしれない。その魂が、何か大きなものに縛り付けられているような、そんな痛ましさを感じた。


私は、胸に抱いた「星詠みの竪琴」を構え、心を込めて、あの「星詠鳥の唄」を奏で始めた。その清らかで優しい音色は、荒れ狂う炎と氷の中で、まるで一筋の希望の光のように、静かに、しかし力強く響き渡る。私の歌声と竪琴の音色が、炎の獅子の荒ぶる心に、ゆっくりと、しかし確実に届いていくのを感じた。私の黒髪が熱風に煽られ、汗ばんだ白い肌が炎の照り返しで赤く染まっている。その姿は、きっと必死で、そして無我夢中だったに違いないけれど、その瞳には、目の前の存在を救いたいという、強い意志の光が宿っていた。この歌声で、彼の心を癒せるのなら…。


星影ほしかげよ 清き光よ 闇を祓い 地を鎮めたまえ

ほむらに宿る いにしえの記憶 悲しみの鎖を 今こそ解き放て

その猛き魂に 安らぎを与え 真実の姿へと 導きたまえ…』


私の歌声は、最初は震えていたけれど、次第に力を増し、炎の獅子の心を優しく包み込んでいく。それは、ただの歌ではない。夏海家に代々伝わる、魂を浄化し、癒やすための、聖なる祝詞のりとそのものだった。すると、あれほど激しく抵抗していた炎の獅子の動きが、ほんの少しだけ和らいだように見えた。その燃え盛る瞳から、まるで溶岩のような、熱く赤い涙が一筋、また一筋と流れ落ちるのが見えた。

「…ああ…この歌は…懐かしい…あの時の…巫女の…歌…我を…我を縛り付けていた、憎しみの炎が…消えていく…」

炎の獅子が、苦しげに、しかしどこか安堵したような、そして何よりも人間らしい声で呟いた。その声は、もう獣の咆哮ではなく、深い悲しみを湛えた青年のものだった。

その瞬間、彼の体から放たれていた禍々しい熱波がすっと収まり、代わりに温かく、そしてどこか切ない、清浄なオーラが立ち昇り始めた。彼の姿も、巨大な炎の獅子から、徐々に人間の姿へと変わっていく。炎の衣が消え、その下から現れたのは、燃えるような赤い髪と、力強い、しかし今は涙に濡れた瞳を持つ、屈強な戦士のような青年だった。しかし、その表情は深く傷つき、そして長い間、筆舌に尽くしがたいほどの苦しみに耐えてきたことを物語っていた。その瞳の奥には、ようやく解放された魂の、深い安堵の色が浮かんでいる。


「…我は、この“火の記憶の封印”を守護する番人、焔群ほむら…。長きに渡り、この地に封じられた“古き災い”の怨念と、その力の残滓ざんしから生まれた、この忌まわしき炎の呪縛に、たった一人で戦い続けてきたのだ…」

彼は、私たちに、この地に封印された災いの力の強大さと、それを抑え込むための苦しみ、そして「黒き月影」の者たちが、この封印を破り、災いの力を利用しようと何度も接触してきたことを、途切れ途切れに、しかし力強く語ってくれた。彼の瞳には、深い絶望と、そしてほんの僅かな希望の光が揺らめいていた。そして、その視線は、私に真っ直ぐに向けられていた。

「お前のその歌声…そして、その清浄なる魂の輝きが、我が心を縛り付けていた憎しみの炎を浄化してくれたのだ…感謝する、星影の巫女よ…」


「…そうだったのですね…あなたは、ずっと一人で戦って…辛かったでしょう…?」

秋月先輩が、同情と敬意を込めて呟く。その声は、焔群さんの心の傷に寄り添うように、優しく響いた。先輩のこういうところが、私は本当に…尊敬する。

「…お前のその赤い瞳…まさか、お前も“あの日”の生き残りか…?その瞳は、我と同じ、呪われた炎の色をしているように見えるが…」

焔群は、冬城の赤い瞳(今は元の黒曜石の色に戻ろうとしているが、まだ微かに赤い光が残っている)をじっと見つめ、意味深な言葉を口にした。冬城は、その言葉に一瞬だけ表情を強張らせ、その整った顔を苦痛に歪ませたが、すぐにいつもの無表情に戻り、「…お前には関係ないことだ。俺は、俺の目的のために、この力を使っているだけだ」とだけ、低い声で答えた。その声には、普段の彼からは感じられない、深い闇と孤独が滲んでいるような気がして、私の胸がチクリと痛んだ。この男もまた、何か大きなものを背負っているのかもしれない…。

「星影の巫女よ…お前のその歌声と、清浄なる力は、我が心の奥底にこびりついていた怨念を浄化し、そして、この地にかけられた呪いをも解き放ってくれた…心から、礼を言う…」

焔群は、私に向かって深々と頭を下げた。その姿は、もはや恐ろしい番人ではなく、ただ一人の、苦しみから解放された魂のように見えた。

「そして、この“火の記憶の封印”を、お前たちに託そう。この“炎の勾玉まがたま”が、その証だ。これを持つ者は、炎の力を操り、そして炎の記憶と繋がることができるだろう。だが、気をつけよ…炎の力は、時に持ち主をも焼き尽くす諸刃の剣となることを…」

彼が差し出したのは、まるで燃える炎をそのまま閉じ込めたかのような、赤く、そして美しく輝く勾玉だった。その勾玉からは、温かく、そして力強いエネルギーが放たれている。それを受け取ると、私の右手首の「星影の印」が、まるで喜ぶかのように温かく反応し、胸に抱いた「星詠みの竪琴」からも、共鳴するような優しい音色が響き渡った。

二つ目の封印は、こうして守られたのだ。そして、私は新たな力を手に入れた。でも、それと同時に、新たな責任と、そしてほんの少しの不安も…。


洞窟の外へ出ると、空はすっかりと晴れ渡り、美しい夕焼けが西の空を茜色に染めていた。まるで、私たちの戦いを祝福してくれるかのように。

「…やったね、瑠々ちゃん!本当にすごかったよ!あの歌声、私、感動して涙が出ちゃった!」

緋和が、満面の笑顔で私に抱きついてくる。その太陽みたいな笑顔は、私の疲れた心を一瞬で元気にしてくれる。

「べ、別に、私だけの力じゃないわよ!先輩と、その…あいつが助けてくれたからよ!」

私は、顔を真っ赤にしながら、いつものようにそっけない言葉を返してしまう。でも、本当は、緋和の言葉がすごく嬉しかった。

「夏海さん、本当に素晴らしかったよ。君のその歌声は、僕の心にも深く響いた。君は、本当に…特別な力を持っているんだね。そして、その力は、きっと多くの人を救うことができるはずだ」

秋月先輩が、私の頭を優しく撫でながら、そう言ってくれた。その手の温かさと、真摯な眼差しに、私の心臓はまたしても甘く高鳴る。先輩のその言葉は、私の力の「代償」への不安を、少しだけ和らげてくれるようだった。

「…フン、まあ、今回は少しはマシだったんじゃないか、夏海瑠々。だが、調子に乗るなよ。お前のその力は、まだ不安定だ。それに、あの焔群とかいう男…彼が見せた赤い瞳、お前も気になっただろう?あれは、ただの炎の力ではない。もっと根源的な、そして危険な何かが関わっている可能性がある」

冬城は、腕を組み、相変わらずのクールな口調だったが、その言葉の端々には、私への気遣いと、そして新たな謎への警戒心が滲んでいた。そして、彼が私のことを見つめるその瞳の奥に、ほんの少しだけ、柔らかい光が灯っているような気がしたのは、きっと気のせいではないはずだ。この男の、こういう不器用な優しさに、私はどうしてこんなにドキドキしてしまうのだろう…。


二つ目の封印を守り、新たな力を手に入れた私たち。でも、焔群さんの最後の言葉、「炎の力は、時に持ち主をも焼き尽くす諸刃の剣となる」という警告が、私の胸に重くのしかかっていた。そして、冬城の赤い瞳の秘密…。私たちの旅は、まだ始まったばかりなのだ。この先に待ち受ける試練は、きっともっと過酷なものになるだろう。でも、私には、信じられる仲間たちがいる。この絆がある限り、私は絶対に負けない。そして、このドキドキする想いも、きっと…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ