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第38話:風の告白と、星の囁き。このドキドキ、もう止められない!

嵐が去った天空の社には、嘘のような静寂と、そして雨上がりの澄み切った空気が満ちていた。私たちの目の前には、先ほどまでの荒々しい姿とは打って変わって、銀色の長い髪を風になびかせ、厳格ながらもどこか優しい眼差しをした、息をのむほどに美しい青年の姿の風の精霊が立っていた。その瞳には、もう怒りの色はなく、ただ深い安堵と、そして私たちへの…感謝のようなものが浮かんでいるように見える。


「…見事であった、星影の巫女よ。そして、その仲間たち。お前たちの勇気と絆、そしてその清浄なる力、確かに見届けた。どうやら、我は大きな勘違いをしていたようだ…お前たちのその力は、災いを呼ぶものではなく、むしろ…この世界を救うための、希望の光なのかもしれんな…」

風の精霊は、私たちに向かって深々と頭を下げた。その声は、嵐の轟音とは打って変わって、澄み切った風の音のように、心地よく響いた。

「あ、あの…頭を上げてください!私たち、そんな…大したことなんて…」

私は、恐縮して思わずそう言ってしまう。彼のその真摯な態度に、なんだかこちらまで背筋が伸びる思いだ。

「いや、礼を言わせてくれ。お前たちのおかげで、我もまた、長きに渡る誤解と…そして、孤独から解放されたのだからな」

風の精霊は、そう言って、ふっと寂しげな笑みを浮かべた。その表情は、先ほどまでの威圧的な雰囲気とは全く違い、どこか人間らしい温かみを感じさせた。


「あの…風の番人…いえ、風の精霊様。あなたは、私たちのことを知っていたのですか?そして、なぜ私たちを試すようなことを…?」

秋月先輩が、代表して尋ねる。その声は、いつものように穏やかだが、その瞳の奥には鋭い知性の光が宿っている。

風の精霊は、ゆっくりと語り始めた。

彼が、何百年もの間、この天空の社と、ここに眠る「風の記憶の封印」を守護してきたこと。そして、かつて「黒き月影」の前身とも言える邪悪な存在が、この封印を破ろうとし、その際に「星影の印」を持つ者が、その力を悪用して災厄を引き起こしたという、歪められた伝承を信じてしまっていたこと。

「…だから、お前たちのその力を見た時、再びあの悲劇が繰り返されるのではないかと、我は恐れたのだ。だが、お前たちの戦いぶり、そして何よりも、その清浄なる魂の輝きは、我が長きに渡る誤解を解き放ってくれた。お前たちは、真にこの聖域を守るに値する者たちだ」

風の精霊の言葉に、私たちは息をのんだ。私たちの力が、過去にそんな悲劇と結びついていたなんて…。


「では、この天空の社に隠された“風の記憶の封印”とは、一体何なのですか?そして、それを守るためには、私たちは何をすれば…?」

私が尋ねると、風の精霊は静かに頷いた。

「うむ。この社には、古の時代に“古き災い”の一部が封じ込められておる。そして、その封印を維持し、強化するためには、“星詠鳥の唄”と、そして星影の巫女の清浄なる力が必要なのじゃ。じゃが、それだけでは足りぬ。封印を完全なものとするためには、この社に隠された“風の神器じんぎ”を見つけ出し、それを正しく使う必要がある」

風の神器…?また新しい謎が出てきたわ。

「その神器は、この社の奥深く、風の精霊たちの試練を乗り越えた者だけが手にすることができる。そして、その試練は、お前たちの絆の強さと、そして…心の奥底にある真実の想いを試すものとなるだろう」

風の精霊は、そう言って、意味ありげに私と、そして私の隣に立つ秋月先輩と冬城を見た。その視線に、私の心臓がまたしてもドキドキと音を立てる。心の奥底にある真実の想い、ですって…!?


「瑠々ちゃん、頑張って!瑠々ちゃんなら絶対大丈夫だよ!だって、瑠々ちゃんは、こんなにかわいくて、強くて、優しいんだから!」

いつの間にか私のそばに来ていた緋和が、私の手をぎゅっと握りしめ、太陽みたいな笑顔で励ましてくれる。その笑顔は、どんなお守りよりも私に勇気を与えてくれる。

「…ありがとう、緋和。私、頑張ってみるわ」

私は、緋和の手にそっと力を込めて握り返した。その瞬間、私の黒髪がふわりと風に舞い、雨上がりの虹のような、淡い七色の光が私を包み込んだような気がした。


「では、参ろうか、星影の巫女よ。そして、その守り手たちよ。試練の道は、この奥だ」

風の精霊に導かれ、私たちは社の奥深くへと続く、風が渦巻く洞窟へと足を踏み入れた。中は薄暗く、絶えず風が吹き抜け、奇妙な音を発している。まるで、風自身が意思を持って私たちを試しているかのようだ。

「夏海さん、大丈夫かい?僕の手を掴んで。決して離さないから」

秋月先輩が、私の手を優しく、しかし力強く握ってくれた。その手の温もりが、私の不安を少しだけ和らげてくれる。彼の横顔は真剣で、その瞳は私への絶対的な信頼を映していた。その瞳に見つめられると、なんだか顔が熱くなって、俯いてしまう。

「…別に、私、そんなに弱くないですから。先輩こそ、足元に気をつけてくださいね」

思わず、いつもの調子でツンとした言葉が口から出てしまう。ああもう、なんで私は素直に「ありがとうございます、先輩」って言えないのかしら!でも、先輩のその大きな手に包まれていると、不思議とどんな困難も乗り越えられそうな気がした。


「…フン、こんな子供騙しの試練、俺一人で十分だ。お前たちは、せいぜい足手まといにならんように、後ろからついてくればいい」

冬城が、いつものようにぶっきらぼうに言い放つ。でも、その声には、どこか私たちを気遣うような響きが含まれているような気がした。そして、彼が私の隣を通り過ぎる瞬間、その手が私の肩にほんの一瞬だけ触れ、「…無理はするな」と、囁くように言ったのを、私は確かに聞いた。その不器用な優しさに、私の心臓はまたしても、キュンと小さく跳ねた。この男、本当に分かりにくいんだから!でも、その冷たい態度の裏に隠された温かさを、私は少しずつ感じ始めていた。


洞窟の奥には、風が作り出した複雑な迷路と、そして風の精霊たちが仕掛けた様々な罠が待ち受けていた。私たちは、互いに助け合い、知恵を出し合い、そして時にはぶつかり合いながらも、一つ一つ試練を乗り越えていく。

瑠々は、持ち前の鋭い勘と、覚醒し始めた力で、風の流れを読み解き、罠を回避する。その真剣な表情と、風に舞う黒髪、そして時折見せる仲間を気遣う優しい笑顔は、ハッとするほど美しく、秋月先輩と冬城の心を強く惹きつけていた。

秋月先輩は、持ち前の知識と、神社の秘術で、仲間たちを危険から守り、進むべき道を照らし出す。その包容力とリーダーシップは、瑠々にとって大きな心の支えとなっていた。

冬城は、その圧倒的な戦闘能力と冷静な判断力で、物理的な障害を排除し、時には瑠々の力の暴走を抑えるための的確なアドバイスを与える。彼の存在は、瑠々にとって、反発しながらもどこか頼りになる、不思議な存在へと変わりつつあった。


そして、ついに私たちは、洞窟の最深部、風の神器が眠るという祭壇へとたどり着いた。

そこには、息をのむほど美しい、風の結晶のような輝きを放つ小さな竪琴たてごとが、静かに置かれていた。

「…これが、風の神器…“星詠みの竪琴エオリアンハープ”…」

風の精霊が、厳かに告げる。

「だが、この神器を手にするためには、最後の試練を乗り越えねばならん。それは、お前たちの心の奥底にある“真実の願い”を、この竪琴に認めさせることだ」

真実の願い…?

その時、竪琴が淡い光を放ち始め、私たちの目の前に、それぞれの心の奥底に秘めた、最も純粋で、そして最も切実な願いが、幻影となって映し出された。

秋月先輩の幻影は、瑠々を優しく抱きしめ、「君の笑顔を、永遠に守りたい」と囁いていた。

冬城の幻影は、今は亡き妹の姿を重ねるかのように、瑠々の手を握りしめ、「もう二度と、大切なものを失いたくない」と悲痛な表情で呟いていた。

そして、私の幻影は…大切な仲間たちに囲まれ、穏やかに微笑んでいる、ごく普通の女の子の姿だった。


「…これが、お前たちの真実の願いか…」

風の精霊が、静かに目を閉じる。

私たちの運命は、そしてこの世界の未来は、この「星詠みの竪琴」に認められるかどうかにかかっていた。私の心臓は、これまでにないほど激しく高鳴っていた。

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