第37話:嵐の中の舞!私の想い、風に乗って届け!
「…ほう、その輝き…確かに、星影の巫女の力か…。ならば、試させてもらおう。お前たちが、本当にこの聖域を守るに値する者たちなのかどうかをな!そして、その力が、真に希望をもたらすものなのか、それともさらなる絶望を呼ぶものなのかをな!覚悟するがいい、小娘!」
風の番人の宣言と共に、天空の社を覆う嵐はさらに激しさを増した。天を引き裂くかのような轟音と共に、巨大な翼から放たれた無数の雷の刃が、まるで意思を持ったかのように私たちに襲いかかる。それは、一瞬にして周囲の岩を砕き、地面を抉るほどの凄まじい威力だった。その衝撃で、私の足元もおぼつかなくなる。
「きゃあああっ!もうダメ、お嫁に行けないー!」
緋和が悲鳴を上げ、思わずその場にしゃがみ込み、なぜか結婚の心配をしている。…って、緋和、今はそれどころじゃないでしょ!
「危ない、緋和ちゃん!僕の後ろに!」
秋月先輩が、緋和を庇うようにその前に立ちはだかり、神社の古いお守りをかざす。お守りから放たれた清浄な光のバリアが、雷の刃を辛うじて弾き返すが、その衝撃で先輩の体は大きく揺らぎ、その顔には苦悶の色が浮かんだ。彼の白いシャツが、雨と汗で肌に張り付き、鍛えられた胸板のラインが露わになっている。そんな先輩の姿に、不謹慎にもドキッとしてしまう私。
「先輩っ!大丈夫ですか!?」
私は叫び、咄嗟に先輩のそばへ駆け寄ろうとするが、今度は強烈な突風が私を襲い、体が宙に舞い上がりそうになる。バランスを崩し、思わず目を瞑った瞬間、誰かの強い腕が私の腰をぐっと引き寄せ、その衝撃から守ってくれた。
「…っ!」
恐る恐る目を開けると、そこには私を抱きかかえるようにして支える冬城の姿があった。彼の銀髪が、私の頬をくすぐる。その距離の近さに、私の心臓はまたしても早鐘を打ち始める。
「…夏海瑠々、いつまでそうやって風に遊ばれているつもりだ。お前のその力は、ただの飾りか?それとも、あの先輩に見惚れて戦うのを忘れたか?」
不意に、私の耳元で、冬城の冷たくも力強い、そしてほんの少しだけ…揶揄するような声が響いた。いつの間にか、彼は私の背後に回り込み、その銀色の短剣で、私に向かって飛んできていた雷の刃を的確に弾き返していたのだ。その動きは、まるで嵐の中で舞う銀色の狼のようだ。彼の腕の中は、意外にもがっしりとしていて、そして…なんだか安心する。
「なっ…!うるさいわね!私だって、一生懸命やってるのよ!それに、誰があんたなんかに助けてもらうもんですか!離しなさいよ、このドスケベ!」
私は、顔を真っ赤にして彼を突き飛ばそうとするが、彼はびくともしない。それどころか、私の腰を支える彼の手に、さらに力が込められたような気がした。
「お前のその“星影の印”は、ただの飾りではないはずだ。その力を信じろ。そして、風を読め。嵐の中心を見極めろ。さすれば、道は開ける。…俺の言うことが聞けないというなら、このままここで喰われるがいい」
冬城の言葉は、いつものようにぶっきらぼうだったけれど、その瞳の奥には、私への確かな信頼と、そしてほんの少しの…期待のようなものが宿っているように見えた。そして、最後の言葉は明らかに本気じゃない。この男、やっぱり私の反応を見て楽しんでいるとしか思えない!でも、その言葉に、私の心の奥底で何かがカチリと音を立てた。
そうだ、私はもう、ただ守られるだけの女の子じゃない。私には、この力がある。そして、この力で、大切な人たちを守るって決めたんだから!それに、この男に「ひ弱な女」だなんて、二度と言わせてたまるもんですか!
私は、深呼吸を一つして、両の手のひらに意識を集中させる。おばあちゃんに教わった呼吸法、そして先輩と一緒に練習した精神統一。その全てを、今、この瞬間に集約させる。私の体から、再び黄金色のオーラが迸る。それは、荒れ狂う嵐の中で、まるで灯台の光のように、力強く、そして温かく輝き始めた。私の瞳は金色に輝き、その視線は、風の番人の動きを、そして彼が生み出す風の流れを、正確に捉え始めていた。その集中した横顔は、自分でも少しだけ、綺麗かもしれない、なんて思ったりして。
「風が…見える…!風の道筋が、そして…力の流れが…!」
それは、不思議な感覚だった。目に見えないはずの風の流れが、まるでキラキラと輝く光の川のように、私の目にはっきりと見えているのだ。そして、その流れの中に、風の番人の力の源泉とも言える「核」のようなものが、まるで嵐の目のように、微かに揺らめいているのが分かった。あれが、彼の弱点…!
「そこだ…!見つけたわ!」
私は、両の手のひらから、収束させた黄金色の光の矢を、風の番人の「核」目掛けて放った。その光の矢は、激しい風雨を切り裂き、まるで意思を持ったかのように軌道を変えながら、正確に風の番人の胸元へと吸い込まれていく。
「グオオオオッ!?な、何だこの力は…!?小娘ごときが、この我の風を見切り、そしてこの聖なる核を射抜いたというのか…!ありえん…ありえんぞ!」
風の番人が、苦悶の声を上げる。彼の体から放たれていた嵐の力が、ほんの一瞬だけ、しかし確実に弱まった。
「今だ、冬城くん!夏海さん!畳み掛けるぞ!」
その隙を見逃さず、秋月先輩が叫ぶ。彼は、緋和を安全な場所(大きな岩陰)へと誘導しながらも、神社の秘術である清浄な光の波動を放ち、風の番人の動きをさらに封じ込めようとしていた。その額には玉のような汗が浮かび、その表情は真剣そのものだ。彼の白いシャツは雨に濡れ、その下の鍛えられた筋肉のラインがうっすらと浮かび上がっている。その姿に、またしても私の心臓がドキリとする。
「…フン、ようやくお目覚めか、星影の巫女。だが、まだだ。奴はこれしきでは倒れん」
冬城は、私の隣に音もなく現れると、その銀色の短剣を構え、風の番人へと突進していく。その動きは、まさに疾風迅雷。彼の銀髪が、雨と風の中で激しく乱れ、その姿はまるで戦場の神のようだ。
私も、彼に続くように、再び黄金色の光を両手に集める。今度は、ただ攻撃するだけじゃない。この力を、もっとみんなのために…!この美しい景色を、そしてみんなの笑顔を守るために!
「私の想い、風に乗って届け!この学園を、私たちの日常を、これ以上めちゃくちゃにしないで!」
私は、そう心の中で叫びながら、両手から放たれる黄金色の光を、まるで風を操るかのように、自在に変化させていく。光は、時には鋭い刃となって風の番人を切り裂き、時には温かい盾となって仲間たちを嵐から守り、そして時には、清らかな癒やしの光となって、傷ついた秋月先輩の体を優しく包み込んだ。
その戦う姿は、まるで嵐の中で舞う天女のようだ、と後で緋和が目を輝かせながら語っていた。私の黒髪が風に美しくなびき、雨に濡れた白い肌は、黄金色の光を浴びて神秘的に輝いている。その瞳には、一切の迷いも恐怖もなく、ただ仲間を守りたいという強い意志だけが宿っていた。そして、私の唇からは、自然と、あの「星詠鳥の唄」のメロディーが流れ出していた。
「おのれ…おのれ人間どもめ…!その歌は…まさか、古の巫女の…!だが、この程度で、この天空の社を汚すことは許さんぞ!我が真の力、見せてくれるわ!」
風の番人は、なおも激しく抵抗し、その翼からさらに強大な、全てを薙ぎ払うかのような漆黒の竜巻を発生させようとする。その竜巻からは、絶望的なまでの破壊の気配が感じられた。
「そうはさせないわ!私の…私たちの想いの力、なめてんじゃないわよ!」
私は、最後の力を振り絞り、ありったけの黄金色の光を、天に向かって解き放った。その光は、天を覆う暗雲を突き抜け、まるで太陽そのもののような輝きで、天空の社全体を、そして風の番人の心を、優しく照らし出す。それは、破壊の力ではなく、浄化と、そして再生の光だった。
その瞬間、荒れ狂っていた嵐が、嘘のようにピタリと止んだ。空には、美しい虹がかかっている。
そして、風の番人の体からも、禍々しい気は消え失せ、代わりに穏やかで神聖なオーラが立ち昇り始めた。彼の姿も、巨大な鳥の形から、徐々に人間の姿へと変わっていく。その変化は、まるで古い呪いが解けていくかのようだ。
そこに立っていたのは、銀色の長い髪を持つ、厳格だがどこか優しい眼差しをした、息をのむほどに美しい青年の姿だった。その瞳には、もう怒りの色はなく、ただ深い安堵と、そしてほんの少しの…感謝の色が浮かんでいるように見えた。
「…見事だ、星影の巫女よ。そして、その仲間たち。お前たちの勇気と絆、そしてその清浄なる力、確かに見届けた。どうやら、我は大きな勘違いをしていたようだ…お前たちのその力は、災いを呼ぶものではなく、むしろ…この世界を救うための、希望の光なのかもしれんな…」
風の番人――いや、風の精霊と呼ぶべき彼は、私たちに向かって深々と頭を下げた。その声は、嵐の轟音とは打って変わって、澄み切った風の音のように、心地よく響いた。




