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第34話:手、繋いじゃったんですけど!?ていうか、この歌、なんか懐かしい…!

「あなたの心を支え、共に記憶の奔流に立ち向かえるのは、あの二人のうち、どちらですか…?あなたの選択が、最初の試練の成否を、そして…もしかしたら、あなたの未来をも左右するかもしれませんわ。さあ、選んでくださいな、星影の巫女様。あなたの魂が、本当に求めるのは、どちらの温もりですか?」


水鏡の巫女の、静かだが有無を言わせぬ言葉が、泉の底の社に重く響き渡る。私の視線は、自然と、心配そうに、そして熱い眼差しで私を見つめる秋月先輩と、相変わらず無表情だが、その黒曜石のような瞳の奥に確かな意志と、そしてほんの僅かな…期待のようなものを宿す冬城紫苑の間を、行ったり来たりしていた。

どちらを、選ぶ…?

先輩の、あの太陽みたいに温かくて優しい手?それとも、冬城の、あの氷のように冷たいけれど、いざという時には驚くほど頼りになる手?

私の心臓が、ドクンドクンと大きく脈打つ。これは、恐怖からくるものではない。もっと、ずっと複雑で、そして甘酸っぱい痛みのようなものだ。こんな究極の選択、私なんかにできるわけないじゃない!

でも、時間は待ってくれない。社の周囲の禍々しい気は、少しずつ濃くなっているような気がする。

私は、深呼吸を一つして、ゆっくりと、震える手を差し出した。

その手が、どちらに向かって伸びたのか…それは、私自身にも、ほんの少しだけ意外な選択だったのかもしれない。


「…夏海さん」

秋月先輩が、驚きと、そしてそれ以上の喜びを滲ませた声で、私の名前を呼んだ。私の手は、彼の大きく、そして温かい手に、しっかりと包み込まれていた。その瞬間、彼の瞳が、まるで星のようにキラキラと輝いたのを、私は見逃さなかった。

「僕を…選んでくれて、ありがとう。絶対に、君を守り抜いてみせる」

先輩の言葉は、力強く、そしてどこまでも優しかった。その温もりが、私の不安な心をじんわりと溶かしていく。これでいいんだ。私は、先輩を信じる。

ちらりと冬城の方を見ると、彼は一瞬だけ、ほんの僅かに眉を寄せ、そしてすぐにいつもの無表情に戻って、ふいと顔を背けた。その横顔は、どこか寂しそうにも、あるいは…少しだけ、拗ねているようにも見えたのは、きっと私の気のせいだわ。でも、その視線が、私の背中に突き刺さるような気がして、なんだか少しだけ胸が痛んだ。


「…よろしいのですね、星影の巫女様」

水鏡の巫女が、静かに頷く。

「では、お二人とも、祭壇の中央へ。そして、固く手を繋ぎ、心を一つにしてください。これからお見せする“水の記憶”は、時に優しく、時に残酷です。決して、その手を離してはなりませぬ。そして、星影の巫女様…あなたの魂の奥底に眠る、古の唄を思い出すのです。それが、この社を、そして最初の封印を守る鍵となるでしょう」

その言葉と共に、水鏡の巫女が両手を掲げると、社の中心にある泉の水面が、まるで意思を持ったかのように静かに波紋を広げ始めた。そして、その水面が、まるで巨大な鏡のように、過去の映像を映し出し始めたのだ。


私と秋月先輩は、固く手を繋いだまま、その光景を息をのんで見つめていた。先輩の手は、少し汗ばんでいたけれど、その力強い握力が、私に勇気を与えてくれる。

水面に映し出されたのは、何百年も前の、この星影の地で起こった壮絶な戦いの記憶だった。禍々しい姿をした「古き災い」と、それを封印しようと必死に戦う、白い衣を纏った美しい巫女(それは紛れもなく、夏海家の先祖だ)と、狩衣に似た装束を身に着けた凛々しい神官(その横顔は、驚くほど秋月先輩に似ていた)。二人は、絶望的な状況の中で、互いを信じ、そして決して諦めずに戦い続けていた。その姿は、あまりにも気高く、そしてあまりにも悲しかった。

「…これが…私たちの先祖の戦い…」

先輩が、か細い声で呟く。その瞳には、深い悲しみと、そして強い決意の色が浮かんでいた。

そして、ビジョンはさらに進み、ついに「古き災い」を七つに分割し、この「霧幻の泉」の底に、最初の封印を施す場面へと至る。その時、夏海家の巫女が、澄み切った美しい声で、何か不思議な唄を口ずさんでいた。そのメロディーは、どこか懐かしくて、そして私の魂の奥底に直接響いてくるような、不思議な感覚を伴っていた。

「…この唄は…」

私は、無意識のうちに、そのメロディーを口ずさみ始めていた。それは、まるで遠い昔に忘れてしまった、大切な何かを思い出すかのような、切なくて、そして温かい感覚だった。


星影ほしかげよ 清き光よ 闇を祓い 地を鎮めたまえ

水面みなもに映る 月のしずくよ いにしえの記憶を 今こそ呼び覚ませ

七つの星よ 我に力を 愛しきものを 守り抜くために…』


私の歌声は、最初は小さく震えていたけれど、次第に力を増し、泉の底の社全体に朗々と響き渡っていく。その声は、透き通るように美しく、そしてどこか懐かしい響きを持っていた。自分でも驚くほど、自然に言葉とメロディーが溢れ出してくる。私の体からは、再び黄金色の光が放たれ、それは秋月先輩の体からも発せられる清浄な白い光と絡み合い、泉全体を、そして社を守る結界を、温かく、そして力強く包み込んでいく。

その歌声と光に呼応するように、社の結界はみるみるうちに修復・強化され、禍々しい気は完全に消え失せ、代わりに清らかで神聖な空気が満ちていく。私の歌う姿は、まるで神話の巫女のようで、見守る秋月先輩は息をのみ、その瞳には深い感動の色が浮かんでいた。彼の握る私の手が、さらに強く握り返される。


「…素晴らしい…星影の巫女様…そして、その守り手の方…あなたたちは、見事に試練を乗り越えられました…」

歌い終えた私に、水鏡の巫女が、満足そうな笑みを浮かべてそう言った。

私は、疲労困憊しながらも、大きな達成感と、そして先輩と心を一つにできたという喜びで、胸がいっぱいだった。

「先輩…私…できました…!」

「ああ、夏海さん…君は、本当にすごいよ…!君の歌声、そしてその輝き…僕は、一生忘れないだろう…」

先輩は、そう言って、私の汗で濡れた額に、そっと優しいキスを落とした。その瞬間、私の思考は完全に停止し、顔はきっと火を噴くほど真っ赤になっているだろう。え、今、先輩、私に…キス…!?

そんな私たちを、少し離れた場所から、冬城が腕を組み、相変わらずの無表情で(でも、その瞳の奥には、何か複雑な感情が揺らめいているように見えた)見つめていた。彼の視線が、なんだかすごく…気になる。


しかし、安堵したのも束の間だった。

「ククク…見事なものだな、星影の巫女よ。だが、これで終わりではないぞ…?」

どこからともなく、不気味な声が響き渡った。ハッと顔を上げると、泉のほとりに、いつの間にか黒い影が立っていた。それは、以前戦った「静寂の爪」とは違う、もっと禍々しく、そして強力な気配を放つ、新たな「黒き月影」の刺客だった。その手には、水を自在に操ることができるという、三叉の槍が握られている。

「最初の封印は守られたようだが…我々の目的は、お前のその力そのものだ。さあ、大人しくこちらへ来てもらおうか、美しい巫女姫様?」

刺客は、嘲るように笑い、その三叉の槍を私たちに向けてきた。

絶体絶命のピンチに、突如として別の方向から、鋭い風切り音と共に、無数の氷のつぶてが刺客を襲った!

「な、何奴!?」

刺客が驚きの声を上げる。そこに現れたのは…なんと、あの時私に鈴を託した、鳥の羽根の髪飾りをつけた謎の少女だった!しかし、その手には、氷でできた鋭い短剣が握られ、その瞳には強い戦意が宿っている。

「星影の巫女様は、あなたなんかに渡しません…!この“星詠鳥”の末裔、水無月みなづき氷華ひょうかが、お相手します!」

彼女の凛とした声が、泉の底の社に響き渡った。

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