第27話:私たちの絆、なめんじゃないわよ!この学園祭は、絶対にあんたなんかに壊させないんだから!
紫色の炎が天を焦がし、禍々しいオーラが星影祭の夜空を覆い尽くす。キャンプファイヤーの周りで楽しそうに踊っていた生徒たちの姿はどこにもなく、代わりに無数のマガツモノの影が蠢き、私たちを威圧するように取り囲んでいた。その中心には、黒い翼を広げ、嘲笑を浮かべる月影先生。その美しかった顔は、今は狂信的な光に歪み、まるで闇の女神のようだ。
「ククク…さあ、始めましょうか、星影の巫女。あなたとその仲間たちの、絶望の音色を奏でる、美しき終焉の宴をね!」
月影先生の高らかな声が、夜空に響き渡る。
「…ふざけないで。私たちの学園祭を、あんたなんかに壊させてたまるもんですか!」
私は、恐怖で震える足を叱咤し、一歩前に踏み出した。その手には、いつの間にか黄金色の光が集まり始めている。隣には、秋月先輩と冬城が、それぞれ武器を構え、私を守るように立ちはだかっていた。
「夏海さんの言う通りだ。僕たちは、この学園と、ここにいるみんなを、絶対に守り抜く!」
秋月先輩の声は、いつになく力強く、その瞳には揺るぎない決意が宿っている。彼が持つ神社の古いお守りからは、清浄な白い光が放たれている。
「…フン、手間をかけさせるな。さっさと片付けて、俺は次の仕事があるんでな」
冬城は、相変わらずのぶっきらぼうな口調だが、その銀色の短剣の切っ先は、寸分の狂いもなく月影先生に向けられていた。彼の赤い瞳(今は元の黒曜石の色に戻っているが、その奥にはまだ赤い残光が揺らめいているように見える)は、獲物を狩る獣のように鋭く光っている。
「愚かな子羊たちめ…!その僅かな抵抗が、どれほど無意味なことか、その身をもって教えてあげるわ!」
月影先生が叫ぶと同時に、周囲のマガツモノたちが一斉に私たちに襲いかかってきた。それは、まるで黒い津波のようだ。
「きゃあっ!」
「瑠々ちゃん、危ない!」
緋和の悲鳴と、秋月先輩の叫び声が重なる。私は咄嗟に防御の結界を張ろうとするが、マガツモノの数が多すぎる!
その時、私の前に、黒い影が音もなく立ちはだかった。
「…お前は下がっていろ、夏海瑠々。こいつらは俺が引き受ける。お前は、あの女狐(月影先生)を叩け」
冬城だった。彼は、私を背中で庇うように立ち、銀色の短剣を振るって、迫りくるマガツモノたちを次々と切り裂いていく。その動きは、まるで流麗な舞のようで、しかし一撃一撃が致命的な威力を持っている。彼の黒い浴衣が翻り、銀髪が夜風に靡く。その姿は、闇に舞う死神のようで、恐ろしくも…美しかった。
「冬城…!でも、あんた一人じゃ…!」
「案ずるな。俺を誰だと思っている?それより、お前は自分のやるべきことをやれ。お前のその力は、こんな雑魚相手に使うものではないはずだ」
彼の言葉は冷たいけれど、その背中は、なぜかとても頼もしく見えた。
「夏海さん、僕も援護する!緋和ちゃんは、安全な場所へ!」
秋月先輩もまた、神社の秘術を駆使し、マガツモノたちの動きを封じ込めていく。彼の手から放たれる清浄な光は、マガツモノたちにとっては何よりも忌むべきもののようだ。その戦う姿は、いつもの穏やかな先輩からは想像もつかないほど勇ましく、そして私の心を強く打った。
「瑠々ちゃん、先輩、冬城くん、頑張って!私、みんなを信じてるから!」
緋和は、涙を堪えながらも、力強く私たちを応援してくれる。その声が、私の背中を押してくれた。
私は、二人にマガツモノの群れを任せ、月影先生へと真っ直ぐに向き直った。
「月影先生…!いえ、黒き月影の使者よ!あんたの思い通りにはさせない!この学園も、私の力も、あんたなんかに絶対に渡さないんだから!」
私の体から、再び黄金色の光が溢れ出す。「星影の印」が、私の手首で熱く脈打っている。その光の中で、私の黒髪は風もないのに大きく舞い上がり、瞳は強い意志を宿して金色に輝いていた。私の白い浴衣の袖が翻り、その姿はまるで戦場に舞い降りた女神のようだ、と後で緋和が興奮気味に語っていた。
「あらあら、ようやくその気になったのかしら、星影の巫女様?でも、その程度の力で、この私を止められるとでも思っているの?」
月影先生は、嘲るように微笑む。しかし、その瞳の奥には、ほんの僅かな焦りの色が見え隠れしていた。
「私の力は、まだ目覚めたばかりかもしれない!でも、私には、守りたいものがある!大切な友達が、そして…私のことを信じてくれる人たちがいる!その想いが、私に力をくれるのよ!」
私は、夏海家に伝わる浄化の祝詞を唱え始めた。その声は、最初は小さく震えていたけれど、次第に力を増し、夜空に朗々と響き渡る。その祝詞に呼応するように、私の周りに七色のオーラが立ち昇り始めた。それは、まるで虹のようだ。
「生意気な小娘め…!その生意気な口も、その美しい魂も、今ここで喰らってくれるわ!」
月影先生が、黒い翼を大きく広げ、鋭い爪を振りかざして私に襲いかかってくる。
私は、目を閉じることなく、真っ直ぐに彼女を見据えた。そして、両の手のひらを彼女に向け、ありったけの想いを込めて、黄金色の光を解き放った。
「これが、私の…私たちの想いの力よ!」
黄金色の光と、月影先生の紫色のオーラが激しく衝突し、凄まじい衝撃波が周囲に巻き起こる。その衝撃で、私の簪がどこかへ飛んでいき、結い上げていた髪がはらりと解け、夜風に黒髪が美しく舞った。
激しい光と音の中で、私は確かに感じた。秋月先輩の温かい気配と、冬城の鋭くも確かな気配が、私の力に寄り添い、それを増幅させてくれているのを。私たちは、一人じゃない。三人で、いや、緋和も含めた四人で戦っているんだ!
「私たちは、絶対に負けない!」
私の叫びと共に、黄金色の光はさらに輝きを増し、ついに月影先生の紫色のオーラを打ち破った。
「そ、そんな…馬鹿な…!この私が…こんな小娘に…!だが、覚えておくがいい…!星影の巫女よ…お前のその力は、いずれ必ず、お前自身を、そしてお前の愛する者たちを破滅へと導くだろう…!“あの方”の計画は、まだ始まったばかりなのだから…!ククク…アハハハハハ!」
月影先生は、狂ったような高笑いを残し、黄金色の光の中に完全にその姿を消した。後に残されたのは、焼け焦げたような異臭と、そして私の心に深く刻まれた、呪いのような不吉な言葉だけだった。
戦いが終わり、学園を覆っていた禍々しい気配は嘘のように消え失せ、星影祭の夜空には、再び美しい星々が瞬き始めていた。キャンプファイヤーの炎も、いつの間にか穏やかなオレンジ色に戻り、パチパチと静かに爆ぜる音だけが、先ほどまでの激闘がまるで夢だったかのように響いている。
私は、その場にへなへなと座り込んでしまった。全身の力が抜け、もう指一本動かせそうにない。汗と土埃で汚れた浴衣も、もうどうでもよかった。
「夏海さん!」
「瑠々ちゃん!」
秋月先輩と緋和が、心配そうに私のそばに駆け寄ってくる。その声が、今の私には何よりも温かく感じられた。
「大丈夫か、夏海さん!本当に、すごかったよ…君は、本当に…私たちの希望の光だ」
先輩は、言葉にならないといった様子で、私の手を強く握りしめてくれた。その瞳は、私への賞賛と、そしてそれ以上の、熱い想いで潤んでいるように見えた。その真っ直ぐな視線に、私の頬がまた熱くなる。
「瑠々ちゃん、かっこよかったよー!もう、私、瑠々ちゃんに一生ついていくー!瑠々ちゃんがいれば、どんな敵だって怖くないもん!」
緋和は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、私に抱きついてくる。その小さな体の温かさが、私の疲れた心を優しく包み込んでくれた。
ふと、少し離れた場所に、冬城が立っているのが見えた。彼は、何も言わずに、ただじっと私を見つめている。その表情は読めなかったけれど、彼の黒曜石のような瞳の奥に、ほんの僅かだけ、柔らかい光が灯っているような気がした。そして、彼がそっと、月影先生が消えた場所から、何か小さな、透明で、まるで星の雫のようにキラキラと輝く欠片を拾い上げたのを、私は見逃さなかった。それは、彼が以前から集めているものと、同じものなのだろうか…?その欠片は、清浄な気を放っているようにも、何か恐ろしい力を秘めているようにも見えた。
「…まあ、お前が足を引っ張らない限りはな。だが、今日のところは褒めてやる。よくやった、夏海瑠々。…少しは、見直したぞ」
冬城は、そっぽを向きながら、ぶっきらぼうに、しかしどこか優しい響きでそう言った。その不器用な褒め言葉に、私の心臓はまたしても、キュンと小さく跳ねた。そして、「見直した」なんて、普段の彼からは絶対に出てこない言葉だ。
星空の下、私たちは、傷つきながらも、互いの絆を確かめ合い、改めて「黒き月影」の陰謀を阻止することを誓い合った。秋月先輩の温かい手、緋和の太陽みたいな笑顔、そして冬城の不器用な優しさ…私の周りには、こんなにも大切な人たちがいる。この日常を、絶対に守り抜いてみせる。
私の胸には、二人のイケメンへの複雑な想いと、仲間たちへの感謝、そしてこれから始まるであろう壮大な戦いへの覚悟が入り混じり、新たなドキドキが始まろうとしていた。古文書に記された次なる封印の場所、「水の記憶に眠る古の社」へ…私たちの旅は、まだ始まったばかりなのだ。この星影祭の夜の誓いは、きっと永遠に私の心に刻まれ、私を導いてくれるだろう。そして、この胸の高鳴りは、きっと止まることを知らない。




