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第25話:仮面の告白と、揺れる心。信じられるのは、誰…?

謎の少女が残した、古びた和紙に描かれた奇妙な紋様。それは、私の頭の中で、まるで解けないパズルのピースのように、ぐるぐると回り続けていた。あの少女は一体誰で、何を伝えようとしていたのだろうか…?そして、彼女の髪に揺れていた、あの美しい鳥の羽根の髪飾り…。どこかで見たことがあるような気がするけれど、思い出せない。


「瑠々ちゃん、どうしたの?さっきから難しい顔しちゃって。もしかして、あのイケメン転校生のことでも考えてるの~?」

学園祭の喧騒の中、緋和が私の顔を覗き込むようにして、ニヤニヤと笑う。今日の彼女は、金魚すくいでゲットした(というより、お店のおじさんにオマケしてもらった)赤い金魚が三匹入ったビニール袋を、嬉しそうにぶら下げている。その無邪気な姿を見ていると、さっきまでの不穏な気持ちが少しだけ和らぐようだ。

「べ、別に、あんなスカした男のことなんて、これっぽっちも考えてないわよ!」

私は顔を真っ赤にして反論するが、緋和にはお見通しのようだ。「へー、そうなんだー」と、全く信じていないような返事が返ってくる。もう、この親友は!


私たちは、秋月先輩と合流し、先輩が予約してくれていた学園祭限定の特別茶屋へと向かった。そこは、中庭の一角に設けられた、竹垣と赤い野点傘のだてがさが風情を醸し出す、落ち着いた空間だった。

「夏海さん、さっき拾ったその和紙、何か気になることでも書かれていたのかい?」

抹茶と和菓子をいただきながら、先輩が心配そうに私に尋ねる。その優しい声に、私は少しだけ勇気をもらい、謎の少女のこと、そして和紙に描かれた紋様のことを話した。

先輩は、その紋様を一目見るなり、ハッとしたように目を見開いた。

「これは…僕の家の神社に古くから伝わる、“守りの印”の一つに、とてもよく似ている…。もしかしたら、あの少女は、君に何か大切なことを伝えようとしていたのかもしれないね。その鈴も…何か特別な力が込められているのかもしれない」

先輩は、私が少女から託された小さな鈴を手に取り、じっと見つめている。その横顔は真剣で、いつもの穏やかな先輩とは違う、どこか張り詰めた雰囲気を感じさせた。

その時、私たちのテーブルに、ふわりと甘い香りが漂ってきた。

「あら、楽しそうにお話していますのね、夏海さん、秋月くん」

声の主は、月影先生だった。彼女は、黒地に金の蝶が舞う、妖艶な雰囲気の浴衣を身に纏い、その美しい顔には、いつものように優しい笑みを浮かべている。しかし、その瞳の奥には、何か底知れない光が宿っているように見えた。

「少し、夏海さんと二人きりでお話したいことがあるのだけれど…よろしいかしら、秋月くん?」

月影先生の言葉は丁寧だが、どこか有無を言わせぬ響きがあった。先輩は一瞬戸惑ったような顔をしたが、「…分かりました。夏海さん、何かあったらすぐに僕を呼ぶんだよ」と、私にだけ聞こえるように囁き、席を立った。


月影先生は、私を人気のない、校舎裏の薄暗い木陰へと誘った。そこは、学園祭の喧騒が嘘のように静まり返っており、不気味なほどだった。

「夏海さん…あなたのその“特別な力”、そしてその美しい魂…本当に素晴らしいわ。まるで、闇夜に輝く孤高の月のようね」

月影先生は、うっとりとした表情で私を見つめ、そっと私の髪に触れた。その指先は氷のように冷たく、私の背筋をぞくりとした悪寒が駆け上る。

「私はね、あなたを新しい世界へ導きたいの。“黒き月影”という、真の理想郷へ。そこでは、あなたのような特別な力を持つ者が正当に評価され、そして世界を導く存在となれるのよ」

彼女の言葉は、まるで甘い蜜のように、私の心に染み込もうとしてくる。

「あなたの大切な秋月先輩も、そしてあの忌々しい冬城紫苑も、実は私たちの計画の駒に過ぎないのですよ…彼らは、あなたを利用し、そして最後には裏切るでしょう。でも、私たちなら、あなたを真に理解し、そして守ってあげられるわ。さあ、私たちと共に来なさいな、夏海瑠々」

その瞳は、狂信的な光を宿し、私を捕らえようと妖しく輝いている。秋月先輩が?冬城が?私を裏切る…?そんなこと、あるわけない!でも、彼女の言葉には、なぜか抗えないような説得力があった。私の心は、激しく揺れ動く。信じたい気持ちと、疑念と、そして恐怖と…。

「…お断りしますわ。私は、私の大切な人たちを信じます。あんたなんかの甘い言葉には、絶対に騙されないんだから!」

私は、震える声を必死で抑え込み、毅然とした態度で言い放った。その瞬間、私の瞳には、自分でも気づかないうちに、強い意志の光が宿っていたかもしれない。


月影先生の美しい顔が、みるみるうちに怒りと失望に歪んでいく。

「…そう、残念だわ。本当に、残念よ、夏海瑠々。ならば、仕方ないわね…」

彼女がそう呟いた瞬間、周囲の空気が一変し、禍々しいオーラが彼女の体から立ち昇った。

「今夜、後夜祭のキャンプファイヤーの火が消える時、全てが始まるわ。あなたも、私たちの仲間になる覚悟を決めてちょうだい。それとも…この学園と共に、永遠の闇に沈むことになるかしら?ふふふ…あはははは!」

高らかな笑い声を残し、月影先生はまるで煙のようにその場から姿を消した。後に残されたのは、彼女の甘い香水の匂いと、私の心に深く刻まれた恐怖と疑念だけだった。


一人になった私は、どうしようもない不安と孤独感に襲われ、思わずその場に泣き崩れてしまった。潤んだ瞳から、大粒の涙が次々と溢れ落ちる。こんな時、誰かに頼りたいのに、誰を信じればいいのか分からない。先輩のあの優しい笑顔も、冬城のあの不器用な気遣いも、全てが嘘だったというの…?

「夏海さん…?」

不意に、背後から聞き覚えのある声がした。振り返ると、そこには心配そうに私を見つめる秋月先輩の姿があった。彼は、私のただならぬ様子に気づき、追いかけてきてくれたのだ。

「先輩…私…どうしたら…」

言葉にならない嗚咽を漏らす私を、先輩は何も言わずに、そっと強く抱きしめてくれた。その温かい胸の中で、私は子供のように声を上げて泣いた。先輩の甚平の肩口が、私の涙で濡れていくのが分かった。


一方、その頃、冬城紫苑は学園の片隅で、「黒き月影」の別の刺客――かつての彼の同僚であり、そして彼を裏切り者と呼ぶ男――と密会し、激しく対立していた。

「フン、まだあの小娘に付きまとっているのか、冬城。お前とて、あの娘の“星影の印”の力に惹かれているだけだろう?それとも、かつての“悲劇”…お前の大切な妹を失った、あの忌まわしい事件を、繰り返したくないとでも言うつもりか?」

刺客の言葉に、冬城の表情が、一瞬だけ苦痛に歪む。その瞳の奥には、深い闇と、そして決して消えることのない悲しみが宿っていた。

「…黙れ。お前たちに、俺の妹のことを語る資格はない。そして、夏海瑠々は、俺が守る。お前たちの好きにはさせん」

冬城の低い声には、絶対的な決意が込められていた。彼の銀色の短剣が、月光を浴びて妖しく輝く。二人の間には、一触即発の空気が漂っていた。


後夜祭のキャンプファイヤーの火が、夜空を焦がすように燃え盛る。その炎の揺らめきが、私の不安な心をさらにかき乱す。月影先生の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。

秋月先輩か、冬城か、それとも自分自身の力を信じるのか…私は、人生最大の選択を迫られていた。私の瞳には、迷いと、そしてそれを乗り越えようとする強い意志の光が、キャンプファイヤーの炎のように揺らめきながら交錯する。

この学園祭の夜は、まだ終わらない。そして、本当の戦いは、これから始まろうとしていた。

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