第24話:浴衣でデート!?って、なんであんた(冬城)もいるのよ!そして緋和、ナイスアシスト!
星影高校最大のイベント「星影祭」が、ついに華々しく幕を開けた。校内はお祭りムード一色で、生徒たちの楽しそうな笑顔と活気が、まるで魔法のように学園全体をキラキラと輝かせている。教室の窓という窓には、色とりどりの短冊が風にそよぎ、生徒たちのささやかな願い事が、夏の陽光を浴びてキラキラと輝いている。廊下には、クラスごとに趣向を凝らした笹飾りがずらりと並び、その下を思い思いの格好(中には、かなり気合の入ったコスプレ姿も!)の生徒たちが楽しそうに行き交う。いつもは制服姿しか見ない学園が、今日はまるで別世界だ。マガツモノだの古文書だの、最近物騒なことばかりだった私にとっては、こういう平和で賑やかなイベントこそが何よりの癒やしであり、そして…ちょっぴり特別な期待を抱かせるものでもあった。
「瑠々ちゃーん!早く早く!秋月先輩、もう校門で待ってるって!」
緋和が、私の腕を掴んでセカセカと急かす。今日の彼女は、淡い水色地に白やピンクの朝顔が可憐に咲き乱れる浴衣姿。帯は鮮やかな黄色で、まるで太陽に向かって咲くひまわりのようだ。いつもより少しだけ大人っぽく見えるように結い上げた髪には、小さな花の髪飾りが愛らしく揺れていて、その姿は本当に可愛らしくて、思わず見惚れてしまう。こんな可愛い子が親友だなんて、私ってばちょっとラッキーかもしれない。
「わかってるわよ!そんなに急かさないでよ、緋和。慣れない下駄で転んだらどうするの!」
私は、緋和に強引に着付けられた、白地に淡い紫陽花の柄が入った、少し大人っぽい浴衣の裾を気にしながら、ぶっきらぼうに答えた。帯は落ち着いた藤色で、髪も緋和に頼んで、いつもより少しだけ凝った編み込みにしてもらい、小さなパールの簪を挿してみた。鏡に映る自分は、いつもの制服姿とは全く違う、少しだけ大人びて、そして自分でもドキッとするくらいには…うん、まあ、悪くないかも、なんて思ったりして。でも、こんな格好、先輩はどう思うかしら…変だって思われたらどうしよう…。
校門に着くと、そこには涼しげな紺色の甚平に身を包んだ秋月先輩が、少しだけソワソワした様子で立っていた。その姿は、いつもの制服姿とはまた違った魅力があって、私の心臓はまたしてもドキドキと早鐘を打ち始める。先輩の、少しだけ日に焼けた首筋が、甚平の襟元から覗いていて、なんだか妙に色っぽい。
「せ、先輩!お待たせしました…!」
「夏海さん、緋和ちゃん。来てくれてありがとう。その浴衣、すごく綺麗だね。夏海さんのは、まるで雨上がりの紫陽花の花みたいで…本当に、綺麗だ」
先輩からのストレートな褒め言葉に、私の頬は一瞬で林檎のように赤くなる。き、綺麗ですって!?そ、そんなこと言われたら、もうどうしていいか分からないじゃないの!言葉に詰まって俯く私を見て、先輩はくすりと悪戯っぽく笑った。
「先輩、甚平すごく似合ってます!かっこいいー!まるで夏祭りの王子様みたいです!」
緋和のストレートな褒め言葉に、先輩は少し照れたように頬を掻いている。その仕草がまた、たまらなく可愛いんですけど!というか、王子様って、緋和、ナイスアシスト!
「ありがとう。二人とも、浴衣、とても素敵だよ。…実は、後で二人でゆっくり回りたいんだけど…いいかな、夏海さん?」
先輩は、少し照れたように、でも真っ直ぐな瞳で私を見つめてそう誘ってきた。二人で、ですって!?そ、それって、もしかして…。瑠々、心臓が飛び出しそうになりながらも、かろうじて「は、はいっ!よ、喜んで…!」と、震える声で返事をするのが精一杯だった。その瞬間、背後から、まるで冷水を浴びせかけるような、聞き覚えのある冷たい声が響いた。
「…随分と浮かれているようだな、夏海瑠々。そんな格好で、マガツモノに襲われたらどうするつもりだ?それとも、その男に守ってもらう算段か?」
声の主はもちろん冬城紫苑。彼もまた、黒地に銀糸で月と龍の紋様が繊細に刺繍された、見るからに高級そうな浴衣を、まるでモデルのように完璧に着こなし、そのミステリアスな魅力を振りまいている。なんであんたまで浴衣なのよ!しかも、めちゃくちゃ似合ってるのが腹立たしい!と心の中で毒づく私。
「冬城くんも来てたんだね。その浴衣、すごく凝っていて、よく似合っているよ。君も、一緒に回らないか?」
秋月先輩がにこやかに声をかけるが、冬城は「別に、暇つぶしに来ただけだ。人混みは好きではないが、たまにはこういう喧騒も悪くない。それに、夏海瑠々が不用意にトラブルに巻き込まれないように、監視しておく必要もあるだろうからな」と、相変わらずの上から目線で、そしてなぜか私にだけ聞こえるような声で、最後の言葉を付け加えてきた。なんなのよ、その言い草は!私がトラブルメーカーだとでも言いたいの!?
秋月先輩は、そんな冬城の態度に少しだけ眉を顰めつつも、「そうか。まあ、何かあったら僕たちを頼ってくれ。今は、力を合わせる時だと思うから」と、大人な対応。しかし、私を挟んで立つ二人のイケメン(一人はムカつくけど)の間には、見えない火花がバチバチと散っているような、そんな気がしてならなかった。
そんな私の個人的な受難(?)とは裏腹に、緋和は持ち前のコミュニケーション能力と情報網を駆使し、学園祭の様々な噂を集めていた。
「ねぇ瑠々ちゃん、聞いた?最近、学園の裏サイトで『星影祭の夜に何かが起こる』って、不気味な予言みたいな書き込みがあったらしいよ!それに、なんか黒服の怪しい人たちが、学園のあちこちを嗅ぎまわってるみたい…もしかして、MIB!?」
緋和の情報は、ただの噂話では片付けられない、不気味なリアリティを帯びていた。彼女のオカルト好きが、意外な形で事件の真相に近づくきっかけになるかもしれない。でも、MIBはないと思うけど…。
結局、クラスの出し物であるお化け屋敷に、なぜか私たち四人(主に緋和の強引な提案と、なぜか断らない先輩と、面白がっているとしか思えない冬城)で入ることになった。薄暗く、手作りの仕掛けが満載のお化け屋敷。分かっていても、やっぱり怖いものは怖い!
「きゃあああっ!」
角を曲がった瞬間、突然目の前に現れた血まみれの幽霊役の生徒(よく見たら隣のクラスの男子だ)に、私は思わず甲高い悲鳴を上げ、反射的に近くにいた秋月先輩の腕にギュッとしがみついてしまった。先輩の逞しい腕と、石鹸のようないい香りに包まれ、一瞬だけ恐怖を忘れる。でも、すぐに自分の大胆な行動に気づき、顔を真っ赤にしてパニック状態。
「だ、大丈夫かい、夏海さん?しっかり捕まってていいからね」
先輩は、私の頭を優しく撫でながら、そう言ってくれた。その声が、あまりにも優しくて、私はもうどうにかなりそうだ。
一方、冬城は全く動じる様子もなく、むしろ「…夏海瑠々、お前、意外と怖がりなんだな。その情けない顔、写真にでも撮っておいてやろうか?」と、私の耳元で悪魔のように囁く。その声が、なんだかすごくムカつく!でも、彼の腕が、私の背中をそっと支えてくれているような気がしたのは、きっと気のせいだわ!
お化け屋敷を出て、少しだけ落ち着きを取り戻した私は、人混みの中で、ふと奇妙な、そしてどこか清浄な気配を感じた。それは、まるで私を呼んでいるかのようだ。導かれるように裏庭へ向かうと、そこには古びた小さな祠があった。そして、その祠の前で、何かを熱心に祈っている、白い簡素な着物のようなものを身に纏った、不思議な雰囲気の少女がいた。その少女の黒髪には、どこかで見たような、美しい鳥の羽根で作られた髪飾りが、月光を浴びて静かに揺れている。その姿は、まるで物語の中から抜け出してきた巫女のようだ。
私が声をかけようとした瞬間、少女は私に気づき、驚いたように翡翠色の美しい瞳を見開くと、何も言わずに、まるで風のように軽やかに走り去ってしまった。
彼女がいた場所には、一枚の小さな、古びた和紙が落ちていた。そこには、夏海家の古文書で見たのと同じ、複雑で神秘的な紋様が、墨で描かれていた…。これは一体、何を意味しているのだろうか?




