第22話:私の力が暴走!?でも、先輩の笑顔は私が守るって決めたんだから!
「夏海瑠々…!その力、今こそ解放する時だ!お前のその美しい魂の輝きを、見せてみろ!」
冬城の緊迫した叫び声が、私の鼓膜を、そして心の奥底を激しく震わせた。目の前では、秋月先輩が刺客の鋭い爪を必死で避けながらも、その白い頬からは一筋の血が流れ、徐々に追い詰められている。その優しい顔には苦痛の色が浮かび、私の胸を締め付ける。冬城もまた、神出鬼没な刺客の動きに翻弄され、その銀色の短剣は空を切ることが多くなっている。彼の呼吸は荒く、その整った顔には焦りの色が滲んでいた。
ダメだ…このままじゃ、先輩も冬城もやられちゃう…!私が…私が何とかしなくちゃ!この二人を、絶対に失いたくない!
恐怖よりも、怒りが、そして大切な人たちを守りたいという強い想いが、私の心の奥底からマグマのように噴き出した。それは、今まで感じたことのない、強烈で、そして純粋な衝動だった。
「ううううううううっ…!あああああああああああっ!」
私の体から、再びあの黄金色の光が迸る。それは、以前よりもずっと強く、そして激しく、まるで太陽が爆発したかのような圧倒的な輝きだった。その光の中で、私の黒髪は風もないのに大きく舞い上がり、瞳は決意の色を映して金色に爛々と輝いていた。汗で額に張り付いた前髪が、私の真剣な表情を際立たせる。その姿は、きっと普段の私からは想像もつかないほど、凛々しく、そしてどこか神々しい美しさを放っていたに違いない。この力が、私の中から湧き出てくる。これが、私の本当の力…?
「なっ…なんだ、この力は…!?小娘が…!この私を、舐めるなよ!」
刺客が、初めて狼狽したような声を上げる。その動きが一瞬だけ止まった。その仮面の下の瞳が、驚愕に見開かれているのが分かった。
私は、その隙を見逃さない。両手を前に突き出し、意識を集中させる。おばあちゃんや冬城に教わった、霊気のコントロール。それを、今こそ実践する時だ!この力で、みんなを守るんだ!
「私の大切な人たちを…傷つける奴は、絶対に許さないんだから!」
私の叫びと共に、黄金色の光は形を変え、鋭く輝く無数の光の刃となって刺客に襲いかかった。その一つ一つが、私の怒りと守りたいという想いを乗せて、空間を切り裂く。それは、まるで流星群のように美しく、そして恐ろしい光景だった。
「ククク…面白い…!だが、そんな付け焼き刃の力で、この私を止められると思うなよ!その程度の光、闇で飲み込んでくれるわ!」
刺客は、嘲笑うかのようにそう言うと、その体を黒い霧へと変化させ、光の刃を巧みにかわしていく。そして、霧の中から再び鋭い爪を伸ばし、私に襲いかかってきた。その爪は、私の頬を掠め、ヒリヒリとした痛みが走る。
「きゃっ!」
咄嗟に防御の結界を張ろうとするが、間に合わない…!恐怖で、体が硬直する。
「夏海さん、危ない!僕のことは気にするな!」
その瞬間、傷つきながらも立ち上がった秋月先輩が、私を庇うように前に飛び出し、神社の清めの札を刺客に向かって投げつけた。その札は、刺客の黒い霧に触れた瞬間、バチバチと音を立てて激しく燃え上がり、その動きを一瞬だけ鈍らせる。先輩の顔には、決死の覚悟が浮かんでいた。
「先輩っ!無茶しないで!もう、これ以上傷つかないでください!」
「大丈夫だ、夏海さん…君は、君の力を信じろ!君ならできる!君のその瞳は、嘘をつかない!」
先輩は、私に向かって力強く微笑んでみせた。その笑顔は、こんな絶体絶命の状況だというのに、不思議と私の心を落ち着かせ、そして勇気づけてくれる。その笑顔を、私は絶対に守りたい。そのために、私はここにいるんだ。
「…はいっ!ありがとうございます、先輩!」
私は、先輩の言葉を胸に、再び意識を集中させる。今度は、ただ攻撃するだけじゃない。もっと、この力を…この、私の中に眠る力を、信じるんだ!
「…夏海瑠々!奴の動きは速いが、光そのものには弱い性質があるようだ!お前のその浄化の光で、奴の動きを完全に封じ込めろ!奴の本体は、あの霧の中心にあるはずだ!俺がとどめを刺す!」
いつの間にか私の背後に回り込んでいた冬城が、冷静な声で的確な指示を出す。その瞳は、真剣そのもので、私を真っ直ぐに見据えている。この男、さっきまであんなに偉そうにしてたのに、意外と頼りになるじゃないの…!なんて、今はそんなこと考えてる場合じゃないわよね!
私は、冬城の言葉を信じ、両の手のひらから、ありったけの黄金色の光を放出した。それは、先ほどよりもずっと濃密で、そして温かい、全てを包み込むような光。その光は、まるで生きているかのように美術準備室全体に広がり、黒い霧と化した刺客を、その中心からゆっくりと、しかし確実に包み込んでいく。私の髪が、その光の中で黄金色に輝いているのが、視界の端に映った。
「グオオオオ…!こ、この光は…!ま、眩しい…!体が…溶ける…!やめろ…やめてくれぇぇぇ!」
刺客が、苦悶の声を上げる。彼の黒い霧が、光に触れるたびにジリジリと音を立てて霧散していくのが見えた。その霧の中心で、何かが苦しみにもがいているのが、ぼんやりと見える。
「今だ、冬城!やって!」
私の叫びに応えるように、冬城が目にも止まらぬ速さで刺客の懐に飛び込み、その銀色の短剣を、光に包まれて実体を取り戻しかけていた刺客の胸の中心――おそらく、核であろう場所に、深々と突き立てた。その一撃は、まるで雷光のように鋭く、そして美しかった。
「ガハッ…!こ、こんな…小娘と…小僧に…我が…“黒き月影”が…こ、これで…終わると思うなよ…“あの方”の…計画は…まだ…始まった…ばかり…なのだから…な…」
刺客は、信じられないというように目を見開いたまま、最後の言葉を言い終える前に、黒い粒子となって完全に消滅した。その粒子は、私の放った黄金色の光の中に吸い込まれるようにして、跡形もなく消え去った。
「…はぁ…はぁ…やった…の…?本当に…?」
激しい戦いの後、私はその場にへなへなと座り込んでしまった。全身の力が抜け、指一本動かせそうにない。汗でびっしょりになった制服が、肌に張り付いて気持ち悪い。でも、それ以上に、達成感と安堵感で胸がいっぱいだった。やった…私、みんなを守れたんだ…。
「夏海さん!大丈夫か!?すごいじゃないか、本当に…!君は、僕たちのヒーローだよ!」
秋月先輩が、心配そうに私の顔を覗き込みながら、その大きな手で私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。その手の温かさと、先輩の満面の笑顔に、私の心臓はまたしても限界を突破しそうなくらいドキドキしていた。その笑顔は、どんな光よりも眩しい。
「せ、先輩…髪、ぐちゃぐちゃになりますから…!それに、私、汗臭いですよ…?ヒーローだなんて、そんな…大げさです…」
思わず、いつもの調子でそっけなく言ってしまう。ああもう、なんで素直に「ありがとうございます」って言えないのよ、私は!こんなボロボロの姿、先輩に見られたくなかったのに…。でも、先輩のその笑顔を見られただけで、なんだか報われたような気がした。
「はは、ごめんごめん。でも、今の君は、汗なんて気にならないくらい、キラキラしてて綺麗だよ。本当に、見惚れちゃった」
先輩のその言葉に、私の顔はきっとトマトみたいに真っ赤になっているだろう。もう、先輩のバカ!そんなこと、本人に言うなんて、反則すぎる!
「…まあ、今回は及第点といったところか。だが、力の制御はまだまだ甘いな。それに、油断するなよ。あれは、おそらく組織の中でも下っ端だ。もっと厄介な奴らが、これからいくらでも出てくるだろう」
冬城は、腕を組み、相変わらずのクールな口調で言ったが、その瞳の奥には、ほんの少しだけ、私を認めたような光が宿っている気がした。そして、彼が差し出してきたのは、清潔な白いハンカチだった。そのハンカチからは、彼と同じ、石鹸のような、どこか冷たい香りがした。
「…顔、拭け。見苦しいぞ。そんな顔で、あの先輩に見られるつもりか?」
ぶっきらぼうな言い方だけど、その不器用な優しさに、なんだか胸の奥がくすぐったくなる。私は、素直にそのハンカチを受け取った。その生地は、思ったよりも柔らかかった。…後でちゃんと洗って返さなきゃ。でも、この男、なんで私が先輩のこと気にしてるって分かるのよ!
刺客が消え去った後には、奇妙な紋様が刻まれた、黒曜石のような小さな水晶のかけらが一つだけ残されていた。それは、マガツモノの力を増幅させるような、邪悪で冷たい気配を放っている。
「これは…“黒き月影”が使う、呪具の一種か…“魂の欠片”と呼ばれるものだ。マガツモノの力を凝縮し、人間の負の感情を操るための道具だ」
冬城が、それを拾い上げ、眉を顰める。その瞳には、深い憎悪の色が浮かんでいた。
「…まさか、これほどの力が、こんな形で使われていたとはな…だが、これで終わりではない…“あの方”の計画は、まだ始まったばかりなのだ…」
刺客が最後に残した不吉な言葉が、私の脳裏をよぎる。“あの方”とは、一体誰のことなのだろうか?そして、「黒き月影」の真の目的とは…?倒すべき敵は、まだたくさんいるというのだろうか。
戦いを終え、安堵したのも束の間、私は銀杏の木の根元にある紋様に再び手を触れた。すると、紋様がひときわ眩い光を放ち、地下から温かく、そして清浄な気が立ち上ってくるのを感じた。最初の封印は、どうやら私たちの力で守られた(あるいは、私の力によって強化された)ようだ。その光は、私の疲れた体を優しく包み込み、ほんの少しだけ、力を与えてくれるような気がした。
しかし、その瞬間、私が懐に忍ばせていた夏海家の古文書の新たなページが、まるで意思を持ったかのようにひとりでにパラリと開き、そこに新たな文字が、血のような赤い色で浮かび上がってきたのだ。
『星は巡り、影は深まる。次なる試練は、水の記憶に眠る古の社…星詠鳥の導きなくして、その封印を解くことは叶わぬ…心せよ、星影の巫女よ…お前の選択が、世界の運命を左右する…』
水の記憶…古の社…星詠鳥…?そして、星影の巫女って、まさか私のこと…!?私の選択が、世界の運命を…?そんな、重すぎる責任、私なんかに背負えるわけないじゃない!
新たな謎と、さらに困難な試練の訪れを予感させるその言葉に、私の背筋を再び冷たいものが駆け上った。私の戦いは、まだ始まったばかりなのだ。そして、私のこのドキドキする心臓も、まだ落ち着くことを知らない。




