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第20話:結界術とか無理ゲーだし!ていうか冬城、あんたの指導厳しすぎ!

「だから、基本がなっていないと言っているんだ!そんなフニャフニャした構えで、マガツモノから身を守れるとでも思っているのか、夏海瑠々!お前のその細い腕では、豆腐すら受け止められんぞ!」

夏海家の古風な道場に、冬城紫苑の容赦ない、そしてどこか的確すぎる声が響き渡る。その手には竹刀が握られ、私の構えの甘さを的確に、というよりはネチネチと指摘してくる。彼の銀髪が、道場の窓から差し込む朝日を浴びてキラキラと輝いているのが、なんだか無性に腹立たしい。この男、顔だけは本当に無駄に整っているんだから!

あの日、彼が我が家の家庭教師(という名のスパルタ教官、いやむしろ鬼軍曹)としてやってきてからというもの、私の日常は文字通り地獄絵図へと変わった。学校から帰れば、おばあ様と冬城による陰陽道の基礎知識の詰め込み教育、という名の拷問。そして、早朝と放課後には、この道場で彼による実践的な術の特訓、という名のしごきだ。お陰で、私の貴重な睡眠時間と、普通の女子高生らしい放課後ライフ(例えば、緋和と新作のタピオカを飲みに行くとか!)は完全に奪われている。こんな生活、もう嫌!


「うるさいわね!私だって、生まれて初めてこんなことやってるのよ!それに、あんただって最初から完璧だったわけじゃないでしょ!赤ちゃんの時から竹刀握ってたわけでもあるまいし!」

汗だくになりながら、私は息を切らして反論する。今日の特訓メニューは、基礎的な結界術の構築。自分の霊気を集中させ、目に見えない壁を作り出すというものだが、これが想像以上に難しいのだ。私の作り出す結界は、まるでシャボン玉のように儚く、冬城が竹刀で軽く突いただけで、プツンと情けなく消えてしまう。その度に、彼の口から深いため息が漏れるのが聞こえてきて、さらに腹が立つ。

「言い訳はいい。集中力が足りんのだ。お前のその力は、もっと繊細なコントロールが必要なんだ。ただ力を解放すればいいというものではない。まるで、蛇口を全開にしたまま放置しているようなものだ。無駄が多い」

冬城は、私の言葉を鼻で笑うかのように一蹴し、再び竹刀の切っ先を私に向ける。その黒曜石のような瞳は、一切の妥協を許さないという強い意志を宿していた。このドS!鬼!悪魔!あんたの顔なんて、もう見たくもないわよ!と心の中で絶叫するが、もちろん口には出せない。


それでも、彼の指導が的確であることは、悔しいけれど認めざるを得なかった。私が無意識に力の使い方を誤っている部分や、霊気の流れをスムーズにするための呼吸法など、彼のアドバイスはいつも的確で、そして実践的だ。おばあ様の教えが「伝統と格式」を重んじる、いわば古武術のようなものだとしたら、冬城のそれは「実戦と効率」を重視した、現代格闘技のようなもの、という感じだろうか。

「…いいか、結界術の基本は、自分の内なる霊力を正確に把握し、それを安定した形で外部に放出することだ。まず、深呼吸して、自分の中心、丹田たんでんに意識を集中させろ。そして、その力をゆっくりと両の手のひらに集めるんだ…そう、もっとゆっくりと…まるで、壊れやすいガラス細工でも扱うように、だ」

冬城が、私の背後に回り込み、そっと私の両肩に手を置いた。そして、彼の冷たい指先が、私の手の甲をなぞるように触れ、正しい術の構えを教えてくれる。その瞬間、彼の体が私の背中に密着し、彼の吐息がすぐ耳元で感じられた。彼の纏う、石鹸のような、どこか冷たくて清潔な香りが、私の鼻腔をくすぐり、なぜか心臓がドキドキと音を立て始める。こ、これは指導の一環なんだから、変なこと考えちゃダメよ、私!

「な、馴れ馴れしく触らないでよね!私、自分でできるから!それに、あんたの手、冷たいんだけど!」

顔がカッと熱くなるのを感じながら、私は慌てて彼の手を振り払おうとするが、彼は意に介さず、「これは指導だ。勘違いするな。それから、もっと肩の力を抜け。そんなに力んでいては、霊気の流れが滞る。まるで、ガチガチに凍った水道管のようだ」と、涼しい顔で言い放つ。その声は、いつもより少しだけ、ほんの少しだけ、優しく聞こえたような気がしたのは、きっと気のせいだわ。でも、彼の言葉通りに肩の力を抜くと、不思議と手のひらに集まる霊気が、さっきよりもずっと温かく、そして力強くなったのを感じた。私の頬が、彼の言葉のせいなのか、それとも彼の近さのせいなのか、ほんのりと赤く染まっているのに、彼は気づいているのだろうか。


特訓の合間には、おばあ様と冬城と共に、本格的に夏海家の古文書の解読に取り組んだ。埃っぽい書斎に籠り、ミミズが這ったような難解な文字と格闘する日々。そこには、私たちの想像を遥かに超える、この学園と夏海家に隠された秘密が記されていた。

「…この記述によると、かつてこの星影の地に現れた“古き災い”は、夏海家と、そしてもう一つの協力関係にあった一族の手によって、七つの場所に分割して封印された、とあるのう…その協力した一族とは、確か…」

おばあ様が、古文書の一節を読み上げ、そこで言葉を濁らせて、ちらりと冬城の方を見た。冬城は、何も言わずに窓の外を見つめている。その横顔は、どこか物憂げで、普段の彼とは違う表情をしていた。

「七つの封印…それが、学園の七不思議と何か関係があるのかもしれないわね。そして、その封印を守るためには、何か特別な力が必要なのかしら…」

私が呟くと、冬城が「その可能性は高いな。そして、古文書にはこうも書かれている。“封印を守護し、そして再び災いが目覚めし時、それを鎮めることができるのは、星影の印をその身に宿し、清浄なる魂を持つ者のみ”と…」と言って、意味ありげに私を見た。その視線が、私の胸に重くのしかかる。「星影の印」…それは、私の手首に現れた、あの痣のことなのだろうか。そして、「清浄なる魂」って…私のこと…なわけないわよね!?こんなに不純なことばっかり考えてるのに!


冬城のスパルタ指導と、難解な古文書との格闘で、私の心身は限界寸前だった。こんな生活、普通の女子高生が送るものじゃないわ!せめて、秋月先輩の優しい笑顔でも拝めれば、少しは癒やされるのに…。

そんな私の願いが通じたのか、ある日の放課後、図書室で偶然にも秋月先輩とばったり会ったのだ!

「夏海さん、最近すごく頑張っているみたいだけど、少し顔色が悪いよ。大丈夫かい?無理してないか?」

先輩は、私の顔を覗き込むようにして、心から心配そうな表情を浮かべてくれた。その優しい声と眼差しに、私の荒んだ心は一瞬で浄化されていくようだ。

「せ、先輩…!だ、大丈夫です!ちょっと、勉強が大変なだけで…!」

「そうか…。でも、あまり根を詰めすぎるのも良くないよ。気分転換も兼ねて、僕の家の神社で精神統一の練習をしないか?静かな場所で心を落ち着かせれば、力のコントロールもしやすくなるかもしれないし、何か新しい発見があるかもしれないよ。それに…僕も、君と話せる時間が欲しいから」

最後の言葉は、囁くような小さな声だったけれど、私の耳にははっきりと届いた。「君と話せる時間が欲しいから」ですって!?そ、それって、どういう意味…!?

先輩の優しい誘いに、私は二つ返事で頷いていた。先輩の隣にいられるなら、どんな練習だって頑張れる気がする。今日の私は、緋和に選んでもらった、淡い桜色のブラウスに白いフレアスカートという、ちょっとだけ気合の入ったコーディネートだ。先輩、気づいてくれるかしら…?この、いつもより少しだけ女の子らしい私に。


二人きりで訪れた、夕暮れ時の秋月先輩の家の神社。ひんやりとした空気と、厳かな雰囲気が漂う境内は、確かに誰にも邪魔されない、秘密の特訓場所には最適かもしれない。そして何より、先輩と二人きりというのが、私の心をウキウキさせていた。境内には、季節外れの桜の花びらが数枚、風に舞っていた。

「まずは、呼吸を整えることから始めようか。ゆっくりと息を吸って…そして、吐き出す。心の中のモヤモヤも、全部一緒に吐き出すようにね。大丈夫、僕がそばにいるから。君の呼吸に合わせて、僕も一緒にやるよ」

先輩は、神社の作法に基づいた呼吸法や、瞑想の方法を、一つ一つ丁寧に教えてくれた。その声は穏やかで、私の強張っていた心を少しずつ解きほぐしてくれる。先輩の隣で目を閉じ、彼の穏やかな気配に包まれていると、不思議と心が安らぎ、力の流れがスムーズになるのを感じた。まるで、清らかな泉の水が、私の心を満たしていくようだ。

「頑張り屋の夏海さんも素敵だけど、時にはこうして肩の力を抜くことも大切だよ。君は、一人で抱え込みすぎるところがあるからね。…ほら、もっとリラックスして」

先輩はそう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。その大きな手の温かさに、私の頬はほんのり赤く染まる。先輩の指が、私の髪をそっと梳く感触が、なんだかすごく…ドキドキする。こんな時間が、ずっと続けばいいのに…。彼の指先が、私の耳朶に微かに触れたような気がして、全身に甘い痺れが走った。


そんな特訓と癒やしの日々を重ねるうちに、私の力は少しずつだけれど、確実に安定し始めていた。以前のように感情に左右されて暴走することは減り、自分の意思で淡い光を放ったり、小さな結界を短時間なら張ったりすることができるようになってきたのだ。その光は、まるで私の心の色を映すかのように、時には力強く、時には優しく揺らめいた。

力をコントロールできるようになった私は、以前よりも少しだけ自信に満ちた表情を見せるようになっていたかもしれない。その真剣な眼差しや、術を発動する際の凛とした佇まいは、自分でも気づかないうちに、周囲の人々をハッとさせるほどの輝きを放ち始めていた。緋和からは「瑠々ちゃん、最近すごく綺麗になったね!恋してるから?それとも、冬城くんのスパルタ指導のおかげで、内面から美が溢れ出てる感じ!?」なんてからかわれ、秋月先輩からは「夏海さん、本当に見違えるように強くなったね。その瞳、吸い込まれそうなくらい綺麗だよ。君の頑張り、僕はちゃんと見てるからね」なんてストレートな褒め言葉をもらい、私の心臓は破裂寸前。そして冬城からは…まあ、彼からは相変わらず「まだまだだな。だが、少しはマシになったか」という上から目線の一言しかもらえないけれど、その口元がほんの少しだけ緩んだような気がしたのは、きっと気のせいではないはずだ。そして、彼が時折見せる、私の成長を確かめるような、どこか満足げな視線に、なぜか胸の奥がチクリと痛んだ。


そして、ある日の古文書の解読中、私たちはついに、「七つの星の封印」の最初の場所を示す、具体的な記述を発見したのだ!それは、まるで運命の糸が手繰り寄せられたかのような、劇的な瞬間だった。

「…“学園の東、古き銀杏の木の下、星詠鳥ほしよみどりの羽根舞う場所に、第一の封印あり”…これだわ!緋和、やったわよ!」

私の声が、興奮に震える。

しかし、その情報がどこからか「黒き月影」の組織にも漏れたのだろうか。その日の夕方、学園の周囲に、これまでとは明らかに違う、複数の禍々しい気配が漂い始めているのを、私と冬城は同時に感じ取った。それは、まるで獲物を狙う肉食獣のような、飢えた気配だった。

「…どうやら、招かれざる客が、我々の獲物を横取りしに来たようだな。それも、随分と性急なことだ」

冬城が、窓の外の不穏な気配を睨みつけながら、冷たい光を宿した瞳で呟いた。その手には、いつの間にか銀色の短剣が握られている。彼の横顔は、戦いを前にした戦士のように、鋭く研ぎ澄まされていた。

最初の封印を巡る戦いが、今、始まろうとしていた。私の心臓は、恐怖と、そしてほんの少しの武者震いで、激しく高鳴っていた。

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