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第12話:学園封鎖!?ケータイも繋がらないなんて、マジで無理なんですけど!

七夕の夜空に浮かび上がった不吉な紋様と、地の底から響いてくるようなおぞましい唸り声。それは、楽しいはずだった七夕祭りの雰囲気を一瞬にして凍りつかせ、私たちを底知れぬ恐怖の淵へと突き落とした。

さっきまで賑わっていたはずの校庭から、いつの間にか他の生徒たちの喧騒が嘘のように消え失せ、残っているのは、私と、震える緋和と、険しい表情の秋月先輩、そして冷静さを装いつつも明らかに警戒を強めている冬城くん…ただそれだけ。まるで、私たちだけが、この異様な空間に取り残されてしまったかのようだ。


「…これは…ただのマガツモノじゃない…もっと、ずっと根源的で、強力な…“何か”だ…」

冬城が、絞り出すような声で言った。その額には、うっすらと汗が滲んでいる。彼の言葉は、私の胸に重くのしかかり、言いようのない不安を掻き立てた。

暗闇の中で、何かが蠢いている。それは、私たちを、そしてこの星影高校を、ゆっくりと、しかし確実に喰らおうとしている。その圧倒的な気配に、私の体は鉛のように重くなり、呼吸さえもままならない。


「みんな、大丈夫か!?」

秋月先輩が、私たちを庇うように前に立ち、声を張り上げる。その声は、恐怖に染まる私たちにとって、唯一の灯台の光のようだった。

「とにかく、ここから離れよう!安全な場所へ!そして、何が起きているのか情報を集めるんだ!」

先輩の言葉に、私たちは弾かれたように動き出す。緋和の手を固く握りしめ、私たちは一目散に校舎の中へと駆け込んだ。背後からは、依然としてあの不気味な唸り声と、何かが地面を擦るような、おぞましい音が追いかけてくる。


校舎の中もまた、異様な静寂に包まれていた。さっきまで灯っていたはずの廊下の非常灯さえも消え、窓から差し込む頼りない月明かりだけが、私たちの進むべき道をぼんやりと照らし出している。

「ケータイが…繋がらない…!どうして…?」

緋和が、震える声で呟いた。私も慌てて自分のスマートフォンを取り出してみるが、画面には無情にも「圏外」の文字が表示されているだけ。インターネットも、もちろん繋がらない。まるで、この学園だけが、世界から切り離されてしまったみたい。

「どういうこと…!?私たち、閉じ込められちゃったの…!?」

私の声は、恐怖で上ずっていた。外部との連絡が完全に遮断されたという事実は、私たちの心にさらなる絶望感を植え付けた。

冬城は、冷静に周囲の状況を観察しながら、「…おそらく、強力な結界のようなものだ。この学園全体が、外部から隔離された異空間になっているのかもしれない。問題は、誰が、何のためにこんなことをしたか、だな」と、淡々と、しかし重い口調で分析する。その言葉には、明確な「敵」の存在を意識した響きがあった。


私たちは、比較的安全そうな場所として、普段あまり人が立ち入らない図書室の奥にある、小さな会議室へと避難した。幸い、そこにはまだ電気が通じていたが、窓の外は相変わらず不気味な闇に包まれ、月も星も見えない。まるで、厚いとばりが下ろされてしまったかのようだ。

「他の生徒たちは…先生たちは、どうなっちゃったんだろう…」

緋和が、不安そうに呟く。校内を移動する途中、いくつかの教室を覗いてみたけれど、そこには机に突っ伏して深い眠りに落ちている生徒たちの姿があるだけだった。まるで、時が止まってしまったかのように。彼らの顔は一様に青白く、どこか苦しげに見える。

「…おそらく、この異変を引き起こした“何か”の影響で、意識を奪われているのだろう。我々が無事なのは…おそらく、何らかの“耐性”があるからか、あるいは…この異変の“核”に近い場所にいたからか…」

冬城はそこまで言うと、意味ありげに私を一瞥した。その視線が、私の胸にチクリと刺さる。私の、この“力”のせいだというの…?それとも、私たちが何か特別な役割を担っているとでも?


秋月先輩が、持参していたリュックサックから、いくつかのものを取り出した。それは、彼の家の神社に伝わるという古いお守りや、小さな鈴、そして清めの塩などだった。

「気休めかもしれないけれど、ないよりはマシだろう。みんな、これを持っておいてくれ」

先輩は、私たち一人一人にお守りを手渡してくれた。その手は温かく、そして力強かった。彼の手が私の手に触れた瞬間、ほんの少しだけ、彼の指が私の指に絡んだような気がして、心臓がドキリと跳ねる。こんな時なのに、不謹慎だとは思うけれど…。

「それに、これ…」

そう言って先輩が取り出したのは、あの時、資料室で見つけたのと同じような、古びた木箱だった。ただ、先輩の持っている木箱の方が、より古く、そして何か特別な紋様が施されているように見える。その紋様は、どこか星の形にも似ていた。

「この中には、僕の家系に代々伝わる、魔を祓うための道具が入っているんだ。使う時が来ないことを願うけれど…。この学園の地下には、古くから何か良くないものが封印されているという言い伝えがあってね。今回の異変と、何か関係があるのかもしれない」

先輩の言葉に、私たちはゴクリと唾をのんだ。地下に、封印…?まるでミステリー小説みたいじゃない。


「…さて、これからどうするかだ」

冬城が、腕を組んで口火を切った。その目は、獲物を狙う獣のように鋭く光っている。

「このままここに籠もっていても、状況は好転しないだろう。原因を突き止め、この異変を終わらせる必要がある。まずは、この結界を破る方法を探らなくてはな。あるいは、この異変を引き起こしている“元凶”を叩くか」

「でも、相手は得体の知れない“何か”なんでしょ?私たちだけで、どうにかなるの…?それに、元凶って言われても、どこにいるのかも分からないじゃない!」

私の不安な問いかけに、冬城は冷ややかに答える。

「どうにかするしかない。他に選択肢はないだろう。それに…君には、まだ隠している力があるはずだ、夏海瑠々。君のその“目”は、普通の人間には見えない“何か”の痕跡を捉えることができる。それが、元凶を探す手がかりになるかもしれない」

彼の言葉が、再び私の胸を抉る。隠しているつもりはない。ただ、認めたくないだけだ。この忌まわしい、陰陽師の血を。でも、彼の言う通り、私には何かが見えているのかもしれない。あの黒いモヤや、人々の顔の歪み…。


「…とにかく、今は情報を集めよう。この異変の原因、そして、あの“何か”の正体について。図書室には、学園の古い記録が残っているかもしれない」

秋月先輩が、私たちを落ち着かせるように言った。その声には、リーダーシップを感じさせる頼もしさがあった。

「僕も、この学園の古い言い伝えや、神社の記録を調べてみる。何か手がかりが見つかるかもしれない」

「私も手伝うわ!オカルト雑誌で読んだ知識が、役に立つかもしれないし!もしかしたら、宇宙人の仕業かも!」

緋和が、少しだけ元気を取り戻したように声を上げる。その前向きな姿に、私は少しだけ勇気づけられた。…宇宙人はないと思うけど。

「…私は…」

私が言い淀んでいると、冬城が私をじっと見つめて言った。その視線は、どこか挑戦的だ。

「君は、自分の“感覚”を信じろ。そして、見えたもの、感じたものを、躊躇わずに俺たちに伝えろ。それが、君の役割であり、我々が生き残るための唯一の道かもしれない」

その言葉は、命令でもなく、期待でもなく、ただ淡々とした事実の告知のように聞こえた。でも、その瞳の奥には、ほんの少しだけ、私への信頼のようなものが宿っているように見えたのは、私の気のせいだろうか。


作戦会議とも呼べないような話し合いの最中、突如として、会議室のドアが、ドン!ドン!と、何か巨大なもので激しく叩かれる音が響き渡った。それは、地の底から響いてくるような低い唸り声と共に、明らかに悪意を持った存在の気配を伴っていた。ドアが、ミシミシと音を立てて歪み始めている。

「きゃあああっ!」

緋和が恐怖で悲鳴を上げ、その場にへたり込んでしまう。ドアの向こう側から、黒く太い、まるで木の根のような触手が、ドアの隙間をこじ開けようと蠢いているのが見えた。その先端は鋭く尖り、私たちを捕らえようとしている。

「まずい…!もうここまで来たのか!こんなに早く…!」

秋月先輩が叫び、お守りを構える。冬城も、素早く銀の短剣を抜き放った。

絶望的な状況。私たちの、長い夜が始まろうとしていた。そして、この学園に隠された、深い謎の始まりでもあった。

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