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第10話:暗号解読とか無理ゲーだし!ていうか桜の木、めっちゃ怖いんですけど!

資料室で見つけた古文書の束と、奇妙な木箱。それが、私たちの新たな、そしてとてつもなく厄介な宿題となった。特に古文書は、古い時代の独特な言い回しや、ところどころ虫に食われたような欠損、そして何よりも解読不能な暗号めいた記述だらけで、私の頭脳では早々にギブアップ寸前だった。墨のかすれたミミズのような文字は、まるで私たちを嘲笑っているかのようだ。部屋中に広げられた和紙の束は、まるで迷宮の入り口のように、私たちを途方に暮れさせた。

「こんなの、分かるわけないじゃない!これ、本当に日本語なの!?古代の宇宙人のメッセージとかじゃないでしょうね!解読できたらノーベル賞ものよ!」

自室の机に突っ伏し、私はうんうんと唸りながら頭を抱えた。おばあちゃんは「自分の血と向き合え」なんて簡単に言うけど、これじゃあ向き合う以前の問題だ。ルーペで拡大してみても、ただのシミにしか見えない部分もあるし、そもそも紙がボロボロで触るのも怖い。


「瑠々ちゃーん、何してるのー?そんな難しい顔しちゃって、眉間にグランドキャニオンできてるよー?もしかして、ラブレターの暗号解読中とか!?」

そこへ、ひょっこりと部屋を覗き込んできたのは、すっかり元気を取り戻した緋和だった。その手には、ちゃっかり私の分まで用意されたフルーツゼリーのカップが握られている。彼女は私の手元にある古文書の山を見るなり、「うわっ、何これ!もしかして、インディ・ジョーンズが探してたやつ!?伝説の秘宝のありかとか!ワクワクするね!」と目をキラキラと輝かせている。…まあ、ある意味、学園の平和を左右する秘宝みたいなものかもしれないけど。

「これはね…ちょっとした調べものよ。でも、全然分からなくて。まるで、絶対にクリアできない無理ゲーみたい」

私がため息をつくと、緋和は「ふーん、私で良ければ手伝うよ!私、こーいう謎解きとか、脱出ゲームとか、超得意なんだから!任せて!」と、どこから取り出したのか、オカルト雑誌の切り抜きや都市伝説サイトのURLがびっしり書き込まれた、彼女曰く「秘密の捜査ファイル~緋和スペシャル~」という名の、分厚いノートを自信満々に広げ始めた。その表紙には、なぜか宇宙人のシールが貼ってある。


最初は半信半疑だったけれど、緋和のオカルト知識と、彼女の底抜けのポジティブさは、意外なところで私たちの突破口を開いてくれた。

「ねえ瑠々ちゃん、この変な記号、なんか星座の形に似てない?ほら、オリオン座の三ツ星みたいな…あ、こっちのはカシオペア座っぽいかも!昔の人って、星に願いをかけたりしたんでしょ?だから、星の形に秘密を隠したとか!」

緋和が指差したのは、古文書の隅に小さく、しかし明らかに意図的に記された、一見意味不明な点々の羅列だった。言われてみれば、確かに…。それは、夜空に輝くいくつかの星座の配置と酷似していた。まさか、こんなところにヒントが…?

「それとね、昔の暗号って、特定のキーワードを別の文字に置き換えたりするらしいよ!“あぶり出し”とか、“アナグラム”とか!あと、鏡文字とか!このミミズみたいな字、もしかして鏡に映したら読めるんじゃない!?」

緋和の突拍子もないように聞こえる知識の数々。でも、その中の一つ、「古い和歌に、本当の意味を隠す“歌い返し”っていう技法があったんだって!五七五七七のリズムの中に、別の言葉を織り込んだり、各句の頭の文字を繋げるとメッセージが浮かび上がったり、あるいは、和歌全体を逆さから読むと、全く違う意味の歌になる“逆読みの歌”なんてのもあったらしいの!」という言葉に、私の脳裏に電流が走った。

「…逆さから読む…!?まさか…!」

私は、第一章で自分が見つけた、あの「七つの影、星の下に集う時、古き扉は開かれん…」と書かれた和歌の紙片を震える手で取り出した。あの時、おばあちゃんは「ただの古い歌じゃ」と言っていたけれど、もしかして、あれも…!

私たちは、緋和の柔軟な発想と、私の(ほんの少しだけある)古文の知識、そして何よりも諦めない根性を総動員して、まるで難攻不落の城を攻めるように、古文書の解読に挑んだ。部屋の時計の針が、カチ、カチ、と無情に時を刻んでいく。窓の外はとっくに暗くなり、月明かりだけが私たちの手元をぼんやりと照らしていた。

ルーペ片手に文字を追い、辞書をめくり、時には紙に書き出しては首を捻る。行き詰まっては緋和が「こういう時は、一回休憩して甘いもの食べるのが一番だよ!脳みそに糖分補給!」とお菓子を持ってきてくれたり、「もしかして、このシミの形がヒントだったりして!ほら、なんとなく龍に見えない?」と突拍子もないことを言い出したりする。その度に私は「そんなわけないでしょ!集中して!」とツッコミを入れつつも、彼女の自由な発想が、凝り固まった私の思考を解きほぐしてくれるのを感じていた。二人で頭を突き合わせ、ああでもないこうでもないと議論する時間は、不思議と苦ではなかった。


そして、何時間格闘しただろうか。部屋の空気が、まるで張り詰めた弦のように緊張していた、その時。

「…待って、緋和!この部分…さっきの星座の記号、あれが示すのは特定の“文字”の位置…そして、あの和歌の“歌い返し”の法則、それをこの暗号文に当てはめて、さらに…このシミに見えるものは、もしかして…!」

私の声が興奮に震える。緋和も息をのんで私を見つめている。その瞳には、期待と不安が入り混じっていた。

震える指で、古文書の文字を一つ一つ辿り、頭の中で複雑なパズルのピースをはめ込むように言葉を組み立てていく。脳細胞がフル回転し、額には汗が滲む。そして――!

「…読めた…!読めたわ、緋和ッ!!」

思わず叫んでいた。

『星影の地に眠るは、桜花の双霊そうれい。結ばれぬ愛、怨嗟えんさとなりて学舎まなびやを覆う。これを鎮めるは、月影つきかげ満ちる夜、清浄なる魂といにしえうつわもて、和合わごうの儀を執り行え…』!

解読できた内容は、衝撃的なものだった。学園の七不思議の一つ「呪われた桜の木」に封印された、悲恋の末に亡くなった男女の怨念。そして、それを鎮めるための儀式には、あの奇妙な木箱(古の器?)と、特別な月の巡りが必要らしい。そして、「清浄なる魂」とは…もしかして、私のこと…?

「瑠々ちゃん、すごーい!やったね!名探偵みたい!いや、もう名探偵だよ!」

緋和が、まるで自分のことのように飛び上がって喜んでくれる。その満面の笑顔は、どんな難解な暗号よりもずっと、私に力を与えてくれた。私たちは、思わずハイタッチを交わしていた。


その夜。古文書に記されていた「月影の儀」を行うため、私と秋月先輩は、二人きりで夜の学園へと忍び込んだ。昼間とは全く違う、静まり返った校舎。中庭にそびえ立つ桜の木は、月明かりに照らされて、どこか妖艶で、そして不気味なほどの存在感を放っていた。風もないのに、その枝がざわざわと不気味な音を立てている。

「…なんだか、昼間よりずっと、嫌な感じが強くなってるみたい…」

私の白い息が、夜の冷たい空気の中に溶けていく。先輩は、そんな私の肩をそっと抱き寄せ、「大丈夫。僕がついているから」と囁いた。その声と、すぐそばに感じる先輩の体温に、私の心臓はまたしても暴れ出しそうになる。こんな状況なのに、ドキドキが止まらないなんて、私って本当にバカ!でも、先輩の逞しい腕に守られているような感覚は、不思議と安心できた。月明かりに照らされた先輩の横顔は、いつもよりずっと大人びて見えて、私は思わず見惚れてしまった。


古文書の記述に従い、私たちが儀式の準備を始めようとした、その時だった。

「グオオオオォォォ…!」

桜の木が、まるで生きているかのように激しく揺れ動き、その根元から、黒紫色の禍々しい気を纏った二つの人影が、ゆっくりと姿を現した。それは、古文書に記されていた、悲恋の男女の怨念が具現化したマガツモノだった。その瞳は憎悪に燃え、鋭い爪を私たちに向けてくる。

「来るぞ、夏海さん!」

先輩が叫び、私を庇うように前に立つ。彼は、神社から持ってきたという古い御幣ごへいを構え、マガツモノに立ち向かおうとする。その姿は勇敢だったけれど、相手の放つ邪気はあまりにも強大で、先輩の力だけではとても太刀打ちできそうにない。

「先輩、危ない!」

マガツモノの一撃が先輩を襲おうとした瞬間、私は無我夢中で彼の前に飛び出していた。そして、まただ。私の体から、あの時と同じ、眩いばかりの淡い光が溢れ出す。今度は、ただ守るだけじゃない。この力を、コントロールしなくちゃ…!緋和を、そして先輩を守るために!

光は、マガツモノの攻撃を弾き返すと同時に、桜の木全体を優しく包み込むように広がっていく。その光の中で、苦悶に歪んでいたマガツモノの表情が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。


「…やはり、君の力は不安定だな。だが、悪くない。その光、もっと増幅させろ、夏海瑠々!」

いつの間にか現れていた冬城が、私の隣に立ち、冷静な声で指示を出す。その手には、あの銀色の短剣が握られている。

「な、なんであんたがここに…!?」

「君たち二人だけでは、このマガツモノを完全に鎮めるのは無理だろうと思ってな。それに…君のその力、もう少し観察させてもらう」

相変わらずの言い草だけど、彼の存在は、なぜか少しだけ心強く感じられた。

冬城は、私の放つ光に呼応するように、彼自身の術を発動させる。彼の短剣から放たれる鋭い霊気が、私の光と絡み合い、共鳴し、さらに強大な浄化の力となってマガツモノを包み込んでいく。

その瞬間、マガツモノの二つの人影は、苦しみから解放されたように静かに光の中へと溶けていき、桜の木は元の穏やかな姿を取り戻した。


戦いが終わり、張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、私はその場にへなへなと座り込んでしまった。全身の力が抜けて、指一本動かせそうにない。

「夏海さん、大丈夫か!?」

秋月先輩が、心配そうに私の顔を覗き込む。その優しい声と眼差しに、なぜだか涙が溢れてきそうになる。

「…はい…なんとか…先輩こそ、お怪我は…?」

「僕は平気だよ。君が…守ってくれたからね」

先輩はそう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。その手の温かさに、私の心臓はまたしても限界を突破しそうなくらいドキドキしていた。

そんな私たちを、冬城は少し離れた場所から、腕を組んで無言で見つめていた。その表情は読めなかったけれど、彼の黒曜石のような瞳の奥に、ほんの僅かだけ、何か複雑な感情が揺らめいたような気がした。


マガツモノが消え去った後、桜の木の根元には、古文書に描かれていたのと同じ、「鳥の羽根を模した紋様」が、淡い光を放ちながら浮かび上がっていた。それは、まるで何かを示しているかのようだ。

冬城が、浄化された桜の木から、何か小さな光る欠片のようなものを、誰にも気づかれれないようにそっと回収するのを、私は見逃さなかった。

「…それは何なの?」

私が尋ねると、冬城は「君には関係ないことだ」と、いつものように冷たく言い放った。彼の真の目的とは一体…?そして、この古文書には、まだ解読できていない、もっと重要な秘密が隠されているような、そんな予感がした。

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