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彼女の望みと幸せ

ビシャビシャ ゴリッ ガリィッ


異質な音が、寝室から漏れ聞こえる。


妻は夫の屍骸を喰らいながら、それでも夫の上に跨っていた。


「うふふっ♪ お母さんの言っていた通り、愛した男の人って美味しいのね」


口から下を愛する夫の血で染め上げながら、妻はうっとりと呟いた。


「ゴメンなさいね。わたし、あなたに言ってなかったことがあるの」


喰らうことを一時止め、夫の顔を愛おしそうに撫でた。


「わたしの家系ではね、妻は夫を喰らい、子を産むのよ。そうすることで、優秀な夫の遺伝子をより濃く受け継いだ子供が生まれる仕組みなの」


にっこりと微笑みかける。


しかし白目を向いた夫は何も答えない。


「わたしのお父さんはね、モデルだったの。だからわたしはこんなに美しく生まれた」


妻は自分の体を見回し、笑った。


「わたしの子供には、高い知能を持っていてほしかったの。あの合コンの日、あなたと出会って気付いたわ。運命を、ね。あなたの子供を産む為に、きっとわたしは生まれたんだわ」


手に付いた血を舐め上げ、妻は7年前の出会いを思い出す。


容姿は平凡なれど、優秀な知能を持った男。


「あなたはわたしがそれまで出会った男性の中で、一番優秀だった。だから好かれるように、努力したの。わざわざお母さんに頼んで、探偵まで使って、あなたのことを調べたわ。そしてあなた好みの女性を演じた」


ちゅっと音を立てて指を吸い上げ、妻は妖艶に微笑む。


「楽しかったでしょう? 理想の女性を7年間も演じ続けた。そしてその夢を見たまま、あなたは死ねた。―幸せな死に方よね?」


ゾッとするほど冷たい声で、妻は夫へ語り掛ける。


「安心して。子供はわたしが一人で立派に育てるわ。あなたほど優秀な男は他にいないでしょうから、再婚なんかせず、子供に愛情を注ぐわ」


妻は自分の腹を、優しくいとおしげに撫でた。


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