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病室で目覚めただけなのに

……部屋にラーメンの匂いが充満している……

 頭がズキズキして目が覚めた。


「起きたか?」ラーメンをズズーっとすすりながら知らない男が僕に話しかけた。


「先生呼びますね」女の人の声が続けて聞こえた。


「ここは……?」僕は頭を抑えながら周りを見渡した。


「病院だよ病院」ラーメン男がぶっきらぼうに答えた。

 程なくして来た医者が、僕にペンライトで目を照らしたり幾つかの質問をしたあと、


「どうやら軽い脳震盪で済んだみたいだね、無理をしなければ大丈夫でしょう」

 そう言いながらラーメンを食べてる男に向かって、


「あのね五味ちゃん、病室で出前取るなって何度も言ってるよね?」


「へいへい、分かりました」

 ラーメンのどんぶりをスツールに置き、胸ポケットからタバコを出しながら面倒くさそうに答えた。


「禁煙!! 当然だろがバカ!」

 タバコを持った手をピシャリと叩いた。


 痛てーと言いながら叩かれた手をプラプラさせる男にクスッとしながら、


「コイツの事、ちゃんと監督しといてね、美弥ちゃん」


 医者はそう言い残して背を向けた。

 すみませんと言う感じで頭を下げる女性。


 美弥さんというのか……メガネをかけキチンとした身なりで、どっちかって言うと堅物な美人だ。それに比べてヨレヨレの背広にネクタイ、そしてラーメン臭いこの男は何者だよ。


「ほいでよぉ」


 ラーメン臭い男の顔がグイッと近づいた。


「俺は警視庁生活安全課の五味ヶ谷だ、でそっちのネーチャンが若葉美弥25歳、独身だ」

 警部補と書かれた名刺を僕にくれた


 要らん情報までありがとうと思いつつ、刑事さん? なのかこの男。


「あ! そうだ、あの人どうなりました?」

 

 急に倒れてきたあの外人のジェントルマン、僕の手が血だらけになるような傷があったんじゃないか?


「病院に運ばれたが意識不明の重体だ。それでな、君はあの外人さんと知り合いなのかね?」


「いえ? 初対面でしたよ」


「そうか……防犯カメラで見ると、君ら何か話してるよな? 何と言ってたんだ?」


「あ……えっとぉ」

 あのジェントルマンは『儒烏風亭らでん』とはっきり言っていた、僕の最推しVtuberだ、聞き間違えるはずが無い。


 こんな事にらでんちゃんを巻き込んではいけないと思った僕はつい、


「じゅ……ジュテーム……って言ってたかな……」


 五味ヶ谷は眉をピクピクさせ、

「ほぉ、初対面のオッサンから愛の告白かよ?」

 怒ってる、そりゃそうだ。


「いやだって、外国語わかんないですもん。なんとなくそんな風に聞こえたかなーって」


「お前さん警察バカにしてるだろ? あとな、凶器はどこに隠したんだ?」


「凶器って何のです?」

 僕はポカーンとして聞いた。


「オランダ、マウリッツハイス美術館の主任学芸員『スタウ・フェン・ランベルト氏』殺人未遂に使った凶器だよ!」


「ふぇ?? 殺人? それって僕が容疑者って事?」

 僕はぶったまげてベッドから落っこちそうになった。


「とぼけて逃げようったって、そうは問屋が……」

 五味ヶ谷が僕に襲いかかりそうになったのを見て、美弥が急に割って入る。


「五味ヶ谷警部補! やりすぎです!」

 彼女はキッと五味ヶ谷を睨んだ後、僕に向き直り


「容疑者というより、被害者の近くに居たので参考人みたいな立場です。それに逮捕状も出ていないですし」


「ちぇっ、最初に脅しとけばペラペラ喋るじゃんよ……」

 不満そうな顔の五味ヶ谷。


「そういう昭和な捜査は今じゃ逆に訴えられます!」


 一回り以上年の離れた、多分上司であろう人に向かって、意外とおっかない美弥。


「今日の所はこのままお帰り下さって大丈夫です。でも何かあったり、他に思い出した事があれば先ほどの名刺にあった番号にお電話くださいね? 広谷さん」


「あれ? 僕の名前……自己紹介しましたっけ?」


 美弥は申し訳無さそうな顔をして、僕のバッグと財布を手渡した。


「いちおう仕事ですので……」


「あぁ、ですよね」

 財布の中身を調べながら、免許証見たのかと思いつつ現金が足りないのに気づいた。

「あれ? 千円足りないかな」

 僕がつぶやくと、


「ごっそさーん」と言いながら部屋を出て行く五味ヶ谷。


「あ、さっきのラーメン! 広谷さんのお金使ったんですか? んもぅ最悪!」

 美弥が慌てて自分の財布から千円出して僕に渡した。


「ごめんなさい! ああ見えて本当は優秀な刑事なんです」


「良いんですよ、警察に対する信用が地の底に落ちただけですから」

 僕はにっこり笑って言った。


 美弥はペコリと頭を下げて部屋から出ていった。




「さてと」

 着替えて病室から出て、会計に向かった。


「広谷さーん広谷清流さん、ひろやせいるさーん」

 呼び出しに、ハイハイ僕ですと右手を上げながら窓口に行くと、


「彼の分は五味ちゃんから貰ってるから大丈夫だよ」

 先ほどの医者が窓口の人に伝えた。


「ラーメン奢らされたって? ひどい奴だよな」

 医者はケラケラ笑いながら奥に行ってしまった。





 外に出ると真っ昼間だった。

 美術館で騒動があったのは夕方だったから、僕は一晩病院で眠っていたのか。


「あぁ腹減った」とりあえずラーメンでも食って帰るか。


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