第九章
志郎と優里は広場からスパイを追っていた。彼らは慎重にスパイと距離を保ちつつ、その後をつけていった。スパイが辿り着いた先は、イーステンドの野党である社会党の本部だった。
「ここに入っていくのか…」と志郎が低く言った。
「まさか、野党が共産主義のスパイと繋がっているなんて。これは一大事だわ」と優里が息を飲んだ。
「早く誰かに報告しなければ」志郎は決意を固めた。そこで思い浮かんだのは、かつて大山さんに紹介された政府の知人だった。
二人は急いでその人物に会いに行くことにした。彼の名前は佐藤といい、政府の重要な役職に就いている人物であり、信頼できる情報源でもあった。
二人が政府の庁舎に到着し、佐藤のオフィスに入ると、彼は机に座り、真剣な表情で書類を見ていた。
「佐藤さん、話があります」と志郎が切り出した。
佐藤は顔を上げ、二人の緊迫した表情に気づくと、「どうしたんだ、志郎君。何があった?」と尋ねた。
「共産主義のスパイが国内に入り込んで、学生運動を煽っています。僕たちはそのスパイが社会党の本部に入るのを見ました」と志郎は一気に話した。
佐藤はため息をつき、椅子に深く座り直した。「実はその情報はすでに把握している。ノーシアやミドレイのスパイがイーステンドに大量に潜り込んでいて、共産主義を広めようと画策しているんだ。彼らは我々の国を分裂させようとしている」
「そんな…」と優里が驚愕の表情を見せた。
「どうして手を打たないんですか?」志郎は怒りを抑えきれずに言った。
「我々も動いている。しかし、相手は巧妙だ。彼らは密かに活動し、こちらの動きを察知するとすぐに姿を消す。学生運動や労働者の不満を利用して、我が国を内側から崩壊させようとしているんだ」と佐藤は冷静に説明した。
志郎は父や大山さんが命懸けでイーステンドを守ろうとしていたことを思い出し、胸が痛んだ。「僕たちは父や大山さんが守ろうとしたイーステンドを、何としても守り通さなければなりません」
佐藤は頷き、「その気持ちを持つ者が増えることが重要だ。我々は分裂せず、一致団結しなければならない。君たちもそのために力を貸してほしい」と言った。
「もちろんです。私たちは全力で協力します」と優里が力強く応えた。
イーステンドはかつてウエスタニアに占領され、資本主義の国として再出発を余儀なくされた。しかし、志郎はイーステンドがいつか父が生きていた頃のような強い国に戻れることを信じていた。
「イーステンドが一致団結できれば、再び強い国になれるかもしれない。父も大山さんも、それを信じて戦っていたんだ」と志郎は自らを奮い立たせるように言った。
「君たちのような若者が希望だ。共に戦おう」と佐藤が手を差し出した。
志郎と優里はその手をしっかりと握り返し、決意を新たにした。
町の広場から響く学生たちの声が、彼らの耳に響いていた。イーステンドの未来はそこに住む国民にかかっている。志郎と優里はイーステンドの未来のため、自分たちにできることをしようと誓った。