19話 これから
「サフィニア。少しいいかい?」
そう真剣な顔をして言ってくるのはレーナさんだ。
「はい。何でしょうか?」
「ここでは話すことじゃないからね。少しついてきておくれ」
そう言って彼女は外に向かう。
私はこのせっかくの楽しい空間から離れるのが少し寂しく思う。
でも、私達の事を気にしてくれた彼女の真剣なお願い。
聞かない訳には以下なきと思う。
私はクルミさん達の方を見ると、クルミさんはポーションで酔っているのか、テーブルの上にあるチキンに話しかけていた。
「それでねーあの人ってあたしを置いて行ったんだよー⁉ 酷いよねー!」
おい、と言いたくなったけど、それがクルミさんの様な気がした。
そしてネムちゃんはイスに深く座って寝息を立てていて、このまま置いていくのはためらわれた。
「行っといで。アタシが見といてあげるから」
「ミカヅキさん……よろしくお願いします」
「ああ」
ミカヅキさんが頼もしい事を言ってくれたので、少しだけなら良いかと思い席を外す。
私は2人のことをミカヅキさんに頼み、レーナさんの後を追う。
彼女はギルドから出ると、人気のない裏路地に入っていく。
そして、周囲を確認して振り返る。
「サフィニア。一つ聞いてもいいかい?」
「はい、なんでしょうか」
「なにか……隠し事をしている。それのことに心当たりはあるかい?」
「……」
彼女は何が言いたいのだろうか。
もしかして……私達がツバキさんの絵を持っている事をどこかで知った……とか?
それとも他にあるとしたら……。
「なんのことでしょうか」
私がどれか分からずにいることを隠すため、冷静に言葉を返すと、彼女は慌てて両手を振ってくる。
「待ちな。別にとって食おうという訳じゃない。というかね。ただこうしたいのさ」
彼女はそう言って私に向かって深く頭を下げる。
「レーナさん……?」
「ここからはアタシの独り言。アタシは北の森で死ぬんじゃないかと思っていた」
「……」
私が石を投げてゴブリンジェネラルを倒した時、確かにその近くにレーナさん達がいた。
こうして言ってくるっていう事は、あれをやったのが私だと知っているから……だろうか。
でも、独り言、という風に濁しているし、人気のない場所に来ているということはきっと誰にも言うつもりないのだと思う。
そんな彼女は話を続ける。
「アタシは……この町が好きだ。町のやつらも気が良くって……旦那とは昔から一緒で……このリンドールの町には思い出がいっぱい詰まっている」
「……」
「辺境だから今日のことみたいに時々魔物が来るが、それでも、領主の力もあって撃退してきた。そうやって、ずっと続いていくと思っていた。それが、今日で終わるかもしれない。いや、アタシは死ぬかもしれない。そう思ってしまった」
「……」
「怖かったけれど、どこかの……誰かさんのお陰で助かった。感謝している」
「……」
私は沈黙を続ける。
ここで私が何を言うべきかも分からなかったけれど、こうやって、助けることができて、それで、レーナさんが大事にしている物を守れて、とても良かったと感じたから。
そんな私の考えを気遣ってか、彼女はさらに続けた。
「あんな事ができるのであれば、アタシの力では大したことはできないけど、何かあった言っておくれ。できる限りのことはするからね」
「……」
「それじゃ、楽しい時間を邪魔したね。良い夜を」
彼女はそれだけ言うと、すぐに町の中に行く。
「こちらこそ、ありがとうございます」
私達は戦える。
力を持っていることに気付いたのに、その事を話さないように気遣ってまでお礼を言ってくれたことに感謝して、私は彼女の背中に頭を下げた。
ただただ感謝を述べるためだけに来てくれた。
今までも……必要なんてないのに忠告をしてくれた。
そんな彼女のやさしさに頭を下げるのだ。
それからしばらくしてギルドに戻ると、クルミさんがミカヅキさんに絡みついていた。
「ねーミカヅキちゃんもポーション飲もうよー。美味しいよー」
「クルミ……君、ちょっと……あ、サフィニア! 良い所に来た! ちょっとこのポーション狂いを何とかしてくれないかな⁉」
困っているミカヅキさん達は何事もないように楽しくしていた。
「もう……クルミさん! ちょっと高い所にいって酔いを覚ましますか?」
私もそんな中に入り、彼女達と楽しい時間を過ごすのだ。
「あ、大丈夫です。酔いは覚めました」
クルミさんを連れて高く跳ぼうとしたのだけれど、冷静に断られてしまった。
この前跳んだ感じ結構楽しかったからクルミさんにも楽しんでほしいと思ったのに。
残念だけど、そのチャンスはこれからいくらでもあると思う。
******
楽しい食事をした防衛戦の日の翌日。
私達はリンドールの町の東に来ていた。
私達はそれぞれお世話になった人達に挨拶をしてからここに集まっている。
「それじゃあ……行こうか?」
まずそう言ってくれたのはクルミさん。
彼女がいつも率先して提案をしてくれる。
「はい。わたしも問題ないのです」
旅に必要な物などの購入をしてくれたりするのはネムちゃん。
一番小さいのにしっかりしている。
「次の町でアタシの子猫ちゃん達が待っているだろうからね。早く行きたくて楽しみだよ」
鍛冶師ということで、色々な物を作ってくれたり、整備を担当してくれるミカヅキさん。
時折彼女が言う冗談は場の雰囲気をとても楽しい物にしてくれる。
そんな……とっても素敵な人達と隣町までの旅ができることに私は嬉しさを感じていた。
「はい! 私もこれからがとっても楽しみです!」
その言葉にクルミさんは優しく頷いてくれると、私達は出発する。
「それじゃあ行こう!」
「はい!」
「はいなのです」
「ああ」
そうして、私達は町を出て、お昼時になった時に、ミカヅキさんに聞いていなかったことを聞く。
「ミカヅキさん」
「なんだい? サフィニア」
「ミカヅキさんはどうして旅をしているんですか?」
「話していなかったね。アタシが旅をしているのは、最高の包丁を作るためなんだ」
「最高の包丁ですか? 剣ではなく?」
よく世間で言われるのは伝説に謳われるような剣を作る……ということだと思う。
でも、彼女は首を振ってそれを否定する。
そして、ちょっと心配そうに話し出す。
「剣じゃなくて包丁なんだ。サフィニア……よく考えてみてほしい。剣と包丁。どちらの方が使われる回数が多いと思う?」
「使われる回数ですか? それは……包丁でしょうか?」
剣は戦う時以外は基本的には使わないだろう。
そんなに頻繁に戦う人ばかりではないから。
でも、包丁は料理をする時であれば大抵の人が使う。
「そう。そうなんだ。だから、アタシは使われないかもしれない。皇宮の宝物庫で眠る様な剣じゃなく、いつも人の側で支えになる最高の包丁を作りたいのさ」
「なるほど。それはとっても素敵ですね」
「君はそう思ってくれるのかい?」
「私だけではありませんよ? ですよね?」
それぞれが自分の目的を持つ。
私達はそんな人達が集まっているから。
私はクルミさんとネムちゃんの方をみるけれど、当然と言う様に頷いている。
「うん。良い目的じゃない」
「なのです。包丁はとても大事な道具なのです」
「君達……いいね。それなら……考えていたことがあるんだけど、言っていいかな?」
「どうしたのです?」
「君達のパーティにアタシも参加したい」
ミカヅキさんは初めて見るような真剣な表情で言う。
そのことについて、私は考えていた事をするっと口に出す。
「私もそうして欲しいと思っていました!」
彼女は私達と楽しく……昨日の宴もまるでずっと一緒にいたかのように話せていたと思う。
その想いはクルミさんもネムちゃんも絶対に一緒だと思った。
そして、それにクルミさんとネムちゃんも続く。
「うんうん。こっちから誘おうかなーって思ってたところだよ」
「はい。ミカヅキさんはとってもいい人ですし、楽しいのです」
「はは……そんな簡単に頷かれるとは思ってなかったよ……」
ミカヅキさんはちょっと戸惑った顔をしながらも、とても嬉しそうだった。
そこにクルミさんが叫ぶ。
「よーし! それならちょっと早いけど、一緒にポーションを飲もう! お祝いだよ!」
「それは大丈夫です」
「わたしはいらないのです」
「アタシもいいかな」
「そんな……」
クルミさんはちょっと残念そうにした後にマジックバックからポーションを取り出して飲む。
「クルミさん……ここでお昼にしますか?」
「はいなのです! 昨日飲んだスープを再現してみるのです!」
「お、いいね。それはとても楽しみだ」
そうして、これから食事にしようといった時に、あることを思い出した。
「ミカヅキさん」
「なんだい?」
「私の包丁って……いつ修理していただけるんですか?」
「……次の町に行ってからかな」
「最高の包丁の出来を期待していますね?」
「……ふふ、任せてもらおう」
それから私はミカヅキさんに包丁を貸してもらい、料理を始める。
4人で楽しく、食事をして、旅をする。
師匠はまだ見つけられていないけれど、隣町にいるのであればすぐだろう。
それに、今は……この4人で……楽しく食事をしている時間が一番好きな時間なんだ。
この時間が私は本当に好きで、ずっと続けばいいと思う。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
と思っていただけたなら
下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直な感想で大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




