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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Natural
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決闘

「なんとかギリギリ日が暮れる前に着けましたね……」

「あぁ、良かったよ。明るいうちに町並み……というか、村並みを見たかったからな……」

 空がオレンジ色から黒に変わろうとする時、ナナシたち生まれも育ちも違う三人組は森を抜け、目的の村へ到着することができた。

「で、どうですか?ツドン島の村は?」

「おう……素朴でいい感じじゃないか……うん、悪くない、嫌いじゃない」

 ナナシは言葉を選びながらたどたどしく答えた。下手なことを言うとこの島で育ったテオに失礼だと思ったからだ。

 けれど、そんな浅はかな考えはこの少年にはお見通しだったようだ。

「気を遣わなくてもいいですよ。神凪の人からしたら、ここは何もなくて退屈ですよね」

「いや、そんなことは……」

「本当にいいんですよ。好みや感じ方は人それぞれですから」

「はぁ………」

 完全に否定も肯定もしない。少年に言われたようなことはナナシの頭の中で真っ先に最初に過ったから……。つまり図星だった。

 だが、ナナシは少年のその言葉にショックを受けたわけではない。むしろ、喜ばしかった。

(今の口ぶり……やはり以前に神凪の人間と接触している……)

 ナナシにとって自分の予想を裏付けるようなテオの発言は嬉しかったのだ。その心を反映するかのように軽い足取りで村を進んで行く。


「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「ん?なんか騒々しいな……」

 村の一角で人だかりができ、何やら騒いでいた。遠目で見ているナナシたちの耳にも届くほど異様な盛り上がりを見せている。ナナシはこの光景に既視感があった。

「もしかして喧嘩か……?」

 血の気の多い奴らが集まっていた士官学校時代に時折このようなことが起きていた。しかし、あの時は騒いでいるのを聞き付けた教師がすぐに駆けつけて止めていたが、今、目の前にはそういう素振りを見せている人間は誰一人もいない。

「……止めなくてもいいのか?」

 心配になったナナシが少年に問いかけたが、テオは首を横に振った。

「あれは“決闘”ですよ」

「決闘?」

「はい。この島では昔から何かを賭けて、お互い同意の上、戦いで決めるって習わしがあるんです」

「へぇ……」

 “野蛮な……”と、つい口から出そうになるが、なんとか耐えた。さすがにこれはただの悪口だ。でも、結局それも大人びた少年にはお見通しだった。

「野蛮ですよね。今どき殴り合いで何かを決めるなんて……」

「い、いや、だから……」

「だから、いいんですよ。ぼくもそう思いますし……ただ、一応言っておくと、もっと中央に、王都に近い栄えた町ではもう時代錯誤だからって、こんな風に決闘なんてする人はいませんよ。あくまで、こういう小さな村だと昔の習慣がまだ色濃く残っているってだけですから」

「そうなのか……」

 決闘なんて前時代的なものを島中の人間がやっていないと知って、ナナシは安心した。同時にまたテオの言葉から何かを感じ取った。

 今までは恩人であり、この未開の地での道標でもある彼に気を使っていたが、このまま黙り続けてもしょうがないと思い、ナナシは試しに彼のパーソナルな部分に思いきって踏み込んでみることにした。

「今の話の感じだと、テオはもっと大きな町にいたのか……?」

「え……ええと………ぼくは……」

 饒舌だったテオの口が急激に重くなった。その質問は彼の隠したいことを暴いてしまう可能性があるものだったからであり、それを上手く受け流せないのは、単純にテオという人間が嘘や隠しごとが苦手だったからだ。

「確か……私と会った時、王宮のある町で育ったって言ってたわよね?」

「あ……はい!そうです!」

 また戸惑う少年に今まで黙って後をついて来ていたマリアがまたまた助け船を出した。ナナシは知る由もないが、そもそも、この隠しごとは彼女の提案である。

「で、そこでヤクブが簒奪しようとしている情報を知った………これで満足かしら?ナナシ・タイラン」

「……あぁ……今はそれでいいぜ……」

 ナナシは彼らが何かを誤魔化していることがわかったが、それ以上追及しなかった。いや、する必要がないと言った方が正確か。

 正直なところ、ナナシはこれまでの会話ですでにテオの正体に察しがついていた。だから、無駄に軋轢が生まれるのを避けたのだ。


「おぉぉぉぉぉぉぉ!」


「勝負……ついたみたいね……」

 喧嘩……もとい決闘を見ていた観客が一際大きな声を上げた!どうやら決着がついたようだ。マリアはそれに乗じて話を逸らそうとし、ナナシはそれを理解しながらも乗っかる……ただ、興味が移っただけかもしれないが。

「おっ……どれどれ……どんな奴が勝ったのかな……?」

 野次馬根性丸出しで首を伸ばすナナシ……こういうところは悪い意味で本当に良家のボンボンらしくない。

 決闘を見ようと集まった人だかりが裂け、奥から一人の男が下を向いて歩いて来る。

 たくましく鍛えられた身体、それは生粋の戦士のもの……。そして、人混みを抜けた男は髪をかきあげ、夕焼けが反射したキラキラと光る汗を流しながらその顔を上げた。

「ん?」

「あれ!?」

 男とナナシの視線が交差した!すぐにお互いの存在に気付く!直接会ったことは一度もない。しかし、彼らは知っていた!目の前にいる者のことを!

「お前は……ネクサスのナナシ・タイラン……?」

「そういうお前はハザマ親衛隊のヨハン……?」

 この未開の島でまさかの出会いに見つめ合ったまま二人の時間は一瞬止まった。


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