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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nostalgia
58/324

 ノームの拳の衝撃はプロトベアーの装甲を貫き、ランボの肉体へ……。

 骨が軋み、酸素が追い出され、鈍い痛みが全身に広がっていく!

「こ……の……」

 声にならない声、力無き掠れた声を発するのが、今の彼にできる唯一の行為だった。

「もう……一丁!!」


ガンッ!!!


「――がっ!?」

 悶絶する軍人の顔面に振り下ろされる容赦のない追撃!視界がスパークし、ノイズが走ったのは、プロトベアーのカメラがダメージを受けたからか、装着者のランボの頭部への衝撃でそう見えたのかは定かではない。

 ただ、確かなのは大きなダメージと引き換えに、その一撃はランボの気付け薬となったということ!

「……調子に……乗るなッ!」

「破れかぶれの攻撃なんかッ!!」

 裏拳で反撃するが軽く避けられるが、ランボもそれぐらいは予想できている。あくまで牽制、間合いを取る為の……。

「……本命は……こっちだ!!!」

 プロトベアーの両手にマシンガンとライフルが現れる!引き金を引くとその銃口から無数の弾丸が、自分をこっぴどく痛めつけてくれたノームに向かって飛び出していく!

「ふん!バカが……!」


キンキンキンキンキンキンキン!!


 けれども、その弾丸は全てノームのブラウンの装甲にぶつかった後、甲高い音を立てながら弾かれていった。

「バカ上等!効かないのは承知の上!!」

 そのまま攻撃を継続しつつ、プロトベアーは後退していく。

 プロトベアーの武装でも最大火力のキャノンで無傷だった以上、この攻撃でダメージを与えられるはずもない。それがわかった上でランボはとにかく今はノームとの距離を作ることに優先したのだ。

「俺に会いに来たんだろ!?だったら離れるんじゃねぇよ!!」

 ランボの意図はカズヤもわかっている。ノームの防御力に物を言わせ、攻撃を弾きながら前進してくる!

「しつこいんだよ……!?」

 それでもランボにできるのはトリガーを引き続けること。インテリアも何もないだだっ広い部屋に弾丸が発射される音と、それを弾き飛ばす音が延々と鳴り響いた。

 ジリジリとゆっくりを追い詰める命をかけた鬼ごっこ……その終わりは突然、訪れる!


カン……


「な!?しまった!?」

 プロトベアーの背中に何かに触れる。ランボはそれが部屋の壁だと気付き、自分のミスを認識するのに一秒もかからなかった。

 そして、その一秒を意図的に作り出そうとし、根気良く待っていた男が目の前にいる!

「捉えたぞ!政府の犬!!」

 ノームの左拳が唸りを上げて斜め下から再びプロトベアーの脇腹を狙う!

「ちぃっ!?」

 それをプロトベアーは咄嗟に右腕で、はたき落とす!

「猪口才なッ!!!」

 ノームは怯まず、続いて右ストレートをまた顔面に!今度は後ろが壁で衝撃の逃げ場がない!もろに食らったら、一発KO必死!


ガゴン!!!


 しかし、かろうじてプロトベアーは頭を動かし、拳を回避!その凄まじい威力を物語るように壁に大きな穴が開く!

「危機一髪……ってやつだな……!」

「くそッ!?」

 壁に拳が突き刺さり、身動きが取れなくなったノームを尻目に、その伸びた右腕をくぐり抜け、鈍重な見た目に反した軽快なフットワークで、文字通り窮地を脱出した。

「ちっ!仕留め損なったか……!」

 ノームは壁にめり込んだ拳を引き抜き、逃がした獲物の方へ向き直す。逃げられたと言っても優勢なのは変わりはない。

 だから落ち着いて、次の策を練る。

(ふぅ~……ヤバかったな……あれをもらっていたら一巻の終わりだった……だったが……なんで避けられた?……オレだったら外さない。でも、奴は外した……まるで、自分の放ったパンチに振り回されているようだ………もしかしたらあいつ……)

 片やランボも間合いを取れたことで、少し冷静になったようで、先ほどの攻防で感じた違和感について分析を始める。

(あいつ……あのノームって特級ピースプレイヤー、使いこなせてないのか……?そう言えば、さっきもオレのことを実験台とか言ってたな、さっきのハイテンションも新しい玩具ではしゃいでる子供みたいだった……もしや、手に入れたばっかり……下手したらこれが初めての実戦なのかも……?)

 ランボはカズヤがドン・ラザクの遺産を入手して、まだ日が浅いと推測したが、それは正しい。実は彼がノームを手に入れたのはつい三日前のことなのである。

(そもそもデータで見たホムラスカルは中距離の銃撃戦を得意としていた。だが、今のあいつは拳を使ったインファイトに徹している……噛み合ってない……!ピースプレイヤーの性能と装着者の素質が全く噛み合っていない……!ましてや特級、ナナシのように一日で使いこなせるような奴は稀……)

 この分析も正解だ。カズヤは近接戦闘が得意ではない。さらに、実のところノームとはかろうじて起動できるぐらいの適合率しかなかった。完全適合など夢のまた夢だ。

(なら!勝機はある!)

 プロトベアーは手に持っていたマシンガンとライフルを消し、手首をブンブンと振り出した。

「……なんのつもりだ……?自暴自棄になるには早いんじゃねぇか?」

 カズヤの目からは突然の奇行、勝機がないと悟っておかしくなったのではないかと勘ぐる。実際は逆だ……ランボは勝つためのルーティンとしてやっている。

(思い出すな……学生時代を……)

 カズヤの言葉など耳に入っていない様子で、ランボはそのまま肩を、そして首を回し、その場でピョンピョンと跳び跳ねる。

 かつて、リングの上で行ったように……。

「ふっ!!」

 最後に息を吐き出し、肩幅に開いた足でしっかりと大地を踏みしめ、拳をギュッと握り込み構えを取る。そのスタイルは紛れもないボクサーのもの!

「みんなには内緒だぜ……オレが子供の頃の夢が建築家とボクサーだってこと!!」

「あぁん!?そんなこと知らねぇし!言わねぇよ!!」

 カズヤはランボの言葉を下らない戯れ言だと無視し、そして突如として真逆のスタイルに変わった敵に躊躇なく突っ込む!

 それは彼としても望むところ!むしろ、ちょこまかと逃げられるよりずっといい!

「オラァ!!!」

 先ほど壁に大穴を開けた右ストレート!だが、逃げ場を奪っておいて外したそれが、準備万端の相手に当たるはずもない!  拳はプロトベアーの顔を横切り、何もない空間に虚しく炸裂する!

(やはり、パンチのバリエーションが少ない!)

「ふんッ!!!」


ガァン!!!


「ぐぅ……」

「バカが……!」

 プロトベアーは回避から流れるように攻撃に移行し、ボディーブローを放つ!……が、ノームのブラウンの重装甲はびくともせず、逆に攻撃したはずのランボの腕を痺れさせる!

「りゃあッ!!!」

「うおっ!?」

 すかさず、ノームは左拳で横から殴りつけるが、プロトベアーが身体を反らしたことで仮面の鼻先を掠め、再び拳が空を切る!

(硬い!今まで殴ったものの中で一番硬いんじゃないか!?……けれど、攻撃は単調!予想通りノームのパワーに振り回されている!二撃目が遅い!)

 絶望的な事実と同時に希望的観測が確信に変わる。それらを踏まえてランボの策は……。

(オレとプロトベアーらしくないが……攻撃を受け流しながら、手数で押し切る!蝶のように舞い、蜂のように刺す!)

 パワー重視のプロトベアーらしくないスピード&ラッシュを選択!

 大きなボディーが小刻みに揺れ始める!リズムを刻んでいるのだ!防御の、そして攻撃の!

「変な動きしてんじゃねぇ!」

 再び……というか、最早芸のないと言っても過言ではない右ストレート!三度目の正直とはならず、またまた避けられる!

「シュッ!!」


ガゴン!!!


「――ッ!!?」

 カズヤの視界からプロトベアーが消える……否、下から顎へのパンチ、所謂アッパーカットを食らって強制的に上を向かされたのだ!

 カズヤは一瞬何が起こったか分からず、薄汚れた天井をぼーっと見つめる!


ガァン!!!


「――!?……ッ!?」

 呆けるカズヤを脇腹からの衝撃が、現実世界に引き戻す!といっても、このボディーへの攻撃もノームによって弾かれ大したダメージになっていない!これじゃ蜂というより蚊だ。

「この……野郎ッ!!」

 カズヤはさすがに学習したのか、力任せの一撃ではなく、左のジャブを細かく放って牽制する。

(こいつ……てっきり自棄になって遠距離戦用意のピースプレイヤーでインファイト仕掛けて来たのかと思ったが……少なくとも装着者には格闘技の心得があるようだな……!)

 散々、やられたおかげでカズヤの方も冷静さを取り戻し、眼前の敵を観察する。

 ご推察通りランボは学生時代、ボクシングをかじっており、そのことから砲撃戦だけではなく、近接格闘もこなせると判断され、ガリュウ一号の装着者として推薦されるに至ったのである。ちなみにネクサスのメンバーもボクシングのことは知らない。アイムと蓮雲に執拗に絡まれる実力派インファイター(オールラウンダー)、アツヒトを見て、ランボはこのことを墓場まで持っていこうと決めたのだ。

「シャアッ!!」

 隙を見つけたと判断したカズヤが再び右の大砲を放つ!

 しかし、それはランボが蒔いた罠、フェイントに引っかかったわけだ!


ガン!


 向かって来る拳をプロトベアーが左腕で逸らし……。

「はっ!」


バン!


「ぐぅ!?」

 軽い右のパンチでノームの顔面を叩く!怯むノームだが、本命はその後、直ぐ様拳を引き、身体のひねりを加えて……。

「ウラァッ!!!」


ガァン!!!


 またまたボディーブロー!そして、結果も今までと同じ……。

「さっきから懲りずに何度も……バカの一つ覚えか!」

 ノームは上から下へ拳を振り下ろす!


チッ……


「くっ!?」

「ん?」

 空を切るかに思われたその拳はプロトベアーの胸部を僅かだが、掠める。

 それでもプロトベアーは回避の勢いのまま後ろに下がった。

(今……微かだが、当たった感触が……)

 久しぶりの敵の感触……それがカズヤに覚悟を決めさせる。

(……認めてやる……接近戦はお前が上……俺がノームを使いこなせてないことも……よりによって、ドンの四つのピースプレイヤーの内、俺と一番相性が悪いノームしか見つけられないとは……だが!だとしても!俺はドンの後継者としてこのノームで勝利しなければいけないんだ!例え、不恰好でも、大事なのは過程よりも“結果”だ!!)

 決意を新たに、奥歯を噛み締め、今までよりも固く拳を握る。

「……お前、名前は……?」

「……ランボ・ウカタ……そして、こいつはプロトベアーだ……」

「……そうか……」

 名前を聞いたのは一人の戦士として認めたから……。そして、認めたからには全力を持って叩き潰す!

 元々のカズヤなる人物は誇り高き武人なのである!

「行くぞ!ランボ!!!」

 言葉とともに力強く踏み込む!体重を乗せた右ストレート……。

「バカの一つ覚えって!人のこと……」

 プロトベアーが回避のため身体を動かすが、一向にパンチは飛んで来ない……フェイントだ!

 気づいた時にはもうすでに遅い!意趣返しのボディーブローがすでに放たれている!


ガン!!!


「――ぐっ!?」

 かろうじてガードをするが、ノームの有り余るパワーによって、衝撃が防御を貫き、全身を痺れさせる!

 けれども、それぐらいは想定済みと言わんばかりに、プロトベアーがガードと逆の腕、左拳で反撃する!


ガン!


 ノームの胸部にヒット!けれど、効果はやはり薄い。その拳を引き戻しに合わせてノームもプロトベアーの胸部……ランボの心臓めがけて追撃!


ガチッ……


 プロトベアーは身体を反らして、回避!しかし、強烈なパンチが装甲を削り取り、火花が散る!

「お前……まさか……」

「そのまさかだよ!ノームのパワーと防御力に物言わせて、真っ向から殴り合いして勝つつもりだ!!」

 先ほどプロトベアーの攻撃を受けた後、反撃の一撃がかすった程度とは言え、ヒットしたことからカズヤはノームの装甲を頼りにあえて攻撃を受けて、反撃する方法を取ることにしたのだ。仮に多少打ち負けてもパワーが上の自分の方がダメージレースで有利を取れると……。

 図らずもその作戦はネクロ事変、ビューティフル・レイラ号の船上での戦いでカズヤの旧友であるネームレスに対して、ランボの現在の同僚ナナシが取った策に酷似していた。本来のバトルスタイルだけでなく、思考回路まで彼らは似ていたのだった。

「いいぞ……受けて立とうじゃないか!」

 ランボは相手の策に乗ることにした。明らかに自分が不利であることを理解しながら……。

(オレはここに戦いに来たんじゃない……ならオレがやるべきなのは、相手を肉体的に再起不能にするのではなく、心を折って、そして認めてもらう!楽観的かもしれないが、ここまで戦ってきて、この男は度量の小さい人間じゃない!自らの策を正面から受け止め、乗り越えた奴をないがしろにはしない!きっと話し合いの場を持ってくれるはずだ!!)

 肉体ではなく、精神を屈服させる。ともすればただ勝つよりも難易度の高いミッションにランボの心は昂った。

 彼も真っ向勝負!意地の張り合いをする気満々なのだ!

「ありがとよ……お礼に先に打たせてやるよ……!」

 白々しくお礼なんて言っているが、カズヤにとってはそちらの方が都合がいいからだし、そんな考えなどランボもお見通しだ。

 だが、それでもランボはあえて乗って来ることもカズヤの方もわかっている。

「じゃあ……お言葉に甘えて!!」

 プロトベアーの拳が真っ直ぐ、最短距離でノームのボディーに向かって行く!


ガン!


 何度も聞いたプロトベアーのパンチがノームの装甲に弾かれる音。そして……。

「うおりゃ!!!」


ガギン!!!


「ぐっ!?」

 ノームのカウンターがプロトベアーに炸裂!今まで散々避けられたことから、狙いを的が小さく、よく動く頭部から、大きなボディーに移したのが、功を奏した!

 胸部にヒットしたパンチの衝撃は装甲を貫き、ランボに確かなダメージを与える……が。


ガァン!


 構わず、ボディーブローでこちらもやり返す!何度やっても効いていないのに懲りずに、愚直に繰り返す!

「何度も、何度も……鬱陶しいんだよ!」


ガギン!!!


「――ッ!?」

 ノームが殴り返す!深緑の装甲がへこみ、ひびが入る!

「………それが……どうしたァ!!」


ガァン!!!


 プロトベアーが!


ガギン!!!


 ノームが!


ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!!


 両者、ひたすら殴り、殴られを繰り返した……。

 ボロボロのプロトベアー、一方、無傷のノーム、端から見れば、ノームが優勢だろう。しかし……。

「しゃあっ!!」


ガンッ!ガンッ!!!


「がっ!?ぐっ!?」

 プロトベアーの左、右のコンビネーションがノームに直撃する!先ほどから、プロトベアーの攻撃の回数が増えていた!さらに……。

「……この!!!」


ブゥン!


 ノームの拳は再び空を切る。逆にノームの攻撃の命中率はどんどん下がっていっていた。

 こうなると、精神的に追い詰められるのはノームの装着者カズヤの方である。

(……なんで……なんで!ダメージをもらっているはずの相手の攻撃が当たって!ほとんどの攻撃を弾いている俺の攻撃が外れるんだ!!?)

「ぼーっとしてるんじゃないよ!!」


ガンガンガン!


「くっ!?」

 ボディーを打ってからの、顔面への二連撃!計三発のパンチを立て続けにブラウンの装甲に叩きつける!

(……三発も……どうして……!?とか思っているんだろうな……)

 ランボは反撃のパンチをはたき落としながら、敵の心中を思う。焦るカズヤと反比例して、ランボは冷静に……。勝利が近づいてきているのを感じる。

(……悪いな……お前は自分の策にオレを引き込んだと思っているのかもしれんが……策に引っかかったのはお前の方だ……!)

 そう、ランボはこの絵図を思い描いていた。カズヤがこの戦法を選択することも、殴り合いを続けていれば、いずれ自分の方に天秤が傾くことも。

(お前がノームを使いこなせてないことはすぐにわかった……その凄まじいパワーに振り回されていることも……その状態で戦闘を続けたらスタミナが持たないだろうこともなど!!)

 ランボの作戦とは相手の体力を削ること……正確には相手の体力が底をつくまで、なんとか耐えること。

 そして、ランボはその地味で苦痛に満ちたミッションをやり遂げようとしている!

「ウラァ!!」


ガンガン!!!


「ぐっ!?威力が!?」

 ノームのマスクに再びプロトベアーのパンチがヒットする!だが、今までと違う!威力が上がっているのだ!

 そして、ようやくカズヤも気付く!自分が敵の手のひらで踊らされていたことを!

「てめえ!手加減してやがったな!!?」

 ランボはどうせダメージが通らないならと、七割の力でしかパンチを放っておらず、今になってそうやって辛抱強く温存していたスタミナを解放したのだ!

「遅いな……お前の敬愛するドンならとっくの昔に気付いたんじゃないか?」

「――!?……お前はァ!!!」

 ダメ押しとばかりに煽るランボ!それにまんまと引っかかるカズヤ!

(もういい!ごちゃごちゃ考えるのはやめだ!残りの力!全部、出し尽くす!!)

 開き直ったカズヤがその力……そして、感情をノームの左の拳に込めた!彼の全てを乗せた拳を斜め下からプロトベアーの顎へ向けて、振り上げる!渾身のアッパーカットだ!

 そのスピードと威力はこの戦いが始まった頃のよう……いや、それ以上、今日一番、カズヤの人生最高のパンチだ!

「うぉらぁぁぁぁッ!!!」


バギャン!!


「な……に……?」

 その最高の拳はプロトベアーの左頬の装甲を削り取った!……否、左頬の装甲を削り取ることしかできなかった。

「もし……今のパンチを最初から打てていたなら、オレに勝ち目はなかっただろう……けど、遅かった……オレはもうすでにお前のモーションを完全に盗んでいる!」

 ランボは体力を温存すると同時に、カズヤの動きをこと細かに観察し続けた。結果、多少スピードが上乗せされたところで避けられる程度にはカズヤの癖を把握していた。

「まだだァ!!」

 まだ終わったわけではない!ノームは追撃のために構えを取り直そうとする……が。

「パンチの後、拳を戻すのが遅いんだよ!ましてや体力のなくなった今のお前じゃ……あくびが出るってんだ!!」


ガギャァン!!!


「ぐふぅ!!?」

 がら空きになったノームの左脇腹にプロトベアーの右の拳が突き刺さる!比喩ではない!ノームのブラウンの装甲を砕き、拳がめり込んでいる!

「……硬いって言っても……七割の力のパンチだとしても……あれだけ撃てば綻びも生まれる!!」

 まさに雨垂れ石を穿つ!無意味に思えたボディーブローがここにきて大いなる成果として結実した!

 数え切れないほどのパンチの交換をしてきたが、まともなダメージと呼べるのはこれが初めて……ノームの身体が“く”の字に曲がり、カズヤの視線が床に無理やり向けさせられる!

 だが、それも一瞬のこと……すぐに視界はプロトベアーの拳に覆われる!

「オラァッ!!」


ガギン!!!


「――ッ!?」

 目の前が真っ暗になったと思ったら、今度は久しぶりに天井が目に入る。プロトベアーのアッパーにより、“く”の字だった身体が、真っ直ぐ背筋を伸ばした形になり、頭が跳ね上がった。あまりの威力にノームのマスクにひびが入り、カズヤは首が胴体から引っこ抜けたんじゃないかと錯覚した。

(………!?……俺は一体!?……まだだ……まだ……!!)

 意識をなんとかつなぎ止め、身体に力を入れ直す!半ば根性と意地で首を動かし、視界を下げていく。

「まだ!俺はッ……」

「いや……フィニッシュだ」

「!!?」

 必死に敵へと戻した視線が捉えたのは、こちらに半身になって、弓のように右の拳を引いているプロトベアーの姿。

 当然、その拳が向かう先は……。

「でえぇぇぇぇいっ!!!」


ガッギャャャャン!!!


 プロトベアーの拳はひび割れていたノームのマスクを、そしてカズヤの意識を粉々に打ち砕いた!そのまま全身の装甲が消しながらカズヤは“大”の字に倒れる。

 これだけのダメージを受けては多分、今日一日はカズヤもノームも戦えないだろう。つまり……。

「……オレとプロトベアー……いや、ネクサスの勝ちだ……!!」


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