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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nostalgia
55/324

銀色の翼

「じゃあ、あのトランスタンクってのは、見かけ倒し……大して強くないんだな?」

「あぁ、ピースプレイヤーとの技術競争に負けて衰退した遺物、時代の仇花……というのはいい過ぎかも知れんが、ジャンク品ならナナシ一人で問題ないだろう」

 ナナシにたった一人で行く手を阻む邪魔者を任せた理由を話しながら、ランボはアイムと共に本来のターゲット、カズヤの元へと向かっていた。

 彼の考察はかねがね正しいものだが、残念ながら、ナナシの戦いはそう簡単なものではなかった。まさか、ストーンソーサラーが出てくるとはランボに限らず誰も思いつきもしないだろう。

 一方のアイムはランボの話はわかるが、納得したとまでは言えないようで再び前を走るランボに疑問を投げかける。

「でも、そんな弱い奴なら三人で相手して一気に決着つければ良かったんじゃないか……?」

 アイムの疑問はもっともだ、ランボも当然、同様のことを考えた。けれども、そうしなかったのにはいくつかの理由があった。

 その中の一つだけをアイムに開示した。

「まぁ……あれだ……相性の問題だ」

「相性……?」

「あぁ、オレのプロトベアーは火力と装甲重視のマシンだ。コンセプト的にはトランスタンクと似ている……もし、両者が戦ったら正面から撃ち合いになる可能性が高い。言ってもトランスタンクの火力は凄まじいからな……こちらが撃ち負けるか、そうでなくても時間もエネルギーも消耗することになるだろうさ」

 ランボは自身のマシンと敵が同じスタイルであることから、そのマッチアップで起こる泥試合を懸念していた。

「なら、相性で言えば、わたしのジャガンなら機動力があって有利なんじゃないか?残るなら……」

 話を聞いていると、むしろ自分が残るべきなのではないかと思い、再びランボに尋ねる。

 ランボはアイムの方を振り返り、後ろ向きで走りながら、呆れた目で見つめる……。

「いや、君、トランスタンクの特性とか今、知ったばかりだよね?さっきまでどんなものかわかってなかったよね?名前すら知らなかったよね?」

「うっ!?」

 そう、相性云々どころか、先ほどまでアイムはトランスタンクの存在さえ知らなかった。

「そんな奴に任せられないだろう?」

「それは……そうだけど……さっき説明してくれれば……」

 アイムはしゅんとして、ぶつぶつと文句を言いながら、下を向いた。

 それを見届けたランボは前を向き直した。そして、頭の中ではアイムに伝えなかったナナシを残した、そしてナナシ自身が残る決断をした理由を思い浮かべる。

(多分……ナナシの奴、ガリュウが使えない自分はネクサスの中で一番弱いとか思っているんだろうな……だから、足止めなんて損な役回りを受けて……あいつ、大雑把に見えて、変なところを気にするからな……)

 ランボはネクサス発足以来、ナナシと過ごした中で、普段はのんきで適当で前向きな彼にも繊細というか、自虐的で卑屈な部分があることを見抜いていた。

 ランボはこれまた知る由もないが、結果としてナナシが残って、彼らの想定以上に追い詰められたことでガリュウが復活し、ナナシの精神も卑屈どころかイケイケになっている。まさしく怪我の功名というやつだろう。

 そして、最後の理由は……。

(それに、トレーラーの中で聞いたカズヤの情報が確かなら戦闘になった時、ナナシじゃ分が悪い……あいつもそのことがわかっているから、オレとアイムを……)

 ナナシが残った理由というより、ランボ達が残らなかった理由というべきだろう。それもまた相性の問題であった。しかし、結局この予想も残念ながら外れることになる。

 それに彼らの苦難はまだ終わったわけではない。彼らの進路に立ち塞がるのはトランスタンクだけではないのだ。


「とおっ!……よく来たな!政府の犬どもよ!!君達にはここで我に無様に倒されてもらう!!」


「「!!?」」

 ランボ達の前に突如、全身銀色のピースプレイヤーが空から降りて来た!エコーのかかった声でランボ達に高らかに宣戦布告する。

 ランボ達は急停止し、瞬時に迎撃の構えを取った!

「ランボ!あいつは!?」

「わからない!……いや、オレ達と戦う気満々ってのはわかるな!」

 目の前に現れた相手から視線を外さないまま、それについてランボ達が会話する……といってもまったく情報がない相手だ、話すようなことはほとんどない。

「この『シルバーウイング』と戦えたことを、惨めな貴様達の人生の最後の栄誉とせよ!!!」

 片や眼前の“シルバーウイング”とやらはかなりの饒舌だ。ハイテンションでランボ達を煽る!

「待ってくれ!オレ達は別に戦いに来たわけじゃない!カズヤと話をしたいだけなんだ!!」

 ランボがほんの少し前に機械仕掛けの獣越しに、自身を敵視する子供に向かって言った言葉と同じことをシルバーウイングにも告げる。

 そして、銀翼の返答も、悲しいかなそのやり取りと、先ほどと同じだった……。

「貴様ら、愚かな人間の言葉など信じられるか!黙って我に倒されろ!!」

「待っ!?」

 二度目の交渉決裂からの、突撃!一直線にランボに、プロトベアーに向かって来るシルバーウイング!そのスピードにランボは対応できない!

(――速い!?このままじゃ!?)

 ガードを固めようとするが、銀翼の拳がプロトベアーの装甲に届く方が遥かに速い!

 ランボ、絶対絶命のピンチ!それを救えるのはただ一人!


ガキンッ!!!


「……やらせると思うか……?」

 プロトベアーとシルバーウイングの間にジャガンがカットインして仲間を敵の攻撃から守る!シルバーの拳を黄色の手のひらが覆い尽くす。

「ほう……我の攻撃に割って入るとは……誉めてやろう、人間!!」

「……あんたみたいな人の話を聞かない奴に褒められても嬉しくないんだよ!!」

 ジャガンは力任せに銀翼を蹴り飛ばそうとするが、その前に銀翼が軽快にステップを踏みながら後退する。

「そっちの緑より、貴様の方が我の敵としてはふさわしいようだな……」

 シルバーウイングは攻撃を防がれたことは微塵も気にしておらず、むしろそれを喜んでいるようだった。

「だから……あんたに気に入られたって嬉しくないんだってば……」

 ジャガンはそう言いながら、その場でポンポンと二回軽くジャンプした。自分の脚と地面の感触を確かめているのだ、戦うために……このいけ好かない野郎をぶっ飛ばすために!

「……ランボ、あんたは先へ行け……」

 ナナシが先ほどしたように、ランボに先に行くように促す。けれど、後ろにいるランボは今回は素直に受け入れられない。

「いや!駄目だ!君、一人にさせられない!」

 ランボはアイムに対して過保護なところがある。

 彼女が女性だからなのか、ピースプレイヤーを使い始めてからまだ日が浅いからか、はたまたネクロ事変の時に怪我をした彼女を介抱したからか、理由はランボ本人もわからないが、とにかくアイムには過剰に甘いのだ。

 そういう扱いを受けて喜ぶ女性もいるだろうが、アイムは違う。彼女は生粋の戦士だから……。それにただの思いつきで言っているわけでもない。

「……ランボ……あんたが先へ行くんだ…あんたじゃなきゃ駄目なんだ……」

「何を!?別に君だっていいだろう!」

「今、自分で言っただろう!?ここには戦いに来たんじゃないって!話し合いに来たって!なら、わたしより弁が立ち、冷静なあんたがカズヤに会うべきだ!」

「――ッ!?で、でも……!」

 アイムは戦士として高いプライドを持っているが、一方で客観的に自分の立場や、特性をわきまえている。自分に向いていないこと、つまり戦闘以外のことについて我が儘を通したり、私情を挟むことなどしない。むしろ、自分ができないことをできる人間をその本人よりも理解し、敬意を払っている。この提案も適当なことを言っているんじゃなく、彼女なりに論理的に考えた結果だ。

 それには弁が立つと表されたランボも口をつぐむ。それでも、未練がましく食い下がろうとする……が。

「わたしを信じろ!!」

「!!?」

「わたし達は対等な……ネクサスの仲間……だろ?」

 アイムの言葉は直接的ではないが、ランボが彼女を守るべき者として、ある意味、下に見ていることを指摘するものだった。

 彼自身、そんなつもりはまったくなかったが無自覚に彼女を傷つけていたことに気付かされる。

 彼女が求めていたものは対等な関係……背中を預け合うような戦士同士の絆……ランボはそんなアイムの思いを受け止めることにした!

「……わかった!ここは任せたぞ!アイム!」

「了解!任された!」

 ランボはアイムとのやり取りを黙って見ていたシルバーウイングの横を通り抜け、カズヤの元へ向かう。

 深緑の背中が見えなくなったのを確認して、アイムがシルバーウイングに普段の彼女とは違う威圧感が滲む声色で話しかける。

「なんで……見逃したんだ……?」

 シルバーウイングが黙って、プロトベアーを見送ったことに対して疑問を覚えたアイムは率直に質問した。それを受けて銀翼は腕を組みながら偉そうに答えた。

「我の一撃を止めた貴様への褒美だ……それに一対一の方が決闘って感じがしていいだろう?」

 上から目線かつバカげた理由。アイムは呆れ果てると同時に嬉しくもあった。

 きっと逆の立場だったら自分もそうするから……。

「あんたのそういうところ……嫌いじゃないぞ!!」

 言い終わると同時にジャガンが地面を蹴り押し、シルバーウイングに突進する!その勢いのまま、ミドルキックを放つ!

「せいッ!!」


ガキン!!!


「いい蹴りだ……我には通用せんがな……」

「ちっ!」

 銀翼は腕を組んだまま脚を上げてジャガンの蹴りを受け止める!アイムの体感的にも、客観的に見てもかなりの威力を誇る一撃。防がれたとしても普通の人間であれば衝撃で何らかのリアクションをするはずだが、シルバーウイングはまったくそんな素振りを見せない。

 他のネクサスのメンバー、ナナシ当たりならそのことに違和感を覚えるのだが、アイムの場合は自身の不甲斐なさに怒り、それと同時にそんな強い相手と戦えることに喜びを感じる!

「まだまだぁッ!!」

 脚を引き、流れるように拳を突き出す!

「当たらんよ」

 銀翼は頭を軽く動かし、拳を避ける、そして……。

「攻撃とはこうやるんだよ!」

 ぐるりとその場で一回転して、後ろ回し蹴りを放つ!ジャガンが咄嗟のバックステップで回避を試みるが……。


ガリッ!


「――ッ!?」

 蹴り自体は避けることができたが、足の先についている爪のようなものが伸びて、ジャガンの装甲を僅かだが削り取る!

「ほれ!ほれ!ほれぃ!!」

 そのまま回転しながら連続で蹴りを繰り出す!間合いは先ほどの攻撃で理解したので、ジャガンが攻撃を食らうことはないが、そのリーチから反撃をすることもできない!

「拳と蹴りで戦うそのバトルスタイル!人間の……しかも、旧時代の蛮族の戦い方では“最新最高”の我、シルバーウイングに勝てるはずなかろう!」

 これまた蓮雲以外のネクサスのメンバーなら、銀翼の言葉のおかしさに気付くだろうが、アイムはやはり別のこと、自分の愛する格闘技をバカにされたことで頭がいっぱいだ!

(こいつ!やっぱり気に食わない!わたしの戦い方は古いだと!?なら、それが間違っていることをその身体に教えてやる!!)

 アイムの目付きが変わる!しかし、ジャガンの仮面に隠れてシルバーウイングはそのことに気付かない。いや、こんな空気を読めない性格なら見えていたとしてもきっと気付かないだろう。

「どうした!攻撃を避けるゲームじゃないんだぞ?」

「言われなくても………わかってるよ!」


ガンッ!


「なに!?」

 タイミングを見計らい、銀翼の蹴りに合わせて倒れこみ、その伸びた足に下からジャガンが蹴り上げる!

 態勢を崩す銀翼、対してジャガンはすでに追撃に移っている!

「取った!」

「ぐおっ!?」

 もう一方の軸足にすかさずタックルを入れて、上から目線のムカつく銀ピカ野郎の背中を地面につけて汚してやった!

「この!」

 銀翼は地面を転がり、仰向けからうつ伏せに、今まで組んでいた腕を崩して起き上がろうとする……が。

「それを待ってた!」

ジャガンは銀翼の背中に飛び乗り、腕を掴んで、その持ち主の意図とは逆の方向、空の方に動かす!所謂、間接が決まる!制圧完了の体勢だ!

「……勝負あったな」

 シルバーウイングの後頭部を見下ろしながら、勝ち誇る。実際、人間相手ならこれで勝負は着いたのだろう。

 人間相手なら……。

「フッ、やはり貴様は旧時代の蛮族だ」

「なに?この期に及んで……」


ぐるッ!


「――ッ!?」

 瞬間、シルバーウイングの頭部が180度回転し、ジャガンの方を向いた!

 そしてその顔面が展開して……。


ビュウッ!


 ビームを放つ!

「くっ!?」

 放たれた光にかろうじて反応するジャガン!光は頬を掠め、空の彼方へ……。

 たまらずジャガンはせっかく接近した銀翼から離れた。

「こいつ……一体……?」

 混乱するアイムを尻目にシルバーウイングは悠々と立ち上がる。

「今の攻撃も避けるか……反射神経だけはいいようだな」

 優秀な自分の予想を越えてきた相手を褒めながら、自慢の銀色のボディについた土埃を払う。頭はそのまま、つまり背中を向いたまま……。

「お前……まさか…ロボット……P.P.ドロイドってやつか……?」

 アイムの質問を受け、首を再び180度回転、元の姿に戻る。その顔はニヤリと笑っているように……アイムにはそう見えた。

「ようやく気付いたか……そう!我は疑似人格AIを搭載した次世代P.P.ドロイド!貴様達、人間等遥かに及ばぬ、すんばらしい存在なのだ!!」

 胸に手を当て、自分に酔ったようにアイムに……というよりこの世界に自分の素晴らしさを高らかに宣言する!

 彼……と言っていいのかわからないが、一応彼をアイムは冷めた目で見つめる。

「フッ……あまりの我の神々しさに声も出んか……」

「いや、呆れて声が出なかっただけだから……」

 アイムの言葉は銀翼の耳……というより聴覚センサーには届かず、未だに自分の偉大さに酔いしれていた……が、突然空気が変わる!

「……そう、我は完璧なる存在……しかし、貴様はその我に土をつけた……我はその屈辱を何としても拭わなければならない……!」

 拳を握り、芝居がかった仕草で自らの心境を表現する。その姿は非常に感情的で、とてもじゃないが人工知能とは思えない。

「だから!我は決めた!全身全霊を持って貴様を倒すと!!」

 ジャガンを指差し、全力を出すと宣言。負けず嫌いなところとかも人間より人間らしい。

(あいつ、本当にAIか……?すごいバカみたいだ……)

 その滑稽にも思える言動にアイムも相手が本当にロボットなのかと疑問に思うほどだ。けれど、直後に思い知らされた。

 どんなに人間のように振る舞ってもそれはただのまやかし、勘違い!シルバーウイングが人間とは別の存在だということに!

「人間よ!その目を見開いて、矮小な脳ミソに刻みつけるがいい!我の誇り高き真の姿を!!」


ガシャ、ガシャ、ガシャン!!!


「な………何ぃ!!?」

 アイムの目の前でシルバーウイングは瞬く間に形を変え、まさしくその名を体現するような大きな銀色の翼を持った鳥に姿を変える!

「さぁ!ここからが本番だ!我の!大空の覇者、シルバーウイングの力を存分に味合うといい!!!」


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