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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nostalgia
53/324

少年

『その減らず口!もう二度と聞けないようにしてあげるよ!!』


ドゴオォォォォォォン!!!


「おっと」

 怒りに任せて放つ砲撃。しかし、ナナシエーラットはひらりと彼らしくない軽やかな動きでかわす。

「少年……?名前はなんて言うんだ?」

 それだけでは飽きたらず、まさかの今自分を撃ってきた相手に名前を聞くという暴挙に出る。当然、聞かれた相手はいい気がしない。

『あぁ!?答えてなんかやるかよ!!』


バババババババババババババッ!!!


 トランスタンクの全身に配置された機関銃が火を噴く!けれど、これもあっさり避ける。

「じゃあ、俺が勝ったら教えてくれよ?」

 余裕綽々で更なる提案を告げるナナシ。自分を舐めきっているような彼の態度に対して、敵の怒りはついに最高潮に達する!

『いいよ!あんたが勝ったら教えてやるよ!でも……そんなことあり得ないけどね!!』

「決まりだ……!」

(いい感じに俺に注目してくれたな……)

 賭けの成立!と言っていいものかは疑問だが、とりあえず敵の思考からカズヤの元へ向かったランボ達を消し去ることには成功したようだ。

『こいつの火力なら!そんな貧弱なピースプレイヤーなんて一撃だ!』


ドゴォーン!ドゴォーン!ドゴォーン!


「そう言うなよ……それなりに気にいってるんだぜ……エーラット……!」

 挑発し返すように、エーラットのことをバカにしながら砲撃を繰り返す。しかし、一向に当たらない。それがまた少年?を苛立たせる。

「少年……おじさんからものを知らない君へいいことを教えてあげよう」

『何!?』

 さらに少年を怒らせようと勝手に授業を始めるナナシ。そして、そのレッスンが彼が一人で残った理由でもある。

「君の乗っているトランスタンク……なんで神凪ではあまり見かけないか……わかるかい?」

『知らないし!知る必要もない!!!』


ドゴオォォォォォォン!!!


「知識は宝だよ、少年」

 生徒に人気のない学校の先生のような傲慢な口調で敵にレッスンを続けるナナシ。

 そのくそみたいな授業のストレスを発散するように鋼鉄の巨人は攻撃するが、一切命中せず、さらにストレスを溜めることになる!

「いいかい?トランスタンクっていうのは君が言う通り素晴らしい火力を持っている。普通の戦車よりも小回りもきく」

『うるさいっての!』


ドゴォーン!


 なんとかあの口を塞ぎたいがどうにもならない。そんな生徒の焦りなんて露知らず、ナナシ先生のレッスンはクライマックスを迎える。

「でも、神凪にはトランスタンクに負けない火力を持っていて、トランスタンクよりも小回りのきく存在があったんだよ……それは!」

 今まで横や後ろに絶え間なくピョンピョンとステップを踏んでいたナナシエーラットの足が一瞬止まり、力を溜めた。

 それが解放される先は……。

「ご存知!ピースプレイヤーだよ!!」

 前方への跳躍で一気に敵との距離を縮める。

『――ッ!?この!!!』


バババババババババババババッ!!!


『なっ!?』

 機関銃で迎撃しようとしたが逆にナナシのマシンガンによって、機関銃の方が破壊される!

「りゃあ!」

 あっという間に懐に潜り込んだ赤い影はその勢いのままトランスタンクの本体を駆け上がる。

 頭上まで登ると、装甲と装甲の間……つまり関節部に……。


バババババババババババババッ!


 マシンガンをひたすら撃ち込む!結果……。


ドスン!ドスン!


 巨大な砲身は地面に落ちることになった。

「でけぇな……シュテンやラリゴーザよりもでけぇ……」

 ナナシは登ったトランスタンクの頂上から、周りの景色を見渡しながら過去の強敵たちを思い出していた。彼らは強かった。シュテンはネームレスと二人がかりで、ラリゴーザに関しては勝てなくて傭兵に押し付けた。そんな奴らに比べたら……。

「でも、あいつらよりも遥かに弱い」

 ナナシはトランスタンク……しかも、こんなスクラップ場にあったものを直したようなジャンク品なんかじゃ、下級ピースプレイヤーのエーラットでも勝てると踏んだからここに一人残ってランボ達を行かせることにしたのである。

「さて、じゃあお名前を……いや、その前にお顔を拝見しようかね」

 勝利宣言とも取れる言葉を吐くとトランスタンクのコクピットのハッチに手をかけ、力を込める。

「……いけるか……なッ!!」


バキッ!バキッ!バキィッ!!!


「よう……約束通り、君の名前…教えてくれるかな……?」

 ハッチをむしりとると、機械に囲まれた椅子に予想通り少年が座っていた。

 元々大人用のコクピットだからか、余計に小さく見えるが、実際小柄……まぁ年齢がわからないから小さいと言っていいのかわからないが、ナナシには罪悪感を覚えるほど華奢に見えた。

「で、名前は……?さっき約束したよな?」

 黙っている少年に賭けの報酬を催促する。勝ち誇っているナナシに少年は顔を向けると笑いかけた。

「確かに約束したよ……あんたが勝ったら僕の名前を教えるって……でも、まだ勝負ついてないよね?」

「何……?この状況で勝………」


ドコッ!!!


「ぶっ!?」

 突如として、側面からの凄まじい衝撃がナナシを襲う!そのままナナシはトランスタンクから落ちて、地面をバウンドする。

「なん……!?だ……?」

 立ち上がり元いた場所……つまりトランスタンクの方向を向くと、そこには信じられない光景が広がっていた。

「さぁ……ここからが本番だ……」

 トランスタンクの上に立つ栗色の髪の少年……その周りを先ほど破壊した二本の砲身が宙に浮いて漂っていた……。

 ナナシは注意深くそれを観察し、理由に気付く。少年の着けている右手のグローブの甲に宝石のようなものがついている。

「コアストーン!?……お前……まさか『ストーンソーサラー』か……?」

「正解」

 オリジンズが体内に持っているコアストーン、これは人間の感情や意思に反応して不可思議な力を発揮する。そして、その力を操る者をこの世界の人々は『ストーンソーサラー』と呼んでいた。

 それが、その中の一人が今、ナナシの目の前に存在している。

「てめえ……三味線を弾いてやがったのか……?」

「切り札はすぐに見せないことだよ……勉強になったね、おじさん」

 さっきまでとは立場が逆転し、ナナシが苛立ち、少年が上から目線でレッスンする。

「僕にはこんなところでもたもたしている時間はないんだ……後、二人も相手にしないといけないからね」

 完全に冷静さを取り戻した少年は淡々とここから去ったランボとアイムについて語り出す。もはや彼の中ではナナシとの勝負は終わっているのだ。

「……行かせると思うか……?」

「思ってないし、行かせてくれなんて頼むつもりもない……」

「なら……!」

「あぁ!力ずくで通るつもりだよ!!」


ドスン!ドスン!


「ちいっ!」

 少年が宝石のついた手をナナシの方に向けると宙を漂っていた砲身がナナシに襲いかかってきた!なんとか回避するナナシ。しかし……。

「それでっ!避けたつもり!!」


ガゴン!!!


「がっ!?」

 地面に落ちた砲身の一つがすぐさま浮き上がり、猛スピードで再びナナシを強襲!為す術もなく、左側面にヒットする!

「……こ……の…っ!?左腕!?やられたか……!?」

 ナナシの左腕がだらしなく垂れ下がる……折れて力が入らないのだ。

「くそッ!こうなりゃ子供だなんて言ってらんねぇ!後で治してやるから、今は少し痛い目見てもらうぞ!!」


バババッ!!!


 ナナシが少年の足にマシンガンを発射する。生身の少年に銃を撃つのは抵抗があるが、そうも言ってられない。リンダの存在もあり、心を鬼にして引き金を引く!だが……。


キン!キン!キン!!!


「何!?」

「無駄だよ、無駄無駄」

 放たれた弾丸は簡単に弾かれる。どうやら少年の身体全体が見えないバリアのようなもので覆われているようだった。

(典型的な念動力タイプか……厄介だな……こんなことなら爺さんにストーンソーサラーのこともっと聞いとけば良かった……)

 ナナシの頭の中では、神凪では珍しいストーンソーサラーだった祖父の顔が浮かんだ。もし、祖父の話を真面目に聞いていれば打開策の一つや二つ、思い付いたかもしれない。けれども、後悔先に立たずというやつで、今さらどうしようもない。

「ほらほら!いくよ!!」

「ぐッ!?」

 少年は二つの砲身を本来とは違う使い方で縦横無尽に操り、ナナシを追い詰めていく!

 ナナシの方も攻撃はなんとか避けられているが、このままではジリ貧になるのは明らかだった。

(こうなったら覚悟決めて、この攻撃を掻い潜り、接近して拘束するしかないか……!?)

 回避しながらも、頭をフル回転し、この状況を打破する作戦を考える。そして、どうやら作戦と呼ぶには拙いが、一応は決まったようだ。

「よしッ!行くぜ!エーラ……」


ドゴッ!!!


「――なっ!?」

 少年に接近するために足に力を込めた瞬間、その足に衝撃が走った!

「……スクラップ……?……二つ以上も操れるのか……!?」

 ナナシの左足に辺り一面に落ちていたスクラップが凄まじい勢いで直撃した!ナナシは勝手に少年が操れるのは二つが限界だと思っていた。その勝手な思い込みが間違っていたことが最悪の形で露呈する。

 左腕に続いて左足も折られてしまった。痛みに耐え、小刻みに震えながらなんとか立っているのがやっとで、そこから動くことはとてもじゃないができそうにない。

「勝負あり……チェックメイトだ」

 勝利を確信した少年が満足げな笑みを浮かべながら、ナナシに自らの勝ちを宣言する。

「あんたはそこからもう動けない……そして、僕がその気になればあんたの後ろにあるスクラップの山を崩してあんたを生き埋めにできる……降参を勧めるけど、どうする?」

 自分がお前の生殺与奪の権利を持っているんだと、これみよがしにひけらかす。そんな生意気な少年に、瀕死のおじさん、ナナシが出した答えは……。

「ノーだ」

 ナナシの悪いところ……天の邪鬼が出た。勝機はほぼ潰えた。そもそもここには戦いに来たわけでもない。それでも、この少年の言う通りにすることを、彼の一度決めたら決して揺るがない頑固な心は許さなかった。

「こちとら、神凪最強のストーンソーサラー、イツキ・タイランの孫だ……お前みたいな三下魔法使いに降参したら爺さんに殺される……」

 ナナシの中の小さなプライドが、この期に及んで下らない嫌味を言わせる。けれど、どうやら効果はあったようだ。

 無論、ナナシにとっては悪い意味で……。

「そうかい……じゃあ!その爺さんに殺される前に、僕が殺ってやるよ!!!」


ドシャァァァァァッ!!!


 少年が手を動かすと、宣言通りナナシの後ろにあったスクラップの山が崩れ、鋼の雪崩となってナナシを飲み込んだ。

「くそッ!殺すつもりはなかったのに!素直に降参していれば、助けてやったのに!……バカが……」

 怒りに身を任せた行動……後から少し遅れて罪悪感が少年の心を包んでいく。その姿はかつて豪華客船ビューティフル・レイラ号でナナシを怒りのままに殺してしまったネームレスと重なる。

 そう、あの時と……。

「………?……なんか暑い……?」

 少年は何故か“熱”を感じた。この殺風景で、スクラップの合間を冷たい風が通り抜けていくこの場所で“熱”を……。

 その直後、彼は信じられないものを目にする!


バァァァァァァァァン!!!


「なんだ!?」

 ナナシの墓標となったスクラップの小さな山が吹き飛んだ!少年は飛び散るスクラップをバリアや近くの鉄板を操って防ぐ!

 その鉄板ごしに彼は見た!真っ赤な!太陽のように真っ赤な竜を!額から生えた勾玉を彷彿とさせる二本の角、木漏れ日を思わせる黄色い二つの眼!間違いない……これは!


「ナナシガリュウ……復活だぁ!!」


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