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No Name's Nexus  作者: 大道福丸
Nexus
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エピローグ:ナナシ

「ふあぁ~ッ……」

 白昼堂々と、大あくびをしながら、街を気だるそうに歩く黒髪の男が一人。ナナシ・タイランはある場所に呼び出されていた。

「つーか、どこだよ……?」

 人通りの少ない路地でキョロキョロと視線を動かし、待ち合わせをしている人物を探すが、一向に見つからない。

「ナナシさん!こっちです!」

「ん?」

 すると突然、後方から聞き覚えのある声が聞こえる。振り返ると、建物の間から半身だけ身体を出し、手をブンブンと振っているマイン・トモナガがいた。

 どうやら目的地を通り過ぎていたようだ。

「マイン!……って、わかるかよ……何でそんなところに……」

 小走りでマインに駆け寄るナナシ。口では文句みたいなことを呟いているが、顔は朗らかに笑顔を浮かべている。

「お元気そうで何よりです」

「まぁな、とにかくよく寝て、よく食ったからな」

「あの事件の後、二日間眠り続けて、起きたと思ったら、たらふくご飯を食べたと思ったら、すぐにまた二日間眠って……」

「で、起きたら、“大統領の息子”になってたんだからな。あれには驚いたぜ」

 ナナシが激闘の傷を癒し、ようやく目を覚ましたら、大統領選挙は既に終わっていた。結果は当然、父ムツミの勝利だ。

「また、そんな卑屈に……ふふっ」

「はっ」

 二人が初めて会ったキリサキスタジアムで行われたやり取りを再現する。しかし、あの時と違い、二人の顔は晴れやかだ。

 ナナシは今回のネクロ事変を通じて、確固たる自信を手に入れ、父親へのコンプレックスを払拭した。

 マインもそんな彼が必死に父のため、この国のために戦っているところを見続けた。だから以前とは違い、今の言葉は卑屈さが漏れ出たのではなく、ただの冗談を言ったのだとわかる。

 それだけの信頼関係をこの二人は築けたのだ。

「つーか、それよりタイラン家のマッチポンプって言われるのは、あれだけどな……」

 ナナシはめんどくさそうに片目を瞑り、頭を掻いた。ムツミが勝ったのはいいが、ナナシの活躍を含め、あまりにもタイラン家に都合のいい結果になったため、一部の人間は陰謀論じみたことを語っているのだ。

「そんな噂、すぐに廃れますよ。ほっときましょう」

「うーん……」

 確かにマインの言う通りだが、死ぬ気で……というより一度、死んだナナシにとっては見当違いの陰口を叩かれるのは、納得いかない。

「そう言われるとそうなんだけど……まぁ、いいや。で、今日は俺になんの用だ?」

 ここでぐちぐちと文句を言っても、どうにもならないなと、ある種の諦めの境地に達したナナシは話を戻した。

「あっ!そうです!こちらに来てください」

 マインは当初の目的を思い出すと、自身の後方にある古びた喫茶店……看板には『フェリチタ』と書かれている場所にナナシを連れていく。

「喫茶店……?コーヒーでもご馳走してくれるのか?」

「違います。とりあえず入りましょうか」

 マインがドアを開けると、カウンターにこれまた見知った顔がちょこんと座っていた。

「よっ!元気か!」

「リンダ!」

 リンダ・メディクが手を上げ、彼女らしく軽い挨拶をする。その顔が視界に入り、その声が耳に届くとナナシの顔にまた笑顔が咲く。

「その調子じゃ、あたしの力で回復させる必要はないな」

「おかげ様で……っていうかお前のその力がなかったら、あの戦いは……本当にお前のおかげ。リンダがネクロ事変の影のMVPだよ」

「当然!」

 ナナシの言葉通り、ネクロ事変においてリンダの役割はとても大きかった。彼女もそれを自覚しているようで、可能な限り胸を張り、ふんぞり返る。

「このメンバーだと……ケニーもいるんだろ?」

 ナナシは当然いるであろうケニーを探すが見当たらない。というか……。

「……店の人もいないのか?まさか、貸し切り?」

 いくら店内を見渡しても、店員の類いも見当たらなかった。

「店員は元からいないし、親父はこっちだ」

 戸惑うナナシをリンダがカウンターの中に呼び寄せる。恐る恐るナナシが入って行くと……特に何もなかった。

「なんだよ……何もねぇじゃねぇか……?」

 リンダの顔を見ると何故か、自慢気に頷いていた。

「そうだろう、そうだろう。何もないように見えるだろう?でも………えい!」

 リンダはカウンターの奥のコーヒーを入れる器具などが置いてある棚に手を伸ばし、何か操作をする。すると……。


ゴゴゴゴゴゴゴッ……


「うおっ!?床が……」

 突如として、床が動き出し、ナナシは驚く。そして彼の前に地下へと続く階段が現れた。

「まさか、この下に……?」

「おう!付いて来な!親父が待ってる!」

 そう言うと、リンダは躊躇なく階段を下りていく。ナナシはマインの顔を確認すると、彼女も無言で頷いた。そして、再び階段へと目を向け、意を決して地下へと足を踏み入れる。



「ようこそ!ナナシ!大統領直属部隊の秘密基地へ!」

 おっかなびっくりのナナシを出迎えたのはハイテンションでのんきなケニーの声だった。

「……ケニー……なんだ、ここ?」

 ナナシはたどり着いた部屋を両目をところ狭しと動かし、隅々と観察する。

 そこには古びた喫茶店の地下にあるとは思えない最新鋭の設備が整えられていた。

「驚いたろ!オレも驚いた!ここはハザマの所有していた物件だったんだ」

「ハザマの!?」

 これにはナナシもさらに驚く!まさか、ここでハザマの名を聞くことになろうとは……。

「こんなもん作って、何をしようとしていたのか……知りたくもないし、もう知る術もない……けど……勿体ないから使わせてもらおうって!」

 ケニーは新しい玩具を買ってもらった子供のようにはしゃいでる。ナナシはそんな無邪気なおじさんに若干引くが、ケニーが最初に言った言葉を思い出し、興味がそちらに移る。

「おい、大統領直属部隊って……」

 ケニーはにやりと口角を目一杯上げる。

「そうだ!ハザマが親衛隊を作ったように、ムツミ大統領が自身の手足となる部隊を作ることにしたんだ!」

「じゃあ……まさか、今日呼んだ理由って……」

「その通り!オレ達がそのメンバーに選ばれたんだ!」

「マジか……」

 ケニーのテンションが最高潮を迎える!

 それに反比例するようにナナシのテンションが下がっていく。

「……嫌……なんですか……?」

 喜んでくれると思っていたのに、予想外の反応を示すナナシの顔を心配そうにマインが覗き込む。

 ナナシは不安げなマインを見て、弁明を始める。

「いや、このメンバーでまたやれるっていうのは嬉しいよ……嬉しいんだけど……」

「けど?」

「戦えるの俺だけじゃん」

 ナナシのテンションが落ちた理由、それは自分しか戦闘員がいないこと。その辛さを先の戦いで嫌というほど実感している。

 コマチやダブル・フェイスと出会わなければ、今ここにいなかったかもしれないのだから。

「いやいや、ナナシ…他にもメンバーはいるぜ!」

「えっ!?」

 ケニーの方は、ナナシの反応を予想していたようで、すでに解決法を講じていた。

「じゃあ、紹介しよう!これからオレ達とともに戦う頼れる仲間達だ!!」

 ケニーの言葉を発すると、部屋に備えられていたドアから見たことのある顔が……正確には、前に会った時は暗がりでよく見えなかった顔が、今回は眩いライトの下に現れる。

「お前……アツヒト・サンゼン!」

「よっ!」

「ランボ・ウカタ!」

「あぁ」

「アイム・イラブ!」

「ふん」

「…………………ちんうん」

「蓮雲だ!!!」

「このナナシ・タイラン、嫌なことは忘れるタイプ!!」

「嫌なことにカテゴライズされるのは反論せんが、なら他の奴らも忘れろよ!!」

「特にお前との戦いが嫌だったんだよ」

「ばっちり覚えてるじゃないか!!」

 現れたのは、ナナシガリュウと激闘を繰り広げたネクロの刺客達!まさかの顔ぶれにナナシは言葉を失う……ことなんて全然なかったが、戸惑いを隠せない彼にケニーが説明を始める。

「えーと……こいつらはテロリストの……ネクロの仲間だったが、協力した理由には情状酌量の余地があるって話になってな。で、ムツミさんが、なら牢に繋ぐよりも、働いて罪を償った方がいいんじゃないかって、それでこの部隊に所属してもらおうと……」

 ケニーが説明してくれるが、全然話が入って来ない……というか、いくら大統領とは言え、やり過ぎなのでは、と父親が心配になる。

 だが、それよりも何よりも今日、自分が呼ばれた理由が……。

「……で、そのお目付け役に……」

「そう!お前だ!ナナシ!お前がこの部隊の隊長だ!形だけだけどな!」

 やはり、ただ面倒ごとを押し付けられただけだ。

「あのなぁ……まっいっか……」

 ナナシは一瞬、断ろうかと、せめて文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、やめた。

 彼らが根は悪い奴じゃないことは拳を交えた自分が一番わかっている。ならそんな彼らの贖罪の手伝いをするのもいいだろう……どうせ、暇だし。

「受けるよ、その話」

「そうこないと!」

 ナナシの了承を受け、ケニーはもちろん、マインも満面の笑みを浮かべた。

 ナナシもその顔を見ると、受けて良かったと思える。ただ、一つだけ気がかりが……。

「なぁ、コマチ達はあれからどうしたんだ……?」

 ケニーが仲間と言った時に、ナナシの頭に一番最初に思い浮かんだのが、コマチだった。

 軽薄かつ徹底的にビジネスライクなダブル・フェイスはともかく、コマチは残ってくれるかもと、淡い期待を持っていた。

「あぁ、あいつらなら、報酬受け取って、すぐにどっか行っちまったよ」

「そうか……なんだかんだ世話になったし、せめて別れの挨拶ぐらいはしたかったな……」

 残念は残念だが、コマチにはコマチの人生もある。それにこういうドライな関係も嫌いじゃない。複雑な感情を抱きながら、どこかにいる友を思う……。

(船の上で話した時よりも、少しだけ自分のこと好きになれたって……コーヒーでも飲みながら伝えたかったのにな……)

「で、どうするよ?」

「……ん?」

 ナナシが黄昏ていると、ケニーが何か質問してきた。どうも、ぼーっとしてて肝心なところを聞きそびれたらしい。

 呆れながら、ケニーが再び話し出す。

「だから!部隊名だよ!愛称みたいな奴!一応、お前がリーダーなんだから、お前が決めろ!!」

「部隊名か……」

 ケニーの話は部隊の名前の件だった。確かに、何か名前がないと色々と不便だ。

 ナナシがこの部隊にふさわしい名前を考えようと思考の世界に入る……必要はなかった。すぐに思いついた、というより、それしかないと感じた。

 ケニーの顔を見るとナナシの心がわかっているようで、ニヤついている。

「何が、お前が決めろ、だ。最初からそうするつもりだったんだろ?」

「そんなんじゃないさ。ただ……お前ならきっとその名前にすると思ってた」

 そう、わかっていた。ナナシ・タイランが率いるチームならあの名前しかない。ナナシは一人ずつ顔を見ていく……。

 そして、彼らと自分が背負うことになる名前を発表する。

「このチームの名前は、俺達は……『ネクサス』だ!」


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